1 / 32
第一部 一章
プロローグ 悪魔狩りと少女
しおりを挟む
雨上がりの森林の匂いが好きだった。土なのか濡れた緑葉の青臭さなのか、なんだかよく分からない不思議な匂い。狩りの途中で降られた際、毎回のように気になってしまう。
「リーゼ! そっちに行ったぞ!」
声を聞き、赤ずきんの少女リーゼロッテは、ハッとして眼前に意識を戻す。灰色の双眸を瞬きさせてから「いけない」と小声で呟き、弓弦を引いた。ギリギリと音を立てて引き絞り、じっと逃げてくる鹿を睨みつける。
(……今!)
とある地点にまで鹿の足が到達した瞬間、パッと思い切りよく手を放した。
びゅん。風を突っ切って矢が飛んでいき、見事前足肘のすぐ後ろを貫く。
「やった! ……わっ」
嬉しさで両腕を上げてみれば、太い木枝の根元から滑り落ちそうになり、慌ててしがみついた。心臓を貫かれて倒れた鹿は泥濘に滑っていき、少し離れた場所でギュイイと最後に声を上げると、やがて息絶える。木から降りて近づいてみれば、鹿の体が不定期に痙攣しているのが見えた。血が水溜まりと混ざって広がっていく。
「……?」
ふと、生気を感じさせない鹿の目を見た時、リーゼロッテは何故だか首の辺りが絞めつけられるように苦しくなった。舌の中心にある凹凸が痛くなって、沢山走った時に感じる鉄の味がする。首輪のような痕がついた細い首に思わず手を当て、不思議そうに眉をしかめてみれば「上手くいったみたいだな」と低い男声が背後から聞こえてきた。
「みろ。急所をきちんと貫けている……一本だけでよくやった。これで、リーゼも一人前だな」
父さん! そう言ってリーゼロッテが振り返ってみれば、途端にその大きくてゴツゴツした腕に抱き上げられる。狩りには何かと厳しいあの父が褒めてくれた。見下ろしてみれば、顎髭を蓄え、左顔面の目元に傷跡のある厳つい見た目の父が目を細めている。その筋骨隆々の偉丈夫は世界一のハンターとして活躍していた頃の面影を確かに残していた。
「売りに出すのは惜しい。こいつは一人前になった祝いで、シチューにして食べようか」
降ろされ、撫でられた手のひらに擦り寄り「パンもつけていい?」とリーゼロッテは輝いた目で問いかける。それに対して父は「もちろん。今日は二つつけていいぞ」と笑って返した。
狩りが終わり、肉の切り分けが終わると、リーゼロッテとその父ジェラルドは愛馬のクリフに荷台を引かせ、麓の街へと出かける。
市場は見て回るだけでも楽しいところだ。大きなフォレストファングの肉や、ヘドロカエルの干物。稀に高級食材のドラゴン肉が露店に並んでいる。
飛んでいる虫を長い舌でつまみ食いしているトカゲ人間や、ふさふさのしっぽを持った獣人、尖り耳の怪しい露天商など、街は人間を含む多くの種族で溢れていた。正しくこの世界をギュッと凝縮したような光景だ。
ここはレヴィナンテ王国の郊外にあるとある街、ルトレア。ドラグシア大陸の北部に位置し、その自然の豊かさや気温の心地良さから、多くの種族が他方から集まって生活をしている。世界でも三つ指に入る規模の肉市場があることで有名だ。リーゼロッテとジェラルドはこの肉市場に毎日欠かさず狩った獣肉を売って暮らしている、言わば「狩人」である。
「今日の売り分だ」
昨日の分の売上げを寄越せとばかりにジェラルドは手のひらを見せる。露店主はその掌に硬貨の入った袋を乗せ「また獣肉か」と鼻で笑った。
「ああ、今朝取った物だ。その場ですぐに切り分けたから新鮮だぞ」
「ははあ。相変わらずあんたは優秀だな。でも、稼ぎを増やしたいならもっと魔物を狩る方が効率がいいと思わないか? 最近はどの露店もそればかりだ」
「新鮮で大量の獣肉じゃ不満か?」
腕を組むジェラルドに「それはあんたの売りでもあるけどな」と店主が布を一枚めくって荷台に積まれた獲物を見つめる。
「なあ、ジェラルド。俺はあんたのためを思って言ってんだ。リーゼちゃんも大きくなっただろ? 金が必要なはずだ。あんたの技術力なら、またギルドハンターに戻って……」
「はあ、グレッグ……前にも言ったはずだ。俺はもう、ギルドハンターには戻らない。危険だしなにより……あの子を一人にしたくない」
何度目かと肩を落とし「また明日もよろしく頼む」とジェラルドが軽く手を振ってグレッグに背を向けた。その筋骨隆々の広い背中にかつての相棒の姿を思い出し、グレッグは少し寂しそうに息をつく。
「あ、父さん。どうだった?」
少し離れたところでクリフを撫でていたリーゼロッテは、荷台を引きずるジェラルドに気づき、表情を明るめた。見ろと言わんばかりの笑みで、ジェラルドは下の方だけがタプタプに膨らんだ袋を見せつける。
「今日もいい稼ぎだったよ。クリフを見てくれてありがとうな」
お決まりのように頭を撫でられ、リーゼロッテは少し誇らしげに顔を上げた。帰る為に、荷台を括ったクリフに跨る。
「パンも買ったし……他に何か欲しいものはないか?」
ふと振り返ってみれば、自身の体にしがみつくリーゼロッテがじっと何かを見つめている。視線を辿っていけば遠くにある赤いリンゴを眺めている事が分かった。やや遅れてその声に気づき、リーゼロッテは「何もいらないよ」と首を振る。
「……そうか。そういえば、なんだか今日はアップルパイが食べたい気分だな。リンゴでも買おうか」
少女の嘘に気づいたジェラルドは彼女のプライドを傷つけないように遠回しに提案する。自分の欲していたものの名前に、リーゼロッテは「うん!」と嬉しそうに返した。
ジェラルドが林檎を買い終えるのを待っている際。一つは個別で頂き、早くもシャリシャリと咀嚼音を立てながら食べていると、メインとなる通りから人のざわめきが聞こえてきた。
「みろ。悪魔だ」
その言葉にごくん、と口内の欠片を飲み込んだ。人だかりができている方を見つめる。この世界では珍しい服を着た人間たちの姿だ。彼らは縄でひとつに繋げられ、なにやら聞き覚えのない言葉でぎゃあぎゃあ言っている。
「おい! なんなんだよ……? 言葉が通じないのか!? 助けてくれ!!」
一人の男性が発した言葉にリーゼロッテはちらりと目線を向ける。今、助けて? と言ったのだろうか。不思議に思っていると背後から「そろそろ行くぞ」とジェラルドの声がする。
「ねえ、父さん。あの人たち、どこに連れてかれるの? 助けてって?」
彼らが向かう裏通りは先程自分たちが出てきた肉市場があるはずだ。ジェラルドは彼らかと一言呟いてから「見るな。早く帰ろう」と付け足し、リーゼロッテの赤頭巾を深くかぶせ、馬に乗った。
聞きたいことがあって何度か問いかけようとしたが、ジェラルドが前を向いたまま「乗馬中に話すと舌を噛むぞ」と馬を走らせるので、何も聞くことは出来なかった。
◆
家に帰り、食後のアップルパイを焼いている頃には、リーゼロッテの膨らんでいた疑問はすっかり萎んでいた。夕飯に出てきたシカ肉のシチューをパンにつけて頬張り、幸せそうに噛み締める。一度家に戻った際に育てていた乳牛の乳につけて置いたので、鹿肉の血抜き処理は十分にされ、とても柔らかかった。
「どうだ? 初めて自分で取った肉の味は」
「うん、美味しい! いつもよりも美味しいかも」
「そうだろうな。初めて自分でとった獣ほどうまい肉はない。まだまだあるから沢山食べろよ。今日は一人前になったリーゼの祝いなんだからな」
皿を片付けるためにジェラルドが立ち上がり、その途中でまたリーゼロッテの頭を撫でる。うん、と顔を上げて答えながらもリーゼロッテは一人前と言う言葉に何かを思い出し「あっ、そうだ」と呟いた。
「一人前になったらお願いしたいことがあったの。多分絶対驚くと思うけど?」
「おっ? なんだ?」
自信満々に告げ、言葉を続けようとするリーゼロッテに「待った。当てるから」とむき出しのキッチンから帰ってきたジェラルドが止める。
「新しい弓が欲しいとかか?」
「それは……欲しいけど違う」
「意外なことだろ? まさかグレッグのとこの息子と付き合いたいとか? 悪いことは言わないから、あいつはやめた方がいい」
「父さん……それはない。絶対」
「あー……じゃあ、お前専用の馬か? 前に確か言っていたよな?」
あれこれ悩んでは楽しそうにあげていくジェラルドに痺れを切らして「私、ギルドハンターになりたいの!」と遮るように言い放った。ギルドハンター? ジェラルドはそうオウム返ししてから乾いた笑い声を上げた。冗談だろ? とリーゼロッテを見つめる。
「この流れで冗談なんて言うと思う?」
腕を組んで得意気に告げるリーゼロッテに困惑の色を隠しきれない。返す言葉を失っていると、リーゼロッテは「ずっと前から夢だったの」と続けた。
「グレッグおじさんが言ってた。父さんは凄腕のギルドハンターだったって。ギルドハンターってギルドに加盟して、依頼を解決していく仕事なんでしょ? それに、まだ見たことのない世界を歩き回って、色んな魔物に出会えて……ずっと憧れてたの!」
「ダメだ」
腹の底から轟くような声に肩を飛びあがらせた。否定されるとは思わず、数秒開けてから「……なんで?」と言い返す。
「ギルドハンターは……常に死と隣り合わせの仕事なんだ。それに、お前はまだ子供だろ?」
「そんな……子供扱いしないでよ! 私もう十五だよ!? ギルドハンターの認定試験の資格も、兵士になるのも十五からだ!」
宥めるように肩に置かれた手を、リーゼロッテは激情して払った。
「それに父さん言ってたじゃない! 私はもう一人前だって! 罠の仕掛け方も、獲物の解体の仕方も……今日は一人で大きな鹿だって取れた!」
「……ああ。お前は一人前だ。獣を狩ることに関してはな。だが、ギルドハンターは獣が相手だとは限らない。凶暴で大きな化け物を狩ることだってある。ギルドハンターになるにはまだまだ未熟で経験不足だ……第一、今日だって俺がいなかったら逃がしていたかもしれない」
「そんなことない! 別に父さんがいなくてもとれた! あの距離から鹿の心臓を貫けるのはプロでもできることじゃないって、父さん昼間言ってたじゃない! この日のために毎日まいにちずっと頑張ってきたの! そんな簡単に出来ないなんて言わないでよ!」
好きな食べ物も、服も、今まで色んなことを諦めてきたが、これだけは諦められなかった。ギルドハンターになれば今より金が手に入る。これでずっとお世話になっていた父に恩返しができると密かに考えていた夢だった。
「私がギルドハンターになれば今の生活ももっと楽になれるんだよ? 父さんだって昔はギルドハンターだったなら……」
「あれは俺の汚点だった」
その言葉に体の水分が沸騰して、体温が上がっていくような怒りを感じた。なんで、そんなことを言うの? ふつふつと煮え立つ怒りとともに震えた言葉が漏れる。
「父さんなら絶対応援してくれると思ってたから……今まで隠してきたのに」
父がギルドハンターであることを、リーゼロッテは誇りに思っていた。グレッグから聞いた父の昔話に胸を踊らせ、いつか自分も父親のようなギルドハンターになると―――きっと父のことだから喜んでくれると、そう思っていた。
「グレッグおじさんも、応援してるって言ってくれたんだよ……?」
「グレッグの入れ知恵か。あいつ、余計なことしやがって……」
「なっ! おじさんは悪くない! この前、応援してるって言ってくれた時に、リーゼちゃんならきっとお父さんを越えられる! ってペンダントくれたんだ」
ほら見てと、首からかけていた黒水晶のペンダントを見せつける。それを見てジェラルドはカッと目を見開き、首からそれを奪い取ると、床に落として勢いよく踏みつけた。パリン、二人の間に流れる険悪な空気の中、ガラスの割れる音が響く。
「……ギルドハンターになる以外の事なら、弓だろうが馬だろうが何でも許してやる。だから、それだけは諦めてくれ……」
ショックのあまり、リーゼロッテは声を出すことが出来なかった。足元で踏み潰されたものを見て、じわりと涙が滲み、目の前がぼやける。
「なんでよ……父さんはなんでそんなにギルドハンターを嫌うの……?」
「リーゼ」
「……グレッグおじさんが言ってた。あいつは、自分のしたことに怯えてるんだって。知ってるんだよ? 遠征の間に母さんが……」
「リーゼ!!」
怒号が部屋の空気を揺らした。目の前で大きな声を出され、リーゼロッテは先程よりも肩を飛びあがらせて震える。
「その話を二度と俺の前でするな! いいか!? お前は絶対にギルドハンターにはさせない!! 絶対にだ!!」
その言葉の勢いに、縮こまった体ではもはや言い返すことが出来なかった。次から次へと言葉が思い浮かんでは消えていく。鼻の奥がつんとして、目縁が熱くなり、重々しい体は虚脱感に飲み込まれていった。
「……なんだよ。家族なのに、何も本当のこと話してくれないんだ……私のこと、愛してないんだ……」
無理に笑おうとして変に呼吸がひくついた。「そんなんだから母さんを失ったんだ」と小声で付け足し、自室の方へ歩き出す。
「父さんの臆病者」
部屋に入る直前で立ち止まり、掠れた声で扉を開ける。背後から返事がないまま、バタンと扉の閉まる音がいつもより大きく響いた。
翌日は窓を打つ雨音の湿った空気が部屋に充満していた。湿った空気がただでさえ憂鬱で気が滅入っている自分に追い打ちをかけているかのようで、不快でしかない。目が覚めてからもベッドの上で何度も寝返りを繰り返していると、コンコンと自室の扉がノックされた。リーゼロッテ、と自分の名前を呼ぶその声に猫のように丸くなって無言を貫く。
「今日は雨も強いし……その……無理はしなくてもいい」
歯切れの悪い言葉に、きっと昨夜のことを気にしているのだろうと思った。気遣われているのを感じながらも意地を張って何も言わず、布団を頭から被る。
(……私、悪くないもん)
扉越しにいたジェラルドは暗く沈んだ顔をしていたが、なるべく明るい声で「じゃあ、留守番頼んだ」と言い部屋から離れた。靴を引きずるような寂しい足音を耳に、リーゼロッテは目をつぶる。
ジメジメして、重ねた腕がベタつく。自分の呼吸を大きく感じて落ち着かない。いや、落ち着かないのはきっと父に対する怒りや罪悪感などの相反する複雑な感情が入り乱れているからだろう。
「あーーー! もう!」
しばらくじっと雨音を聞いていたが、そのうち湿気やら落ち着けなさから布団の中にいることが出来なくなって起き上がり、恐る恐る部屋を出た。
昨日父と一緒にシチューを食べたダイニングテーブルには、自身の弓が手入れされた状態で置いてある。そういえば、昨夜はあんなことがあって手入れするのをすっかり忘れていた。普段から道具を手入れするのが大事だって父が言うから、毎日欠かしたことはなかったのに。今日も本当はきっと一緒に狩りに行こうとしたに違いない。ピンと張られた弦をみてリーゼロッテは更に沈痛した気持ちになった。
「昨日のこと、謝りもしない癖に……っ」
ずっと描いていた夢を踏みいじられた怒りが腹底に留まり、胃痛の時のような不快感がある。その一方で、父が避けていた母の話題を出してしまったことに後悔もあった。ギルドハンターについて自分から話したがらないのも、きっとあの事故が原因だったのだろう。随分昔に頭を強く打ったせいで母の記憶はないが、父が母を大切にしていたのは、見ていてわかっていた。自分のせいだと後悔していることも。
『そんなんだから母さんを失ったんだ』
それなのに勢い任せであんなことをと、弓を見つめていた視界が滲む。喧嘩するのも初めてでどうすればいいか分からない。
父さん、と声に出した時にコンコンと家の扉がノックされた。こんな時に誰だろう。もしかして父さんが帰ってきたのだろうかと、涙を拭き、駆け足で扉を開ける。
「はい……」
ガチャりと開けてみれば、そこには父親の背丈ほどある二人の男が立っていた。大きな影がリーゼロッテに覆い被さるようにして重なる。
「君がリーゼロッテちゃんかい?」
「えっ、はい。あの……誰ですか? 父さんなら今狩りでいなくて……」
そいつは都合がいい、と返した男の声音に、ゾクリとした悪寒を背中で感じとった。見れば後ろの男の手には縄が張るように握られている。
「案外早く済みそうで助かったよ」
逃げ出そうと後退する間もなく、リーゼロッテは自身の顔程ある大きな手に腕を掴まれた。
◆
耳鳴りがする。水に潜った時のような引っ掛かりが耳奥にとどまっていて気持ちが悪い。後ろで手足を拘束され、ぐったりと地面に横になっているリーゼロッテの鼻からは血が垂れていた。強く頭を殴られて、勢いよく地面に倒れたからだろう。視界が二重になって定まらないまま、入口付近で話している男たちを見る。
「おい……ジェラルドが来たらどうするんだ」
「なあに、すぐ終わるよ。外で見張っていてくれ」
何かあったらすぐに言えよと背中を押し、無理やり一人の男を外に出した。家に残った男がこちらに向かって歩いてくる。
「まっずいな。商品なのに怪我させちまった」
何かで拭いて……ついでに家の金品を漁るかと、男は部屋を歩く。商品、の言葉にリーゼロッテは大体察しがついた。まさか、こんなところに人攫いが現れるなんて。手の縄を解こうと捻るように動かすが、がっちり縛られていて自分で解くのは難しそうだった。既に人攫いを何度か経験しているプロに違いない。
「全く。俺に噛み付いてきやがって。思わず殺しちまうところだったぜ」
男は視界の外からやってきて目の前で屈むと鼻から垂れたものを粗末な布で拭いた。無理やり拭かれているため力が強く、布の網目の荒さもあってカサカサとした感触が痛い。なんでこんなことになったのだろう。父の愛を疑ってしまった自分への罰だろうか。なんだかとても泣けてくる。
「と……うさん。ひぐっ……とう、さん……!」
「ちっ。泣いてんなよ。この布でも噛んでろ」
「んぅーーー!」
先程の布を細くして、男はリーゼロッテの口に咥えさせる。横に倒れているため咥えさせてから後ろで結びつけるのに少々手間取った。集中していたからこそ、男は背後に重なった影に気が付かなかった。
ゴツン
鈍い音が短く部屋に響く。頭に直撃したそれによって男は横になぎ倒され、リーゼロッテは背後からやってきていた影の正体を知った。
「リーゼ……! 待ってろ、今解いてやるからな」
そこには目下に黒を浮かばせて、いつになく焦りを見せる父の姿があった。体に血がついているところを見るに外の一人を仕留めた後なのだろう。まずは手足の拘束をと、ジェラルドは持っていたナイフを取り出す。重ねた手の間に刃を入れ、糸鋸のように引いたりして一本一本を素早く切っていく。リーゼロッテは顔を捻るように猿轡を下におろし「父さん!」と声を上げる。
「大丈夫だ。すぐに解いてやる」
「違うの! 後ろ! まだそいつ動いて……!」
そう言っている間に男はフラフラになりながら立ち上がると、ジェラルドに飛びかかった。馬乗りになり、大きく腕を振り上げて顔を殴り付ける。
「くそっ! 痛てぇだろ! あいつも殺しやがって……死ね! 死んじまえクソ野郎が!」
指輪らしきものがついた拳で殴られ、顔と後頭部を強くうち、ジェラルドの意識が飛びかける。これはまずいとリーゼロッテは周囲を見回しているうちに、弓のことを思い出した。足はまだ縛られているが解いている時間はないと全身を使って机の近くに行き、膝立ちで机上から弓と矢を持つと、男に向かって構えた。
「父さん……!」
このままでは父さんが死んでしまう。なのに、構えた矢は震えて狙いが定まらない。人を殺す? 私が? そんなことできるのか? 迷いが頭の中でぐるぐると回り、自分の鼓動と荒い息だけが大きく聞こえる。
獣相手ならいくらでも殺せる自信があった。罠に仕掛けられたやつだって、解体だって、何でもそつなく生き物を殺してこれたじゃないか。
『いいか、リーゼ。これは獣を狩る道具であって、人を殺すための武器じゃない。人殺しになんて絶対になるな』
ふと、父が前に言ってた言葉を思い出す。獣を狩るものであって人を殺すための武器じゃない。それなら、この場合はどうすればいいのだろう。父を助けたい……でも。悪人だろうと、同じ人には変わりない。
「あっ……」
ずっと構えているのが辛くなって思わず手を離してしまった。風を切ったそれは狙っていた男を掠めて向こう側の壁に突き刺さる。気づかれたと、全身から血の気が引いていった。
「あぶねえ……矢が……お前がやったのか」
ひっ、と脅えた声が引き攣る。弓を持ったまま地面にしりをついて、片手を使って後退した。男の手には父から奪ったナイフが握られている。
「もう、商品だろうが知ったことか。ここでお前を殺して、虫の息になったそいつの隣に並べてやる」
わざとらしく近くのテーブルにナイフをあてたまま、男が跡をつけるようにして引きずる。後退を続けているうちに部屋の向こう側の壁に到達し、逃げられないことを悟った。なんだか以前も見たことがあるような光景だ。
もうダメだとギュッと目をつぶった時、血だらけで立ち上がったジェラルドが突進するように男に体当たりした。気づいた男は素早く腹にナイフを差し込むが、ジェラルドは構わずその太い腕で男の首を絞め、その状態で男の頭を強く壁にうちつけた。ゴッ、とズレたような音がし、男はその場で膝をついて倒れる。ポタポタと床に赤が滴り落ちた。
「と……さん」
心配そうに見上げるリーゼロッテの前で、ジェラルドが膝をつきもたれかかる。無事でよかった、耳元で聞こえたその嗄れた声にリーゼロッテは自由になった両腕でしっかりと抱きしめた。が、その後安心したかのようにジェラルドが横に倒れる。
「ひっ……」
改めて倒れた父親の全体を見て、声を失う。顔は金属で殴られたのか鼻が折れ曲がり、目を中心に赤黒が広がっていた。抉れた箇所から血が溢れている。きっと頭の中も内部出血が酷いだろう。腹のナイフも深いところまで刺さっている。早く治療しないと手遅れになると、足元の縄を矢じりで擦るようにして無理やり切り、立ち上がった。その瞬間、引き寄せられるようにジェラルドが腕を引く。
「父さん離して! 治療しないと!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を向ける。リーゼロッテ、と名前を呼ぶその弱々しい声には呼吸音が漏れ、濁点混じりの言葉はなんだか父のものではないように聞こえた。
「いい、んだ……そばにい、でぐれ」
激しく咳き込み、呼吸をするのでさえしんどそうだった。こんな呑気なことをしている暇はないのにと焦っていたが「無事か?」と投げかけられ、父の手を頬に付けたままこくこくと頷く。
「そう、が……ぞ、れならいい。今度はちゃんど、守れだ」
怖い思いをさせてごめん、そう付け足されリーゼロッテは激しく首を振りながら「そんなことない!」と涙ながらに訴えた。
「……ごめんなさい。昨日、酷いこと言った……臆病者だって……それなのに、助けてくれて……」
その声に眼球の動かない目で「いや、間違っでい、ない」とジェラルドが返す。
「お前の、言うどおりだ……俺はあの時からずっど、臆病のまま……家族より、仕事を選んだ、薄情もんだ……お前のこともちゃんど、向き合っでるようで、向き合っでながっだ……」
リーゼロッテと再度名前を呼ばれその腕を強く握られる。涙目で倒れた父を見つめるが、なんだか目が合っている気がしない。
「……倒れでいる奴らは、ギルドがらきた悪魔狩りのハンダーだ。きっどまた、お前を捕らえにぐる」
「なんで……ギルドハンターが私を捕らえようとするの!? 悪魔狩りって……」
それは、とジェラルドが少し間を開けてから覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「お前が、この世界の人間じゃないがらだ」
その声にリーゼロッテが目を見開く。えっ、と引きつった声が漏れるが、こちらに構わずジェラルドは話を続けた。
「いつ……さどられたがは、分からない。けど、始めから狙ってきだというのなら、そういうことだ」
「何言ってるか、全然分からないよ! この世界の人間じゃないってなんで……! 私はずっと父さんと一緒にいたじゃない!」
「ああ……お前を、拾うまではな」
拾う、の言葉にリーゼロッテは目を見開いた。瞬間、とある光景を思い出す。星が綺麗な日、空に向かって光虫が飛び立つ幻想的な景色の中、ジェラルドと初めて出会った。初めて出会ったと錯覚した。けれど後に自分は頭を強く打って記憶を無くしているのだとジェラルドから言われて、ずっとそうだと信じていた。もしそれが本当なら、母さんについての記憶がないのも全部―――元から記憶がなかったからだというのか。
「……ち、違う。私は世界一のギルドハンター、ジェラルド・ ヴェナトルの娘で……」
「今まで嘘ついでいで、悪がっだ……」
その悲しそうな顔に真実なのだということを悟った。頭の処理が追いつかない。これまでの様々な光景が瞼の裏に映っては通り過ぎていく。
「わた……わたし……ちが、ちがう……」
ショックを受け、震えた言葉で何度も自分を確かめようとするが、引っかかって先に進めず、結果的に壊れた機械のように同じ箇所を繰り返し続けた。頭を抑え、過呼吸のように不定期で荒々しい呼吸音が部屋に響く。そんなリーゼロッテの腕をしっかり掴み「でも」とジェラルドが血まみれの顔で遮った。
「お前を心から愛しでいたのは、嘘じゃなかっだ……リーゼ……この世に、生まれてきて意味がながっだ、なんてごとは決して……ないんだ」
それを忘れないでくれ、付け足された言葉と同時に頬につけていた父の腕が重くなった。ズルズルと引きずるように落ちていき、離した手は力なく地面につく。
「えっ……と……さん? 父さん!!」
大きく体を揺さぶるが大好きな父のその体はもうなんの反応も示さない。
「やだ……起きて! 起きてよぉ……私をっ……」
一人にしないで……そんなリーゼロッテの声は外の土砂降りによってかき消された。
◆
数時間後―――いや、もしかしたらぼうっとして日を跨いでしまっていたかもしれない。外は曇天のまま、ようやく雨が上がった。まだ昼間だと言うのに外は暗く、永遠に夜になってしまったかのようだった。
リーゼロッテは家から少し離れた森の中に行き、よく休憩所として使っていた大岩の前に父の遺体を埋めた。頬や体を泥まみれにしながらその盛土に木のシンボルを立て、祈る。天で父が安らかに眠れることを。
「父さん……私、分からないよ……」
ぎゅっと泥を手繰り寄せるように掴む。もし、父さんと喧嘩していなければ。出会っていなければ。自分がこの世に存在しなければ―――あの時、私がちゃんとあいつを殺していれば! そんなもしもの世界を頭に思い浮かべて、今も笑っているであろう父の姿を空想する。爪の間に入る泥の不快ささえも気にならない、怒り。
自分が父の子ではないだとか、この世界の人間じゃないだとかに頭が混乱して、焦燥のようなものが混ざり、煮え立つ気持ちが膨れ上がる。
「何が、悪魔狩りだ……っ! 罪のない人を殺すあいつらの方が悪魔だろ……」
腹奥がムカムカするような、落ち着きのない感情に歯を食いしばる。そして、父の墓を涙ながらに睨みつけて誓った―――悪魔狩りを壊滅させてやると。
雨のあがった森林は土と、血が混ざり、いつもより臭いを濃くさせた。湿っぽくて、陽の光から遠い、ジメジメと湿った鉄錆の臭い。
鼻の奥に染み付くこの匂いが大嫌いだ。
「リーゼ! そっちに行ったぞ!」
声を聞き、赤ずきんの少女リーゼロッテは、ハッとして眼前に意識を戻す。灰色の双眸を瞬きさせてから「いけない」と小声で呟き、弓弦を引いた。ギリギリと音を立てて引き絞り、じっと逃げてくる鹿を睨みつける。
(……今!)
とある地点にまで鹿の足が到達した瞬間、パッと思い切りよく手を放した。
びゅん。風を突っ切って矢が飛んでいき、見事前足肘のすぐ後ろを貫く。
「やった! ……わっ」
嬉しさで両腕を上げてみれば、太い木枝の根元から滑り落ちそうになり、慌ててしがみついた。心臓を貫かれて倒れた鹿は泥濘に滑っていき、少し離れた場所でギュイイと最後に声を上げると、やがて息絶える。木から降りて近づいてみれば、鹿の体が不定期に痙攣しているのが見えた。血が水溜まりと混ざって広がっていく。
「……?」
ふと、生気を感じさせない鹿の目を見た時、リーゼロッテは何故だか首の辺りが絞めつけられるように苦しくなった。舌の中心にある凹凸が痛くなって、沢山走った時に感じる鉄の味がする。首輪のような痕がついた細い首に思わず手を当て、不思議そうに眉をしかめてみれば「上手くいったみたいだな」と低い男声が背後から聞こえてきた。
「みろ。急所をきちんと貫けている……一本だけでよくやった。これで、リーゼも一人前だな」
父さん! そう言ってリーゼロッテが振り返ってみれば、途端にその大きくてゴツゴツした腕に抱き上げられる。狩りには何かと厳しいあの父が褒めてくれた。見下ろしてみれば、顎髭を蓄え、左顔面の目元に傷跡のある厳つい見た目の父が目を細めている。その筋骨隆々の偉丈夫は世界一のハンターとして活躍していた頃の面影を確かに残していた。
「売りに出すのは惜しい。こいつは一人前になった祝いで、シチューにして食べようか」
降ろされ、撫でられた手のひらに擦り寄り「パンもつけていい?」とリーゼロッテは輝いた目で問いかける。それに対して父は「もちろん。今日は二つつけていいぞ」と笑って返した。
狩りが終わり、肉の切り分けが終わると、リーゼロッテとその父ジェラルドは愛馬のクリフに荷台を引かせ、麓の街へと出かける。
市場は見て回るだけでも楽しいところだ。大きなフォレストファングの肉や、ヘドロカエルの干物。稀に高級食材のドラゴン肉が露店に並んでいる。
飛んでいる虫を長い舌でつまみ食いしているトカゲ人間や、ふさふさのしっぽを持った獣人、尖り耳の怪しい露天商など、街は人間を含む多くの種族で溢れていた。正しくこの世界をギュッと凝縮したような光景だ。
ここはレヴィナンテ王国の郊外にあるとある街、ルトレア。ドラグシア大陸の北部に位置し、その自然の豊かさや気温の心地良さから、多くの種族が他方から集まって生活をしている。世界でも三つ指に入る規模の肉市場があることで有名だ。リーゼロッテとジェラルドはこの肉市場に毎日欠かさず狩った獣肉を売って暮らしている、言わば「狩人」である。
「今日の売り分だ」
昨日の分の売上げを寄越せとばかりにジェラルドは手のひらを見せる。露店主はその掌に硬貨の入った袋を乗せ「また獣肉か」と鼻で笑った。
「ああ、今朝取った物だ。その場ですぐに切り分けたから新鮮だぞ」
「ははあ。相変わらずあんたは優秀だな。でも、稼ぎを増やしたいならもっと魔物を狩る方が効率がいいと思わないか? 最近はどの露店もそればかりだ」
「新鮮で大量の獣肉じゃ不満か?」
腕を組むジェラルドに「それはあんたの売りでもあるけどな」と店主が布を一枚めくって荷台に積まれた獲物を見つめる。
「なあ、ジェラルド。俺はあんたのためを思って言ってんだ。リーゼちゃんも大きくなっただろ? 金が必要なはずだ。あんたの技術力なら、またギルドハンターに戻って……」
「はあ、グレッグ……前にも言ったはずだ。俺はもう、ギルドハンターには戻らない。危険だしなにより……あの子を一人にしたくない」
何度目かと肩を落とし「また明日もよろしく頼む」とジェラルドが軽く手を振ってグレッグに背を向けた。その筋骨隆々の広い背中にかつての相棒の姿を思い出し、グレッグは少し寂しそうに息をつく。
「あ、父さん。どうだった?」
少し離れたところでクリフを撫でていたリーゼロッテは、荷台を引きずるジェラルドに気づき、表情を明るめた。見ろと言わんばかりの笑みで、ジェラルドは下の方だけがタプタプに膨らんだ袋を見せつける。
「今日もいい稼ぎだったよ。クリフを見てくれてありがとうな」
お決まりのように頭を撫でられ、リーゼロッテは少し誇らしげに顔を上げた。帰る為に、荷台を括ったクリフに跨る。
「パンも買ったし……他に何か欲しいものはないか?」
ふと振り返ってみれば、自身の体にしがみつくリーゼロッテがじっと何かを見つめている。視線を辿っていけば遠くにある赤いリンゴを眺めている事が分かった。やや遅れてその声に気づき、リーゼロッテは「何もいらないよ」と首を振る。
「……そうか。そういえば、なんだか今日はアップルパイが食べたい気分だな。リンゴでも買おうか」
少女の嘘に気づいたジェラルドは彼女のプライドを傷つけないように遠回しに提案する。自分の欲していたものの名前に、リーゼロッテは「うん!」と嬉しそうに返した。
ジェラルドが林檎を買い終えるのを待っている際。一つは個別で頂き、早くもシャリシャリと咀嚼音を立てながら食べていると、メインとなる通りから人のざわめきが聞こえてきた。
「みろ。悪魔だ」
その言葉にごくん、と口内の欠片を飲み込んだ。人だかりができている方を見つめる。この世界では珍しい服を着た人間たちの姿だ。彼らは縄でひとつに繋げられ、なにやら聞き覚えのない言葉でぎゃあぎゃあ言っている。
「おい! なんなんだよ……? 言葉が通じないのか!? 助けてくれ!!」
一人の男性が発した言葉にリーゼロッテはちらりと目線を向ける。今、助けて? と言ったのだろうか。不思議に思っていると背後から「そろそろ行くぞ」とジェラルドの声がする。
「ねえ、父さん。あの人たち、どこに連れてかれるの? 助けてって?」
彼らが向かう裏通りは先程自分たちが出てきた肉市場があるはずだ。ジェラルドは彼らかと一言呟いてから「見るな。早く帰ろう」と付け足し、リーゼロッテの赤頭巾を深くかぶせ、馬に乗った。
聞きたいことがあって何度か問いかけようとしたが、ジェラルドが前を向いたまま「乗馬中に話すと舌を噛むぞ」と馬を走らせるので、何も聞くことは出来なかった。
◆
家に帰り、食後のアップルパイを焼いている頃には、リーゼロッテの膨らんでいた疑問はすっかり萎んでいた。夕飯に出てきたシカ肉のシチューをパンにつけて頬張り、幸せそうに噛み締める。一度家に戻った際に育てていた乳牛の乳につけて置いたので、鹿肉の血抜き処理は十分にされ、とても柔らかかった。
「どうだ? 初めて自分で取った肉の味は」
「うん、美味しい! いつもよりも美味しいかも」
「そうだろうな。初めて自分でとった獣ほどうまい肉はない。まだまだあるから沢山食べろよ。今日は一人前になったリーゼの祝いなんだからな」
皿を片付けるためにジェラルドが立ち上がり、その途中でまたリーゼロッテの頭を撫でる。うん、と顔を上げて答えながらもリーゼロッテは一人前と言う言葉に何かを思い出し「あっ、そうだ」と呟いた。
「一人前になったらお願いしたいことがあったの。多分絶対驚くと思うけど?」
「おっ? なんだ?」
自信満々に告げ、言葉を続けようとするリーゼロッテに「待った。当てるから」とむき出しのキッチンから帰ってきたジェラルドが止める。
「新しい弓が欲しいとかか?」
「それは……欲しいけど違う」
「意外なことだろ? まさかグレッグのとこの息子と付き合いたいとか? 悪いことは言わないから、あいつはやめた方がいい」
「父さん……それはない。絶対」
「あー……じゃあ、お前専用の馬か? 前に確か言っていたよな?」
あれこれ悩んでは楽しそうにあげていくジェラルドに痺れを切らして「私、ギルドハンターになりたいの!」と遮るように言い放った。ギルドハンター? ジェラルドはそうオウム返ししてから乾いた笑い声を上げた。冗談だろ? とリーゼロッテを見つめる。
「この流れで冗談なんて言うと思う?」
腕を組んで得意気に告げるリーゼロッテに困惑の色を隠しきれない。返す言葉を失っていると、リーゼロッテは「ずっと前から夢だったの」と続けた。
「グレッグおじさんが言ってた。父さんは凄腕のギルドハンターだったって。ギルドハンターってギルドに加盟して、依頼を解決していく仕事なんでしょ? それに、まだ見たことのない世界を歩き回って、色んな魔物に出会えて……ずっと憧れてたの!」
「ダメだ」
腹の底から轟くような声に肩を飛びあがらせた。否定されるとは思わず、数秒開けてから「……なんで?」と言い返す。
「ギルドハンターは……常に死と隣り合わせの仕事なんだ。それに、お前はまだ子供だろ?」
「そんな……子供扱いしないでよ! 私もう十五だよ!? ギルドハンターの認定試験の資格も、兵士になるのも十五からだ!」
宥めるように肩に置かれた手を、リーゼロッテは激情して払った。
「それに父さん言ってたじゃない! 私はもう一人前だって! 罠の仕掛け方も、獲物の解体の仕方も……今日は一人で大きな鹿だって取れた!」
「……ああ。お前は一人前だ。獣を狩ることに関してはな。だが、ギルドハンターは獣が相手だとは限らない。凶暴で大きな化け物を狩ることだってある。ギルドハンターになるにはまだまだ未熟で経験不足だ……第一、今日だって俺がいなかったら逃がしていたかもしれない」
「そんなことない! 別に父さんがいなくてもとれた! あの距離から鹿の心臓を貫けるのはプロでもできることじゃないって、父さん昼間言ってたじゃない! この日のために毎日まいにちずっと頑張ってきたの! そんな簡単に出来ないなんて言わないでよ!」
好きな食べ物も、服も、今まで色んなことを諦めてきたが、これだけは諦められなかった。ギルドハンターになれば今より金が手に入る。これでずっとお世話になっていた父に恩返しができると密かに考えていた夢だった。
「私がギルドハンターになれば今の生活ももっと楽になれるんだよ? 父さんだって昔はギルドハンターだったなら……」
「あれは俺の汚点だった」
その言葉に体の水分が沸騰して、体温が上がっていくような怒りを感じた。なんで、そんなことを言うの? ふつふつと煮え立つ怒りとともに震えた言葉が漏れる。
「父さんなら絶対応援してくれると思ってたから……今まで隠してきたのに」
父がギルドハンターであることを、リーゼロッテは誇りに思っていた。グレッグから聞いた父の昔話に胸を踊らせ、いつか自分も父親のようなギルドハンターになると―――きっと父のことだから喜んでくれると、そう思っていた。
「グレッグおじさんも、応援してるって言ってくれたんだよ……?」
「グレッグの入れ知恵か。あいつ、余計なことしやがって……」
「なっ! おじさんは悪くない! この前、応援してるって言ってくれた時に、リーゼちゃんならきっとお父さんを越えられる! ってペンダントくれたんだ」
ほら見てと、首からかけていた黒水晶のペンダントを見せつける。それを見てジェラルドはカッと目を見開き、首からそれを奪い取ると、床に落として勢いよく踏みつけた。パリン、二人の間に流れる険悪な空気の中、ガラスの割れる音が響く。
「……ギルドハンターになる以外の事なら、弓だろうが馬だろうが何でも許してやる。だから、それだけは諦めてくれ……」
ショックのあまり、リーゼロッテは声を出すことが出来なかった。足元で踏み潰されたものを見て、じわりと涙が滲み、目の前がぼやける。
「なんでよ……父さんはなんでそんなにギルドハンターを嫌うの……?」
「リーゼ」
「……グレッグおじさんが言ってた。あいつは、自分のしたことに怯えてるんだって。知ってるんだよ? 遠征の間に母さんが……」
「リーゼ!!」
怒号が部屋の空気を揺らした。目の前で大きな声を出され、リーゼロッテは先程よりも肩を飛びあがらせて震える。
「その話を二度と俺の前でするな! いいか!? お前は絶対にギルドハンターにはさせない!! 絶対にだ!!」
その言葉の勢いに、縮こまった体ではもはや言い返すことが出来なかった。次から次へと言葉が思い浮かんでは消えていく。鼻の奥がつんとして、目縁が熱くなり、重々しい体は虚脱感に飲み込まれていった。
「……なんだよ。家族なのに、何も本当のこと話してくれないんだ……私のこと、愛してないんだ……」
無理に笑おうとして変に呼吸がひくついた。「そんなんだから母さんを失ったんだ」と小声で付け足し、自室の方へ歩き出す。
「父さんの臆病者」
部屋に入る直前で立ち止まり、掠れた声で扉を開ける。背後から返事がないまま、バタンと扉の閉まる音がいつもより大きく響いた。
翌日は窓を打つ雨音の湿った空気が部屋に充満していた。湿った空気がただでさえ憂鬱で気が滅入っている自分に追い打ちをかけているかのようで、不快でしかない。目が覚めてからもベッドの上で何度も寝返りを繰り返していると、コンコンと自室の扉がノックされた。リーゼロッテ、と自分の名前を呼ぶその声に猫のように丸くなって無言を貫く。
「今日は雨も強いし……その……無理はしなくてもいい」
歯切れの悪い言葉に、きっと昨夜のことを気にしているのだろうと思った。気遣われているのを感じながらも意地を張って何も言わず、布団を頭から被る。
(……私、悪くないもん)
扉越しにいたジェラルドは暗く沈んだ顔をしていたが、なるべく明るい声で「じゃあ、留守番頼んだ」と言い部屋から離れた。靴を引きずるような寂しい足音を耳に、リーゼロッテは目をつぶる。
ジメジメして、重ねた腕がベタつく。自分の呼吸を大きく感じて落ち着かない。いや、落ち着かないのはきっと父に対する怒りや罪悪感などの相反する複雑な感情が入り乱れているからだろう。
「あーーー! もう!」
しばらくじっと雨音を聞いていたが、そのうち湿気やら落ち着けなさから布団の中にいることが出来なくなって起き上がり、恐る恐る部屋を出た。
昨日父と一緒にシチューを食べたダイニングテーブルには、自身の弓が手入れされた状態で置いてある。そういえば、昨夜はあんなことがあって手入れするのをすっかり忘れていた。普段から道具を手入れするのが大事だって父が言うから、毎日欠かしたことはなかったのに。今日も本当はきっと一緒に狩りに行こうとしたに違いない。ピンと張られた弦をみてリーゼロッテは更に沈痛した気持ちになった。
「昨日のこと、謝りもしない癖に……っ」
ずっと描いていた夢を踏みいじられた怒りが腹底に留まり、胃痛の時のような不快感がある。その一方で、父が避けていた母の話題を出してしまったことに後悔もあった。ギルドハンターについて自分から話したがらないのも、きっとあの事故が原因だったのだろう。随分昔に頭を強く打ったせいで母の記憶はないが、父が母を大切にしていたのは、見ていてわかっていた。自分のせいだと後悔していることも。
『そんなんだから母さんを失ったんだ』
それなのに勢い任せであんなことをと、弓を見つめていた視界が滲む。喧嘩するのも初めてでどうすればいいか分からない。
父さん、と声に出した時にコンコンと家の扉がノックされた。こんな時に誰だろう。もしかして父さんが帰ってきたのだろうかと、涙を拭き、駆け足で扉を開ける。
「はい……」
ガチャりと開けてみれば、そこには父親の背丈ほどある二人の男が立っていた。大きな影がリーゼロッテに覆い被さるようにして重なる。
「君がリーゼロッテちゃんかい?」
「えっ、はい。あの……誰ですか? 父さんなら今狩りでいなくて……」
そいつは都合がいい、と返した男の声音に、ゾクリとした悪寒を背中で感じとった。見れば後ろの男の手には縄が張るように握られている。
「案外早く済みそうで助かったよ」
逃げ出そうと後退する間もなく、リーゼロッテは自身の顔程ある大きな手に腕を掴まれた。
◆
耳鳴りがする。水に潜った時のような引っ掛かりが耳奥にとどまっていて気持ちが悪い。後ろで手足を拘束され、ぐったりと地面に横になっているリーゼロッテの鼻からは血が垂れていた。強く頭を殴られて、勢いよく地面に倒れたからだろう。視界が二重になって定まらないまま、入口付近で話している男たちを見る。
「おい……ジェラルドが来たらどうするんだ」
「なあに、すぐ終わるよ。外で見張っていてくれ」
何かあったらすぐに言えよと背中を押し、無理やり一人の男を外に出した。家に残った男がこちらに向かって歩いてくる。
「まっずいな。商品なのに怪我させちまった」
何かで拭いて……ついでに家の金品を漁るかと、男は部屋を歩く。商品、の言葉にリーゼロッテは大体察しがついた。まさか、こんなところに人攫いが現れるなんて。手の縄を解こうと捻るように動かすが、がっちり縛られていて自分で解くのは難しそうだった。既に人攫いを何度か経験しているプロに違いない。
「全く。俺に噛み付いてきやがって。思わず殺しちまうところだったぜ」
男は視界の外からやってきて目の前で屈むと鼻から垂れたものを粗末な布で拭いた。無理やり拭かれているため力が強く、布の網目の荒さもあってカサカサとした感触が痛い。なんでこんなことになったのだろう。父の愛を疑ってしまった自分への罰だろうか。なんだかとても泣けてくる。
「と……うさん。ひぐっ……とう、さん……!」
「ちっ。泣いてんなよ。この布でも噛んでろ」
「んぅーーー!」
先程の布を細くして、男はリーゼロッテの口に咥えさせる。横に倒れているため咥えさせてから後ろで結びつけるのに少々手間取った。集中していたからこそ、男は背後に重なった影に気が付かなかった。
ゴツン
鈍い音が短く部屋に響く。頭に直撃したそれによって男は横になぎ倒され、リーゼロッテは背後からやってきていた影の正体を知った。
「リーゼ……! 待ってろ、今解いてやるからな」
そこには目下に黒を浮かばせて、いつになく焦りを見せる父の姿があった。体に血がついているところを見るに外の一人を仕留めた後なのだろう。まずは手足の拘束をと、ジェラルドは持っていたナイフを取り出す。重ねた手の間に刃を入れ、糸鋸のように引いたりして一本一本を素早く切っていく。リーゼロッテは顔を捻るように猿轡を下におろし「父さん!」と声を上げる。
「大丈夫だ。すぐに解いてやる」
「違うの! 後ろ! まだそいつ動いて……!」
そう言っている間に男はフラフラになりながら立ち上がると、ジェラルドに飛びかかった。馬乗りになり、大きく腕を振り上げて顔を殴り付ける。
「くそっ! 痛てぇだろ! あいつも殺しやがって……死ね! 死んじまえクソ野郎が!」
指輪らしきものがついた拳で殴られ、顔と後頭部を強くうち、ジェラルドの意識が飛びかける。これはまずいとリーゼロッテは周囲を見回しているうちに、弓のことを思い出した。足はまだ縛られているが解いている時間はないと全身を使って机の近くに行き、膝立ちで机上から弓と矢を持つと、男に向かって構えた。
「父さん……!」
このままでは父さんが死んでしまう。なのに、構えた矢は震えて狙いが定まらない。人を殺す? 私が? そんなことできるのか? 迷いが頭の中でぐるぐると回り、自分の鼓動と荒い息だけが大きく聞こえる。
獣相手ならいくらでも殺せる自信があった。罠に仕掛けられたやつだって、解体だって、何でもそつなく生き物を殺してこれたじゃないか。
『いいか、リーゼ。これは獣を狩る道具であって、人を殺すための武器じゃない。人殺しになんて絶対になるな』
ふと、父が前に言ってた言葉を思い出す。獣を狩るものであって人を殺すための武器じゃない。それなら、この場合はどうすればいいのだろう。父を助けたい……でも。悪人だろうと、同じ人には変わりない。
「あっ……」
ずっと構えているのが辛くなって思わず手を離してしまった。風を切ったそれは狙っていた男を掠めて向こう側の壁に突き刺さる。気づかれたと、全身から血の気が引いていった。
「あぶねえ……矢が……お前がやったのか」
ひっ、と脅えた声が引き攣る。弓を持ったまま地面にしりをついて、片手を使って後退した。男の手には父から奪ったナイフが握られている。
「もう、商品だろうが知ったことか。ここでお前を殺して、虫の息になったそいつの隣に並べてやる」
わざとらしく近くのテーブルにナイフをあてたまま、男が跡をつけるようにして引きずる。後退を続けているうちに部屋の向こう側の壁に到達し、逃げられないことを悟った。なんだか以前も見たことがあるような光景だ。
もうダメだとギュッと目をつぶった時、血だらけで立ち上がったジェラルドが突進するように男に体当たりした。気づいた男は素早く腹にナイフを差し込むが、ジェラルドは構わずその太い腕で男の首を絞め、その状態で男の頭を強く壁にうちつけた。ゴッ、とズレたような音がし、男はその場で膝をついて倒れる。ポタポタと床に赤が滴り落ちた。
「と……さん」
心配そうに見上げるリーゼロッテの前で、ジェラルドが膝をつきもたれかかる。無事でよかった、耳元で聞こえたその嗄れた声にリーゼロッテは自由になった両腕でしっかりと抱きしめた。が、その後安心したかのようにジェラルドが横に倒れる。
「ひっ……」
改めて倒れた父親の全体を見て、声を失う。顔は金属で殴られたのか鼻が折れ曲がり、目を中心に赤黒が広がっていた。抉れた箇所から血が溢れている。きっと頭の中も内部出血が酷いだろう。腹のナイフも深いところまで刺さっている。早く治療しないと手遅れになると、足元の縄を矢じりで擦るようにして無理やり切り、立ち上がった。その瞬間、引き寄せられるようにジェラルドが腕を引く。
「父さん離して! 治療しないと!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を向ける。リーゼロッテ、と名前を呼ぶその弱々しい声には呼吸音が漏れ、濁点混じりの言葉はなんだか父のものではないように聞こえた。
「いい、んだ……そばにい、でぐれ」
激しく咳き込み、呼吸をするのでさえしんどそうだった。こんな呑気なことをしている暇はないのにと焦っていたが「無事か?」と投げかけられ、父の手を頬に付けたままこくこくと頷く。
「そう、が……ぞ、れならいい。今度はちゃんど、守れだ」
怖い思いをさせてごめん、そう付け足されリーゼロッテは激しく首を振りながら「そんなことない!」と涙ながらに訴えた。
「……ごめんなさい。昨日、酷いこと言った……臆病者だって……それなのに、助けてくれて……」
その声に眼球の動かない目で「いや、間違っでい、ない」とジェラルドが返す。
「お前の、言うどおりだ……俺はあの時からずっど、臆病のまま……家族より、仕事を選んだ、薄情もんだ……お前のこともちゃんど、向き合っでるようで、向き合っでながっだ……」
リーゼロッテと再度名前を呼ばれその腕を強く握られる。涙目で倒れた父を見つめるが、なんだか目が合っている気がしない。
「……倒れでいる奴らは、ギルドがらきた悪魔狩りのハンダーだ。きっどまた、お前を捕らえにぐる」
「なんで……ギルドハンターが私を捕らえようとするの!? 悪魔狩りって……」
それは、とジェラルドが少し間を開けてから覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「お前が、この世界の人間じゃないがらだ」
その声にリーゼロッテが目を見開く。えっ、と引きつった声が漏れるが、こちらに構わずジェラルドは話を続けた。
「いつ……さどられたがは、分からない。けど、始めから狙ってきだというのなら、そういうことだ」
「何言ってるか、全然分からないよ! この世界の人間じゃないってなんで……! 私はずっと父さんと一緒にいたじゃない!」
「ああ……お前を、拾うまではな」
拾う、の言葉にリーゼロッテは目を見開いた。瞬間、とある光景を思い出す。星が綺麗な日、空に向かって光虫が飛び立つ幻想的な景色の中、ジェラルドと初めて出会った。初めて出会ったと錯覚した。けれど後に自分は頭を強く打って記憶を無くしているのだとジェラルドから言われて、ずっとそうだと信じていた。もしそれが本当なら、母さんについての記憶がないのも全部―――元から記憶がなかったからだというのか。
「……ち、違う。私は世界一のギルドハンター、ジェラルド・ ヴェナトルの娘で……」
「今まで嘘ついでいで、悪がっだ……」
その悲しそうな顔に真実なのだということを悟った。頭の処理が追いつかない。これまでの様々な光景が瞼の裏に映っては通り過ぎていく。
「わた……わたし……ちが、ちがう……」
ショックを受け、震えた言葉で何度も自分を確かめようとするが、引っかかって先に進めず、結果的に壊れた機械のように同じ箇所を繰り返し続けた。頭を抑え、過呼吸のように不定期で荒々しい呼吸音が部屋に響く。そんなリーゼロッテの腕をしっかり掴み「でも」とジェラルドが血まみれの顔で遮った。
「お前を心から愛しでいたのは、嘘じゃなかっだ……リーゼ……この世に、生まれてきて意味がながっだ、なんてごとは決して……ないんだ」
それを忘れないでくれ、付け足された言葉と同時に頬につけていた父の腕が重くなった。ズルズルと引きずるように落ちていき、離した手は力なく地面につく。
「えっ……と……さん? 父さん!!」
大きく体を揺さぶるが大好きな父のその体はもうなんの反応も示さない。
「やだ……起きて! 起きてよぉ……私をっ……」
一人にしないで……そんなリーゼロッテの声は外の土砂降りによってかき消された。
◆
数時間後―――いや、もしかしたらぼうっとして日を跨いでしまっていたかもしれない。外は曇天のまま、ようやく雨が上がった。まだ昼間だと言うのに外は暗く、永遠に夜になってしまったかのようだった。
リーゼロッテは家から少し離れた森の中に行き、よく休憩所として使っていた大岩の前に父の遺体を埋めた。頬や体を泥まみれにしながらその盛土に木のシンボルを立て、祈る。天で父が安らかに眠れることを。
「父さん……私、分からないよ……」
ぎゅっと泥を手繰り寄せるように掴む。もし、父さんと喧嘩していなければ。出会っていなければ。自分がこの世に存在しなければ―――あの時、私がちゃんとあいつを殺していれば! そんなもしもの世界を頭に思い浮かべて、今も笑っているであろう父の姿を空想する。爪の間に入る泥の不快ささえも気にならない、怒り。
自分が父の子ではないだとか、この世界の人間じゃないだとかに頭が混乱して、焦燥のようなものが混ざり、煮え立つ気持ちが膨れ上がる。
「何が、悪魔狩りだ……っ! 罪のない人を殺すあいつらの方が悪魔だろ……」
腹奥がムカムカするような、落ち着きのない感情に歯を食いしばる。そして、父の墓を涙ながらに睨みつけて誓った―――悪魔狩りを壊滅させてやると。
雨のあがった森林は土と、血が混ざり、いつもより臭いを濃くさせた。湿っぽくて、陽の光から遠い、ジメジメと湿った鉄錆の臭い。
鼻の奥に染み付くこの匂いが大嫌いだ。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる