143 / 299
第2章・この世界の片隅で
第144夜・『社長の視察と、恥知らずな俺:中篇』
しおりを挟む
(前回からの続き)
フォークリフトを進める。
あっ! 今、挨拶した後、指差呼称をしただろうか?
この会社においては、効率よりも安全が最優先されており(指差呼称に費やす時間も予算に計上されている)、
フォーク作業において、次行動に移る時には、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と声に出すことが義務付けられている。
私は、とある棚に荷物を運んでいたのだが、一部出荷もあり、持ってきたパレットを先ず置いて、仕分けし、蔵置されていたパレットを棚の外側に出し、そこに持ってきたパレットを格納するという作業を行なっていた。
この支店の上層部7~8人ほどと、社長の来社集団7~8人、併せて15人ほどが、そんな作業をする私を見始めた。
「うは、勘弁してよ~」
私は呆然とした。
15人ほどのお偉いさんが、昼寝して起きたホヤホヤの私の一挙手一投足を凝視し始めたのだ。
この作業はシンプルなようでいて、何度となくフォークリフトを切り返す。
些細な方向転換にも、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と叫ばなくてはならない。
そんな私を、会社のお偉いさんが見続けている。
一週間前には内視鏡で大腸内を見られたが、
今回は、私の作業はおろか、私の心までも見られているようだ。
「早く終わらせなくちゃ。いつまで見ているのかな~」
私は、指差呼称の声を張り上げ、フォークリフトを操作した。
早くに、この状況から脱出したい・・・、そんな気持ちが作業を荒くしたのかも知れない。
パレットを取り出すときに、隣りのパレットを引っ掛けてしまった。
ゴゴッ!
と、5センチほど、隣りのパレットがずれた。
ゾッとした。
わずか5センチではあるが、社長の前で粗相を起こしてしまったことが、最高の最悪状況であった。
日頃、他人の作業者の失敗にクールな視線を向けている私である。
動揺を顔に出すのは辛かった。
もしかしたら、誰も気付いていないかも知れないし・・・。
私は、緊張の頂点をそっくり返し、無表情の能面のような顔で、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と大声を出しつつ、進行方向を指差し確認し続けた。
社長は、周囲の者に、私の作業を見て何かを語っているが、私には聞こえない。
集団の笑い声も聞こえた。
でも、私は「外界シャットダウン」モードで、この難局を乗り切ることとした・・・。
・・・(次回に続く 2011/08/04)
フォークリフトを進める。
あっ! 今、挨拶した後、指差呼称をしただろうか?
この会社においては、効率よりも安全が最優先されており(指差呼称に費やす時間も予算に計上されている)、
フォーク作業において、次行動に移る時には、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と声に出すことが義務付けられている。
私は、とある棚に荷物を運んでいたのだが、一部出荷もあり、持ってきたパレットを先ず置いて、仕分けし、蔵置されていたパレットを棚の外側に出し、そこに持ってきたパレットを格納するという作業を行なっていた。
この支店の上層部7~8人ほどと、社長の来社集団7~8人、併せて15人ほどが、そんな作業をする私を見始めた。
「うは、勘弁してよ~」
私は呆然とした。
15人ほどのお偉いさんが、昼寝して起きたホヤホヤの私の一挙手一投足を凝視し始めたのだ。
この作業はシンプルなようでいて、何度となくフォークリフトを切り返す。
些細な方向転換にも、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と叫ばなくてはならない。
そんな私を、会社のお偉いさんが見続けている。
一週間前には内視鏡で大腸内を見られたが、
今回は、私の作業はおろか、私の心までも見られているようだ。
「早く終わらせなくちゃ。いつまで見ているのかな~」
私は、指差呼称の声を張り上げ、フォークリフトを操作した。
早くに、この状況から脱出したい・・・、そんな気持ちが作業を荒くしたのかも知れない。
パレットを取り出すときに、隣りのパレットを引っ掛けてしまった。
ゴゴッ!
と、5センチほど、隣りのパレットがずれた。
ゾッとした。
わずか5センチではあるが、社長の前で粗相を起こしてしまったことが、最高の最悪状況であった。
日頃、他人の作業者の失敗にクールな視線を向けている私である。
動揺を顔に出すのは辛かった。
もしかしたら、誰も気付いていないかも知れないし・・・。
私は、緊張の頂点をそっくり返し、無表情の能面のような顔で、「前方良し!」あるいは「後方良し!」と大声を出しつつ、進行方向を指差し確認し続けた。
社長は、周囲の者に、私の作業を見て何かを語っているが、私には聞こえない。
集団の笑い声も聞こえた。
でも、私は「外界シャットダウン」モードで、この難局を乗り切ることとした・・・。
・・・(次回に続く 2011/08/04)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる