上 下
42 / 46
第八章 極限の中で

しおりを挟む
 戦闘開始と同時刻。
 魔王城では特殊な魔導具を使い、戦闘の様子が映像として映し出されていた。
 見ているな魔王とその側近。
 そして人類の王女、ミストリア。
 きわめて珍しい組み合わせで、リインたちの戦いを見守る。

「……」
「心配かい? お姫様」

 アガレスが王女に声をかける。
 王女は息を呑んで答える。

「リインでは部が悪い戦いなのですよね」
「ああ。ワシも厳しいとは思う」
「……どうして落ち着いていられるのですか? まさか負けてもいいと思っているのですか?」
「ワシはそこまで薄情じゃないぞ。悪魔の言葉なんざ信用できないとは思うがな」
「そんなことはありません」

 感情を識別する術式を持つ彼女にとって、種族の違いはそこまで関係ない。
 故に気付いている。
 魔王とアガレスが信じて彼らを送り出したことにも。
 勝てる可能性が低いと理解しながら、リインが勝つと信じている矛盾に、彼女は疑問を抱く。

「見ていればわかるわ」
「おう。リインは確かにまだ未熟だ。ワシが教えた魔力操作も、完全にはマスターしていない。現状の能力だけならルキフグスのほうが上手だ」
「……」
「だが、断言できる。剣術だけなら、あいつは世界最強だ」

 魔界屈指の剣士と名高いアガレスが断言する。
 数多の剣士、戦士と戦ってきた彼の言葉故に、信ぴょう性は高い。

「そしてあいつの剣は……極限でこそ真価を発揮するんだよ」
 
 アガレスは笑みを浮かべて映像を見る。
 自慢の弟子を誇るように。
 期待するように。

  ◇◇◇

 グリムとサルカダナスの戦闘は、超至近距離で繰り広げられる。
 サルカダナスは曲芸のような動きでグリムを翻弄する。
 彼女の術式は多彩だ。
 瞬間移動、透明化、物質精製。
 一瞬にして視界から消え、気配もなくなり、グリムの背後から無数のナイフを投擲する。
 グリムはナイフに反応し、回し蹴りによる風圧でナイフを弾く。

「いいっすね! 運が」
「オレじゃなかったら死んでるぜ」

 予備動作なしの瞬間移動に、視覚以外も惑わす透明化。
 加えて武器や道具を瞬時に生み出せる術式。
 並の術師であれば、サルカダナスの前に何もすることはできずに敗北する。
 彼女の戦いは、まるで自由気ままに遊んでいるよう。
 まさに変幻自在、自由奔放。
 しかしその戦い方は――

「オレの専売特許だぜ」

 グリムは超高速で壁や天井を使って跳び回る。
 サルカダナスの瞬間移動にも反応する反射速度に、ナイフすら通さない肉体を想像している。
 さらに透明化も。

「なんで気づけるんすか!」
「オレだからだな!」

 イメージの力で五感すら強化している。
 サルカダナスの術式は、視覚においては完璧に透過する。
 が、その他の感覚は完全には消せない。
 耳を澄ませば音がして、鼻をたてれば匂いを感じ、触れる感覚までは消えない。

「残念だったな! お前はオレの想像は超えられねー!」

 彼女のイメージは、百を超えるリインとの戦闘経験から強化されている。
 サルカダナスはリインより弱わかった。
 今の彼女には、サルカダナスに負ける想像など浮かばない。

「修行して出直しやがれ!」

 グリムの拳が移動直後のサルカダナスの顔面を捉える。
 顔がめり込むほどの一撃に、サルカダナスは倒れる。
 術式に頼る戦い方など、グリムには通じなかった。

  ◇◇◇

 ルキフグスの部下、ネビロス。
 かの悪魔の異名は死霊使い。
 死した者の魂を使役する術式を持つ。
 魔界は長い歴史の中で多くの血が流れ、今も尚どこかで争いは続いている。
 この地でもかつて大きな戦いが起こり、多くの命が失われた。
 故に、残っている。 
 大量の死した魂が。

「私には地の利がある。悪いが君に勝ち目はない」

 ネビロスの背後に死霊から生成された青い炎の玉が無数に浮かぶ。
 青い炎は冷気を放つ。
 触れれば瞬時に凍結し、あらゆる生命活動を停止させる。
 ネビロスの発言は正しい。
 この場での戦いは、ネビロスに利がある。

 が、彼女には関係ない。

「――馬鹿な、その炎は……」
「ご、ごめんなさい。真似させてもらいました」

 彼女にとっては全ての場所が利に働く。
 視界に見えるものを理解し、己の想像力の種火とする。
 ネビロスの炎をも再現してみせた。
 さらに、彼女の想像力もグリム動揺、リインのと戦いで強化されている。
 ネビロスの炎とヴィルの炎は、同じではない。

 炎がぶつかり合う。
 冷気は掻き消え、ネビロスが燃え上がる。

「ば、馬鹿な! 燃える……だと!」
「ほ、炎は燃えるものですから。そっちのほうが想像しやすくて、ごめんなさい」

 ヴィルの炎は冷気すら燃やす業火。
 同じではなかった。
 彼女の炎の想像が、現実の力を上回る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

鬼神の刃──かつて世を震撼させた殺人鬼は、スキルが全ての世界で『無能者』へと転生させられるが、前世の記憶を使ってスキル無しで無双する──

ノリオ
ファンタジー
かつて、刀技だけで世界を破滅寸前まで追い込んだ、史上最悪にして最強の殺人鬼がいた。 魔法も特異体質も数多く存在したその世界で、彼は刀1つで数多の強敵たちと渡り合い、何百何千…………何万何十万と屍の山を築いてきた。 その凶悪で残虐な所業は、正に『鬼』。 その超絶で無双の強さは、正に『神』。 だからこそ、後に人々は彼を『鬼神』と呼び、恐怖に支配されながら生きてきた。 しかし、 そんな彼でも、当時の英雄と呼ばれる人間たちに殺され、この世を去ることになる。 ………………コレは、そんな男が、前世の記憶を持ったまま、異世界へと転生した物語。 当初は『無能者』として不遇な毎日を送るも、死に間際に前世の記憶を思い出した男が、神と世界に向けて、革命と戦乱を巻き起こす復讐譚────。 いずれ男が『魔王』として魔物たちの王に君臨する────『人類殲滅記』である。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜

シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。 アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。 前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。 一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。 そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。 砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。 彼女の名はミリア・タリム 子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」 542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才 そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。 このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。 他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

My² Gene❇︎マイジーン ~URAZMARY~

泥色の卵
SF
【お知らせ】  他サイトで完結したので、定期的に投稿していきます。 【長期連載】 1話大体3〜5分で読めます。 ▼あらすじ My² Gene 第1部  広大な銀河の中。“My Gene”という何でも願いを叶える万能遺伝子が存在するとの御伽話があった。    ある星に薄金髪で能天気な学生が暮らしていた。彼の名はサンダー・パーマー=ウラズマリー。  電撃系の遺伝子能力を操る彼は、高等部卒業試験に向けて姉のような師匠と幼馴染の力を借りて奮闘していた。  そんな中ウラズマリーは突然何者かにさらわれ、“My Gene”と彼との関係を聞かされる。  そして彼は“My Gene”を探すために銀河へと旅立つことを決意する。  これは、電撃の能力を操る青年『ウラズマリー』が、仲間と共に万能遺伝子『My Gene』を巡って織りなす壮大な物語。  異能力×スペースアドベンチャー!!  第一部「万能遺伝子と宵闇の光」【完結】  現在第二部「血を喰らう獣」も連載中です。 ------------------------------------- 少年漫画風な冒険もの小説です。 しっかりと読んでいただけるような物語を目指します。 楽しんでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いします。 少数でも誰かにハマって面白いとおもっていただけたら嬉しいです。 第一章時点では純粋な冒険物語として見ていただけたらと思います。 チート、無双、ハーレムはありません。 【おそらく楽しんでいただける方】 ・少年漫画とかが好きな方 ・異能力バトルが好きな方 ・細かめの戦闘描写がいける方 ・仲間が増えていく冒険ものが好きな方 ・伏線が好きな方 ・ちょっとダークなのが好きな方 章が進むと色んな種類の悪い人や死の表現がでます。苦手な方は薄目での閲覧をお願いいたします。 誤字脱字や表現おかしいところは随時更新します。 ヒューマンエラーの多いザ・ヒューマンですのでご勘弁を… ※各話の表紙を随時追加していっています 異能力×スペースアドベンチャー×少年漫画風ストーリー!! 練りに練った物語です。 文章は拙いですが、興味を持っていただいた方に楽しんでいただけただけるよう執筆がんばります。 本編 序盤は毎日21〜24時くらいまでの間 間話 毎日21〜24時くらいまでの間 (努力目標) 一章が終わるごとに調整期間をいただく場合があります。ご了承ください。 古参読者であることが自慢できるほどの作品になれるよう努力していきますのでよろしくお願いいたします。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

『神々による異世界創造ゲーム』~三十路女が出会った狐耳メイドは女神さま!? 異世界転生したケモミミ少女はスローライフと冒険を楽しみたい~

釈 余白(しやく)
ファンタジー
『お父さん、お母さん、見た目は大分変ってしまったけど、私は元気で毎日楽しく暮らしています』  小さな会社で営業をしていた八重樫七海(やえがしななみ)は、豊穣の女神と名乗る狐耳メイドの手によって、ケモミミをはやした狐の獣人となり『ミーヤ・ハーベス』という新たな名前と姿で『神々による世界創造のゲーム』世界へ降り立った  田舎の村での生活からはじまり、都会で暮らしたり料理をしたりお店で働いたり、たまには冒険の旅へ出ることもある。そんな風に暮らすミーヤの生活は行き当たりばったりの風任せ。それでも楽しければすべてよし、と行動を起こすミーヤと、彼女を取り巻く人たちで紡ぐ物語はまだまだ続くだろう。  この物語は、一人の疲れた女子会社員が女神の導きによってケモミミ獣人少女として異世界へ転生し、ブラック企業にこき使われるのをはじめとするこれまでの不幸な人生から、ホワイト異世界でのんびり楽しいリア充生活おくりつつ、紆余曲折しながらも幸せをつかみ取るお話です。 ※なろう、カクヨム版とは多少内容が異なります

処理中です...