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第二話「ネコを放さないで!」
第二話「ネコを放さないで!」⑶
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どうやら、ポチャムズはわざと琴美ちゃんのドリンクを倒したらしい。
でも、何のために?
「ハァ。怒ったら、のどかわいたわ。そこのぶりっ子ツインテール、代わりの紅茶をいれてちょうだい。ティーバックだけど、ないよりマシでしょ」
「私は鰤っ子じゃないけど、ラジャー!」
野呂は慣れた手つきで、紅茶をいれる。
たちまち、紅茶のいい香りが充満する。ポチャムズが両手を広げ、香りを全身に浴びていた。
「へい、お待ち!」
「寿司屋?」
琴美ちゃんは野呂がいれた紅茶を口にした途端、「美味しい?!」と目を丸くした。
「イギリスで飲んだ高級茶葉の味がする! ティーバックの安物なのに、何で?!」
「すごいな。こんなに美味しくなるとは」
「ウミャイウミャイ」
白日野下さんとポチャムズも美味しそうに紅茶を飲んでいる。
野呂は得意げに胸を張った。
「へっへーん! 私、紅茶いれるの上手いんんだよねー! 明石先生にもほめられたんだから!」
そう。野呂は紅茶をいれるのが得意だ。どんな安物の紅茶でも、最高級の味に仕上げてしまう。
そのせいで、名探偵クラブにはお茶請け用のお菓子が絶えない。もはや紅茶を飲むために、お菓子を持ってきているようなものだ……主に、明石先生が。
「前言撤回。そこのクソネコがドリンクを倒してくれて良かったかも。正直、あのスタッフが持ってきたドリンクなんて飲みたくなかったのよね」
「どうして?」
「嫌いだから」
琴美ちゃんは言い切った。相手は大人なのに。
「あいつ……田中っていうんだけど、普段はドッキリ番組のディレクターやってるの。前にタチの悪いドッキリを仕掛けられて、すっごくウザかったんだから!」
それに、と琴美ちゃんは青ざめた。
テレビでも雑誌でも見たことがない、恐怖の表情だった。
「あいつのケータイの待ち受け、ニコの写真だったの」
「ニコ?」
「二ノ宮ニコ。別の事務所の子役。私のライバル? みたいな。ミコミコの最終オーディションで残ったのも、私とニコの二人だったのよ」
「そのニコ……ちゃんの写真を、待ち受けに?」
琴美ちゃんは青ざめたまま、うなずいた。
「しかも、全部盗撮。たまたま画面をのぞいたら、百枚以上あったわ。あいつ絶対、変質者よ」
「警察か、大人の誰かに相談した?」
「ムダよ。相談したって、注意だけで終わる。それどころか、私の身が危なくなるわ。あなた達も、誰にも言わないでよ?」
琴美ちゃんはボク達に釘を刺し、席を立った。
「どこ行くの?」
「トイレ。ついて来ないでよね」
乱暴にドアを閉める。トイレは、プレハブの楽屋から少し離れたところにある。
ボクは琴美ちゃんが戻ってくるまでの間、白日野下さんにきいてみた。
「どう思う?」
「盗撮のことかい?」
「うん。あんな気の弱そうな人が変質者だなんて信じられないんだ」
「残念だけど、今は情報が少ないからなんとも言えないな」
「そっか……」
「確かなのは、さっきのドリンクになんらかの薬が入っていたことくらいだね。下剤とか睡眠薬とか」
「えぇ?!」
下剤?! 睡眠薬?! 大ごとじゃないか!
「ポチャムズには麻薬探知犬と同じ訓練をさせていてね、怪しい薬や毒を検知したら知らせてくれるんだ。誰かが飲みそうになったら、それとなく邪魔してくれる」
「戻ってきたら、琴美ちゃんに教えてあげないと」
「やめておきたまえ。ムダに不安にさせるだけだよ」
誰かが琴美ちゃんをねらっている。
気づくと同時に、琴美を一人で行かせて良かったのかと不安になった。その不安は的中し……琴美ちゃんはいなくなった。
でも、何のために?
「ハァ。怒ったら、のどかわいたわ。そこのぶりっ子ツインテール、代わりの紅茶をいれてちょうだい。ティーバックだけど、ないよりマシでしょ」
「私は鰤っ子じゃないけど、ラジャー!」
野呂は慣れた手つきで、紅茶をいれる。
たちまち、紅茶のいい香りが充満する。ポチャムズが両手を広げ、香りを全身に浴びていた。
「へい、お待ち!」
「寿司屋?」
琴美ちゃんは野呂がいれた紅茶を口にした途端、「美味しい?!」と目を丸くした。
「イギリスで飲んだ高級茶葉の味がする! ティーバックの安物なのに、何で?!」
「すごいな。こんなに美味しくなるとは」
「ウミャイウミャイ」
白日野下さんとポチャムズも美味しそうに紅茶を飲んでいる。
野呂は得意げに胸を張った。
「へっへーん! 私、紅茶いれるの上手いんんだよねー! 明石先生にもほめられたんだから!」
そう。野呂は紅茶をいれるのが得意だ。どんな安物の紅茶でも、最高級の味に仕上げてしまう。
そのせいで、名探偵クラブにはお茶請け用のお菓子が絶えない。もはや紅茶を飲むために、お菓子を持ってきているようなものだ……主に、明石先生が。
「前言撤回。そこのクソネコがドリンクを倒してくれて良かったかも。正直、あのスタッフが持ってきたドリンクなんて飲みたくなかったのよね」
「どうして?」
「嫌いだから」
琴美ちゃんは言い切った。相手は大人なのに。
「あいつ……田中っていうんだけど、普段はドッキリ番組のディレクターやってるの。前にタチの悪いドッキリを仕掛けられて、すっごくウザかったんだから!」
それに、と琴美ちゃんは青ざめた。
テレビでも雑誌でも見たことがない、恐怖の表情だった。
「あいつのケータイの待ち受け、ニコの写真だったの」
「ニコ?」
「二ノ宮ニコ。別の事務所の子役。私のライバル? みたいな。ミコミコの最終オーディションで残ったのも、私とニコの二人だったのよ」
「そのニコ……ちゃんの写真を、待ち受けに?」
琴美ちゃんは青ざめたまま、うなずいた。
「しかも、全部盗撮。たまたま画面をのぞいたら、百枚以上あったわ。あいつ絶対、変質者よ」
「警察か、大人の誰かに相談した?」
「ムダよ。相談したって、注意だけで終わる。それどころか、私の身が危なくなるわ。あなた達も、誰にも言わないでよ?」
琴美ちゃんはボク達に釘を刺し、席を立った。
「どこ行くの?」
「トイレ。ついて来ないでよね」
乱暴にドアを閉める。トイレは、プレハブの楽屋から少し離れたところにある。
ボクは琴美ちゃんが戻ってくるまでの間、白日野下さんにきいてみた。
「どう思う?」
「盗撮のことかい?」
「うん。あんな気の弱そうな人が変質者だなんて信じられないんだ」
「残念だけど、今は情報が少ないからなんとも言えないな」
「そっか……」
「確かなのは、さっきのドリンクになんらかの薬が入っていたことくらいだね。下剤とか睡眠薬とか」
「えぇ?!」
下剤?! 睡眠薬?! 大ごとじゃないか!
「ポチャムズには麻薬探知犬と同じ訓練をさせていてね、怪しい薬や毒を検知したら知らせてくれるんだ。誰かが飲みそうになったら、それとなく邪魔してくれる」
「戻ってきたら、琴美ちゃんに教えてあげないと」
「やめておきたまえ。ムダに不安にさせるだけだよ」
誰かが琴美ちゃんをねらっている。
気づくと同時に、琴美を一人で行かせて良かったのかと不安になった。その不安は的中し……琴美ちゃんはいなくなった。
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