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第二章 外堀はこうして埋められる
ジャガイモのニョッキのビスクソース和え
しおりを挟むあとは、『アサリのワイン蒸し』と『ジャガイモのニョッキのビスクソース和え』に、ラストは揚げたて熱々が美味しい『マールの天ぷら』といきましょう。
ちなみに、マールだけではなく、イカとお野菜たちも用意したら、結構なボリュームになると思います。
ニョッキを作るために、ここはオーブンレンジがありますから、予め皮をむいてオーブンに入れて加熱していきましょう。
他のお野菜たちも皮をむいたりしないといけませんね。
先にトマトの皮を湯剥きしておきましょう。
ホールトマト缶があれば楽なのですけど……そんな便利なものは、この世界にもありませんでした……残念!
酸味が強いトマトなので、蜂蜜と赤ワイン少量と塩を加えて煮詰めたら、きっと美味しくなってくれるはず。
にんにく、セロリ、玉ねぎ、人参を薄切りにし、マールの頭の部分を取り出すと、キュステさんが「ほんまにマール使うん……」と、若干引き気味ですね。
「お料理は創意工夫を忘れたらダメなのですよ。マールも美味しい食材です。しっかりいただきましょう」
「海の厄介者も、奥様の手にかかったら形無しやな」
人を極悪人みたいに言わないでください。
ジロリと睨むように見れば、さきにリュート様から軽くボディーブローを食らっていたようで体をくの字に折っていました。
拳を入れるのは珍しいですね……いつもは蹴るのに。
「だんさんの拳はシャレにならんから、やめてくれへんっ!?」
「うるせー黙れ。料理に集中させてやれ。邪魔してんじゃねーよ」
「邪魔はめっ!なの!」
「す……すんまへん」
リュート様とチェリシュに注意され……まあ、リュート様は物理攻撃が入りましたが、不味かったと思ったのか、素直に謝ってくださいます。
こういうところが素直ですよね、キュステさんって……
でも、そこはかとなく漂う残念な香りは隠せていません。
何だかそれが不憫に思います。
「殻が薄いようですにゃ」
「本当ですにゃ……こんなに薄いのがいたですにゃ?」
カフェとラテが興味津々に私が取り出したマールの殻をつつき、ペコペコと凹む殻を見て驚いているようです。
リュート様がどうしてそうなったのか説明しているのを聞きながら、私は大量のお野菜を薄切りにし、マールの頭もこのままでは大きいので、程よい大きさに包丁で割っていきますが、バリッという音が聞こえるたびに、カフェとラテの尻尾が揺れるのが気になりました。
回収しておいた大きな爪の部分を取り出し、包丁の背で叩いて爪の結合部の少し下の中央部分にヒビを入れ、約3分ほど茹でていきます。
生のままだと、爪の部分は取りづらいのが難点ですよね。
茹で上がった物を冷水にとり、粗熱をとってから割れ目部分に指を入れて、くるっとめくるように殻を剥がせば綺麗にはがれてしまいました。
これだけ大きいと扱いづらいかもと思っていましたが、意外といけます。
殻が随分薄くなっているからできることでしょう。
リュート様が、このことに気づいた後に、検証してくださったおかげですね。
「簡単に捌いてしもうた……ホンマに硬ぅないんやなぁ」
むいた爪の殻も程よい大きさにして、準備は整いました。
ぎっしりと身が詰まっていた爪の身は、ひとまず置いておいて、フライパンにオリーブオイルを敷き、にんにくを焦げないように炒めていきます。
良い香りがただよってきたところで、殻を投入。
「殻を入れっちゃったのです」
「ホントだぁ」
「すごーい!」
みんな準備のために手元は動いているのに、こちらを見ている余裕があるのが凄いですね。
開店準備も慣れたものということでしょうか。
炒めながら潰していきましょう。
ミソもたっぷり入ってますから、濃厚なソースができるはず。
殻を香ばしく炒めたら、白ワインを加えて煮立たせてアルコールを飛ばしておきましょうね。
チェリシュも食べますから、念入りに!
アルコールが飛んだら、バターを入れて先程切った野菜も一緒に入れて炒めていきます。
しんなりするまで弱火で炒め、塩コショウで味付けをし、煮詰めていたトマトを加え、水を足して弱火で煮込みます。
煮込んでいる間に、次に準備をしなくてはならない物にとりかかりましょうか。
ニョッキを作っていきますよ!
オーブンに入れておいたジャガイモを取り出し、熱いうちに滑らかになるようにザルで裏ごししていきます。
そこに、強力粉とオリーブオイルと塩を加えてよく混ぜましょう。
しっかり混ざってひとまとまりになったら、棒状に伸ばして適当な大きさにカットし、丸めてフォークを上から押さえつけて溝をつけます。
それを沸騰させすぎない程度のお湯の中に、パスタを茹でる時と同じように塩を加えてニョッキを投入。
浮き上がってきたら、ニョッキの完成!
はじめて父と兄とニョッキを作った時、分量を間違えたのかお湯に溶けちゃったんですよね……あの時の衝撃は忘れられません。
今では、それもいい思い出ですね。
ビスクの方も良い感じになりましたね、ニョッキを作っている途中で良い感じになったので火を止めて粗熱を取っていましたから、丁度よい感じの温度です。
熱すぎると、ミキサーにかけたら爆発しかねませんからね。
粗熱の取れたマールの殻や野菜たちをミキサーにかけて細かくしたあと、ザルで裏ごしです。
これをしないと、ザラザラした舌触りになってしまいますものね。
丁寧に裏ごししたソースを見ると、コンビニで見かけたビスクよりはくすんだ色になっておりますが、思いのほか大丈夫そうです。
本当に良かった!
殻から青い色素が色濃く出たら、ビスクの色は赤紫になるのかしらとか考えていましたが、どういうわけかトマトの赤が勝っていて、心配するような事態にはならなかったようで、一安心です。
あとは、沸騰させないように弱火で温めながら、生クリームを加え、ジャガイモのニョッキを入れて絡めれば完成!
味はどうかしら……と、小皿に少量とってみてみると、マールの濃厚な味とトマトの酸味と生クリームとバターのコクがたまりません。
これは、コンビニのビスクを超えたかも……?
いえいえ、自己判断はいけません。
舌に関して、とても鋭敏な方がいらっしゃいますもの。
小皿にとってリュート様に差し出すと、チェリシュと二人して期待に満ちた眼差しでビスクとニョッキを見ていました。
リュート様はチェリシュに「味見用だからな?」と言いながら、ソースをよく絡めたニョッキをパクリと食べ、その言葉に「あいっ!」と元気よくお返事したチェリシュも、同じようにパクリと食べます。
もぐもぐしている姿が同じで……どこの似たもの父娘なのでしょう。
可愛らしすぎて頬が緩んでしまいます。
「もちもちなの!」
「ええ、もちもちですね」
顔を輝かせて覚えたての言葉を使うチェリシュが可愛らしいです!
そうですね、「もちもち」ですよね。
チェリシュのほっぺも、いますごくもちもちしている感じがしますよ?
ぷっくりして、興奮のためかバラ色に染まっているのが愛らしいです!
頬ずりしてもいいでしょうか……
「旨っ!ルナは、やっぱりすげーな!」
少年のようなキラキラの笑顔をいただきましたーっ!
や、やっぱり、私はリュート様のこの笑顔に弱いです。
いえ、リュート様の笑顔で弱くないものなんてないのですが、この純粋無邪気な感じが胸にキュンキュンくるのですよ!
とろけるような笑みが最高です。
美味しいものを食べている時のリュート様の幸せそうな笑顔……もっともっと見たいですね。
この笑顔のためなら、いくらでも頑張れます!
「ニョッキはもちもちして程よい弾力だし、何より……このビスク、なんつーか……あのマールがこうなるのか?濃厚で旨い。パスタでも旨かったろうなぁ」
「そうですね。パスタソースとしても活用できると思います」
「やっぱ、パスタマシーンも早めに作らねーと!」
あ、また変なスイッチ入って頑張ろうとする人が……
ダメですよ?
今日は早く休んでいただかないといけません。
寮に帰ってから何か作ろうと考えていませんか?……と、問いかけようとした私の周りを、カフェとラテがくるくる回りだします。
「味見したいにゃ!」
「したいにゃー!」
頂戴頂戴と前足を必死に出しているポーズが可愛らしく、思わず記憶の水晶でその姿を撮ろうかと考えてしまいました。
可愛らしすぎるでしょう!
シロたちもそわそわしているところを見ると……まあ、そうですよね。
「カフェとラテにはこれから作ってもらうことが多くなると思いますし、シロたちも売る側として味を知っておかないとですね」
やったー!と5人がハイタッチしている横で、キュステさんが「僕も!」と言っていますが、どうしましょう。
マールが苦手という意識を持っている人ほど、食べていただくべきでしょうか。
大半の方々は、キュステさんと同じ反応をしますものね。
「なんでそんな思案顔なんっ!?」
「お前はなー……」
「はなー……なの!」
「だんさんっ!?春の女神様までっ!僕かて商品の味わからんかったら、料理に合う美味しいお酒勧められへんやん!」
確かにその通りですね。
小皿に盛って、みんなに渡していきます。
行き渡った頃、パクリと食べた6人は驚き、小皿のジャガイモのニョッキのビスクソース和えをジッと眺めていました。
「マールは、やっぱり美味しいにゃ」
「いつもより美味しさいっぱいで、複雑な味だにゃ!」
「これは……とってもクセになりそうな濃厚さです」
「はぁ、美味しいねぇ」
「ソースはとろーり、にょっき?は、弾力すごいのー」
「もちもちなの!」
もちもち、これがもちもち、とマロとチェリシュが顔を見合わせうんうんと頷きあっています。
可愛いですねぇ……
「これがあのマール……いける、マールは大量にここの海におるさかい、それほど高値はつかんやろう。ジャガイモもセロリも玉ねぎも人参も安いし、小麦粉もバターも生クリームも問題あらへん。仕入れ値から考えても高額にならん料理で、この味……手間はかかるから、ホンマに安くはならんやろうけど、でも、これはいけるで奥様!」
料理の味だけではなく、そこまで考えての意見はありがたいというか、ナナトと気が合いそうですねキュステさん。
いけますにゃ!やりますにゃ!と、カフェとラテもやる気満々。
お店でも普通に提供される日が来るようです。
改めて、私が作った料理がお店のメニューになるのが嬉しく感じました。
「奥様すごいにゃ!」
「オーニャーもすごいのにゃ!」
手放しで褒めてくれるカフェとラテに、私とリュート様は顔を見合わせ苦笑しましたけど、とても嬉しく感じます。
カフェとラテにとって、私の料理は未知のものであるのに、こうして「美味しい、作りたい!」と受け入れてもらえる……簡単にできることではありませんもの。
「ありがとう。カフェとラテもすごいですよ。色んな料理を覚えたい、作りたいって言ってくれるのが嬉しいです」
「当たり前ですにゃ!料理人は、日々進歩ですにゃ!」
「はじめての味に、わくわくですにゃ!」
にゃーにゃー、言いながらカフェとラテは手を取り合って踊っております。
本当に可愛い子たちですね。
これだから、リュート様と一緒に今日まで頑張ってこれたのでしょう。
ある意味、この子達も「美味しい」に飢えていたのかもしれません。
だったら、私にできることを精一杯伝えていきましょう。
地球では……日本では当たり前だった味を───
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