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第三部 最終話

18 作曲

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 曲を作るには、まず手元に楽器がなければ進まない。というわけで、二人は部屋を出て、ギュルダン氏の屋敷に向かった。彼の楽器部屋を借りられないかと思ったからだ。

 リュートは持ち運び自由だが、オルガンやチェンバロはそうはいかない。リーゼはまだ自分のチェンバロを持っていなかった。いつもの練習もギュルダン氏に借りているそうだ。

 屋敷にいたギュルダン氏は練習のための部屋であり楽器なのだから、いつでも使いなさいと、許可を出してくれた。

 まずリーゼから相手の娘のことを訊きながらイメージをしていく。

 名はカトリナ。歳は十九。

 野に咲く可憐な花のようにいつも笑っていて、彼女が街を歩くと周囲が花畑に見えてくる。いつも誰かが声をかけ、彼女も必ず足を止めてにこやかに会話をする。明るくて、笑顔が可愛くて、料理も上手で。一人暮らしの僕を気遣ってくれるんだ。といつの間にやら、のろけ話になりつつも、カトリナのイメージを音に落とし込んでいった。

 翌日はリーゼが教師の仕事のため、実家のある隣街に帰ったので、ディーノは自分の練習に時間を使った。合作とはいえリーゼがメインで曲作りをしているので、ディーノが勝手に進めることができない。

 ディーノは即興演奏が得意だが、即興はその場の雰囲気や気分で奏でるため、同じものは二度と演奏できない。今回は再現が必要なため、納得いくまで何度でも作り直すことができた。その分、完成までまだまだ時間がかかりそうだけれど。

 再現するための作曲は初めてのことで、ディーノにはいい勉強になっていた。

 自分で作ることによって、今まで弾いていた既存曲を別の角度から見直す機会になった。曲の背景やイメージを膨らませて弾いていたものが、なぜここでこのコードなのか、このメロディなのか、音符ひとつひとつを考えるようになり、曲への理解や解釈が深まったように思えた。

 そしてリュートが、音楽が、さらに好きになった。

        *

 計四日かけて作り上げた曲を師匠やギュルダン氏に聴いてもらい、修正をして、カトリナのための曲を完成させた。

 オルガンとリュートの二重奏だが、リュートの出番は少なくしているので、オルガンの独唱でも成立する。

 チェンバロではなくオルガンにしたのは、音質の違いから。チェンバロのもつ金属的な音質はカトリナのイメージには合わない。一方のオルガンは丸くて柔らかい音が出る。

 この曲は譜面に起こさなかった。今は書き残すより、練習時間が必要だった。

 二人で何十回も何百回も練習を重ね、リーゼに自信をつけさせた。
リーゼはもともと優れた技術を持っている。あとはイメージを表現するだけ。今回は想いが込められている分、演奏に乗せやすかったようだ。

 曲にも演奏にも納得ができたのか、高揚した勢いで、リーゼはカトリナを誘いに行った。

 ディーノは楽器部屋でリーゼが戻ってくるのを待っていた。

 断られていやしないかと心配で、リュートの練習をする気にならなかった。

 祈るような気持ちで待っていると、勢いよく扉を開け、リーゼが部屋に飛び込んできた。

「ディーノ。来てくれるって! 彼女来てくれるって!」

 リーゼは出て行ったとき以上の興奮状態で帰ってきた。
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