30 / 168
30・大物ラッパー
しおりを挟む
そして俺は現在、ロンドンのロイヤル アルバート ホールにいる。
レンガ造りの歴史を感じさせる重厚な雰囲気の建物。
普段は一般客にも公開されているそうだが、今 周りにいるのはブルジョワでセレブな人たちばかり。
オーダーメイドのスーツやタキシードでビシッと決めた紳士や、ハイソなドレスに身を包んだレディばかり。
そんな中、Tシャツにハーフパンツの俺は浮いていた。
空中浮遊ができるくらいに浮きまくりまくっていた。
ここに来るまでの飛行機でも、ファーストクラスの席だったから、こんな感じだった。
周囲の人も俺に怪訝な眼を向けてくる。
普通なら身体を最小単位に縮小して目立たないようにしているだろう。
しかし、春樹さんからただ者ではないとの評価を受けた俺は違う。
目立たないようにするどころか、堂々と特等席に座り、ふんぞり返って 脚組までしちゃっているのだ。
もう ここまで来たら開き直るしかない。
気分は、底辺から成り上がった大物ラッパーで行く。
注文したシャンパン(ノンアルコール)を片手に鼻歌まで歌っちゃう。
「ヘイ ヨウ。俺とラップで勝負だゼ」
湖瑠璃ちゃんがクスクスと、
「お兄さま、馴染みすぎです」
春樹さんは感心したように、
「さすがは麗華お嬢さまが見込んだ方。適応が早い」
春樹さんは特等席の後方で立ったまま、俺の大物っぷりに感心していた。
そこで俺は気付いた。
予約席は三つある。
座っているのは俺と湖瑠璃ちゃんだけ。
春樹さんは後ろで なぜか立ったまま。
「あの、春樹さんは座らないんですか?」
「執事たるものが主人と同じ席に座ることなどあり得ません」
「でも、席が一つ空いてますけど。あ、セルニアもここに来るんですか?」
湖瑠璃ちゃんが答える。
「いえ、お姉さまは控え室で待機しています」
「じゃあ、この席は空席?」
「そこは お父さまの席です」
……
「……今、誰の席って言った?」
「だから お父さまの席と言いました」
……お父さま?
湖瑠璃ちゃんの言うお父さまって、つまり湖瑠璃ちゃんの父親で、ってことはセルニアのお父さまってことだ。
たしかマンガやゲームに批判的で、前時代的な感覚の厳格な父親とかなんとかって聞いてたんだけど。
「つまり、湖瑠璃ちゃんとセルニアのお父さんがここに来るってこと?」
湖瑠璃ちゃんは怪訝に、
「そう言っているではありませんか」
……これ、ヤバイんじゃ。
厳格な父親なら、手塩にかけて育てている娘にまとわりつくゴミ虫に どんな対応をするか。
そして そのゴミ虫は俺だ。
大物ラッパーを気取ってふんぞり返ってる場合じゃない。
今のうちになにか対策を考えないと。
しかし、
「セシリア、もう来ていたのか」
後ろから重厚感たっぷりの威圧的な声が聞こえた。
振り返ると、そこには黒スーツに身を包んだ、年齢をまるで感じさせない、ガタイの良い壮年の男性。
どう見てもマフィアのボスにしか見えない。
そして その男性は、視線だけで人が殺せるのではないかと思うほどの鋭い眼を俺に向けた。
「君が話に聞いていた、セルニアの学友か。
初めまして。私はセルニアとセシリアの父。
吉祥院 権造だ」
レンガ造りの歴史を感じさせる重厚な雰囲気の建物。
普段は一般客にも公開されているそうだが、今 周りにいるのはブルジョワでセレブな人たちばかり。
オーダーメイドのスーツやタキシードでビシッと決めた紳士や、ハイソなドレスに身を包んだレディばかり。
そんな中、Tシャツにハーフパンツの俺は浮いていた。
空中浮遊ができるくらいに浮きまくりまくっていた。
ここに来るまでの飛行機でも、ファーストクラスの席だったから、こんな感じだった。
周囲の人も俺に怪訝な眼を向けてくる。
普通なら身体を最小単位に縮小して目立たないようにしているだろう。
しかし、春樹さんからただ者ではないとの評価を受けた俺は違う。
目立たないようにするどころか、堂々と特等席に座り、ふんぞり返って 脚組までしちゃっているのだ。
もう ここまで来たら開き直るしかない。
気分は、底辺から成り上がった大物ラッパーで行く。
注文したシャンパン(ノンアルコール)を片手に鼻歌まで歌っちゃう。
「ヘイ ヨウ。俺とラップで勝負だゼ」
湖瑠璃ちゃんがクスクスと、
「お兄さま、馴染みすぎです」
春樹さんは感心したように、
「さすがは麗華お嬢さまが見込んだ方。適応が早い」
春樹さんは特等席の後方で立ったまま、俺の大物っぷりに感心していた。
そこで俺は気付いた。
予約席は三つある。
座っているのは俺と湖瑠璃ちゃんだけ。
春樹さんは後ろで なぜか立ったまま。
「あの、春樹さんは座らないんですか?」
「執事たるものが主人と同じ席に座ることなどあり得ません」
「でも、席が一つ空いてますけど。あ、セルニアもここに来るんですか?」
湖瑠璃ちゃんが答える。
「いえ、お姉さまは控え室で待機しています」
「じゃあ、この席は空席?」
「そこは お父さまの席です」
……
「……今、誰の席って言った?」
「だから お父さまの席と言いました」
……お父さま?
湖瑠璃ちゃんの言うお父さまって、つまり湖瑠璃ちゃんの父親で、ってことはセルニアのお父さまってことだ。
たしかマンガやゲームに批判的で、前時代的な感覚の厳格な父親とかなんとかって聞いてたんだけど。
「つまり、湖瑠璃ちゃんとセルニアのお父さんがここに来るってこと?」
湖瑠璃ちゃんは怪訝に、
「そう言っているではありませんか」
……これ、ヤバイんじゃ。
厳格な父親なら、手塩にかけて育てている娘にまとわりつくゴミ虫に どんな対応をするか。
そして そのゴミ虫は俺だ。
大物ラッパーを気取ってふんぞり返ってる場合じゃない。
今のうちになにか対策を考えないと。
しかし、
「セシリア、もう来ていたのか」
後ろから重厚感たっぷりの威圧的な声が聞こえた。
振り返ると、そこには黒スーツに身を包んだ、年齢をまるで感じさせない、ガタイの良い壮年の男性。
どう見てもマフィアのボスにしか見えない。
そして その男性は、視線だけで人が殺せるのではないかと思うほどの鋭い眼を俺に向けた。
「君が話に聞いていた、セルニアの学友か。
初めまして。私はセルニアとセシリアの父。
吉祥院 権造だ」
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる