彷徨いたどり着いた先

神崎

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 こういうラブホテルへはあまり来たことがない。ラブホテルというのは、一部の人を除いてセックスをしに来る人がほとんどだ。圭太はぎらぎらとセックスをしたいとあまり表に出すタイプではない。まずは女がその気になるのが先だと思っていたから、家でセックスをする以外であれば、どこかのシティホテルを取ったり夜景が綺麗なところを事前に予約する。それはいつも計画通りに進めていることだ。
 こんな衝動的にすることなんかない。
「どこが良い?」
 車を停めて、玄関ホールにやってくる。そこには部屋の様子を写しだしたタッチパネルがあり、おそらく開いているところはボタンが光っているのだろう。そのボタンも二種類あり、休憩と宿泊に分かれていた。
「どこって……。」
「行ったこと無いのか?」
「……。」
 無いこともない。強引に誘ってくる男も居て中まで入ったことがあるが、響子が激しく拒絶したのを見て気持ちが萎えたと何もせずに帰って行ったのだ。金の無駄になった。
「ここでいいか?何か普通の部屋みたいだな。」
 そういって圭太は宿泊のボタンを押す。
「宿泊って……。」
「泊まろうぜ。休憩にして、お前、そのホテルの匂いをさせたまま真二郎を隣に寝かせるのか?」
「……。」
 確かにそれは無神経だ。だが考えてみれば、真二郎がホテルらしい匂いをさせて寝たことはない。おそらく気を使って、ホテルでもシャワーを浴びたのにその匂いを消すためにまたシャワーを浴びているのだ。
 そんな真二郎の気持ちを無視して、この男と寝るのだろうか。不安でどうにかなりそうだ。
「そんな不安そうな顔をするなよ。俺、縛ったりとか打ったりとか興味ないし。」
「サディストには見えないわね。」
「お前の方がサディストに見えるわ。」
「何ですって?」
「マゾヒストにはなれないな。」
 狭いエレベーターに乗り、四階にたどり着く。すると部屋の前のランプが光っている。そこに入れということだろう。
 圭太はそのドアを開けると、響子を中に入れる。部屋はそこまで広いわけではない。部屋の中央には白くて大きなベッドがあり、ソファーの前には大きなテレビがある。
「こんなホテルだから期待してなかったんだけどな。ほら、見ろよ。」
 圭太は窓に近づいて、ドアを開ける。するとさっきまで見ていた夜景がそこに広がっていた。
「確かに綺麗ね。でも今日は月も見えない。」
「雨みたいだからな。明日。」
「だから湿気が強かったのね。」
 真二郎の髪は金髪だ。その上少し癖があり、そのうねりで雨が降るというのもだいたいわかる。それによってコーヒーの焙煎を変えることもあるのだ。こういうことでも真二郎を頼っていたのに、今からすることで真二郎を裏切ってしまわないだろうか。望んできたはずなのになぜか後悔している。
「オーナー……あの……。」
「やめとくか?」
 次の言葉がわかっているように、圭太は響子を見下ろすと少し笑った。
「怖いだろ?」
「真二郎を裏切っている気分になる。それが怖いと言うことかもしれない。だけど……あなたも怖いの。」
「俺も?」
「傷があるの。お医者さんは、時がたてば目立たなくなる傷がほとんどだと言っていたわ。でも……二の腕にある火傷も、わき腹にある傷も、まだ目立たなくなるっていうにはほど遠い。」
「……。」
 縛り付けられてた手首と足首のビニール紐のあとは、確かに消えた。だがその二の腕にある何か油のようなモノをかけられて火を付けられたところは繰り返し同じところを焼かれたためか今だに変色している。胸にも、太股にも細かい傷があり、そこもまだ直っているとは言い難いし、打たれすぎて黒く変色しているところもあるのだ。
「見せて見ろよ。」
「え?」
「幻滅するかしないかは、俺が見てからだろ?その跡をみただけで、俺が萎えると思ってるんだったら、そうじゃないって証明してやるから。」
 そういってバッグをおろさせると、それをソファに置いた。そしてシャツをめくりあげる。下着越しで見えるその腕には、確かに黒い跡がある。それが火傷の跡なのだろう。
「イヤ……。ちょっと……。」
「何?」
「窓を閉めて。」
「あぁ。そっか。さすがに外に見せるようなことはしたくないな。」
 窓を閉めると、圭太はいったん響子から離れ、風呂場へ向かった。そして戻ってくると、笑顔で言った。
「風呂がすげぇ広い。一緒にはいるか?」
「え……。」
「俺、最近、湯船に浸かってないからなぁ。それにもう湧いてるわ。どんな機能になってんだろうな。追い炊きかな。」
 傷のことも火傷のことも何も触れない。それが圭太の優しさなのだろうか。
「オーナー。あの……何とも思わないの?」
「ん?」
「だって……他の人にはこんな傷無かったでしょう?」
「無いよ。まぁ、手首に傷があるようなヤツは居たけどな。」
 真子には自傷の癖があった。それに聡子にもそういう癖があったらしく、だが聡子はそれを口にしたことはなかった。
「けどお前がコンプレックスにするほどヒドくないし、何より、顔に何もなくて良かった。」
「顔は……。」
 前歯が数本、差し歯だ。それに発見されたとき響子は殴られすぎて顔がパンパンだった。火傷の跡や傷の跡もあったので、そこは何とかしてあげたいと体よりも顔を集中的に治療したのだ。それが唯一の親心だったのかもしれない。
 目立たないような傷はある。それに気がつくのはよっぽど近づかないとわからないわけだが。
「……まぁ、顔に何があっても俺はお前を好きになってると思う。」
「でもこんな跡が……。」
「あったってなんだってんだよ。」
 その言葉に響子は少し黙ってしまった。
「俺はそんな跡を付けないし、殴るような真似もしないし、お前がイヤなら帰らせる。」
「オー……圭太……。」
 その言葉に響子の目から涙がこぼれた。もしかしたらそういう男も居たかもしれない。だが響子はその気持ちに答えられなかった。全ての人を斜に見て、素直にその優しさに答えきれない。
「やっと名前を呼んでくれたな。」
 圭太は少し微笑むと、その泣いている響子を抱き寄せた。
「風呂に入ろうか。せっかく湧いてるんだから。」
「うん……。」
 圭太はそう言ってバスルームに響子を連れて行く。
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