皇帝より鬼神になりたい香の魔道士

蘇 陶華

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薄氷の勝利

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成徳が知らせを受けたのは、闇の迫る夕暮れ遅くだった。瑠璃光に、アルタイ国討伐の為、出陣させ、自分は、皇宮の奥底にいた。隠れていたのではない。自分に同意している兵士達を従え、皇宮内至る所に配置した仲間の元を行き来し、風蘭の部屋に突入するタイミングを見計らっていた。
「間違い無いのか」
報告を受けながら、成徳の口元は緩んでいた。兵士は、現場で目にした惨状と呆然と立ち尽くす聚周の様子を伝えた。
「あの聚周が、そこまで、落ち込むという事は間違いないな」
嬉しさを隠しきれない。国境とはいえ、冥国の地で、隣国の王とその弟が惨殺された。その場には、剣を手にした瑠璃光の遺体と差し違えた紫鳳の遺体があったらしい。状況としては、アルタイ国王に襲いかかったのは、紫鳳で、それを諌めた瑠璃光と相打ちになったという見解だった。
「うまくいったものだ」
聚周には、申し訳ないが、目障りな瑠璃光を消すには、最適な方法だった。聚周は、長年、瑠璃光に好意を抱いており、いつ、寝返るかわからなかった。瑠璃光が亡くなった事で、また、自分の元に戻って来るだろう。また、星暦寮で、自分の側近として、使えて貰えばいい。もう、あの気に触る男に振り回されなくて、済むと思うと、気が安らいた。あとは、もう少し。風蘭を打ち取り、その首を、掲げ、自分が皇帝の座に収まろうではないか。自分の中の蛟の精が叫んでいた。
「このまま、突きすすめ」
と。成徳は、首にかけていた飾りに、そっと唇を押し当てた。母親の無念を晴らす時が来た。
 それより、半日前。扉を開けて目に入った光景に、聚周は、声を失った。
「嘘だ」
声にならない。奥で、倒れていたのは、瑠璃光だった。テーブルを挟んだ椅子の上で、こと切れていた。剣を手にし、誰かを切り付けた様だったが、自分も、深手を負い、倒れてしまったようだ。血の気のない表情が、人形の様で、美しいが恐怖を感じた。
「剣で死ぬかよ」
龍神の剣を扱うが、ほとんどの場合、術を使う。剣を使わなければならない程、大物だったのか?それとも、紫鳳が暴走した結果なのか?紫鳳と思われる大きな翼をもつ生き物が、倒れていた。頭はない。何があったのか、計り知れないが、紫鳳の頭を落としたのは、瑠璃光なのだろう。
「なんて事を」
そばには、アルタイ国の兄弟が、お互いを庇い合うかの様に倒れていた。
「成徳目・・・謀ったな」
再び、瑠璃光に殺害の濡れ衣を着せ、亡き者にして仕舞えば、アルタイ国からも、責められない。アルタイ国の反逆者と手を組み、互いの敵を打ったのだ。
「同じ手を二度も使ったのか。これは、決め手だぞ」
周りを見渡し、聚周は、瑠璃光の手を取った。
「一度ならず、二度も、罪を着せるとは・・・許せない」
冷たい手を自分の頬に当てた聚周は、瑠璃光の髪のそっと指を絡ませるのだった。
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