21 / 132
第2章 冒険者1~2か月目
21話 目標は明確に
しおりを挟む
「そして光秀は高らかに宣言した。"敵は本能寺にあり"と! 本能寺に滞在中の織田信長に、明智光秀は反旗を翻した瞬間だったのだ!」
おおおー! と、感嘆の声が上がる。
「はっはっは! これは愉快!」
同じように話を聞いていたクレインさんが、豪快に笑う。
「それで、君主であるノブナガはどうしたんだね?」
「光秀の襲撃は早朝、まだ太陽も顔を出していない時刻であり完全に寝込みを襲われた形になりました。周囲を包囲され逃げ場がないと悟った信長はその場で自害。寺の火事に巻き込まれて歴史から姿を消したのです」
さて、意気揚々と旅に出たわけだけど……ただ優雅に荷馬車乗っていればオッケー、というわけには当然いかないわけだ。
サディエルたちは護衛の任務があるし、オレはオレでやらなければならないことがある。
と言うわけで、今、オレはそのうちの1つを実践中ってわけだ。
何でオレの世界の歴史を喋っているのか、これも全てはサディエルたちから課せられた【課題】なのである。
========================
――時間は少し戻り、出発前日の夜のこと。
サディエルからの招集で、オレたちは夕食後に彼が滞在している部屋を訪れていた。
「じゃーん! 俺が2日かけて作った、『頑張れヒロト! 目標達成表!』だ!」
テッテレー、っていうBGMでも流れてきそうな笑顔で、サディエルはオレらにそれを見せてきた。
「サディエルごめん、ネーミングセンスがゼロ」
「おい怪我人、大人しくしてろっつーたぞ。都合のいいアムネシアか?」
「誰がこんな大きな紙に書き直せと言いましたか。もう1回気絶させますよ?」
オレのツッコミはさておき、アルムとリレルからのきっつい反応に、サディエルは涙目である。
本当にボロでまくったっつーか、なんつーか……いやもう何も言わないことにする。
……というか、この世界の病名ってもしかして英語なのか?
アムネシアって確か健忘症って意味だから、"都合のいい記憶喪失か?”ってことか。
破傷風がテェタナスってあたり、案外そうかもしれない。
……いや、風邪は風邪っつーてたから、英語なのは一部の病気限定、しかもそこそこ重症レベルだけ、かもしれない。
「って、ロードマップかToDoリストみたいなやつだな、これ……」
広げられた紙には、ピラミッド型のようもので頂点から、段階的に色々な項目が書かれている。
残念ながら文字は読めないわけだが。
「ろーどまっぷ? とぅーどぅーりすと?」
「オレの世界で言う、工程表とか、やるべきことを一覧ってやつです」
高卒で働くって言ってた友達が、就活の勉強で作っていた物だ。
タスクを洗い出すとか、優先度付けるとか、目標を明確化にするとか、そういう用途で使われている。
まぁ、オレにはまだ4~6年ぐらい縁ねーな、って思っているシロモノだったわけだが……まさか異世界でお目にかかる羽目になるとは。
「異世界でも同じこと考える人はいるわけですね。まぁ、同じ人間なわけですし、ある意味当然と言いますか」
「けど、知ってるなら話が早いな。そう! これはヒロトにエルフェル・ブルグに到着するまでの3か月でやって欲しいことリストなのだ!」
ばさりっ、とテーブルに紙を広げて見せてくれる。
「オレが読めない目標達成表の意味は?」
「それはワザと。ヒロトはここの工程を読めちゃうと、先走るか、工程に遅れが出て焦ってやらかしそうだから」
読まれてるし。
けどまぁ、工程が遅れたら焦りそうなのは否定出来ない。
何とか取り返そうとあれこれやりそう……ってのを見抜かれてるわけか。
「じゃ、順番に説明するぞ。まず大目標は『元の世界に帰還』、これが頂点のやつな」
そう言いながら、ピラミッドの天辺にある四角に囲まれた文字を指さす。
んで、その下に3つの四角に囲まれた文字がある。
「その大目標を達成する為には3つの要素が必要だと思う。1つ目は『エルフェル・ブルグで情報収集』」
そもそもの目的がそれだもんな。
エルフェル・ブルグに行って、元の世界へ戻る方法を探す。一番大切なことだ。
「2つ目は『勉強をしっかりと』。元の世界に戻っても空白期間を作らないことが大事だ」
そうだね、受験勉強だね。
可能な限り受験勉強のブランクを無くすこと、あとは単純に社会復帰しやすいように、というのが主目的である。
「3つ目、これが最重要項目で『死なない』こと」
「うん、ちょっと待って。何でそれだけ、ド直球!?」
「え、ヒロト……君、無言の帰宅の途につきたかったのか?……それなら仕方ない、ここの項目をばってんマークに……」
「ごめんなさい、生きて帰りたいです。じゃなくて、あまりにシンプルすぎるんじゃない!?」
もっとオブラートに包んで欲しいといいますか、てっきり『自衛力』あたりが書き込まれていると思ったんだよ、オレは。
んで、自衛力から体力つけるとか、武器を使えるようになるとか、そういうのが書いてあるとばっかり。
すると、サディエルは首を左右に振り
「いーや、間違ってないぞ。最終的に"死なない"ことこそが最も大事だ。他2つが無理でも、君さえ生きていれば『元の世界に帰還』が達成出来る可能性が残り続ける」
「いやまぁ、極端な話そうですけど……」
うーん、納得出来ないのはなんでだろう。
凄い後ろ向きというか、なんつーか、もっとシンプルに出来ないもんなのかな。
オレとしては、死なないことは"当然"であって、エルフェル・ブルグでの情報収集の方がはるかに重要な気がするのにな。
まぁ物理的に、まず到着しないといけないわけだけど。
「…………」
この時、アルムが無言で何か言いたげな表情を浮かべていたのを、オレは見逃していた。
それは、サディエルに対してではなく……オレに対してだったわけだが。
それからオレは、目標達成表の使い方をサディエルから教わる。
大事なことは2点。
1つ目、ピラミッド下層部の目標について。
ここまで下がってくると、達成目標はたくさんあるように見えるわけだけど、実際は取捨選択性の部分だ。
「例えば、この項目は『戦い方』なわけで、その下の3つが『前衛』『中衛』『後衛』なわけだ」
「あぁなるほど。確かにこれはどれか1つだよな、基本的に」
「そういうこと。なので、ヒロトがまず決めるのは戦うポジションなんだけど……この『後衛』の下にもいくつか項目がある。ここは『アーチャー』とか『ヒーラー』とか、とりあえず有名どころが書かれている」
つまり、戦い方を『前衛』にしたい場合、その前衛職候補を選んぶことで『戦い方を前衛の剣士』って形にまとめることが出来るってわけだ。
こうすれば、具体的にどういう戦い方をするかが定まるから、戦い方から立ち回りに昇華されると。
「……オレの知ってるファンタジー、ここまで決めてない」
「いや、普通決めるから。大事だから」
そんないつも通りのねーよ判定をもらいながら、次だ次。
2つ目は、『最短距離を行かない』こと。
「すいません、どういうことですかこれ」
「こういう開始と終了を決めると、人間はどうしても最短ルートを通りたがるんだ」
あー、それはそうかもしれない。
特に漫画とか小説は飽きさせないという名目もあるだろうけど、テンポを重視する場合は常に最短ルートという名の正解を選び続ける展開になる。
「最短でこなしたい、と言う気持ちは分かる。だが、最短は最善と同義じゃない。時には最悪手を打つことが最善になることだってあるんだ。項目と項目はいわば最終目標への通過点に過ぎない」
通過点なだけ。
その間がどれだけ左右にぶれようと、なんだったらUターンしようと、最終的に通過点に到達するという結果になればいい。
無事に通過点を過ぎる事が、成長である……ということだそうだ。
「あれかぁ、急がば回れってやつかな」
「ヒロトの世界って、結構いい言葉が多いのですね。先人からのありがたい知恵なのですから、有効活用しないとだめですよ?」
「肝に銘じます」
リレルの言葉にオレは心当たりが多すぎて、もう何度目かわからない精神ダメージを負いながら頷く。
「以上! 今の内容を元にエルフェル・ブルグまでの3か月で、ここの中間よりちょい上まで頑張ろう!」
頂点とその下3つは、むしろこの街に……というか、遺跡洞窟に戻った時の結果になる。
となると、達成できるのはそれよりも下の項目までになるわけだが……
「オレ、これだけでいいんですか!?」
「というと?」
疑問形!?
「いやいやいや、この内容だけだと、オレは何もやらないわけじゃないけど、本当にサディエルたちの助けになるの? 赤字解消にもなるように見えないんだけど!」
「そりゃもちろん、だってほら」
ばさり、とサディエルは別の紙を……オレの目標達成表と比較して2倍以上の大きさの紙を見せてきた。
やっぱり文字は読めないけど、そこには全く別の目標達成表がある。
「えーと、これは?」
「オレらの達成表。ここの赤色で囲まれている部分、それがヒロトのそれに該当する」
……あの、その2倍近いやることリストのたった1部分が、オレの……目標達成表に、該当……?
いや、一応すでに下層部のいくつかにはチェックマークがつけられているから、目標達成済みってことなんだろうけど、それでもオレの工程より多いわけで。
「この赤い部分を君がやってくれるだけで……ここから……」
きゅきゅっと、サディエルは赤い項目の近くからぐるっと複数の四角を囲み
「ここまでが結果的に自動達成されるんだ。つまり、十分助けになる! つーか、めっちゃ助かる!」
「それ聞いて安心した以前に、そのあたりの項目オレが頑張らないとあかんやつー!」
と、まぁそんなわけで。
サディエルたちお手製の目標達成表が、これから3か月オレの実質的な相棒になるわけである。
武器じゃなくて紙が相棒とは、これいかに。
なお、読めない部分は該当項目に取り組む際に、3人の誰かに読んでもらって、その内容をオレが自分の言語に直して付箋みたいなやつで上書きする形式となった。
文字が見えてるのに、伏せられてる感よ……
「あと、ヒロトの勉強に関してだが、僕から1つ提案がある」
「どんな案ですか?」
「一応確認するけど、受験の項目は、言語に関する国語、外国語。歴史や土地に関する地理歴史、公民。方程式に関する、数学、理科学……で、間違いないよな」
「はい」
アルムの問いかけにオレは頷く。
うん、共通テスト……一部の人には、センター試験と言った方が通じるかもしれないが、受験の試験科目としてはそれらが候補なので間違いはない。
とはいっても、その中からさらに細分化されて、科目選択って形になるし、その後の一般試験も考慮したらまた色々ややこしい。
「で、今の話から最短ルートの受験勉強は無理なわけだよな」
「そうですね……ってことは、急がば回れってことですか?」
「それもある。だが、別の視点で考えてみればいいさ。せっかく今、このバカが作った目標達成表があるんだ」
目標達成表が?
オレが首を傾げていると、アルムは別の真新しい紙を取り出してくる。
「例えば数学ってやつが、いわゆる様々な計算式ってことだろ」
「はい、円周率使った円の面積を求める方式とかいろいろありますけど」
その言葉に、アルムは計算式……と、書き込んでいるはず。
「で、その"円周率"って誰が考案したんだ? いきなりポッと出てくるわけないだろ」
「誰が考案……? えーっと、それ歴史で習ったっけか……」
なんだったっけか……こう、良くゲームであるあるな名前だったはず。
確かこう、ウィ……ウィリア……
「ウィリアム・ジョーンズ! 思い出した!」
そうそう、そんな名前だったはずだ!
すると、アルムは恐らくだけどその名前を書き込んで、計算式の項目と線を結ぶ。
「はい、これで『歴史』とつながった」
「へ?」
「1つのことを思い出すついでに、別のことにも繋げて覚える。そうすれば、1つ覚えるだけで3つも4つも覚えられる。というわけで、はい、ウィリアムさんが作った方式を母国語で円周率なら、外国語だと?」
「英語でπ!……なるほど」
と言うような感じで、勉強に関しては、1つの事から紐づくもの全てをまとめて覚えよう作戦! が決まったのだった。
========================
で、その流れからの冒頭である。
そう、アルム提案の勉強方法を実践していたのだ。
歴史を他人に説明しつつ、頭の中で武将の名前はもちろんだけど、何でそうなったかの関連性をしっかり思い出す。
そして、その中で出てきた単語を、漢字と英語で紙に書いて覚えなおす。
「人に教える」という工程も挟むことで、下手に教科書とかを読んで頭に叩き込むよりも、数十倍難しくて大変だけどね。
まぁそれ以前に、異世界で日本史や世界史をしゃべっていいのか? と思った。
だが、冷静に考えたら『魔物がいない世界』って前置きの時点で、すでにサディエルたちこの世界の住人からしたら、立派なファンタジーだったわ。
結果的に『オレが考えた物語』と言う前提も追加してしまえば、あーら不思議、誰も疑問に思わないというね。
「以上が、本能寺の変でした! 明日は信長の死後からでーす!」
「いやぁ、毎日聞いてて飽きないよ。ありがとう、ヒロト君」
「いえいえ、オレも聞いていただけて嬉しいです!」
クレインさんの素直な賞賛が、すこーしだけ申し訳ないです……
おおおー! と、感嘆の声が上がる。
「はっはっは! これは愉快!」
同じように話を聞いていたクレインさんが、豪快に笑う。
「それで、君主であるノブナガはどうしたんだね?」
「光秀の襲撃は早朝、まだ太陽も顔を出していない時刻であり完全に寝込みを襲われた形になりました。周囲を包囲され逃げ場がないと悟った信長はその場で自害。寺の火事に巻き込まれて歴史から姿を消したのです」
さて、意気揚々と旅に出たわけだけど……ただ優雅に荷馬車乗っていればオッケー、というわけには当然いかないわけだ。
サディエルたちは護衛の任務があるし、オレはオレでやらなければならないことがある。
と言うわけで、今、オレはそのうちの1つを実践中ってわけだ。
何でオレの世界の歴史を喋っているのか、これも全てはサディエルたちから課せられた【課題】なのである。
========================
――時間は少し戻り、出発前日の夜のこと。
サディエルからの招集で、オレたちは夕食後に彼が滞在している部屋を訪れていた。
「じゃーん! 俺が2日かけて作った、『頑張れヒロト! 目標達成表!』だ!」
テッテレー、っていうBGMでも流れてきそうな笑顔で、サディエルはオレらにそれを見せてきた。
「サディエルごめん、ネーミングセンスがゼロ」
「おい怪我人、大人しくしてろっつーたぞ。都合のいいアムネシアか?」
「誰がこんな大きな紙に書き直せと言いましたか。もう1回気絶させますよ?」
オレのツッコミはさておき、アルムとリレルからのきっつい反応に、サディエルは涙目である。
本当にボロでまくったっつーか、なんつーか……いやもう何も言わないことにする。
……というか、この世界の病名ってもしかして英語なのか?
アムネシアって確か健忘症って意味だから、"都合のいい記憶喪失か?”ってことか。
破傷風がテェタナスってあたり、案外そうかもしれない。
……いや、風邪は風邪っつーてたから、英語なのは一部の病気限定、しかもそこそこ重症レベルだけ、かもしれない。
「って、ロードマップかToDoリストみたいなやつだな、これ……」
広げられた紙には、ピラミッド型のようもので頂点から、段階的に色々な項目が書かれている。
残念ながら文字は読めないわけだが。
「ろーどまっぷ? とぅーどぅーりすと?」
「オレの世界で言う、工程表とか、やるべきことを一覧ってやつです」
高卒で働くって言ってた友達が、就活の勉強で作っていた物だ。
タスクを洗い出すとか、優先度付けるとか、目標を明確化にするとか、そういう用途で使われている。
まぁ、オレにはまだ4~6年ぐらい縁ねーな、って思っているシロモノだったわけだが……まさか異世界でお目にかかる羽目になるとは。
「異世界でも同じこと考える人はいるわけですね。まぁ、同じ人間なわけですし、ある意味当然と言いますか」
「けど、知ってるなら話が早いな。そう! これはヒロトにエルフェル・ブルグに到着するまでの3か月でやって欲しいことリストなのだ!」
ばさりっ、とテーブルに紙を広げて見せてくれる。
「オレが読めない目標達成表の意味は?」
「それはワザと。ヒロトはここの工程を読めちゃうと、先走るか、工程に遅れが出て焦ってやらかしそうだから」
読まれてるし。
けどまぁ、工程が遅れたら焦りそうなのは否定出来ない。
何とか取り返そうとあれこれやりそう……ってのを見抜かれてるわけか。
「じゃ、順番に説明するぞ。まず大目標は『元の世界に帰還』、これが頂点のやつな」
そう言いながら、ピラミッドの天辺にある四角に囲まれた文字を指さす。
んで、その下に3つの四角に囲まれた文字がある。
「その大目標を達成する為には3つの要素が必要だと思う。1つ目は『エルフェル・ブルグで情報収集』」
そもそもの目的がそれだもんな。
エルフェル・ブルグに行って、元の世界へ戻る方法を探す。一番大切なことだ。
「2つ目は『勉強をしっかりと』。元の世界に戻っても空白期間を作らないことが大事だ」
そうだね、受験勉強だね。
可能な限り受験勉強のブランクを無くすこと、あとは単純に社会復帰しやすいように、というのが主目的である。
「3つ目、これが最重要項目で『死なない』こと」
「うん、ちょっと待って。何でそれだけ、ド直球!?」
「え、ヒロト……君、無言の帰宅の途につきたかったのか?……それなら仕方ない、ここの項目をばってんマークに……」
「ごめんなさい、生きて帰りたいです。じゃなくて、あまりにシンプルすぎるんじゃない!?」
もっとオブラートに包んで欲しいといいますか、てっきり『自衛力』あたりが書き込まれていると思ったんだよ、オレは。
んで、自衛力から体力つけるとか、武器を使えるようになるとか、そういうのが書いてあるとばっかり。
すると、サディエルは首を左右に振り
「いーや、間違ってないぞ。最終的に"死なない"ことこそが最も大事だ。他2つが無理でも、君さえ生きていれば『元の世界に帰還』が達成出来る可能性が残り続ける」
「いやまぁ、極端な話そうですけど……」
うーん、納得出来ないのはなんでだろう。
凄い後ろ向きというか、なんつーか、もっとシンプルに出来ないもんなのかな。
オレとしては、死なないことは"当然"であって、エルフェル・ブルグでの情報収集の方がはるかに重要な気がするのにな。
まぁ物理的に、まず到着しないといけないわけだけど。
「…………」
この時、アルムが無言で何か言いたげな表情を浮かべていたのを、オレは見逃していた。
それは、サディエルに対してではなく……オレに対してだったわけだが。
それからオレは、目標達成表の使い方をサディエルから教わる。
大事なことは2点。
1つ目、ピラミッド下層部の目標について。
ここまで下がってくると、達成目標はたくさんあるように見えるわけだけど、実際は取捨選択性の部分だ。
「例えば、この項目は『戦い方』なわけで、その下の3つが『前衛』『中衛』『後衛』なわけだ」
「あぁなるほど。確かにこれはどれか1つだよな、基本的に」
「そういうこと。なので、ヒロトがまず決めるのは戦うポジションなんだけど……この『後衛』の下にもいくつか項目がある。ここは『アーチャー』とか『ヒーラー』とか、とりあえず有名どころが書かれている」
つまり、戦い方を『前衛』にしたい場合、その前衛職候補を選んぶことで『戦い方を前衛の剣士』って形にまとめることが出来るってわけだ。
こうすれば、具体的にどういう戦い方をするかが定まるから、戦い方から立ち回りに昇華されると。
「……オレの知ってるファンタジー、ここまで決めてない」
「いや、普通決めるから。大事だから」
そんないつも通りのねーよ判定をもらいながら、次だ次。
2つ目は、『最短距離を行かない』こと。
「すいません、どういうことですかこれ」
「こういう開始と終了を決めると、人間はどうしても最短ルートを通りたがるんだ」
あー、それはそうかもしれない。
特に漫画とか小説は飽きさせないという名目もあるだろうけど、テンポを重視する場合は常に最短ルートという名の正解を選び続ける展開になる。
「最短でこなしたい、と言う気持ちは分かる。だが、最短は最善と同義じゃない。時には最悪手を打つことが最善になることだってあるんだ。項目と項目はいわば最終目標への通過点に過ぎない」
通過点なだけ。
その間がどれだけ左右にぶれようと、なんだったらUターンしようと、最終的に通過点に到達するという結果になればいい。
無事に通過点を過ぎる事が、成長である……ということだそうだ。
「あれかぁ、急がば回れってやつかな」
「ヒロトの世界って、結構いい言葉が多いのですね。先人からのありがたい知恵なのですから、有効活用しないとだめですよ?」
「肝に銘じます」
リレルの言葉にオレは心当たりが多すぎて、もう何度目かわからない精神ダメージを負いながら頷く。
「以上! 今の内容を元にエルフェル・ブルグまでの3か月で、ここの中間よりちょい上まで頑張ろう!」
頂点とその下3つは、むしろこの街に……というか、遺跡洞窟に戻った時の結果になる。
となると、達成できるのはそれよりも下の項目までになるわけだが……
「オレ、これだけでいいんですか!?」
「というと?」
疑問形!?
「いやいやいや、この内容だけだと、オレは何もやらないわけじゃないけど、本当にサディエルたちの助けになるの? 赤字解消にもなるように見えないんだけど!」
「そりゃもちろん、だってほら」
ばさり、とサディエルは別の紙を……オレの目標達成表と比較して2倍以上の大きさの紙を見せてきた。
やっぱり文字は読めないけど、そこには全く別の目標達成表がある。
「えーと、これは?」
「オレらの達成表。ここの赤色で囲まれている部分、それがヒロトのそれに該当する」
……あの、その2倍近いやることリストのたった1部分が、オレの……目標達成表に、該当……?
いや、一応すでに下層部のいくつかにはチェックマークがつけられているから、目標達成済みってことなんだろうけど、それでもオレの工程より多いわけで。
「この赤い部分を君がやってくれるだけで……ここから……」
きゅきゅっと、サディエルは赤い項目の近くからぐるっと複数の四角を囲み
「ここまでが結果的に自動達成されるんだ。つまり、十分助けになる! つーか、めっちゃ助かる!」
「それ聞いて安心した以前に、そのあたりの項目オレが頑張らないとあかんやつー!」
と、まぁそんなわけで。
サディエルたちお手製の目標達成表が、これから3か月オレの実質的な相棒になるわけである。
武器じゃなくて紙が相棒とは、これいかに。
なお、読めない部分は該当項目に取り組む際に、3人の誰かに読んでもらって、その内容をオレが自分の言語に直して付箋みたいなやつで上書きする形式となった。
文字が見えてるのに、伏せられてる感よ……
「あと、ヒロトの勉強に関してだが、僕から1つ提案がある」
「どんな案ですか?」
「一応確認するけど、受験の項目は、言語に関する国語、外国語。歴史や土地に関する地理歴史、公民。方程式に関する、数学、理科学……で、間違いないよな」
「はい」
アルムの問いかけにオレは頷く。
うん、共通テスト……一部の人には、センター試験と言った方が通じるかもしれないが、受験の試験科目としてはそれらが候補なので間違いはない。
とはいっても、その中からさらに細分化されて、科目選択って形になるし、その後の一般試験も考慮したらまた色々ややこしい。
「で、今の話から最短ルートの受験勉強は無理なわけだよな」
「そうですね……ってことは、急がば回れってことですか?」
「それもある。だが、別の視点で考えてみればいいさ。せっかく今、このバカが作った目標達成表があるんだ」
目標達成表が?
オレが首を傾げていると、アルムは別の真新しい紙を取り出してくる。
「例えば数学ってやつが、いわゆる様々な計算式ってことだろ」
「はい、円周率使った円の面積を求める方式とかいろいろありますけど」
その言葉に、アルムは計算式……と、書き込んでいるはず。
「で、その"円周率"って誰が考案したんだ? いきなりポッと出てくるわけないだろ」
「誰が考案……? えーっと、それ歴史で習ったっけか……」
なんだったっけか……こう、良くゲームであるあるな名前だったはず。
確かこう、ウィ……ウィリア……
「ウィリアム・ジョーンズ! 思い出した!」
そうそう、そんな名前だったはずだ!
すると、アルムは恐らくだけどその名前を書き込んで、計算式の項目と線を結ぶ。
「はい、これで『歴史』とつながった」
「へ?」
「1つのことを思い出すついでに、別のことにも繋げて覚える。そうすれば、1つ覚えるだけで3つも4つも覚えられる。というわけで、はい、ウィリアムさんが作った方式を母国語で円周率なら、外国語だと?」
「英語でπ!……なるほど」
と言うような感じで、勉強に関しては、1つの事から紐づくもの全てをまとめて覚えよう作戦! が決まったのだった。
========================
で、その流れからの冒頭である。
そう、アルム提案の勉強方法を実践していたのだ。
歴史を他人に説明しつつ、頭の中で武将の名前はもちろんだけど、何でそうなったかの関連性をしっかり思い出す。
そして、その中で出てきた単語を、漢字と英語で紙に書いて覚えなおす。
「人に教える」という工程も挟むことで、下手に教科書とかを読んで頭に叩き込むよりも、数十倍難しくて大変だけどね。
まぁそれ以前に、異世界で日本史や世界史をしゃべっていいのか? と思った。
だが、冷静に考えたら『魔物がいない世界』って前置きの時点で、すでにサディエルたちこの世界の住人からしたら、立派なファンタジーだったわ。
結果的に『オレが考えた物語』と言う前提も追加してしまえば、あーら不思議、誰も疑問に思わないというね。
「以上が、本能寺の変でした! 明日は信長の死後からでーす!」
「いやぁ、毎日聞いてて飽きないよ。ありがとう、ヒロト君」
「いえいえ、オレも聞いていただけて嬉しいです!」
クレインさんの素直な賞賛が、すこーしだけ申し訳ないです……
0
お気に入りに追加
308
あなたにおすすめの小説
無職の俺は追放されてもへっちゃらカタログスペック100%があるから ~現実を強引に俺の真実で塗り替える~
喰寝丸太
ファンタジー
カタログスペックを信じたばかりに遅刻した波久礼(はぐれ)司郎は教室に入るなり魔王討伐の為に異世界召喚された。
クラス全員分あるはずの職業が無い。
職の代わりにカタログスペック100%スキルを貰い異世界に旅立つと、送られた先のお城では無職の為、詐欺師に間違われ追い出された。
後で分かったのだがそれは勇者の陰謀らしい。
そして、カタログスペック100%の真価は色々な場面で発揮された。
表示性能が100%になるって事は誇大広告、空想物語、神話、詐欺のうたい文句なんでもスキルでその通りだ。
スキルがあれば勇者に仕返ししたり魔王軍撃退も余裕さ。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しています。
伯爵令嬢に婚約破棄されたので、人間やめました
えながゆうき
ファンタジー
うー、ダイエット、ダイエットー!
子爵家の庭を必死に走っている俺は、丸々太った、豚のような子爵令息のテオドール十五歳。つい先日、婚約者の伯爵令嬢にフラれたばっかりの、胸に大きな傷を負った漆黒の堕天使さ。髪はブロンド、瞳はブルーだけど。
貴族としてあるまじき醜態はすぐに社交界に広がり、お茶会に参加しても、いつも俺についてのヒソヒソ話をされて後ろからバッサリだ。どっちも、どっちも!
そんなわけで、俺は少しでも痩せるために庭を毎日走っている。でも、全然痩せないんだよね、何でだろう?
そんなことを考えながら走っていると、庭の片隅に見慣れない黒い猫が。
うは、可愛らしい黒猫。
俺がそう思って見つめていると、黒い猫は俺の方へと近づいてきた!
「人間をやめないかい?」
「いいですとも! 俺は人間をやめるぞー!!」
と、その場の空気に飲まれて返事をしたのは良いけれど、もしかして、本気なの!? あ、まずい。あの目は本気でヤる目をしている。
俺は一体どうなってしまうんだー!! それ以前に、この黒い猫は一体何者なんだー!!
え? 守護精霊? あのおとぎ話の? ハハハ、こやつめ。
……え、マジなの!? もしかして俺、本当に人間やめちゃいました!?
え? 魔境の森にドラゴンが現れた? やってみるさ!
え? 娘を嫁にもらってくれ? ずいぶんと地味な子だけど、大丈夫?
え? 元婚約者が別のイケメン男爵令息と婚約した? そう、関係ないね。
え? マンドラゴラが仲間になりたそうな目でこちらを見てる? ノーサンキュー!
え? 魔石が堅くて壊せない? 指先一つで壊してやるよ!
え? イケメン男爵令息が魔族だった? 殺せ!
何でわざわざ俺に相談しに来るんですかねー。俺は嫁とイチャイチャしたいだけなのに。あ、ミケ、もちろんミケともイチャイチャしたいよー?
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
賢者が過ごす二千年後の魔法世界
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
魔法研究に熱心な賢者ジェレミー・ラーク。
彼はひょんなことから、世界の悪の根源である魔王グラディウスと邂逅してしまう。
ジェレミーは熾烈な戦闘の末に一騎打ちにより死亡したと考えられていたが、実は禁忌の魔法【強制冷凍睡眠(コールドスリープ)】を自身にかけることで一命を取り留めていた。
「目が覚めたら、魔法が発展して栄えた文明になっているんだろうなあ……」
ジェレミーは確かな期待を胸に、氷の世界に閉ざされていく。
そして、後に両者が戦闘を繰り広げた地は『賢者の森』と呼ばれることになる……。
それから二千年後、ジェレミーは全ての文明や技術が発展しまくったであろう世界で目を覚ました。
しかし、二千年後の世界の文明は、ジェレミーと魔王の戦いの余波により一度滅びかけていたことで、ほとんど文明は変化しておらず、その中でも魔法だけは使い物にならないレベルにまで成り下がっていた。
失望したジェレミーは途端に魔法への探究心を失い、これまでの喧騒から逃れるようにして、賢者の森の中で過ごすことを決める。
だが、自給自足のスローライフも彼にとっては容易すぎたのか、全く退屈な日々が続いていた。
そんな時、賢者の森に供物として一人の少女が捧げられることで物語は動き始める。
ジェレミーは二千年前の殺伐とした世界から打って変わって平和な世の中で、様々な人々と出逢いながら、自由気ままに生きていくのであった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる