5 / 9
第二話「ネコを放さないで!」
第二話「ネコを放さないで!」⑵
しおりを挟む
代わりにボクに話しかけてくれたのは、白日野下さんだった。
「おや、小林くんじゃないか。そちらは野呂さんだね? はじめまして」
「はじめまして、知らない人ー!」
野呂は明るくあいさつする。
知らない人にも元気にあいさつできるのはいいことだけど、それを本人に言うのはどうかと思うぞ?
「白日野下さん、どうしてここに?」
「ウチの親がドラマの監修をやっているんだが、忙しくて現場に来られなくてね。私とポチャムズが代理で来た」
「監修?! 美少女探偵ミコミコの?!」
「そうだよ」
あの本格ミステリの監修を、白日野下さんの親が?
いったい、なんの仕事をしているんだろう? 推理小説家とか、刑事さんとかかな?
「白日野下さんの親って、何してる人?」
「秘密」
白日野下さんはさびしそうにほほえんだ。
ポチャムズも意味ありげに、フッと笑みを浮かべる。ポチャムズは知っているんだろうな……ネコなのに。
「二人は琴美さんが学校に行くよう、説得しに来たんだね?」
「そう……って、なんで知っているんだ?」
「君たちを琴美さんに会わせるよう、明石先生に助言したのは私だからね。ずいぶん困っていたみたいだったよ」
白日野下さんは琴美ちゃんに聞こえないよう、コソッと教えてきた。
明石先生が困っていた? ボクたちに依頼してきたときは、そんな感じじゃなかったけど……。
琴美ちゃんはボクと野呂が明石先生の知り合いだと分かると、警戒を解いてくれた。
「あぁ、明石先生の。悪いけど私、学校に行く気ないから」
「え? 何で?」
不安で行けない、じゃなくて行く気がない? 聞いていた話と違う。
琴美ちゃんは小馬鹿にするように、鼻で笑った。
「行く必要がないからよ。小学校の勉強程度なら仕事をしながらでもできるし、友達だっている。学校なんかより、今は仕事に集中したいの」
……そうか。琴美ちゃんは小学校を下に見ているんだ。
それで明石先生も困って、同じ小学生のボクたちを頼ってきたんだな。依頼してきたとき晴れやかな笑顔だったのは「これで解決する」と思っていたからだろう。
よし、いっちょやってやりますか!
「が、学校に行くこと自体に意味があるんだよ!」
「意味って、例えばどんな?」
「みんなで授業を受けたり、遊んだり……」
「そんなの時間のムダだわ」
「が、学校でしか知り合えない子もいるし!」
「私、小学生と話合わないし」
「先生に質問したりとか!」
「学校の先生って、嫌い」
「クラブは?! ボクたち、名探偵クラブって、クラブやってるんだけど、良かったら入らない?!」
苦し紛れに、名探偵クラブのことを言ってみた。
すると、
「名探偵クラブ?!」
と意外にも食いついてきた。それまで退屈そうだったのに、どうしたんだろう?
「どんな名探偵がいるの?! 名探偵の末裔がいるとか?! きっと、すごい難事件を解決してきたんでしょうね?!」
「え、えっと……名探偵がいるというよりは、名探偵を目指しているクラブなんだ。事件らしい事件も、まだ解決してない」
「なーんだ。つまんないの」
琴美ちゃんは途端に興味をなくし、元のつまらなさそうな顔に戻ってしまった。
うぅ……嘘でも「名探偵がいる」って言ったほうが良かったかな?
◯
気まずい空気の中、撮影のスタッフさんが楽屋に来てくれた。
「琴美ちゃん、差し入れです」
「……そこに置いといて」
琴美ちゃんはそのスタッフの顔を見た瞬間、さらに不機嫌になる。
嫌いなスタッフなのかな? たしかに頼りなさそうに見えるけど、悪い人じゃなさそうなのに。
スタッフさんはカップにドリンクを入れて持ってきてくれた。カップに色がついているので、中身は見えない。
琴美ちゃんがカップに手を伸ばした……そのとき、
「ニャニャニャッ!」
「あっ!」
野呂と追いかけっこしていたポチャムズが、カップを倒してしまった。
中のドリンクは盛大にこぼれた。
「おや。やったね、ポチャムズ」
「もう! だからネコを放さないでって言ったのに!」
「い、今新しいドリンクを……」
「あんたは消えて!」
琴美ちゃんに八つ当たりされ、スタッフさんは楽屋を出て行く。
ポチャムズがこぼしたドリンクは、飼い主である白日野下さん……ではなく、ポチャムズ本人がぞうきんでふいた。
「ポチャムズもネコらしいドジするんだな」
「……本当にそう思うかい?」
白日野下さんはクスッと笑った。
「わざとってこと?」
「君もよく知っているだろう? ポチャムズが普通じゃないネコだってことくらい、さ」
ポチャムズはしくしく泣きながら、ドリンクをふいている。
よく見ると、ぞうきんを持っていないほうの手に、目薬(ネコ用)をにぎっていた。
「ね?」
「……」
「おや、小林くんじゃないか。そちらは野呂さんだね? はじめまして」
「はじめまして、知らない人ー!」
野呂は明るくあいさつする。
知らない人にも元気にあいさつできるのはいいことだけど、それを本人に言うのはどうかと思うぞ?
「白日野下さん、どうしてここに?」
「ウチの親がドラマの監修をやっているんだが、忙しくて現場に来られなくてね。私とポチャムズが代理で来た」
「監修?! 美少女探偵ミコミコの?!」
「そうだよ」
あの本格ミステリの監修を、白日野下さんの親が?
いったい、なんの仕事をしているんだろう? 推理小説家とか、刑事さんとかかな?
「白日野下さんの親って、何してる人?」
「秘密」
白日野下さんはさびしそうにほほえんだ。
ポチャムズも意味ありげに、フッと笑みを浮かべる。ポチャムズは知っているんだろうな……ネコなのに。
「二人は琴美さんが学校に行くよう、説得しに来たんだね?」
「そう……って、なんで知っているんだ?」
「君たちを琴美さんに会わせるよう、明石先生に助言したのは私だからね。ずいぶん困っていたみたいだったよ」
白日野下さんは琴美ちゃんに聞こえないよう、コソッと教えてきた。
明石先生が困っていた? ボクたちに依頼してきたときは、そんな感じじゃなかったけど……。
琴美ちゃんはボクと野呂が明石先生の知り合いだと分かると、警戒を解いてくれた。
「あぁ、明石先生の。悪いけど私、学校に行く気ないから」
「え? 何で?」
不安で行けない、じゃなくて行く気がない? 聞いていた話と違う。
琴美ちゃんは小馬鹿にするように、鼻で笑った。
「行く必要がないからよ。小学校の勉強程度なら仕事をしながらでもできるし、友達だっている。学校なんかより、今は仕事に集中したいの」
……そうか。琴美ちゃんは小学校を下に見ているんだ。
それで明石先生も困って、同じ小学生のボクたちを頼ってきたんだな。依頼してきたとき晴れやかな笑顔だったのは「これで解決する」と思っていたからだろう。
よし、いっちょやってやりますか!
「が、学校に行くこと自体に意味があるんだよ!」
「意味って、例えばどんな?」
「みんなで授業を受けたり、遊んだり……」
「そんなの時間のムダだわ」
「が、学校でしか知り合えない子もいるし!」
「私、小学生と話合わないし」
「先生に質問したりとか!」
「学校の先生って、嫌い」
「クラブは?! ボクたち、名探偵クラブって、クラブやってるんだけど、良かったら入らない?!」
苦し紛れに、名探偵クラブのことを言ってみた。
すると、
「名探偵クラブ?!」
と意外にも食いついてきた。それまで退屈そうだったのに、どうしたんだろう?
「どんな名探偵がいるの?! 名探偵の末裔がいるとか?! きっと、すごい難事件を解決してきたんでしょうね?!」
「え、えっと……名探偵がいるというよりは、名探偵を目指しているクラブなんだ。事件らしい事件も、まだ解決してない」
「なーんだ。つまんないの」
琴美ちゃんは途端に興味をなくし、元のつまらなさそうな顔に戻ってしまった。
うぅ……嘘でも「名探偵がいる」って言ったほうが良かったかな?
◯
気まずい空気の中、撮影のスタッフさんが楽屋に来てくれた。
「琴美ちゃん、差し入れです」
「……そこに置いといて」
琴美ちゃんはそのスタッフの顔を見た瞬間、さらに不機嫌になる。
嫌いなスタッフなのかな? たしかに頼りなさそうに見えるけど、悪い人じゃなさそうなのに。
スタッフさんはカップにドリンクを入れて持ってきてくれた。カップに色がついているので、中身は見えない。
琴美ちゃんがカップに手を伸ばした……そのとき、
「ニャニャニャッ!」
「あっ!」
野呂と追いかけっこしていたポチャムズが、カップを倒してしまった。
中のドリンクは盛大にこぼれた。
「おや。やったね、ポチャムズ」
「もう! だからネコを放さないでって言ったのに!」
「い、今新しいドリンクを……」
「あんたは消えて!」
琴美ちゃんに八つ当たりされ、スタッフさんは楽屋を出て行く。
ポチャムズがこぼしたドリンクは、飼い主である白日野下さん……ではなく、ポチャムズ本人がぞうきんでふいた。
「ポチャムズもネコらしいドジするんだな」
「……本当にそう思うかい?」
白日野下さんはクスッと笑った。
「わざとってこと?」
「君もよく知っているだろう? ポチャムズが普通じゃないネコだってことくらい、さ」
ポチャムズはしくしく泣きながら、ドリンクをふいている。
よく見ると、ぞうきんを持っていないほうの手に、目薬(ネコ用)をにぎっていた。
「ね?」
「……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる