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第八章 極限の中で
伍
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グリムとヴィルが戦っているのがわかる。
何度も相手をしていると、同じ空間にいれば戦況は読み取れる。
二人が負けるはずがない。
だから心配せず、俺は目の前の強者に集中できる。
「燃えろ」
ルキフグスは右手から炎を放つ。
俺は炎を刀で両断すると、視界の先にいたルキフグスが消える。
気配を辿る。
「上か」
頭上にいたルキフグスから雷撃が降る。
回避が間に合わず、刀と魔力の鎧で受けきる。
「っ……!」
気づけばルキフグスが眼前に立っていた。
その拳は風を纏い、俺の腹部に拳をぶつける。
瞬間、風が拡散して吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
吹き飛び壁にめり込んだ俺は、すぐさま壁から飛び出す。
再び向かい合い、大きく呼吸を整える。
「これが奪った術式……」
術の多彩さ、運用方法。
俺に考える隙を与えてくれない。
わずか十数秒の戦いで理解する。
この悪魔は、今の俺より強い。
「魔王の言った通りだな」
「……なぜ笑っている?」
ルキフグスが問いかける。
どうやら俺はまた無意識に笑っていたらしい。
それに苛立ったのか。
鋭い視線で俺を睨んでいた。
「もう理解したはずだ。俺は貴様よりも強い。貴様では俺に勝てない」
「……確かに強いな。でも生憎、勝てないとは思ってない」
実力差は理解した。
確かに今の俺には厳しい相手だが、届かないほどの差じゃない。
実力が離れすぎていないなら、戦い方一つで勝機はある。
「気に入らない」
「――!」
辺り一面を赤い結界が支配する。
これはギガスの術式。
しかもギガスが使用した時よりも吸収速度が速い。
対処するより早く、俺の中の魔力が半分以上持っていかれた。
俺は魔力を固めて吸収を防ぐ。
と、その直後に結界を破壊し、ルキフグスは俺の右側面に移動して斬りかかってくる。
「っ……」
咄嗟に刀で受けたが、想像より重い。
一度きりの術式を迷わず使用し、対処されたら即座に切り替える。
しかもさすが悪魔だ。
ギガスよりも魔力扱いに長けている。
攻撃のタイミングに放出の方向と量を調整して、的確に威力を増していた。
俺は吹き飛ばされ、空中で回転して衝撃を殺して着地する。
「終わりだ」
さっきより一段速く、ルキフグスが攻め込んでくる。
加えて斬撃は重く、頭上で受け止めた俺の両足は地面にめり込む。
いいや、奴が加速したんじゃない。
魔力を奪われて、俺の身体能力が落ちている。
「っ、連戦が響いてるな」
魔力操作を会得した今の俺は、的確に魔力を運用できる。
消費をなるべく抑える戦い方ができるが、完全になくすことはできない。
一度放出した魔力は体内に戻らない。
体外で運用した魔力は、戦闘後に消費してしまう。
ギガスとの戦いで、俺は大量の魔力を外に出してしまった。
さらに残った魔力の半分が吸われている。
今の俺の魔力は、学園に通う一般的な生徒と大差ない。
(こいつ……なぜ潰れない?)
それでもギリギリ耐えているのは、女神様にもらったこの肉体のおかげだ。
けどさすがに厳しいな。
仕方ない。
俺はルキフグスの斬撃をうまく往なし、距離を取る。
「逃げても無駄だ」
それを追うルキフグス。
俺の消耗を理解し、勝利を確信して油断している。
その隙をつくように、俺は加速しルキフグスの背後をとる。
「何だと!?」
下からの斬り上げ。
ルキフグスは咄嗟にのけぞるが、腰から肩にかけて斬撃は当たる。
俺の左手には小刀が握られていた。
それが消滅していく。
「――そうか。魔力のストック」
「正解だ」
俺が持つ剣製術式は、魔力を消費して剣を生み出す。
生み出した剣は、俺が破壊しない限り消えない。
自らの意思で剣を破壊した場合に限り、消費した魔力をすべて術者に還元する。
魔力一日分で作った小刀は三本。
うち一本を消費したことで、俺の魔力は全回復した。
今なら当てられる。
巌流――
「燕返し」
三つの斬撃がルキフグスを捉える。
はずだった。
ルキフグスの身体が霧のようになって消える。
気配はふわりと移動し、背後から斬撃が俺の背中を斬り裂く。
「ぐ……幻術か」
あの一瞬で術式を発動させ、俺の認識をずらしたのか。
攻撃に意識を集中させた反面、防御がおろそかになった。
「先生に笑われるな」
俺もまだまだ未熟だ。
先生なら今の攻撃も通さなかっただろう。
「認めよう」
「……?」
ルキフグスが呟き、魔力が膨れ上がる。
「貴様は強い。俺も全力を見せてやろう」
「これは……」
魔王から聞いていたルキフグスの術式の応用。
ストックした無数の術式を魔力へと変換することで、一時的に自身の限界を超えた魔力量を手に入れることができる。
膨れ上がった魔力が形となって見える。
総量だけなら俺以上……いや、魔王にも匹敵する。
「最大の一撃を持って、貴様を殺す」
「……ふぅ」
背中から血が流れる。
思ったよりも深手だったらしい。
止血に魔力を回したいが、こいつ相手にそんな余裕はない。
奴はギガスと違って魔力操作の技術もある。
ギガス以上に膨れ上がった魔力を全て載せて、最強の一撃を放つだろう。
魔力、力、速度も全てあちらが上。
ならば対抗できるのは唯一、前世から磨き続けた業のみ。
平晴眼の構え。
この戦いに勝つには、俺は全てを捨てなければならない。
生すらも。
(死に覚悟したか……)
「いいだろう。来るがいい、人間」
膨大な魔力が剣に注ぎ込まれていく。
考えるまでもなく、あの一撃は俺の身体を容易に貫くだろう。
だが俺は回避を頭から捨てた。
ほぼ同時に動き出す。
速度はあちらが上だが、俺は全神経を攻撃に集中させたことで対抗する。
(こいつより深く踏み込んで――)
回避はない。
振り下ろされたルキフグスの攻撃を、ギリギリ見切って刀の鍔で受ける。
ルキフグスの攻撃にひび割れるが、破壊はされない。
俺が持つ刀は、俺の魔力を日々注ぐことで強度を増している。
一瞬ならば受けられると信じていた。
そのまま摺り上げて上段から相手の胴を斬る。
天然理心流の信念。
たとえ死しても相手を斬る。
相打ち覚悟の大技。
天然理心流――
「龍尾剣」
それを体現するように、俺の刃はルキフグスを斬り裂く。
「馬鹿……な……死に望んで……」
(強くなったというのか……!)
「――ふぅ」
倒れていくルキフグスに、俺は笑顔で礼を言う。
「ありがとう。お前と戦えてよかった」
強者との戦いこそ、己の強さを引き上げる。
この戦いで俺は確実に、理想へと近づいただろう。
かくして学園、魔界を巻き込んだ大事件は終幕した。
何度も相手をしていると、同じ空間にいれば戦況は読み取れる。
二人が負けるはずがない。
だから心配せず、俺は目の前の強者に集中できる。
「燃えろ」
ルキフグスは右手から炎を放つ。
俺は炎を刀で両断すると、視界の先にいたルキフグスが消える。
気配を辿る。
「上か」
頭上にいたルキフグスから雷撃が降る。
回避が間に合わず、刀と魔力の鎧で受けきる。
「っ……!」
気づけばルキフグスが眼前に立っていた。
その拳は風を纏い、俺の腹部に拳をぶつける。
瞬間、風が拡散して吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
吹き飛び壁にめり込んだ俺は、すぐさま壁から飛び出す。
再び向かい合い、大きく呼吸を整える。
「これが奪った術式……」
術の多彩さ、運用方法。
俺に考える隙を与えてくれない。
わずか十数秒の戦いで理解する。
この悪魔は、今の俺より強い。
「魔王の言った通りだな」
「……なぜ笑っている?」
ルキフグスが問いかける。
どうやら俺はまた無意識に笑っていたらしい。
それに苛立ったのか。
鋭い視線で俺を睨んでいた。
「もう理解したはずだ。俺は貴様よりも強い。貴様では俺に勝てない」
「……確かに強いな。でも生憎、勝てないとは思ってない」
実力差は理解した。
確かに今の俺には厳しい相手だが、届かないほどの差じゃない。
実力が離れすぎていないなら、戦い方一つで勝機はある。
「気に入らない」
「――!」
辺り一面を赤い結界が支配する。
これはギガスの術式。
しかもギガスが使用した時よりも吸収速度が速い。
対処するより早く、俺の中の魔力が半分以上持っていかれた。
俺は魔力を固めて吸収を防ぐ。
と、その直後に結界を破壊し、ルキフグスは俺の右側面に移動して斬りかかってくる。
「っ……」
咄嗟に刀で受けたが、想像より重い。
一度きりの術式を迷わず使用し、対処されたら即座に切り替える。
しかもさすが悪魔だ。
ギガスよりも魔力扱いに長けている。
攻撃のタイミングに放出の方向と量を調整して、的確に威力を増していた。
俺は吹き飛ばされ、空中で回転して衝撃を殺して着地する。
「終わりだ」
さっきより一段速く、ルキフグスが攻め込んでくる。
加えて斬撃は重く、頭上で受け止めた俺の両足は地面にめり込む。
いいや、奴が加速したんじゃない。
魔力を奪われて、俺の身体能力が落ちている。
「っ、連戦が響いてるな」
魔力操作を会得した今の俺は、的確に魔力を運用できる。
消費をなるべく抑える戦い方ができるが、完全になくすことはできない。
一度放出した魔力は体内に戻らない。
体外で運用した魔力は、戦闘後に消費してしまう。
ギガスとの戦いで、俺は大量の魔力を外に出してしまった。
さらに残った魔力の半分が吸われている。
今の俺の魔力は、学園に通う一般的な生徒と大差ない。
(こいつ……なぜ潰れない?)
それでもギリギリ耐えているのは、女神様にもらったこの肉体のおかげだ。
けどさすがに厳しいな。
仕方ない。
俺はルキフグスの斬撃をうまく往なし、距離を取る。
「逃げても無駄だ」
それを追うルキフグス。
俺の消耗を理解し、勝利を確信して油断している。
その隙をつくように、俺は加速しルキフグスの背後をとる。
「何だと!?」
下からの斬り上げ。
ルキフグスは咄嗟にのけぞるが、腰から肩にかけて斬撃は当たる。
俺の左手には小刀が握られていた。
それが消滅していく。
「――そうか。魔力のストック」
「正解だ」
俺が持つ剣製術式は、魔力を消費して剣を生み出す。
生み出した剣は、俺が破壊しない限り消えない。
自らの意思で剣を破壊した場合に限り、消費した魔力をすべて術者に還元する。
魔力一日分で作った小刀は三本。
うち一本を消費したことで、俺の魔力は全回復した。
今なら当てられる。
巌流――
「燕返し」
三つの斬撃がルキフグスを捉える。
はずだった。
ルキフグスの身体が霧のようになって消える。
気配はふわりと移動し、背後から斬撃が俺の背中を斬り裂く。
「ぐ……幻術か」
あの一瞬で術式を発動させ、俺の認識をずらしたのか。
攻撃に意識を集中させた反面、防御がおろそかになった。
「先生に笑われるな」
俺もまだまだ未熟だ。
先生なら今の攻撃も通さなかっただろう。
「認めよう」
「……?」
ルキフグスが呟き、魔力が膨れ上がる。
「貴様は強い。俺も全力を見せてやろう」
「これは……」
魔王から聞いていたルキフグスの術式の応用。
ストックした無数の術式を魔力へと変換することで、一時的に自身の限界を超えた魔力量を手に入れることができる。
膨れ上がった魔力が形となって見える。
総量だけなら俺以上……いや、魔王にも匹敵する。
「最大の一撃を持って、貴様を殺す」
「……ふぅ」
背中から血が流れる。
思ったよりも深手だったらしい。
止血に魔力を回したいが、こいつ相手にそんな余裕はない。
奴はギガスと違って魔力操作の技術もある。
ギガス以上に膨れ上がった魔力を全て載せて、最強の一撃を放つだろう。
魔力、力、速度も全てあちらが上。
ならば対抗できるのは唯一、前世から磨き続けた業のみ。
平晴眼の構え。
この戦いに勝つには、俺は全てを捨てなければならない。
生すらも。
(死に覚悟したか……)
「いいだろう。来るがいい、人間」
膨大な魔力が剣に注ぎ込まれていく。
考えるまでもなく、あの一撃は俺の身体を容易に貫くだろう。
だが俺は回避を頭から捨てた。
ほぼ同時に動き出す。
速度はあちらが上だが、俺は全神経を攻撃に集中させたことで対抗する。
(こいつより深く踏み込んで――)
回避はない。
振り下ろされたルキフグスの攻撃を、ギリギリ見切って刀の鍔で受ける。
ルキフグスの攻撃にひび割れるが、破壊はされない。
俺が持つ刀は、俺の魔力を日々注ぐことで強度を増している。
一瞬ならば受けられると信じていた。
そのまま摺り上げて上段から相手の胴を斬る。
天然理心流の信念。
たとえ死しても相手を斬る。
相打ち覚悟の大技。
天然理心流――
「龍尾剣」
それを体現するように、俺の刃はルキフグスを斬り裂く。
「馬鹿……な……死に望んで……」
(強くなったというのか……!)
「――ふぅ」
倒れていくルキフグスに、俺は笑顔で礼を言う。
「ありがとう。お前と戦えてよかった」
強者との戦いこそ、己の強さを引き上げる。
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