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吸血鬼と一緒に。

裁定

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    「まずはアンリ嬢、――そなたは無罪であると認め、また我が王家の不手際で大変な迷惑をかけた件については後日改めて詫びる事とする。また、当人であるレイフレッドはこの場に居らぬが同様に無罪かつ詫びについても一考するものとする」
    ――まあ当然の結果だけど、権力で捩じ伏せられたりする可能性もあったことを考えればホッとした。

    「次にサム、そなたには正しく情報が伝わっていなかったという点で情状酌量の余地はある故に罪人として罰を与える事はせぬ。が、客人を子供と思ってその主張に真剣に耳を傾けず疎かにし、ただ盲目に上司のイエスマンになるだけの使用人では城仕えには向かぬ。――よってお前は解雇処分とする」
    「……は。……申し訳、ありませんでした!」
    涙を流して踞るサムさん。……罪には問われずとも、城仕えなんてステータスを捨てて新しい仕事を探さなきゃいけない。しかも今回の件の話もついて回るだろうし、何かと苦労が絶えない未来が予想できる。
    「…………。」

    「続いてユーリ。そなたには誤った情報が与えられた件が、サム同様情状酌量の余地となるかどうか一考はした。……しかし、客人の主張を蔑ろにし、自らの考えを強引に押し付けた結果多大な損害を出した。またサムの上司の立場にある事からも、情状酌量の余地はあれどサムのように完全に無罪放免とは言えぬ。故に、当分の謹慎と降格及び減棒処分の上、今回破損した客室の修繕費分を罰金として支払うように命じる。謹慎期間と減棒の額面、降格後の役職については追って沙汰する故そのつもりで待て」

    そして、連れられていった文官さんはこれからの審問次第で改めて審判を下すらしい。

    「――では、これにて本日の審議を終了する」

    まず王と王妃が退室し、兵達が実行犯の使用人を連れて退室していく。

    「アンリ、今度こそ何事も無いように、今日は私の宮の部屋を使って欲しい。……顔色がとにかく悪い。まずはゆっくり休め」
    ひょい、と吸血鬼ならではの腕力で私を抱えあげ、背中をぽんぽんと……ああ、ただでさえもう気力だけで立ってたのに……ね、眠くて……ふっつりと私の意識は途切れ、闇の中へと誘われてしまったのだった。


    「……兄上――いえ、王太子殿下。あの文官、確かかつて王太子付きの文官見習いをしていませんでしたか?」
    「さあ、どうだったかな?    いつも世話になってる者達ならともかく、何年も前の見習い風情まで覚えていると思うのかい?」
    「……王太子ともあろう御方が、足元を疎かにするといずれ足をすくわれますよ」
    「ははは、君がそれを言うと皮肉なものだね、シリカ。底辺生まれには所詮高貴な者の生き方等到底理解できまい。君こそいずれ出過ぎた杭の頭を打たれて折れないよう気を付けたらいいよ」
    あはははは、と無邪気なようでいて狂気を孕んだ高笑いをしながら彼もまた退室し、部屋には気を失ったアンリを抱えたシリカとマスコットなスコットだけが残された。

    「まさか帰って来た初日に命の危機に見舞われるとは。……相変わらずだねぇ、あの御方も」
    「……やったのは彼なんだろうが、この子らが巻き込まれたのは安易にここまで連れてきちまった上、配慮不足だった私の責任だね。にしても大したもんだよこの娘は。不可能と言われていた事を、土壇場で可能にしちまうんだから」
    「坊っちゃんの方は後で盛大に落ち込みそうだけどな。……今後あの坊っちゃんの目の前で嬢ちゃんにつまらんちょっかいかけたヤツは軒並み坊っちゃんに殺されるだろーな。……そのうちこの嬢ちゃんの婚約者っつう野郎がどっかで変死体で見つかっても俺は驚かねーぞ」
    「……流石に人間の国にまでは手を回せないが――この国の中なら伝はいくらでもある。この子達は何を選び何を望むだろうね?」
     「取り敢えず『フツーの選択』はしないだろうと思うよ。どう考えても大人の背に隠れて守られながら手を引いて貰うのを良しとする子じゃないんだからさ」
    スコットか肩を竦める。
     「後ろであの子達が何をするのか見守って、なにか間違えたら叱って、困ったらフォローして、迷ったら選択肢を示してやる。それで良いんじゃないの?」
    「……そうか。そうだな。――今回の件ではスコット、お前にも負担をかけた。お前も疲れているのだろう?    お前の部屋も用意したから休め。それと、お前も今回の件での詫びに何でも良いから一つ望みを言え。王本人が提案したこの子達の詫びには及ばずとも、私に出来る事なら何でもしよう」
    「……それは。シリカに今の身分を捨てろと願っても良いのか?」
     「それがどういう意図なのか。私が納得できる理由なのだとしたら……いいよ」
    「じゃあ、後で。……こんな場で話すことでもないしな。まずは嬢ちゃんをベッドに放り込んでくるのが先だろ?」
    「……そうだな」

    そして、誰も居なくなったはずの謁見室で。

    「クックックッ、成る程これは愉快な娘ぞ。……吸血鬼だけに独占されるのは面白くないの。さて、あれを呼び寄せるならどのような餌が有効かの?」
    誰の姿もないのに。
    声だけが響き、笑い声のエコーがわんわんと残り続けた――。
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