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第二話「ネコを放さないで!」

第二話「ネコを放さないで!」⑵

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 代わりにボクに話しかけてくれたのは、白日野下さんだった。

「おや、小林くんじゃないか。そちらは野呂さんだね? はじめまして」

「はじめまして、知らない人ー!」

 野呂は明るくあいさつする。
 知らない人にも元気にあいさつできるのはいいことだけど、それを本人に言うのはどうかと思うぞ?

「白日野下さん、どうしてここに?」

「ウチの親がドラマの監修をやっているんだが、忙しくて現場に来られなくてね。私とポチャムズが代理で来た」

「監修?! 美少女探偵ミコミコの?!」

「そうだよ」

 あの本格ミステリの監修を、白日野下さんの親が?
 いったい、なんの仕事をしているんだろう? 推理小説家とか、刑事さんとかかな?

「白日野下さんの親って、何してる人?」

「秘密」

 白日野下さんはさびしそうにほほえんだ。
 ポチャムズも意味ありげに、フッと笑みを浮かべる。ポチャムズは知っているんだろうな……ネコなのに。

「二人は琴美さんが学校に行くよう、説得しに来たんだね?」

「そう……って、なんで知っているんだ?」

「君たちを琴美さんに会わせるよう、明石先生に助言したのは私だからね。ずいぶん困っていたみたいだったよ」

 白日野下さんは琴美ちゃんに聞こえないよう、コソッと教えてきた。
 明石先生が困っていた? ボクたちに依頼してきたときは、そんな感じじゃなかったけど……。

 琴美ちゃんはボクと野呂が明石先生の知り合いだと分かると、警戒を解いてくれた。

「あぁ、明石先生の。悪いけど私、学校に行く気ないから」

「え? 何で?」

 不安で行けない、じゃなくて? 聞いていた話と違う。
 琴美ちゃんは小馬鹿にするように、鼻で笑った。

「行く必要がないからよ。小学校の勉強程度なら仕事をしながらでもできるし、友達だっている。学校なんかより、今は仕事に集中したいの」

 ……そうか。琴美ちゃんは小学校を下に見ているんだ。
 それで明石先生も困って、同じ小学生のボクたちを頼ってきたんだな。依頼してきたとき晴れやかな笑顔だったのは「これで解決する」と思っていたからだろう。
 よし、いっちょやってやりますか!

「が、学校に行くこと自体に意味があるんだよ!」

「意味って、例えばどんな?」

「みんなで授業を受けたり、遊んだり……」

「そんなの時間のムダだわ」

「が、学校でしか知り合えない子もいるし!」

「私、小学生と話合わないし」

「先生に質問したりとか!」

「学校の先生って、嫌い」

「クラブは?! ボクたち、名探偵クラブって、クラブやってるんだけど、良かったら入らない?!」

 苦し紛れに、名探偵クラブのことを言ってみた。
 すると、

「名探偵クラブ?!」

 と意外にも食いついてきた。それまで退屈そうだったのに、どうしたんだろう?

「どんな名探偵がいるの?! 名探偵の末裔がいるとか?! きっと、すごい難事件を解決してきたんでしょうね?!」

「え、えっと……名探偵がいるというよりは、名探偵を目指しているクラブなんだ。事件らしい事件も、まだ解決してない」

「なーんだ。つまんないの」

 琴美ちゃんは途端に興味をなくし、元のつまらなさそうな顔に戻ってしまった。
 うぅ……嘘でも「名探偵がいる」って言ったほうが良かったかな?

 ◯

 気まずい空気の中、撮影のスタッフさんが楽屋に来てくれた。

「琴美ちゃん、差し入れです」

「……そこに置いといて」

 琴美ちゃんはそのスタッフの顔を見た瞬間、さらに不機嫌になる。
 嫌いなスタッフなのかな? たしかに頼りなさそうに見えるけど、悪い人じゃなさそうなのに。

 スタッフさんはカップにドリンクを入れて持ってきてくれた。カップに色がついているので、中身は見えない。
 琴美ちゃんがカップに手を伸ばした……そのとき、

「ニャニャニャッ!」

「あっ!」

 野呂と追いかけっこしていたポチャムズが、カップを倒してしまった。
 中のドリンクは盛大にこぼれた。

「おや。やったね、ポチャムズ」

「もう! だからネコを放さないでって言ったのに!」

「い、今新しいドリンクを……」

「あんたは消えて!」

 琴美ちゃんに八つ当たりされ、スタッフさんは楽屋を出て行く。
 ポチャムズがこぼしたドリンクは、飼い主である白日野下さん……ではなく、ポチャムズ本人がぞうきんでふいた。

「ポチャムズもネコらしいドジするんだな」

「……本当にそう思うかい?」

 白日野下さんはクスッと笑った。

「わざとってこと?」

「君もよく知っているだろう? ポチャムズが普通じゃないネコだってことくらい、さ」

 ポチャムズはしくしく泣きながら、ドリンクをふいている。
 よく見ると、ぞうきんを持っていないほうの手に、目薬(ネコ用)をにぎっていた。

「ね?」

「……」
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