ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

文字の大きさ
43 / 92
問4 異なる2点間の距離を求めよ

問4-7

しおりを挟む
「よっしゃ、じゃあこれとこれを最後に入れて…………出来た!」

 俺は出来たてほやほやの新デッキを掲げる。
 やっぱりこの瞬間はなんとも言えない高揚感を味わえる。

「今更ですけど……これ……回るんですか?」

 ミューミューが、掲げられたデッキを心配そうに見上げる。

「回るか回らないかじゃないよ、ミューミューさん」

 俺はデッキを片手に恥ずかしげもなく言い放った。

「回すんだよ」

「後で火香さんにまたカッコつけてましたよって言っておきます」
「やめて」

 やっぱ恥ずかしい。
 いつの間にかそういうルートが確立してたのか。気軽にカッコつけられ無いな。

 さて、デッキは完成した。
 キーカードを軸に、それを活かしつつちょっとした小技をいくつも入れた、よくばりセットのようなデッキだ。
 大まかなカードと方向性は俺が選択し、デッキの空白を埋めるカードはミューミューと話合って詰めていった。
 彼女の助言のおかげで、それぞれのカードが単体でも意味を持ち、なおかつ組み合わせることで相乗効果シナジーもあるカードを上手く選べたと思う。
 しかしその結果出来上がったものを見返すと、割と禍々しいブツだった。

「……やっぱり、誰も使わないデッキって怖いですね」
「俺もこれでランク戦に挑もうっていう今の気持ちは実際……怖いよ。でも、同時に楽しみでもある。だってこれで強かったら、相手はびっくりしてくれるよね?」
「びっくり、ですか」
「ロマン砲なんて、決まらないからロマン砲だし。だからいざ決まると、相手は驚く。気持ちはエンターテイナーだよ」

 【もちもちシューズ】と【空画整理】の2枚のカードを使っているデッキを検索してみたが、今シーズンどころか、過去のデッキにも引っかかるものは無かった。
 【もちもちシューズ】のみに絞っても大分少なかったが、【空画整理】単体なら割と使われていた。高所からの攻撃を目的とするならば有効だからだろう。
 つまり、この2枚を使ったデッキは過去には皆無。俺の「立体機動」に初見で対応出来るプレイヤーはいないはず。
 与えるのは驚き――そして敗北だ。

「エンターテイナー……。ロマン砲主義者って、自分じゃなくて相手を楽しませる事が目的なんですか?」
「うーん、ちょっと違うね。相手も楽しいのがベストだよ」
「なるほど。じゃあシトラスさんが楽しいデッキには……なりましたよね?」
「それは自信を持って言える。絶対楽しい」

 2人で組み上げた記念すべき1つ目のデッキだ。
 これで戦う自分をイメージするだけでもうわくわくしている。

「でも今回は勝つことも目的だし、戦ってる最中はガチで行くよ」
「ええ。じゃあ……がんばりましょう!」
「おう!」

 俺はデッキをデータに戻して収納した。
 同時にデッキの情報ウィンドウが視界ディスプレイに現れ、俺にデッキ名をつけろと催促してくる。
 そうだった。まだ「名付け」が済んでいない。

「『天井の亡霊』は没だったよね。ってかもう当初のイメージとは変わったなぁ」
「そうですね。なんて言うんでしょうか、これ」
「あー……『ピンボール』?」
「言い得て妙ですね。でもこのデッキ、絶対話題になりますよ? その時に紹介されるデッキ名、それで良いんですか?」
「嫌ってほどじゃないけど……真面目に答えるなら、超速攻デッキとしての側面をかんがみてシンプルに『エクスプレス』とか。ミューミューさんは何かアイデアある?」
「一応私がつけるなら『フライングスパゲッティモンスター』って呼びたいなって思ってました」
「フライング……なんて?」
「フライングスパゲッティモンスターです。知りませんか?」

 あいにく、俺の脳に刻まれた事が無い固有名詞だ。

「ピンボールより酷くない?」
「そうですか? 私は意外と好きなんですけど。ほら、スパゲッティのところとか、あのカードみたいで」
「嫌だよ俺、『スパゲッティモンスター使いのシトラス』みたいな呼び方されるの」
「ふふふ、それは、流石に、嫌ですね」

 自分で名付けといて勝手にクスクス笑ってる。ひどい。だんだん打ち解けてきて少しこの娘のイメージが変わってきた。
 真面目ぶってるけど、意外と面白い。それに、実は良く笑う。

「じゃあ2つをつなげて、『フライングエクスプレス』はどう? 空飛ぶ超特急みたいで、デッキの動きには合ってるんじゃない?」
「文句ありません。決まりですね!」
「よっしゃ」

 俺はデッキのウィンドウに名前を打ち込むと、対戦用デッキの枠に早速「フライングエクスプレス」をセットした。

「では、初めての門出に」
「『その身を投じ』ますか」

 パチンとハイタッチを交わし、俺たちは闘技場へと移動する。







「だー! 緊張してきた……」

 俺は手足をプルプルと振ってストレッチの真似事をする。
 脳の身体感覚をトレースするだけで実体の無いアバターにおいて、足がったり体がぎこちないなどということは無い。
 が、なんとなくこうやっておくと気持ちが落ち着く気はする。

 闘技場での初ソロランク戦。対戦相手のランクポイントは見えないが、ランキングは70万位台。ランク戦参加人数と同じ位なので、ほぼ最下位ということだ。同実力帯で自動マッチングらしいので、妥当なところだろう。
 ミューミューが言っていた事を思い出す。

 ――対戦相手なんて、じゃがいもだと思えばいいんですよ!

 違う違う、このアドバイスじゃない。

 ――相手はランク下位、多分コンボを見せなくても真正面から勝てますよ。カグツチどころか、ソロクラオカミよりも全然弱いと思います。一応、あのイベントもレベル100カンストが参戦条件ですから。

 ランク下位は、そもそもレベルがカンスト値の100にも到達していないプレイヤーが多いそうだ。
 もちろん俺のように今から参戦のカンストプレイヤーもいるかも知れないが、そういうプレイヤーはあっという間にランクが上がっていくらしい。
 まぁ、ネクロはレベルが重要なゲームではないのでレベルが高いからと言って必ず強い訳ではない。
 レベルはあくまでコンクエストデッキを組む際に使えるカードの制限程度で、それなりにゲームをプレイしていれば勝手に上がってしまう。
 俺からすれば、完全に自由にデッキが組めるようになるレベルカンストからが本番だ。
 そう考えると、カンストしていないプレイヤーというのは単純にプレイ時間が短いプレイヤーである可能性が高いわけだ。
 さすがにあっさり負け、っていうことはないだろう。

 視界ウィンドウに表示された、ゲームスタートまでの残り時間が10秒を切る。

「お手柔らかにお願いしまーす」

 俺は誰に聞こえるでも無いがそうつぶやき、ぐっと大きく伸びをした。

 ゲームスタートの表示が、視界の中央にエフェクトを散らしながら消えていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

処理中です...