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30作戦会議

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 ダランガ国の宮殿にある食材置き場に置かれた階段の上に、シルビアはのっていた。やはり、奇妙な懐かしさを覚えてしまう。強く踏んで階段を歩いて音を立てておりていった。一番下の床までくると、「シルビアさま、お待ちくだされ」という声がした。顔をあげると、シルビアを追ってトムが階段を駆けおりてきた。同時に天井から、鈴とつながっている麻ひもが見えていた。
「これから、どういたしますか?」
「決まっているでしょう。戦のための会議をまず開くのよ。ともかく将軍と花火師は必ず呼んできてちょうだい」
「分かりました。それで、どこに集まればよろしいでしょうか?」
「そうね。中広間でいいわ」
「わかりました。すぐに、集まるように指示をだします」
「でも、私は少しおくれるかもしれませんよ」
「どうしてですか?」
「汚れた体で、会議にでるきはありませんわ」
「なるほど」とトムが言う声を背で聞きながら、シルビアは勝手知ったる通路を歩き出していた。五分後には、シルビアは自室に戻ることができたのだ。

「シルビアさま、お帰りになっておられたのですね」
 侍女頭は、驚き頭をさげていた。
「バスの用意をしてちょうだい。用意ができるまでは、紅茶を飲んでいたいし、バスあがりにはオレンジジュースが飲みたいわ。それには、ポーションを入れるのを忘れないでね」
「承知いたしました」
 そう言って侍女頭はさがっていった。シルビアがバスの用意をひじかけ椅子にすわって待っている間に、テーブルにレモンを浮かべた紅茶がおかれ、シルビアはそれを飲んだ。それにも、ポーションが入れられていたのだ。おかげで、気分は上場。やがて侍女頭がやってきた。
「シルビアさま、ご用意ができました」
 侍女頭に案内をされて着脱室にいき、服をぬぐとバスルームへいった。バスの中には、熱くもなく、ちょうどいい湯が入れられていた。その湯にひたっていると、侍女がやってきて、湯舟にシャボン泡をたくさん入れてくれ、タオルで背中の汚れを流してくれた。
 湯船からあがったシルビアは、オレンジジュースを飲んだ後、ガウンを着て鏡の前にたった。砂漠の熱と埃で荒れていたシルビアの膚は、幼子に戻ったように、つるつるとしたきれいな肌になっていたのだ。
「やっぱり、ポーションはお肌にも効くのね」
 シルビアはにやりと笑い、衣装室にむかった。すぐに侍女たちがついてきて、着るのをてつだってもらい、ひさしぶりに、腰のあたりがスズランの花のように膨らむドレスを着た。
 鏡に映った姿を見たシルビアは笑顔になり、その服で会議室にむかったのだった。

 すでに参加者は長テーブルの席に腰をおろしていた。シルビアの席は長テーブルの右端に儲けられていたので、そこにすわった。シルビアの席の右側には将軍が左側には総務大臣がすわっていた。カイゼルひげをはやした将軍の隣には副将軍がすわっていた。だが、シルビアは副将軍を知らなかった。初めて見る顔だったのだ。兵士らしく体格はいいのだが、特徴のない平凡な顔でやさしい感じがして、どこかの商店のご主人のように思えた。その隣には老剣士ロビンがすわっていた。ロビンはパーティにも参加し、その経験から若い兵士たちの育成と指導をいまは行っていたのだ。総務大臣はいつもと変わらないガウンを着ていたのだが、今日の模様は縦縞だった。その隣に総務次官になったトムがすわっていた。さらに、その隣には白魔法師でもあるジョアンナがすわっていた。さらに、シルビアと長テーブルをはさんで反対席に花火師ゼルトがすわっていたのだった。
 シルビアは、まず集まった人たちの顔を見廻した。その後すぐに、会議に集まってもらった訳を話しだした。
 ムガール帝国のリカード皇子の目を直すための薬草、紫石花をとりにアシュラ砂漠の中にあるオアシス都市オラタル国にいった。その国のネッドラー王は、紫石花を誰にも渡す気がないので、そこの国と戦わないと紫石花を手に入れることができないことと、その国では魔法を使うことができなくなっていることを話した。
 誰もが、シルビアの話に耳をかたむけ、シルビアを見つめてきている。
「魔法が効かない理由はわかっています。光晶石があるからですよ。それはクリスタルの塔の中にあるので、それを壊してしまいたいの」
 すると、将軍は手をあげた。シルビアが将軍の方に顔を向けたので、将軍は話し出した。
「光晶石のことは聞いたことがございます。伝説だと思っておりましたが、実在したのですな。ともかく、それを守る敵兵がいるのでしょう。シルビアさまは、どうやって、それを壊そうと考えているのですか?」
「遠くから火薬の弾を飛ばして、クリスタルや光晶石を粉砕して欲しいの。確か大砲とかいう物があるはずよね?」
「それは、荒唐無稽な話ですな」と、将軍は鼻先で笑った。
「じゃ、花火師ゼルトに聞くわ。できないことなの?」
「王女さまの言われている大砲は、東洋の方で作られているようですが、まだ私たちは、それを作ったことも、作るための知識も持っておりません」
「でも、あなたがたは、火薬を作ることができているわよね。火薬で花火玉を飛ばすことができるのであれば、それで、大石や火薬を飛ばすことができるのじゃないかしら?」
 すると、ゼルトは首を左右にふっていた。
「火薬で大石などを飛ばす方法は、火薬に火をつけて起こる爆風で飛ばすやり方です。そのためには、爆風に壊れない鉄筒を作れなければなりません。鉄筒を作るには、鉄を溶かすことができる溶鉱炉をないとだめなのです。残念ながら、私どもにはそれを持っていないし、作る知識もがない」
「じゃ、光晶石を壊すことができないというの?」
「いえ、手がないわけではありません」
「方法があるのね」
「これも東洋の国で行っている方法ですが、カタパルトと呼ばれている大型投石器を作り、それを使うことです。これは攻城兵器とも言われているものですよ」
「それ、よさそうじゃない。もう少し詳しく教えて」
「これは、てこの原理を使います。飛ばしたい大石を長い木の先にのせておき、その木の反対側の先に、飛ばしたい物の少なくとも5倍は重い物を一気に載せてやるのです。そうすれば、大岩は、その反動で遠くに飛んで、目標としている物を壊すことができます」
「それはいいわ。それができる技術は、あなた方は持っているのね」
「はい、これならば、すでに図面を手に入れて、何度か試作も行っております。それは百キロ近い大石を300メートルほど先に飛ばすことできます」
「いいわね。それならば、巨人が大斧を振っているのと変わらないわね」

 シルビアが、花火師を頼りにするには理由があった。転生前の世界では、世の中の進歩をさせ、戦争においても勝つことができるのは科学力の差だったからだ。だから、それを知っているシルビアは、火薬を扱う花火師の持っている力や経験を重要視していたのだ。だが、この世界の人々にとっては、科学こそ、転生前での魔法と同じ物だったのかもしれない。

 シルビアとゼルトの話を聞いていた総務大臣が口をいれてきた。
「そのような装置は、木を削って作ることになる。大型な装置であれば、制作に時間がかかるはずじゃ。それに百キロの大石や、それの五倍ものの重りなど、どうやって、オラタル国に運ぶのじゃ、とてもできないことだと思いますぞ」
「総務大臣さま、大型投石器はすでに作ったものが、花火師たちの里においてございます。それらを部品に分解すれば、里からどこへでも運び出すことができます。それに、どこででも組み立てることができる技術力を花火師たちは持っております。総務大臣さまの方からも人手をお貸しいただければ、どこへでも、大型投石器を出現させることが可能となっております」
「だが、細かく分けても、たくさんの部品や岩石をオラタル国まで、どうやって運ぶのじゃ。アシュラ砂漠を渡らねばならんのじゃぞ」

 すると、トムが声をあげた。
「侍従の私たちは、魔法袋を持っていることを忘れておられるな」
「なに、魔法袋とな!」
「これを使えば、この国から、オラタル国へいろんな物を運びこむことができます。人であれ物であれ、魔法袋は大きく口を広げることができますので、かなり大きな物まで運び込めますよ」
 それを聞いていた将軍は両手をあげた。
「今、お話を聞いていますと、簡単にオラタル国に兵士を運ぶことができるのですね」
「ええ、できると思いますよ」
「ならば、話は変わってまいりますぞ。それならば、王女さまにご面倒をおかけしなくても、わが兵士たちを出動させることができる。兵士たちだけで、ふらちなオラタル国の敵兵を退治してみせますぞ」
「しかし、相手は強い。剣だけではなく弓を使うことが考えられますよ」
すると、将軍は声をあげて笑った。
「つまり、矢を多く持っている方が勝つということですな。1万本の矢を用意はできますぞ。また、体制は三人一組にして、弓で矢を撃っている間に、別の者が弓に矢をつないでいる。さらにその間に、三人目の者が弓に矢をつぐ用意を行う。このような体制を作って矢をはなっていけば、敵方から矢を放つ隙を与えずいられますぞ。その弓うちには、三百人。剣を振って戦う者には、二百人の兵士を出すことができますぞ」
 そこまで言った将軍は声をあげて笑っていた。
「じゃ、この度の戦いは、将軍が先導してください。でも、光晶石は、そのままにしてはおけないわ。この際、魔法王女としては光晶石を完全に粉々にしてしまうつもりよ。ほうっておくと、魔法の使えない国を他に作ろうとする人がでてくるかもしれないわ」
「わかりました。光晶石の方は、シルビアさまにお任せいたしますよ。だが、オラタル国の敵兵たちとの戦いは、私たち兵士におまかせください」
「分かりました。よろしくお願いします」
 将軍は、笑顔で立ちあがり、肩をふって中広間からでていった。

 
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