上 下
59 / 370
吸血鬼と一緒に。

真犯人は……?

しおりを挟む
    「とにかく、これでレイフレッドが暴れた原因が私以外の血を口にしたからである事は分かっていただけましたでしょう?    ――では、後は誰が、どうしてそんな事をしたのか。彼の事情はどこまで確実に伝わっていたのか。単なる不手際による事故なのか、悪意ある故意の事件なのか。既に私に喋れる事は全てお話ししました。――後はあの時あの部屋に居た当事者に尋ねるしかありません」
    「ああ、部屋に居た使用人には既に私が聴取してある」
    シリカさんは縄を打たれた者達を虫けらでも見るような目で見下ろした。

    「まずはレイフレッドにつけていた従僕フットマンから、先程吐いたを王にお聞かせしろ」
    「は、はい……」
    顔を真っ青にして震える男は、声まで震わせながら立ち上がる。

    「わ、私は彼がをしたいと申されるので、こちらで用意する旨をお伝え致しました。……その、私は知らなかったのです。彼が既にパートナーを定めているなど、あの歳では他に余り例もありませんし……」
    「確かに、先例が少なく前情報が無いなら城に常備されている子供用の保存血液を仕度するのが正しい。――が、その時彼は何と言った?」
     「か、彼女の――もう一人のお子様の血でなければ飲めない、と」
    「それを聞いて、お前はどう対応した?」
    「……私の他に、風呂の支度をしていた者が居まして……その……彼が『彼女も今は着替え中のはずで、女性の支度には時間がかかるから、我が儘を言わずに保存血液で我慢すべきだ』と指摘を……」

    ……着替え中に来られたら確かに少し困っただろうから前半のセリフはまぁ良いとして。

    「すると、入浴後に訪ねるから、その旨だけ伝えてくると彼が言いまして、……それを我が儘と判断した者が……その、無理矢理――」
    ちらちらと隣で縛られてる男を横目に見ながら男はそう証言した。
    つまり、アイツが実行犯なのか。
    「お前はそれを止めなかったのか?」
    「その、私はまだ経験が浅く……先輩が正しいと思ってしまい……」
    ……この人、無罪って訳じゃないけどとばっちり受けた立場なのは確かみたいだ。――情状酌量の余地はあるかな。
    「では、次はレイフレッドに無理矢理血を飲ませたお前に証言して貰おうか」
    「…………。」
    男はむすっとしたまま不機嫌な様子で立ち上がった。
    「お前は、パートナーの件の情報を得ていたか?」
    「――その答えは、はい、でもあり、いいえ、でもあります。私はパートナーと伺っておりましたので、所謂パートナーの誓約状態と理解しておりましたもので」

    ……ん?    なんか初耳の言葉が出てきたぞ? 

    「あー、アンリの為に説明するとだな、パートナーにしたい者を見つけた時に、その時点では片方又は双方に契約を結べない理由があった場合に、将来的にパートナーになることを誓うものだ。いわば婚約みたいなもんだな」
    それをすると、対外的にはパートナーとして認識されるけど、吸血鬼側は正式な契約を結ぶまでは他の人の血も飲まないといけない。
    ……つまり、本当にそう誤解をしていたとしたら。もしもその誤解が誤解でなかったら。レイフレッドの言動は確かに我が儘で、この人の対応は少々乱暴が過ぎる気もするけど間違ってはいなかった、と。

    でも現実にはそれは誤解で……。

    「何より、王からほぼパートナーの様なもの、とお伺いした後に改めて詳しく説明に来て下さった文官様から誓約のお話を伺いましたから間違いないと」

    ……つまり、意図的に情報をねじ曲げた誰かが居る。わざわざ二人居るうちの口より先に手が出るタイプの男を選んで間違った情報を与えた者が。
    「その文官がそやつだな?」
    縛られてるもう一人を指してシリカさんが問う。
    「はい」
    「王よ、私は確かに契約はまだだとあなた様にお伝えした。合わせて、それがいわゆる誓約状態を言うのではなく、真実パートナーとして機能してしまっている事もお伝えした。この情報を誰にどこまで話されたか証言をお願いしたい」
    「余はそなたに聞かされたことをそのまま伝えたぞ?」
    「どなたに、でしょうか?」
    「無論、あの子供につけたそこの二人の上役にだ」
    「……ですが、片や聞いていない、片や余計な情報を与えられている。――では、つまらない画策をしたのはその上役ですか?」
    「わ、私は!    王より命令を承った後、二人を選定しましたが、その時点で片方しか捕まらず……ユーリにのみ説明し、後でサムに伝えろと確かに命じて……!」
    「その点については私の落ち度です。サムに情報を伝え損ねたのは確かに私です」

    「つまり不手際があったことは認めると?    ――ではアーサーよ。そなたはなんの目的でユーリに偽りの情報を与えた?」
    「わ、私は――」
    「うん?」
    「私は……誤った情報を与えてしまったから訂正して来るよう王に命じられたと……伺いまして」
    「ん、余はそのような指示はしておらんぞ?」
    「お前にその命令とやらを伝えたのは誰だ?」
    「――」

    シリカさんの問いに、彼は口を引き結んでだんまりを決め込んだ。顔を伏せて床を睨み付ける。
    「申し、上げられません」
    「ここは、王の御前ぞ。隠ぺいもまた虚偽を申す事とほぼ同意。――さあ、答えよ」
     「――申し上げられません」

    「そうか。……衛兵!    そやつを審問牢に連れていけ!」

     王は衛兵に命じて文官だけを下がらせた。

    「あれはこちらで改めて厳しく問いただすとして。一先ずここに居る者についての審判を申し述べ、此度の審議を終わらせたい」

    その王の言葉に改めてこの場に居る者達が姿勢を正した。

     「では、判決を申し渡す」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...