上 下
50 / 57

50

しおりを挟む

 

 

「は……ははっ……はははっ……。マジかよ……。クイーンコカトリスに認められるだなんて馬鹿げてる……。あり得ねぇって、普通……。ははっ……はははっ……。」

 ユージンさんは腰が抜けて地面に座り込みながら、クイーンコカトリスが去っていった空を見上げて空笑いをしていた。それから、オレの方に視線を向ける。

「……オレの完敗だ。クイーンコカトリスに認められる人間なんてあんた以外いねぇよ。そんな奴に勝負を挑んだオレが馬鹿だった。」

「え?いや……あの、これは偶然っていうか……。」

 クイーンコカトリスに認められたのは偶然だ。本当に偶然なのだ。

 ただ、オレはクイーンコカトリスからの攻撃を回避するために、手近にあったコカトリスの卵を手に持っただけなのだ。そのコカトリスの卵にクイーンコカトリスが自分から突っ込んだだけのこと。むしろ、そんなことをして逆にクイーンコカトリスに怒られるのではないかと思っていたのだけど……。

「……偶然でクイーンコカトリスがあんたを認めるかよ。そんなバカなことあってたまるかっ。あんたはクイーンコカトリスに認められた人間だって堂々と威張ってればいいんだよ。謙遜されると逆にムカつく。」

「は、ははは……。」

「それにオレにはコカトリスの卵を割ることができなかったしな。あんたすっげー冒険者だと思うんだけど。オレに言われたかないけど、料理人なんかじゃなく冒険者登録すべきだ。もったいねぇ。」

「んー。でも、オレは王宮料理人になっていろんな魔物の食材で美味しい料理を作りたいんだ。それがオレの夢なんだ。」

 ユージンさんにも冒険者が向いていると言われてしまった。

 ……オレ、そんなに料理人に向いてないのかな?

 ちょっとだけ不安になる。

「なぁにしけた顔してるのよっ!リューニャはクイーンコカトリスにも認められるくらいのすごい人間ってことよ!それに、冒険者になれば珍しい魔物の食材も見つけることができるかもしれないわよ!それに冒険者になれば冒険者ギルドに登録している冒険者にしか許可されていない迷宮にだって入ることができるわよ。まだ誰も到達していない階層に行けば、珍しい食材だってあるかもしれないの。冒険者になったって王宮料理人になれないわけじゃないわ。だから、リューニャ、冒険者になりなさいっ!そして、私とパーティーを組みましょう!!」

 ちょっとだけ落ち込んでいたら、ここぞとばかりにシラネ様に慰められた。そして、オレに冒険者になることを進めてくる。

 ……そう言えば、迷宮ってのがあったんだっけ?冒険者にしか入れないってのは知らなかった。っていうか、そんな危険なところに潜り込むことすら考えていなかったけど。

 ……珍しい食材が手に入るかも、か。ちょっと心が惹かれるかもしれない。

「ね!リューニャ!!冒険者になろう!」

「いい考えだ。シラネ。オレもリューニャに冒険者になってもらいたい。クイーンコカトリスにも認められるくらいの才能を持っているんだ。是非、冒険者としても活躍して欲しい。」

 ギルドマスターも冒険者になるようにすすめてくる。

 冒険者になっても、王宮料理人になることも可能。

 だったら、冒険者になっていろんな食材を探すのもいいかもしんない。

 そして、美味しい料理をいっぱい作る王宮料理人に、オレはなりたい。

「うん。オレ、冒険者になるよ。そして、珍しい食材をいっぱい探すんだ。」

 オレは、そう決意した。

 思い返してみれば、王宮料理人になりたくて修行を続けてきたけど、これと言った成果がでていないのも事実だ。

 それに、ここで入手できる魔物の食材も限られている。冒険者として旅に出て食材を探すのは意外とありなのかもしれない。そう思い至った。

「そうよ!その意気よ!!じゃあ、私とリューニャでパーティーを結成ね!リューニャの冒険者登録が完了したらすぐにパーティーの手続きをしなきゃね!!」

 シラネ様は上機嫌で言う。シラネ様に尻尾が生えていたらぴょんぴょん跳ねていそうなくらいだ。

 っていうか。

「え?なんでオレ、シラネ様とパーティー組むことになってるの??」

「だって、リューニャってば冒険者のことなぁんにも知らないでしょ?私がリューニャとパーティーを組んで教えてあげる!」

「え……冒険者になるってことは覚えることがいっぱいあるのか?」

「そういっぱいあるわよ!だから、リューニャは私とパーティーを組むのよ!これは決定事項よ。」

 シラネ様はそう言って、オレの右腕に満面の笑顔で抱きついてきた。シラネ様の薄い胸がオレの肘に当たる。


 

 

 

 

 

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。 何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。 世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。 長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。 公爵令嬢だった頃の友人との再会。 いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。 可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。 海千山千の枢機卿団に勇者召喚。 第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...