三国志シリーズ

氷室龍

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小覇王の想い人はツンデレ姫?

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建安4年(199年)、江東に一人の若武者がいた。彼は姓を孫、名を策、字を伯符という。
元は長沙の太守・孫堅の嫡子だが早くにその父が亡くなり、袁術の元に身を寄せるしかなかった。だが、それも自らの武勇でついに独立を勝ち取った。彼の周りには多くの英傑が集まる。朱治しゅち黄蓋こうがい韓当かんとう程普ていふ周泰しゅうたい凌操りょうそう太史慈たいしじ。更に外交に長けた張昭ちょうしょうが加わり政治的にも安定し始める。そして、幼馴染みの周瑜しゅうゆ魯粛ろしゅくという優れた軍師を連れて合流した。彼のもとに集まった者たちは文武ともに優れた者たちだった。血気盛んな孫策を時に鼓舞し、時に宥める。そうやって、後に『孫呉』と呼ばれる国の土台が出来始める。そんなある日、彼は出会ってしまった。運命の女性と呼べる美しい姫に……。



その日は朝から先の戦でとらえた捕虜たちをどうするか周瑜と話していた。

「公瑾(周瑜の字)、これどんだけいるんだ?」
「ざっと見て20人か……」
「はぁ……。で、ほとんどが女子供ってか?」
「ああ、そうだ」
「たく、どうすんだよこれ……」
「養うしかあるまい」
「そんな余裕ねぇぞ」
「とはいえ、彼らのような存在があってこそ国は安定する」
「それはそうだが……」

孫策は頭を悩ませていた。捕虜を逃がせばこちらの情報が洩れるかもしれない。かといって、口封じで殺してしまえば領民たちの怒りを買うであろう。とはいえ、ない袖は振れないわけで……。

「お二人ともお困りのようですね」
「おお、魯粛じゃねぇか!」
「魯粛、何かいい案でも?」
「というか、捕虜の中に意外な人物が紛れていました」
「意外な人物?」

孫策と周瑜は顔を見合わせて魯粛の次の言葉を待つ。だが、魯粛は『百聞は一見に如かず』といって二人を外へ誘った。

「彼女たちです」

そういって引き合わされたのは美しい姉妹だった。姉のほうは気が強そうな女性で妹を背に隠し、自分たちをキッと睨み付けている。妹のほうは怯えて今にも泣きそうなほど震えていた。

「なぁ、魯粛。この二人がなんだっていうんだ?」
「喬公のご息女です」
「ああ、なるほどそういう事か」
「公瑾?」
「彼女たちのお父上はこの辺りでは名の知れた豪商だったはずだ」
「へぇ」
「そのとおり、彼女たちを送り届けて恩を売ってはいかがでしょう」
「恩ねぇ」
「気乗りしにのか?」
「いや、だって、あちらさんはどう見たって俺たちに協力してくれるとは思えないぜ」
「将軍、彼女たちの協力は必須ではありません。彼女たちが『生きている』という事実だけで十分なのです」
「魯粛がそういうんだったら任せる」
「伯符?」
「俺はそういう駆け引きは性に合わねぇからな」
「御意。では、万事わたくしにお任せください」
「ああ、頼んだぞ」

孫策はそれだけ言って彼女たちの前から立ち去ろうとした。

「待ちなさい!」
「あ?」
「私たちをこんなところに引きずりだしておいて何の挨拶もなしってどういうつもり?!」
「あ~、わりぃ。それは謝る」
「お、女だと思って馬鹿にしてるの?!」
「いや、そんなつもりはねぇけど……」
「名乗りもしないで部下に任せて素知らぬ顔で出ていくってどういうつもりよ!」

突然姉の方が立ち上がり、孫策の胸倉を掴み詰め寄ってきた。その顔は確かに怒っているが、胸倉を掴むその手は震えていた。孫策は彼女の手に自らの手を重ね、降ろさせる。そして、まっすぐに彼女の瞳を見つめ、深々と頭を下げた。

「女人に対して取るべき態度ではなかったな。どうか、田舎武者の無知と思って許してほしい」
「…………」
「俺は孫伯符。長沙太守・孫文台の嫡男だ」
「私は喬玄の娘で喬腟きょうせいと申します。あちらは妹の喬婉きょうえんです。皆は私のことを大喬、妹のことを小喬と呼んでおりますが……」
「なんでまた?」
「それは私たちのことを美人姉妹だと褒めそやして『江東の二喬』などと呼ぶからです」
「なるほどね。で、どっちで呼んだらいいんだ?」
「もう慣れましたから、後者でどうぞ」
「そ、そうか……」
「で?」
「あ?」
「ですから、私たちをどうするおつもりなのですか?」
「どうもしない。ただ、家に帰すだけだ」
「ホントに?」
「疑り深いなぁ」
「いけませんか? 私たちは戦の捕虜としてここに連れてこられたのです。その、手荒な真似をされるのではと、思うのが普通でしょ?」

孫策はようやく合点がいった。大喬は自分たちが品定めのために引き出されたと思っていたようだ。孫策は自分たちの言葉の足らなさに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「あぁ、すまん」
「え?」
「言葉が足りんかったわ」
「?」
「魯粛、説明してやってくれ」
「今、でございますか?」
「でないと、俺は一生勘違いされたままになる」
「あ……」
「私も同意見だな」
「公瑾殿もですか? そうですね。その方がよろしいでしょう」
「あ、あの……」
「ああ、申し訳ありません。私は魯粛ろしゅく子敬しけいと申します。孫策様が率いる江東軍の副軍師をしております」
「私は周瑜公瑾。そこの馬鹿の幼馴染みでここの軍師をしている」
「おい、誰が馬鹿だ!!」
「君のことだよ、伯符」
「チッ」
「女人の前で舌打ちなんてするもんじゃない」
「誰のせいだ! 誰の!!」
「まぁまぁ、お二人ともそのくらいにして……。 彼女たちが困っておいでですよ」
「「あ……」」

孫策と周瑜はばつが悪そうに困った顔をしている。その姿に妹の小喬がクスクスと笑い始める。

「あ、ごめんなさい」
「い、いや、構わねぇよ。こいつとはいつもこんな感じだ」
「そうなんですね」
「そんなことより! あなた方は私たちをどうするおつもりなのですか?!」
「我々はあなたたちをお父上の元に送り届けるだけです」
「父の元に? 何のため、とお伺いしてもよろしいですか?」
「今回の戦で多くの捕虜を捕らえましたが、彼らをすべて受けいるには資金が足らないのです」
「そういうことですか……」
「今ので、俺たちの言いたいことわかったのか?」
「ようは父に恩を売って資金援助を要請するってことでしょう?」
「察しが良くて助かります」
「わかりました。私たちに何もしないというのであれば父へ口添えしてみます」
「おお、それは願ってもない」
「って、いいのか?」
「良いも何も、そうしないと私たちは返してもらえないのですから」
「ね、姉さん、もう少し言い方が……」
「小喬、あなたは黙ってなさい」
「で、でも……」

小喬は姉の袖を引っ張って落ち着かせようとするが、逆にギロリと睨まれ離してしまった。そのまま孫策たち三人を見やる。だが、そんては小刻みに震えている。尤もその事に気付いたのは孫策だけだったが……。

(妹のために精一杯の虚勢を張ってんだな)

孫策は自分の不甲斐なさを痛感した。自分にもっと力があれば彼女たちはもっと笑顔でいれたはずだと思ったから。

「伯符?」
「んぁ、な、何でもねぇ」
「ホントに大丈夫か?」
「おお、大丈夫だ。魯粛、後のことは任せた」
「御意」

孫策はその場を後にした。背中に大喬の視線を感じたが、敢えて気づかないふりをした。



数日後、孫策たちの姿は船上にあった。魯粛が調べたところ、大喬たちの父・喬玄は江東軍の本拠地である建業に向かったらしいとの報が入ったからだ。結果、捕虜たちを連れ立って長江を下り、建業へと向かうことになった。そして、補給のために途中の夏口に立ち寄った。

「ホントにいいの?」
「おお、俺がいいって言ってんだ」
「わぁい、やった!!」

子供たちにぱぁっと明るい笑顔が広がる。それは、孫策が船を降り街へ出ることを許可したからだった。

「何だ、まだ文句があるのか?」
「そうではないが……」
「大丈夫。俺も一緒に行く」
「むしろ、そっちが問題だ」
「大丈夫だって。何ならお前も一緒にどうだ?」
「君って奴は……」
「ホント公瑾は心配性だなぁ」
「それはお前が喧嘩っ早いからだ」
「いてっ」

周瑜は孫策の頭を小突く。主従としてはどうかと思うが、二人が幼馴染みというのであれば自然の行為といえた。

「子供たちがはしゃいでおりますなぁ」
「おう、魯粛か。 明日、街に子供たちを連れ出すから後のことは任せる」
「それは構いませんが……」
「なんか言いたそうだな?」
「どうせなら、彼女たちもお連れしてはどうです? 建業までの道のりは長いですし……」

魯粛はニコニコしながら食えない顔で二人を見ている。ここ数日、ずっと彼女らの世話をしていたのはこの食えない副軍師の魯粛だ。そして、魯粛には気づいたことがあった。姉の大喬は孫策に、妹の小喬は周瑜に、それぞれ好意を寄せ始めていると……。
ならば、思いが通じるきっかけを作ってやろう。そう、魯粛は考えたのである。

(お二人にはまだ奥方がいらっしゃらないし、良い機会になるかもしれません)

そう思ったのはここだけの話。果たして思惑通り上手くいくのであろうか……。



翌日、孫策は子供たちを連れ、上陸したのだった。

「おい、よそ見してるとコケるぞ!」
「はーーーい」
「まったく……」

孫策の言葉などどこ吹く風。子供たちは久々の陸地ではしゃいでいた。自分が言いだしたとはいえ、それぞれてんでバラバラに行動しようとするから、纏めるのが大変だった。それを苦笑して肩を竦めるのは周瑜。クスクスと笑いながら見ているのは小喬。冷ややかな視線を送るのは大喬だった。

「あんだよ」
「いや、こうなることは分かっていた」
「悪かったな」
「でも、あの子たち楽しそうですよ」
「私たちは疲れるだけだけど」
「ね、姉さんっ……」
「わりぃな、変なことに付き合わせちまって」
「いえ、ずっと船の中っていうのも気が滅入りますから」
「策兄ちゃん、向こうで相撲やってる。一緒にやろうよ」
「おお、それは面白そうだ」

大喬が言いかけたことを気にする様子もなく、孫策は子供たちの方へ駆け出していた。ため息しか出てこない。でも、なぜか彼のことは憎めないでいる大喬。その気持ちが何なのか分からず、苛立ちは募るばかり。隣を見れば、小喬は周瑜にベッタリでどうにか気を引こうとしているのがありありとわかった。最早ため息しか出ない。

「ねぇねぇ、お姉さんも一緒にいこ?」
「え?」
「策兄ちゃん、すっごく強いんだよ?」

一人の女の子が大喬の手を引き孫策が駆けて行った方に走り出した。気持ちの整理がつかない大喬は戸惑いを隠せなかった。だが、子供たちはお構いなしに彼女を巻き込む。連れていかれた先で孫策は着物をはだけ、子供たちと相撲を取っている。そこにいる子供たちは先日捕虜として彼らの船に乗せられた時の怯えた顔はどこにもなかった。そして唐突に気づいた。自分が彼に、孫策に心惹かれているということに。

「お姉さん?」
「あ、ご、ごめんなさいね」
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ」

自分の手を引いてくれた女の子に微笑む。女の子もその様子に安堵したのか微笑み返す。

「くっそぉ、策兄ちゃん、強すぎだ!」
「ははは、なら全員でかかってきてもいいぞ!」
「じゃあ、こうしてやる!!」
「へ?」

腕っぷしでは勝てぬとみて子供たちは小さな桶に水を汲んでその水を孫策めがけて掛け始めた。遠巻きに見ていた女の子まで加わり、四方八方から水攻めに会う孫策。

「ぶはっ、こ、降参、降参だぁ」
「やったぁ!! 策兄ちゃんに勝ったぞ!!」
「ひぃ、もう勘弁な」

ずぶ濡れの孫策は尻もちついて両手を上げていた。その姿に大喬は笑いをこらえることができなかった。

「ようやく笑ったな」
「え?」
「妹と一緒で笑ってる方がいいと思うぜ」
「…………」

孫策は一言だけそう言って子供たちとともに船に戻っていった。大喬はその後をついて行くことしかできない。彼の背中は今の大喬には眩しすぎた。



その夜、大喬は昼間のことがあってか、なかなか寝付けなかった。仕方なく夜風にあたろうと甲板に出ると、船尾で胡坐をかいて酒を呷っている男がいるのが見えた。月明かりで見えたその男は孫策だった。その横顔はどこか愁いを帯びていて昼間見たあの屈託のない笑顔を見せていた彼と同じ人とは思えなかった。大喬はその姿にいてもたってもいられず、思わず声を掛けてしまう。

「こんな夜更けに一人で何をなさっているのですか?」
「あ? 見ての通り酒を飲んでるんだよ」
「そのようですね。でも……」
「うん?」
「あまり良い飲み方とは言えません」
「そうだな」

孫策は自嘲気味に肩を竦める。大喬は放っておけなくなって彼の隣に腰を下ろす。

「なら、私が酌をします」
「え?」
「嫌なのですか?」
「じゃ、じゃあ、お願いするかな……」

大喬に酒を注いでもらう孫策。ふと気づくとそこに映る月は満月だった。

「まるで月を飲み干すようだな」
「孫策様?」
「少し、俺の愚痴に付き合ってくれるか?」
「え?」
「つくづく思う、親父が生きていればってな」
「…………」
「親父は長沙の太守だった。そんな親父が死んだとき、俺はまだ元服したばっかで何もできねぇガキだった。それからだよ。この江東がどうしようもねぇ賊どもに踏み荒らされ始めたのは……」

孫策は注がれた酒を一気に呷った。手にした杯を置き、握りこぶしを作ると床を殴る。

「孫策様!」
「俺は不甲斐ない」
「え?」
「俺にもっと、力があればあの子たちは孤児にならなくて済んだんじゃねぇかって思うと……。 俺は自分が許せねぇんだよ」
「なら、前を向くしかありません」
「え?」
「自分の信じる道を突き進んで前を向くのです」
「大喬……」
「己を信じずして何とされるのです。皆、あなたの志に惚れこんでついてきてくださってるのでしょう? それをあなた自身が信じないくてどうするのです?!」
「言われてみればそうだな……」
「そうです。仮にもあなたは『江東の小覇王』と呼ばれる一角の武将でしょう! しゃんとしてください!!」
「それ、あんま、面白くねぇんだが……」
「はぁ?」
「だってよう、それって『項羽のようだ』ってことだろう? 俺、あんま、嬉しくねぇ」
「何でです? 皆あなたの武勇を讃えて、そう呼んでいるのでしょう?」
「か、考えてもみろ! あの項羽は『西楚の覇王』と自ら名乗るわ、主家は殺すわ、やりたい放題。おまけに最後はあれだ。褒美に目の眩んだ雑兵たちに切り刻まれんだぜ。そんな奴になぞらえられてもなぁ」
「確かにそうですね。なら、あなたがその『覇王』の呼び名の意味を塗り替えれば宜しいのでは?」
「塗り替える?」
「そうです。 まずはこの江東を平らげて安定させる。しかる後、中原へ打って出て曹丞相と決着をつける」
「俺にそんなことができるか?」
「できるか、ではありません」
「は?」
「あなたがやるのです。在野にはまだまだ埋もれた人材が眠っています。あなたの働き次第で彼らは集まってくるはずです」
「はは、ずいぶん大きく出たな」
「それくらいの気概を持ってください。あの子たちを孤児にしてしまったと心を痛めるのなら……」
「そうか、そうだな!」
「そうです!!」
「なぁ、これからも今夜みたいに弱気になったら俺を叱ってくれねぇか?」
「え?」
「そ、その、なんだ……」
「?」
「お、俺の……。俺の嫁になってくれねぇか?」
「!!」
「だ、ダメか?」
「ダメ、とは申しませんが……」
「なら!」
「後悔しませんか?」
「後悔?」
「私、こんな性格ですから……」
「んなもん、気にしねぇよ」
「ホントに?」
「おお、この孫伯符に二言はねぇ」
「な、なら、よ、よろしく、お願いします」
「おう、こっちこそな」

ニッと孫策は笑った。その笑顔に釣られ大喬も頬を赤らめながらはにかんだ笑みを零す。ふと、孫策の顔から笑みが消え、真剣な眼差しに鼓動が跳ねあがる大喬。その指が大喬の顎を捕らえる。そして、どちらともなく唇を重ねる。それは優しくも蕩けるような口付けだった。

「なぁ、この先に進みたいって言ったらどうする?」
「え?」
「どうする?」
「こ、ここまで来てそれを聞きますか?」
「てことは、先に進んでもいいってことか?」
「ど、どうしてそんな意地悪な聞き方をするんですか?!」
「惚れてるから……、かな?」
「孫策様……」
「伯符だ。字で呼んでくれ……」
「伯符、様……」

孫策は再び大喬の唇を奪う。今度は貪るように食む。薄く開いた唇から無遠慮に舌を潜り込ませる。そして、口腔内を舐めるように味わい、やがて大喬の舌を絡めとる。孫策は大喬の背に腕を回し強く抱きしめる。やがて、唇を離すと二人の間には唾液が銀の糸のようにつながる。孫策は側置いていた外套を引き寄せ、その上に大喬を押し倒す。

「なるべく痛くないようにする」
「伯符様……」

孫策は自ら着物を脱ぎ捨てる。月に照らされたその肉体はしなやかでそれでいて鋼のような筋肉の雄々しいものだった。大喬は自身の下腹部がキュッと締まるのを感じる。孫策は大喬の帯に手をかけ一気に引き抜く。すると、着物の合わせ目が緩み、胸の谷間が見える。そこに手を差し込みその柔らかな双丘を揉みしだく。

「あ……」
「キレイだ」
「は、伯符、様……」

孫策は強引にはだけさせ、双丘の頂にある赤い実に吸い付く。突然与えられた刺激に大喬は仰け反った。そして漏れそうになる喘ぎ声を抑えるように自らの手で口を押さえる。孫策はその手首を取り、頭上に縫い止める。

「声、聞かせろよ」
「やっ。だ、誰かに聞かれたら……」
「大丈夫だ。こんな夜更けに起きてくるヤツなんざいねぇよ」
「で、でも……」
「仕方ねぇな」

そう言って孫策は大喬の唇を塞いだ。その間に右手はどんどん下へと這わされ、やがて太腿を優しく撫でまわす。そして、付け根にある繁みへと手を伸ばす。そこは既に潤っており、秘裂を上下に撫で上げると奥からは蜜が溢れ出す。大喬の口からはくぐもった喘ぎが漏れる。それでも孫策はやめることなく、探り当てた花芯を親指の腹でグリグリと捏ねる。その刺激に耐えかね、大喬は背を仰け反らせ、一瞬その身を強張らせる。やがて、くたりと弛緩し力なく横たわる。

「気持ちよかったか?」
「わ、私……」
「なぁ、そろそろ……」
「伯符様?」
「初めては痛いらしい。だから、我慢できなかったら俺の背を引っ掻いていいから」

孫策は体を起こすと、熱く滾った自身を大喬の蜜壺に宛がった。そして、一気に押し入った。隘路をこじ開ける様に押し入った熱杭に大喬は孫策の背にしがみつき、その痛みと圧迫感に耐える。最奥まで押し入ったところで動きを止めなれるのを待つ。

「は、伯符、様……」
「大丈夫、か?」
「はい……。だから、動い、て……」
「くっ! あ、煽んなよ。これでも我慢してんだぜ?」
「そ、そん、な……。煽って、なんか……」
「あぁ、わりぃ。もう、限界……。動くぞ」

孫策はゆっくりと抽挿を始めた。だが、すぐに我慢が効かなくなり、激しく奥を突き始める。初めのうちは痛みに耐えていた大喬だったが、だんだんと薄れ入れ替わるように続々と背筋を這い上がる快感に身を委ね始める。そして、その口からこぼれる喘ぎは徐々に甘さを増してくる。そして、無意識に抽挿を繰り返す熱杭を締め上げる。

「くぅっ! もう、無理……」
「あっ、はうっ!」

孫策は抽挿の速度を速める。辺りに響き渡るのは自身の荒い息遣いと肉のぶつかる音、そして大喬の甘い喘ぎ声だった。やがて、大喬は達し意識を真っ白な世界へと飛ばす。それと同時に孫策はその熱を解き放つ。それは白濁の奔流となって大喬の奥深くへと流し込まれる。

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」

二人はしばらく体を重ね息を整える。孫策は大喬の額に優しい口付けを落とす。それと同時に力を失った自身を引き抜く。そのまま大喬の横に寝転び、彼女を抱き寄せる。

「わりぃ、途中から抑えがきかなくなった」
「い、いえ、お気になさらず……」
「それでも、だ。初めての女相手にみっともねぇ」
「伯符様はそれほど、経験がおありなのですか?」
「い、いや、ない……」
「なら、これから二人で覚えていきましょう。最初から何でもできる人間なんていませんから」
「そ、そうか。それもそうだな」
「でも……」
「うん?」
「一晩中は無理です」
「はぁ?」
「もう、無理、です、から……」

そのまま大喬はスースーと寝息を立て始めた。どうやら相当気を張っていたようだ。とは言え、このままにしておくわけにもいかず、大喬を外套に包み抱き上げる。そして、自室へと連れて行った。

「明日の朝、目ぇ覚めたら覚悟しとけよ」

そう囁いて彼女を抱きしめ、眠りについた孫策だった。

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