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31事前準備

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 将軍は、将軍室に戻ると、すぐに武具制作組合の頭を呼び寄せたのだ。
 しばらくして、武具制作組合の頭が将軍室にやってきた。
 頭は肩巾があり両腕が太い男だった。腕が太いのは、武具作りの職人として仕事が彼の筋肉を鍛えたからに違いなかった。 
「将軍さま、ごようはなんでございますか?」
「矢を一万本、すぐに用意して欲しいのだ。おそくても、1週間ぐらいの間に作ってくれ」
「それはご無理というもの。矢と作るといえば、鉄で矢先を作らなければなりません。そのためには、鍛冶屋組合の者たちに協力をもとめなければなりませんが、簡単には、作れないと言われてしまう」
「すでに作ってある物をそれぞれの店で保管しているのではないかな?」
「確かにございますが、それらを集めても、一千本があるかどうか。こちらの武器庫にも矢の保管があると思われますが」
「確かにある。それは二千本だったと思う。それらを合わせても三千本だ。困ったな。王女さまには、だいぶ偉そうなことを言ってしまったからのう」
「それならば、矢先なしの矢を作るということはどうですか?」
「矢先無し? そんなものは矢として使うことはできまい」
「いや、矢は木ですが、固い木で作られている。そこで、先をとがらせておけば、鉄の矢先と威力は変わらないと思いますぞ。木の矢先は、どこへでも突き刺さっていきますよ」
「なるほど、その手があったか!」
「それならば、1週間もあれば、七千本は何とか作れるかと思います。もちろん、矢軸作りの職人の方々には寝ないで作ってもらわなければなりませんが」
「給金は望みの額を払ってやってくれ、ともかく、矢をあつめることが大切じゃ」
 それでも、将軍はシルビアの所にいき、敵国へ進撃する時期を一週間ほど後にして欲しいと頼み込んだのだった。だが、その話を聞いたシルビアは胸をなでおろしていたのだ。

 それは、大型投石器をオラタル国に送るためには、分解はしていても、宮殿の食材置き場からでないと、魔法袋をとおることができない。花火師ゼルトはいろいろ考えてくれたのだが、それができるようにするには、時間がかかることは明らかだったからだ。そのためには、そこへいくための通路を作り直さなければならない。宮殿の出入口を改修し、食材置き場へまっすぐに行ける通路を作らなければならなかったのだ。食材置き場に作られている階段をも幅を広くしなければならなかった。それも運び込む重りや木材の重りに耐える丈夫な木で作らなければならなかったのだ。

 大型投石器を分解して生まれた木片は、特別に作った六頭立ての荷馬車にのせて、宮殿の前に運ばれてきた。だが、火薬師の里は山の奥地にあったので、運びだすためにも荷馬車がとおるように山道の整備をもおこなわなければならなかったのだ。運ばれてきた木片は宮殿の出入口の前に積まれていき、宮殿に勤めている人やきた人たちは、驚きと脅威をもって、それを見ることになったのだ。

 木片をいつまでもオラタル国に運べないでいると、将軍は準備ができたので、先にオラタル国に兵士を行かせて欲しいとシルビアに言ってきたのだ。理由は、木片を運ぶ時に、魔法袋を通れなくしてしまったら、待機している兵士たちの進撃ができなくなってしまうと言うのだった。
 将軍の言うことにシルビアが同意をすると、次の日の朝には出動の兵士たちの前でシルビアは出陣の挨拶をさせられた。その後、トムが麻ひもをひいて鈴をならし、ロダンに知らせて魔法袋を大きく開けさせたのだ。
 食材置き場に入った兵士たちは、新らしく改修された階段をのぼり魔法袋を通って次々とオラタル国に入っていった。その場所は、ロダンが最初にであったアブトが率いる隊商が使用しているキャンプ地だった。お互いに助け合って顔馴染みになっていたので、こころよくキャンプ地を貸してくれたのだった。その上、他のキャンプ地へもアブトが声をかけてくれたので、それらを使うことができるようになっていたのだ。そこに集まり出した兵士たちは百人になると、先にきていた魔法師たちが別の隊商のキャンプ地に案内をして連れていってくれた。その結果、兵士たちは、五つの隊商が利用しているキャンプ地に別れて待機することになった。その後、運搬担当の兵士たちは魔法袋を出入りしてオラタル国へ箱に入った弓と矢を運んできていた。さらに兵士たちの世話をするために、調理人や侍従たちが食材や調理道具とテントを運んできて、テントを張りだし、火を起こして夕食の用意を始めたのだった。

 すぐに城攻めを行わないのは、クリスタルの塔と光晶石を破壊するための大型投石器を組み立てないといけない。それまでの間、兵士たちは、相手に気付かれずに静かに待機していなければならないのだ。将軍は、城の北と南の二カ所から分かれて、城攻めを行えば、光晶石の破壊は簡単にできると考え、その案をシルビアに提言していた。

 シルビアは戦争が起きれば、兵士たちの誰かが傷つくことはわかっていた。だから、白魔法師で薬師でもあるジョアンナに頼んで、ポーションを入れた小袋を五百人分作らせ、それを箱に入れて、副将軍に渡したのだった。複将軍は笑顔でそれを受け取り「皆様にお配りをいたしますよ」と言っていた。今回の戦にジョアンナが参戦しないのは、国の医療を賄う治療院の経営を一手に引き受けて行っていたからだった。

 ついに、トムの指示のもとに、宮殿の前におかれた大型投石器の部品をオラタル国に運び出した。部品の木片は大きく、それはまるでドラゴンの骨を用にも見える。無駄な運搬が生じないように、ロダンは神殿のよく見える場所に移動し、そこで魔法袋を開いていたのだ。花火師たちは、普段から肉体を使う仕事をしているので、もくもくとその場所に木片を運び続けてくれた。
 木片は、前もって緑色のペンキを塗っておいていた。そうしておけば、遠くから木片を見ても、草としか見えないと思われたからだ。だが、これらを組み立てるのには少なくとも一晩はかかる。さらにクリスタルの塔と光晶石を破壊するためのものとして、大石を5つ運んでいた。それを飛ばすための重りとして直径二十センチはある岩石を三十個ほど運び込み、それらを麻なわを編んで作った網の中に入れていたのだった。

 シルビアは自分のことなので忘れてしまっていたのだが、まだしなければならないことがあるのに気がちいた。そこでロダンに頼んで、魔法袋をもう一度開けてもらい、ダランガ国の王女の間にある魔法用具室にいった。そこに置かれた道具の中から、火の魔法を起こすことができる剣をつかみ、腰に差した。さらに、水の魔法が使えるようになるサファイアがつけられた白い杖も剣を差していない方に差しておいた。オラタル国では、まだ魔法を使えないことを知っていたので、いざとなれば、剣は普通の剣として使ってもかまわないと思っていたのだ。もちろん、魔法を取り戻した時には、魔法具として使うことになる。また、水魔法を使える杖を持ったのは、いつ砂漠にでて戦うことになるか分らないと思ったからだ。その時には、水を作れることができれば、兵士たちを助けることができるはずだ。用意ができたと思ったシルビアは、再び食材置き場に戻ると、階段の上段にたち、天井からつりさがっている麻ひもをひいて、ロダンに分かるように鈴を鳴らしていた。




 
 

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