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第四章
15 手を繋いだ
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【第四章】
夕生と出会ったのは夕生が小学一年生、丈が二年生だった。
小学校では地域ごとグループで固まって帰る日が週に一度ある。
二年生になった時、一人の一年生が三番町方面の班に入ってきた。初めての後輩だ。二年生として一年生を、しっかり、助けてあげないと。
その子は自分を一宮夕生と名乗った。
丈は夕生の手を握って笑いかける。
「夕生って言うの? 俺たちの時間の名前だね」
繋いでいない方の手をあげて、向こうの空を指差した。太陽がだんだん傾いてきているから、もうすぐ夕方だ。
夕生は困ったように笑って、
「うん……」
と呟いた。
何だかとても弱々しくて、頼りない子に見えた。丈は不安そうなその子を励ましたくて、彼の手をしっかり握り、五年生と六年生の後をついて行った。
三番町の班には夕生一人しか一年生がいない。他の班の一年生はランドセルを背負って、一年生だけが使う帽子を被っている。
でも夕生はランドセルではなく古びたリュックを背負い、帽子も使っていなかった。
夕生は細っこい一年だった。しっかり手を握っていないとこてんと転けてしまいそうだ。丈は何度も夕生の顔を覗き込み、「信号は待つんだよ。ちゃんと左右見て渡ろう」と語りかけたりした。
その度「うん」と小さい声で言って頷くのが可愛かった。班の女子が「丈くんは夕生くんの係りだね」と笑っていた。
三番町方面の班は三角公園に着いたら解散だ。家に帰ってしまう子もいるし、そのまま公園で遊ぶ子もいる。
丈は夕生をブランコに連れていった。やはり元気がないように見えたので、遊んであげようと思ったのだ。
夕生をブランコに乗せる。夕生の背後に回って鎖を持って前後に揺らす。
夕生がゆっくりと揺れ始めた。すると、いきなり丈を呼ぶ声がした。
「丈くん~」
と女の子たちの声がする。
夕生は揺れながら声がする方向を眺めていた。
仕方なく丈は、
「ちょっと待っててね」
と夕生に言った。
彼はこくんと頷く。丈も女の子たちがいる水道の方へ向かう。
たまに「呼んでみただけっ」と意味なく呼ばれたり、本当に何かの用があったりとまちまちだ。今回は前者で、知らない女の子が「丈くんだ」とはしゃぐだけだった。
ため息を吐きながらも女の子たちから離れる。その瞬間、いきなり後ろから肩を強く押された。
「うわっ」
急だったので丈は簡単に倒れ込んだ。振り向くと男子が二人いて、ニヤニヤ丈を見下ろしている。
何を言うでもなく走り出してどこかへ行ってしまった。あの二人は丈が女子といると悪口を言ってきたり、こうして押してきたりする男子だ。
丈はよろっと立ち上がった。押された時にバランスを崩して思いっきり倒れてしまい、頬を砂利で擦ってしまった。
最悪だ。
女の子たちは先ほどの男子を糾弾している。
それすらも恥ずかしい。
頬は痛みでひりついている。水で傷のあたりを洗い流したいけど女の子たちがいるところに戻りたくない。
「……痛い」
最悪。
せっかく一年生と遊んでいたのに。こんな姿を見せたかったんじゃないのに。
丈は恥ずかしくて俯いていた。
すると、目の前に誰かが立っていた。
「じょうくん」
丈は俯いていた顔を上げる。
そこにいた夕生は、ゆっくり首を傾げた。
「大丈夫?」
夕生が心配そうに言う。ずっと俯いていた夕生が丈を見つめている。
その時になって初めて夕生と目が合った。
——いつも丈は「変な目」と言われる。
普通の子とは違って灰色っぽい目だからだ。綺麗と言ってくれる人もいるけれどそれさえも嫌だった。
丈は何度も目のこととか、顔のことや髪のこと、日本人じゃないとか言われて、どうしたらいいか分からなくなっていたから。
夕生がそのグレーの目を見ている。ずっと夕生は俯きがちにしていたから中々目が合わなかったのに、今こうして、視線を交わしている。
この子はきっとグレーの目を見るのは初めてだ。何か言われるだろうと丈は目を細くして身構える。
夕生が頬に手を伸ばしてくる。
そして、言った。
「ちょっとケガしてる」
夕生は小さい声でそう呟いた。
心配そうに、傷には触れずに頬を触る。少し鉄の香りがした。夕生が握っていたブランコの鎖の匂いだ。
夕生は不安そうに問いかけた。
「じょうくん、痛い?」
夕生は丈のケガを見てくれた。ちゃんと目が合ってるのに瞳のことは何も言わないで、丈が苦しんでないかだけを心配してくれる。
夕生は丈を見ている。
「お水であらう? お家かえる?」
「……」
「丈くん、いたいよね」
「なんか……」
「うん?」
「いたくないかも……」
夕生が目を丸くした。辺りは夕焼け色に染まっている。夕生の白い頬に橙色の光がさす。
「いたくないの?」
夕生がふわっと笑った。初めて見る彼の笑顔だった。
とっても可愛いな、と思った。
……後から思えば一目惚れだったのだろう。
でもこの場合、一目惚れって言うのかな。出会ってから二時間くらいが経っていたから。笑顔惚れかもしれない。
何でもいいけれど、丈はその日、夕生を好きになった。
丈は夕生に、「丈って呼んで」とお願いした。夕生はまたふんわりした笑顔を浮かべて「じょう? うん、わかった」と頷く。
丈も夕生を『夕生』と呼んだ。お互い呼び捨てで、他の子より仲の良い証だ。
その後、週に一度の班活動だけでなく、夕生と一緒に帰る日が増えていった。
夕生は引っ込み思案でおとなしい性格をしているのでクラスにあまり友達がいないらしい。そのせいか、夕生と遊べる日は多かった。
次第に朝も一緒に登校するようになった。夕生は丈の一軒家の近くのアパートに住んでいる。
丈は小学校入学と共に引っ越してきた『新しい家の子』で、近隣にはそうした家が多かった。しかし夕生のアパートは昔からある建物だ。
だからそこだけ色が違う。他の家の子はそのアパートに近づくのを怖がったが、丈には関係がなかった。
そこに住む男の子は学校で一番優しい子だ。
世界で一番可愛い子。
たまに夕生が部屋から出てこない日もあった。その後日、夕生は『お腹がいたかった』とよく口にする。
夕生は優しいけれど病弱でもあった。夕生を守らないと。
男子に突き飛ばされて転けている場合ではない。丈はもっと強くならなければと固く誓った。
反撃することも覚えた。三年に上がる頃には誰も丈をなめていない。あいつは怒らせると怖いという噂がまことしやかに広まっていたからだ。
学年が違うので夕生はそんな噂を知らない。よかったと思った。
夕生に怒ることは絶対にないけれど、丈は夕生にとって安心できる存在でありたいと思っていたから。
——丈は小四になり、夕生は小三になった。
そして夕生は進級しただけでなく、苗字も変わった。
あの子は一宮夕生から三ツ矢になった。丈も知っている『三ツ矢さん』という豪邸の家に引き取られたのだ。
そこには複雑な事情があるようだが、難しい大人たちの話は子供の丈にまで降りてこない。
けれど夕生が少しだけ教えてくれた。
『お母さんが帰ってこないから三ツ矢さんの子供になった』と。
丈は愕然とした。夕生が母親の帰ってこない家で過ごしていたことなど知らなかったのだ。
考えてみるとそうだ。夕生が『お母さん』の話を丈にしたことは一度もない。
ずっと一人で耐えてきたのだ。それに丈は気付けなかった。夕生はとにかく我慢強い子供だった。
情けなくて仕方なかった。夕生の本当の辛さに丈は気付いていなかったのだから。
ちゃんと見ていないと、夕生の世界を知ることはできない。
しっかり夕生を見ていよう。
……丈は、夕生を見つめた。
その小さな背中を。
——夕焼けに染まる空の下で、一人ブランコに座った夕生が足だけを動かして体を前後に揺らしている。
夕生の新しい家に泊まりに行く日だ。夕生が三角公園のブランコで、お泊まりセットを持ってやってくる丈を待っている。
背後に来た丈に夕生はまだ気付いていない。他に子供がいないせいか、彼が何か言っているのが聞こえた。
耳を澄ますとその小さな声が聞こえてくる。
「……お父さん」
夕生は呟く。
「お母さん」
何度も繰り返していた。
「まなみ」
新しい家族の名前だ。
夕生はブランコを小さく漕ぎながら独り言をぽつぽつと繰り返している。
「お父さん、お父さん……お母さん、お母さん。まなみ。まなみちゃん? まなみ……お父さん、お母さん」
家族になる練習をしているのだ。自然とそう呼べるように、口に馴染ませている。
夕生は母親に置いて行かれてしまった。だから次は捨てられないように家族になろうとしている。
「お父さん、お母さん、まなみ。お父さん、お母さん、まなみ……」
丈はその声を心に染み込ませて、再度強く決意した。
絶対に一人にはしない。
これからはずっと傍にいる。
夕生の世界に入ってより深く観察する。丈は夕生の傍から離れないし、置いて行かない。
もう二度と夕生に寂しい思いをさせない。
「夕生は?」
問いかけると妹が「え? まだ来てないの?」と首を傾げる。
夕生には《お昼休み、話したいことがある。あと俺は夕生の誕生日の方が大切だから》とメッセージを入れておいた。だから昼休みが始まってすぐいつもの空き教室へやってきたのに、現れたのは妹の方だ。
埒が明かない。
夕生が嫌がると思って行ったことはなかったが、夕生のクラスである二年三組に向かうことにした。
朝の会話からして何か食い違っている。認めたくないくらい最悪ではあるが夕生はある勘違いをしているようだ。
歩き出した丈に愛海がついてきた。
それを先に口にしたのは愛海の方だった。
「まなが丈くんと付き合ってることになってるんだけど」
「……」
やはりか。
夕生と出会ったのは夕生が小学一年生、丈が二年生だった。
小学校では地域ごとグループで固まって帰る日が週に一度ある。
二年生になった時、一人の一年生が三番町方面の班に入ってきた。初めての後輩だ。二年生として一年生を、しっかり、助けてあげないと。
その子は自分を一宮夕生と名乗った。
丈は夕生の手を握って笑いかける。
「夕生って言うの? 俺たちの時間の名前だね」
繋いでいない方の手をあげて、向こうの空を指差した。太陽がだんだん傾いてきているから、もうすぐ夕方だ。
夕生は困ったように笑って、
「うん……」
と呟いた。
何だかとても弱々しくて、頼りない子に見えた。丈は不安そうなその子を励ましたくて、彼の手をしっかり握り、五年生と六年生の後をついて行った。
三番町の班には夕生一人しか一年生がいない。他の班の一年生はランドセルを背負って、一年生だけが使う帽子を被っている。
でも夕生はランドセルではなく古びたリュックを背負い、帽子も使っていなかった。
夕生は細っこい一年だった。しっかり手を握っていないとこてんと転けてしまいそうだ。丈は何度も夕生の顔を覗き込み、「信号は待つんだよ。ちゃんと左右見て渡ろう」と語りかけたりした。
その度「うん」と小さい声で言って頷くのが可愛かった。班の女子が「丈くんは夕生くんの係りだね」と笑っていた。
三番町方面の班は三角公園に着いたら解散だ。家に帰ってしまう子もいるし、そのまま公園で遊ぶ子もいる。
丈は夕生をブランコに連れていった。やはり元気がないように見えたので、遊んであげようと思ったのだ。
夕生をブランコに乗せる。夕生の背後に回って鎖を持って前後に揺らす。
夕生がゆっくりと揺れ始めた。すると、いきなり丈を呼ぶ声がした。
「丈くん~」
と女の子たちの声がする。
夕生は揺れながら声がする方向を眺めていた。
仕方なく丈は、
「ちょっと待っててね」
と夕生に言った。
彼はこくんと頷く。丈も女の子たちがいる水道の方へ向かう。
たまに「呼んでみただけっ」と意味なく呼ばれたり、本当に何かの用があったりとまちまちだ。今回は前者で、知らない女の子が「丈くんだ」とはしゃぐだけだった。
ため息を吐きながらも女の子たちから離れる。その瞬間、いきなり後ろから肩を強く押された。
「うわっ」
急だったので丈は簡単に倒れ込んだ。振り向くと男子が二人いて、ニヤニヤ丈を見下ろしている。
何を言うでもなく走り出してどこかへ行ってしまった。あの二人は丈が女子といると悪口を言ってきたり、こうして押してきたりする男子だ。
丈はよろっと立ち上がった。押された時にバランスを崩して思いっきり倒れてしまい、頬を砂利で擦ってしまった。
最悪だ。
女の子たちは先ほどの男子を糾弾している。
それすらも恥ずかしい。
頬は痛みでひりついている。水で傷のあたりを洗い流したいけど女の子たちがいるところに戻りたくない。
「……痛い」
最悪。
せっかく一年生と遊んでいたのに。こんな姿を見せたかったんじゃないのに。
丈は恥ずかしくて俯いていた。
すると、目の前に誰かが立っていた。
「じょうくん」
丈は俯いていた顔を上げる。
そこにいた夕生は、ゆっくり首を傾げた。
「大丈夫?」
夕生が心配そうに言う。ずっと俯いていた夕生が丈を見つめている。
その時になって初めて夕生と目が合った。
——いつも丈は「変な目」と言われる。
普通の子とは違って灰色っぽい目だからだ。綺麗と言ってくれる人もいるけれどそれさえも嫌だった。
丈は何度も目のこととか、顔のことや髪のこと、日本人じゃないとか言われて、どうしたらいいか分からなくなっていたから。
夕生がそのグレーの目を見ている。ずっと夕生は俯きがちにしていたから中々目が合わなかったのに、今こうして、視線を交わしている。
この子はきっとグレーの目を見るのは初めてだ。何か言われるだろうと丈は目を細くして身構える。
夕生が頬に手を伸ばしてくる。
そして、言った。
「ちょっとケガしてる」
夕生は小さい声でそう呟いた。
心配そうに、傷には触れずに頬を触る。少し鉄の香りがした。夕生が握っていたブランコの鎖の匂いだ。
夕生は不安そうに問いかけた。
「じょうくん、痛い?」
夕生は丈のケガを見てくれた。ちゃんと目が合ってるのに瞳のことは何も言わないで、丈が苦しんでないかだけを心配してくれる。
夕生は丈を見ている。
「お水であらう? お家かえる?」
「……」
「丈くん、いたいよね」
「なんか……」
「うん?」
「いたくないかも……」
夕生が目を丸くした。辺りは夕焼け色に染まっている。夕生の白い頬に橙色の光がさす。
「いたくないの?」
夕生がふわっと笑った。初めて見る彼の笑顔だった。
とっても可愛いな、と思った。
……後から思えば一目惚れだったのだろう。
でもこの場合、一目惚れって言うのかな。出会ってから二時間くらいが経っていたから。笑顔惚れかもしれない。
何でもいいけれど、丈はその日、夕生を好きになった。
丈は夕生に、「丈って呼んで」とお願いした。夕生はまたふんわりした笑顔を浮かべて「じょう? うん、わかった」と頷く。
丈も夕生を『夕生』と呼んだ。お互い呼び捨てで、他の子より仲の良い証だ。
その後、週に一度の班活動だけでなく、夕生と一緒に帰る日が増えていった。
夕生は引っ込み思案でおとなしい性格をしているのでクラスにあまり友達がいないらしい。そのせいか、夕生と遊べる日は多かった。
次第に朝も一緒に登校するようになった。夕生は丈の一軒家の近くのアパートに住んでいる。
丈は小学校入学と共に引っ越してきた『新しい家の子』で、近隣にはそうした家が多かった。しかし夕生のアパートは昔からある建物だ。
だからそこだけ色が違う。他の家の子はそのアパートに近づくのを怖がったが、丈には関係がなかった。
そこに住む男の子は学校で一番優しい子だ。
世界で一番可愛い子。
たまに夕生が部屋から出てこない日もあった。その後日、夕生は『お腹がいたかった』とよく口にする。
夕生は優しいけれど病弱でもあった。夕生を守らないと。
男子に突き飛ばされて転けている場合ではない。丈はもっと強くならなければと固く誓った。
反撃することも覚えた。三年に上がる頃には誰も丈をなめていない。あいつは怒らせると怖いという噂がまことしやかに広まっていたからだ。
学年が違うので夕生はそんな噂を知らない。よかったと思った。
夕生に怒ることは絶対にないけれど、丈は夕生にとって安心できる存在でありたいと思っていたから。
——丈は小四になり、夕生は小三になった。
そして夕生は進級しただけでなく、苗字も変わった。
あの子は一宮夕生から三ツ矢になった。丈も知っている『三ツ矢さん』という豪邸の家に引き取られたのだ。
そこには複雑な事情があるようだが、難しい大人たちの話は子供の丈にまで降りてこない。
けれど夕生が少しだけ教えてくれた。
『お母さんが帰ってこないから三ツ矢さんの子供になった』と。
丈は愕然とした。夕生が母親の帰ってこない家で過ごしていたことなど知らなかったのだ。
考えてみるとそうだ。夕生が『お母さん』の話を丈にしたことは一度もない。
ずっと一人で耐えてきたのだ。それに丈は気付けなかった。夕生はとにかく我慢強い子供だった。
情けなくて仕方なかった。夕生の本当の辛さに丈は気付いていなかったのだから。
ちゃんと見ていないと、夕生の世界を知ることはできない。
しっかり夕生を見ていよう。
……丈は、夕生を見つめた。
その小さな背中を。
——夕焼けに染まる空の下で、一人ブランコに座った夕生が足だけを動かして体を前後に揺らしている。
夕生の新しい家に泊まりに行く日だ。夕生が三角公園のブランコで、お泊まりセットを持ってやってくる丈を待っている。
背後に来た丈に夕生はまだ気付いていない。他に子供がいないせいか、彼が何か言っているのが聞こえた。
耳を澄ますとその小さな声が聞こえてくる。
「……お父さん」
夕生は呟く。
「お母さん」
何度も繰り返していた。
「まなみ」
新しい家族の名前だ。
夕生はブランコを小さく漕ぎながら独り言をぽつぽつと繰り返している。
「お父さん、お父さん……お母さん、お母さん。まなみ。まなみちゃん? まなみ……お父さん、お母さん」
家族になる練習をしているのだ。自然とそう呼べるように、口に馴染ませている。
夕生は母親に置いて行かれてしまった。だから次は捨てられないように家族になろうとしている。
「お父さん、お母さん、まなみ。お父さん、お母さん、まなみ……」
丈はその声を心に染み込ませて、再度強く決意した。
絶対に一人にはしない。
これからはずっと傍にいる。
夕生の世界に入ってより深く観察する。丈は夕生の傍から離れないし、置いて行かない。
もう二度と夕生に寂しい思いをさせない。
「夕生は?」
問いかけると妹が「え? まだ来てないの?」と首を傾げる。
夕生には《お昼休み、話したいことがある。あと俺は夕生の誕生日の方が大切だから》とメッセージを入れておいた。だから昼休みが始まってすぐいつもの空き教室へやってきたのに、現れたのは妹の方だ。
埒が明かない。
夕生が嫌がると思って行ったことはなかったが、夕生のクラスである二年三組に向かうことにした。
朝の会話からして何か食い違っている。認めたくないくらい最悪ではあるが夕生はある勘違いをしているようだ。
歩き出した丈に愛海がついてきた。
それを先に口にしたのは愛海の方だった。
「まなが丈くんと付き合ってることになってるんだけど」
「……」
やはりか。
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