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第 九章 町政と商会の始動そして海賊退治。

幕間32話 とある学生達の就職記録。②

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    俺はアーサルト・オグマ。学校が休日の今日、カイリーとスティンガーの三人で、噂の伯爵様の屋敷を訪ねた。噂で騎士団の募集をしているらしいので、入団希望で面接にきたのだ。

    「へぇー。ここが例のオオガミ伯爵様の屋敷か。何か建てたばかりの様に綺麗な屋敷だな。」
「ああ、確か以前ここは貴族派の貴族の屋敷だったはず。そうだよなスティンガー?」
「そうさ、アーサルト。たしかリンチ伯爵の屋敷だったはずさ。いつの間に立て替えたのかな。取り潰しになってから、それほど経ってないのにな。」
「分からないことを考えても仕方ないさ。さっさと面会の申し込みに行こうぜ、アーサルト、スティンガー。」
「ちょっと待ちなよ、カイリー。アーサルトも遅れずに。」
「お、おう。」

    門で守衛に用件を告げると屋敷の中に連絡に行ってくれて、中から執事の服装の若い男が一緒に来た。

「レナード騎士団長に入団希望でお会いしたいということでよろしいでしょうか?」
「はい、来月卒業予定の士官学校生です。ぜひ、此方の伯爵様の騎士になりたいと思い伺いました。」

スティンガーが代表して話す。俺もカイリーも敬語が苦手なので、ここは任した。

「では、客間にご案内しますから、こちらへどうぞ。」

門を通してもらい。美しく手入れの届いた庭を通り、屋敷の中に案内される。ある一室に通される。

「今、レナード団長をお連れしますのでお掛けになって、お待ち下さい。」

そう言って執事が出ていくのと入れ替わりにメイドがお茶を持って入ってきた。それぞれの前にカップを置くと出ていった。
   
    お茶を飲みながら待っていると、ノックの音の後にがっしりした体格のまだ若い男が入ってきた。どこかで見た顔だと思ったら、今年の闘技大会の男子の部優勝者だ。
立ち上がって頭を下げる。
ソファーを回り込み、上座に座ると話し出した。

    「みんな座ってくれ。自己紹介をする。私がレナード・ウィンドフィールド騎士爵だ。ツール伯爵閣下の騎士団の団長である。君達は?」

身分を聞かれたので、いつもの様につたえる。

「俺は士官学校三年生騎士科騎兵部のアーサルトです。」
「士官学校三年生騎士科歩兵部のカイリーだ。」
「同じく士官学校三年生魔法科参謀部のスティンガーです。」
「ほう、君達はまだ在学中なのかな?」
「はい、あと三週間程で卒業します。」

スティンガーが代表して受け答えをする。

「因みに成績は?」
「はい、自慢ではありませんが、三人とも各科の首席です。」
「ほう、優秀なんだね。で、そんなに優秀なら引く手数多あまた数多だろうに。何故うちに来たんだい。アーサルト君から順に教えてくれるかな?」

団長さんが不思議そうな顔をして、俺達に問いかけてきた。
俺から正直に答えた。

「俺はどうせ仕えるのなら、納得いく人に仕えたい。貴族であるだけでとか、長くやっているからとかで上司になっている者の下にはつきたくないからです。」
「・・・そうか、個人的には分かる話だな。それで君はどうなんだね、カイリー君?」
「俺は弱い人の下につきたくないからです。指揮にしろ、個人的な武勇にしろ。弱い人の下では無駄に死んでしまいそうで。俺は強くなりたいんです。」
「正直だな君は。まあ、私も似たような気持ちだったからな。君の気持ちはよく分かる。スティンガー君はどうなんだね?」
「僕は、魔法使いなんです。勿論参謀としての勉強も修めましたが、元々魔法使いなので、此方の伯爵様が見知らぬ魔法を使って帝国騎兵を薙ぎ倒したとお聞きして、出来れば弟子にしてもらい、魔法について教えを乞いたいと思ってです。」
「そうか、魔法をか。あれを見れば、教えを乞いたくなるのは分かるよ。」
「え、団長様はその魔法を見られたんですか?」
「ああ、あれは正に天変地異だったよ。」
「え、詳しく教えて下さい。」

「おい、話がそれているぞ、スティンガー。」
「あ、ごめん。」

ゴホンと団長さんが咳をつき、話を仕切り直した。

「それぞれの理由は分かった。閣下と相談してくるので、暫く待つように。」

    暫くして、団長と共に黒い革鎧の十五歳位の顔立ちの良い少年を連れて戻ってきた。
少年が自分が試験官だと言い、試験をするので着いてきてくれと、屋敷裏の訓練場に連れていかれた。

    「さて、試験は模擬戦だ。誰からやるのかな?」
「こんな、弟みたいな年の子が試験官だと。本気ですか?ケガをしても知りませんよ。」

俺がつい思ったことを口にすると団長さんが咎めた。

「バカ者、その方はオ・・・」
「レナード団長。騎士団の皆さんは全員お忙しいから、試験は新入りの私がやりますから団長は審判をして下さい。」

少年が団長さんの言葉を遮って試験官をするという。何故か団長さんは怒らずに、言われた通り
審判をするようだ。


    「両者共に模擬剣を持って向かい合うように。」

まずは俺から模擬戦をすることになった。
備え付けの模擬剣から具合の良い剣を取り少年と向かい合う。

「それでは始め!」

かけ声と共に少年の姿が消えた!

「何処へ行った。」
「アーサルト後ろだ。」
「それまで、オオガミ様の勝ち。」

振り向くと、後ろに少年が剣を首に突きつけていた。

「お前いつの間に?」
「君の目の前を通って後ろについただけだよ。これで学年トップとは、その学校レベルが低いのかい?」
「なにぃ?」
「模擬戦とはいえ、君は今首を切られて死んだんだよ。死者に物を語る権利はないな。   
    あと、簡単だけどアドバイスね。君はもっと〈気配察知〉を上げて、体全体で相手を感じられる様にならないと、目だけで敵を追っていると強くなれないよ。目が良すぎるから逆に目で追えない相手には何も出来ないでいる。空気の流れや相手の存在や気配を体全体で感じ取れないと、戦場で直ぐに死ぬからね。じゃあ、次の人。」
「な、俺はまだやれるぞ。」

思わず声を上げた。途端に、身体中に鳥肌が立ち固まってしまった。そこに無表情な少年が振り向き様に軽く模擬剣を一振り薙ぐと、俺の足元に一メートルの長さの亀裂が走った。そして少年の逆らう事を許さない雰囲気を纏った言葉を発する。

「学生のお兄さん。負けず嫌いは良いけど、さっき言ったろう。死者に語る権利はないと。黙ってそこで、次の人の試合をみていな。ここはね、命のやり取りをする人間の集まる場所なんだよ。何度でも出来るなんて、『学生気分』でいて良い場所じゃないんだよ。」

少年の言葉になにも言えず固まるしかなかった。

    「で、次の人はどちらかな?」

カイリーが真剣な顔をして、前に出た。

「俺が行きます。お願いします。」
「そうだね、例え相手が年下でも初見は下手に出た方が相手も油断してくれるかもしれないねぇ。勝つためなら何でもする。良い事だよ。じゃあ団長さんお願いします。」
「両者向き合って。では始め。」

俺の時とは違い、後手に回ると同じように負けると思ってか、先に攻め続けた。カイリーの鋭い攻撃に対して、見事なまでの回避行動で攻撃が当たらない。カイリーの全力攻撃を最小限の回避行動で避けまくっている。

    カイリーは十分程の全力攻撃を回避され、しまいには息を切らしながら剣をおろしてしまった。それを見て少年が問いかける。

    「おや、剣を下げてどうしたのかな?」
「いえ、俺の敗けです。」
「何故かな?」
「俺の攻撃が全く当たらないのに、このままだと俺だけ先に体力を使い切って動けなくなるからです。これでも学園一、ニの腕前だと自負していたんだけどな。上には上がいるとは、世の中は広いや。」
「フ、その若さでそれが分ければ十分さ。世界は広い。そして、今こうしていても、時は過ぎていく。不変のものなどないし。狭い世界しか知らないのに、己を強いなどと言えるはずもないのさ。だから、簡単に己を強いなどと言うヤツは自惚れているのさ。
じゃあ、次は魔法使い君だったね。模擬戦やるかい?」
「はい、お願いします。伯爵様。」

なに、伯爵様だと?この少年がか?

「・・・ほう、どうしてそう思ったのかな?」
「そちらの騎士団長の態度と貴方の剣の腕前からです。違いましたか?」
「いや、確かに私がツール伯爵のオオガミだ。少ない情報から良く判断したね。
それ一つで十分さ。入団してもらいたいねぇ。どうだい?」
「ありがとうございます。伯爵様のお力になれるように精進します。」
「うむ。そこの二人はどうする?まだ入る気はあるかい?あるなら入ってもらうが。ただし、今の力では家の騎士達の中では最弱だぞ。その分訓練は相当キツくなるが、どうするかい?」
「「入ります。」」
「ほう、二人ともかい。いいよ、鍛えてあげるよ。レナード、後は頼むね。中々良い運動になったよ。」

    少年はそう言って、屋敷に戻っていった。俺よりも年下だけど、あの一瞬鳥肌が立ち体が固まってしまった程の威厳。そして選ばれた者にしか持ち得ないあの覇気は仕えるに足る方だ。素直にそう思った。

「閣下のお許しがでた。君達は卒業したら荷物をもってこの屋敷にまた来ること。六の月の二十日頃にツールへ移動するのでその積もりでいてくれ。では、改めて自己紹介する。私が団長のレナード・ウィンドフィールド騎士爵だ。君たちの名前は?」
「アーサルト・オグマです。」
「カイリー・ミノワです。」
「スティンガー・ブロワです。」
「うむ、入団を歓迎する。閣下の剣と盾になってくれ。」

    思わぬ形で入団になったが、ここならやりがいがありそうだ。絶対伯爵様に勝てる様になって見せるぜ。


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