【改訂版】特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第一部 『特殊な部隊始まる』

橋本 直

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不吉なる演習場

第80話 デジャブのような光景

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 本部の玄関で一人誠はたそがれていた。昨日は普通に寮に帰ったが今日はいつものメンツに島田、サラ、パーラを加えての飲み会だった。夏の夕方の粘りのある空気が体にまとわりつく。島田とサラはパーラの大型の四輪駆動車に乗せられて先に店に向かっていた。

 誠も同じように乗せてくれるように頼んだが、かなめの銃が恐い三人は完全に誠の意思を無視して出かけてしまっていた。

 ぼんやりとラフなTシャツにジーンズ姿の誠は空で鳴いているカラスと同じくらいさみしい気持ちで立ち尽くしていた。運航部の士官の女子や技術部員達が、誠をかわいそうな生き物を見る瞳で見つめているのが心に刺さる。

「なんでこんなに飲み会ばっか……まあ嫌いじゃないけど」

 誠がぼやいているところに大きな影が現れた。

「お待たせ!誠ちゃん!」

 こんなに孤独が似合う青年と化した誠に平然と声をかけられる図太い神経の持ち主はアメリア・クラウゼ少佐のほかになかった。

「アメリアさん……」

 焼けつく階段に腰かけていた誠はよろよろと立ち上がった。

「だんだん様になってるみたいじゃないの、シミュレータ。史上最低のド下手返上、あり得るかもよ」

「だといいんですけど……」

 誠は立ち上がって、アメリアの身長が186㎝の誠とほぼ同じであることを確認して大きくため息をついた。

「なに!そのため息は!人を『東都タワー女』だとか思ってるでしょ!なんで赤くないんだとか思ってるでしょ!」

「思ってませんよ!」

 意味不明な怒り方をするアメリアに閉口しながら誠はあたりを見回した。

「来たみたいね」

 そう言ってアメリアは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアメリアの視線の先を確認しようと振り向いた。

 アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。

「何度見てもレトロな車ですね……」

 その銀色のセダン。運転席にはカウラ、隣にはかなめが座っている。

「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃないの。遼州の環境基準は20世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ排ガス規制で絶対走れないわね、公道は」

 アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。

 運転席の窓を開けたカウラが口を開く。

「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」

 そのカウラの目は殺意が篭っていた。

「言ってないって!カウラちゃんが誰かと結婚して子供ができたら間違いなくパチンコに熱中した結果、保護責任者遺棄致死で逮捕されるなんて……」

「そんな話していませんよ!」

 アメリアに任せておくと何を言い出すのかわからないので誠は強引に定位置と化した後部座席のドアを開けた。

「じゃあ、王子様。どうぞ」

 そう言ってアメリアは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。誠と同じくらいのでかさのアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。

「出すぞ」

 そう言うとカウラは自動車を発進させた。

 車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。カウラは上手な運転の見本のような運転をしている。

「運転お上手ですね……」

「貴様が下手なだけだ」

 カウラは誠をバックミラー越しに見ながらそう言った。車は工場のゲートを抜けていく。

「慣れてきたろ?少しはリラックスしろよ」

 かなめはそう言って自分の後ろに座る誠を見てニヤリと笑う。

「僕の最初に西園寺さんと模擬戦の時に出た力って……なんなんです?答えてくれないんですよね?」

 誠は戸惑いの色を浮かべながらかなめを見つめた。

「とりあえず今のところはね……いずれ分かるわ」

 そう言ってアメリアは笑った。

「力なんて関係ねえよ。オメエは落ちこぼれのように見えて落ちこぼれじゃねえ。だからアタシ達はオメエを気に入った。そんだけだ。カウラ、いつもの」

 そうかなめが言うとカウラは仕方なく横の時代物のオーディオを操作する。

 カウラがそこだけは今時の車らしい操作パネルをいじるとドラムの響きが車内に響く。

「いつもこの人の曲なんですね」

 誠は少し呆れたようにそう言った。すぐにムキになったかなめが助手席から身を乗り出して誠をにらみつけてくる。

「かなめちゃんが言うにはなんでも大昔の地球でデビューして生涯歌い続けた……特に『人として生きるのに疲れた女性の戦いの姿』をテーマにしているわよ……その女性アーティスト……あくまでかなめちゃんの受け売りだけど」

 アメリアは誠の耳元でそうささやいた。

「そうだよ、別に具体的に戦いのテーマがあるが、それは戦闘中にアタシが流すからな……それが流れてないと命中精度が下がるんだ」

 そう言ってかなめは静かに銃の入った革製のホルスターを叩いた。

 誠はようやく始まった伴奏にようやく音楽性を感じた。それ以外は特にただの歌謡曲と同じような歌。その程度に思っていた。

 女性ボーカルの唸るような絶唱を聞きながら、誠は豊川駅前の商店街をカウラの『ハコスカ』に乗せられて走っていた。

「……何度聞いてもいいねえ……やっぱり歌は古いのに限るな。しかもフォーク限定」 

 かなめはそう言うと助手席から伸びをしながら駐車場に降り立つ。誠は後部座席で身を縮めて周りを見渡した。地方都市の繁華街の中の駐車場。特に目立つような建物も無い。

「貴様の趣味の押しつけがましさを何とかした方がいいな。私は会う人すべてにパチンコを勧めたりなどしないぞ!」

 運転席から降り立ったカウラは挑発するようにかなめを見つめる。黒いタンクトップに半ズボンと言うスタイルのかなめは、にらみ返して唾を飛ばしながらカウラに食って掛かる。 

「別にいいだろ?音楽の趣味が合わねえと人は死ぬのか?……って神前!いつまでそこで丸まってるんだ?」 

 誠は後部座席の奥で手足をひっこめて丸まりながら二人を眺めていた。

「西園寺がシートを動かさなければ神前は降りられない。そんなことも分からないのか?」

 赤いTシャツ姿のカウラが噛んで含めるようにかなめに言った。 

「すいません……」 

 誠は照れながら頭を下げる。その姿を見たかなめはめんどくさそうにシートを動かして誠の出るスペースを作ってやった。大柄な誠は体を大きくねじって車から降り立った。

 作り物のような笑顔で、カウラはようやく自由になった手足を伸ばす誠の姿を見つめている。一方、かなめはわざと誠から目を反らしてタバコに火をつけた。

「じゃあ、行くか?」 

 そう言いながらかなめは二人を連れて歩き出した。

「島田先輩達……もう始めちゃったかな?」 

 無表情に鍵を閉めるカウラにそう話しかける。ムッとするようなアスファルトにこもった熱が夏季勤務服姿の誠を熱してそのまま汗が全身から流れ出るのを感じた。

「別に問題ないだろ?いつものことだ」 

 そうは言うものの、カウラの口元には笑顔がある。それを見て誠も笑顔を作ってみた。

「何二人の世界に入ってるんだよ!これからみんなで楽しくやろうって言うのに!」 

 急ぎ足のかなめに対し、カウラはゆっくりと歩いている。誠はその中間で黙って立ち止まった。

「貴様は本当に短気だな」

 そう言うとカウラは見せ付けるように足を速めてかなめを追い抜いた。 

「分かってるよ!そんなことは!」 

 かなめはそうそう言うと手を頭の後ろに組んで歩き始める。駐車場を出るとアーケードが続くひなびた繁華街がそこにあった。誠は初めての町に目をやりながら一人で先を急ぐカウラとタバコをくわえながら渋々後に続くかなめの後を進んだ。

「じゃあ、誠ちゃん。行きましょう」

 かなめ達に続いてアメリアが歩き出す。誠もアスファルトの上の熱波にのぼせながら歩き続けた。

 店はいつもの『月島屋』だった、煙がもうもうと上がる様がすぐに目に入る。

「たぶん島田達が占拠してっから大丈夫だろ」

 かなめの言い回しに嫌な予感を感じながら誠は店の縄のれんをくぐった。

「こら!この外道が!」

 店の中では女子中学生が心張棒でかなめを殴っているところだった。当然、かなめは銃を抜いている。

「小夏!今日こそ死にたいらしいな!撃つからな!撃つからな!」

 かなめは左手で攻撃を避けながら銃口を少女に向けつつ叫ぶ。

「撃つも何も……マガジン入ってないじゃないか……」

 あっさりとカウラがそう言うとそのまま島田達三人が座っているカウンターに席を下した。

「はい、隣が誠ちゃんで、その隣が飼い主のかなめちゃん。アタシは手前でいいわ」

 ここはお姉さん&上官スキルでアメリアが仕切って見せた。

 結果、一番奥からパーラ、島田、サラ、カウラ、誠、かなめ、アメリアと言う形で焼鳥屋のカウンターは占められることになった。
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