努力と根性と運が少々

切粉立方体

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9 スラム

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 昼飯後、皆が揃ってから出発。
 彼女達用の弓と矢は、技術値任せでちゃっちゃと作って配ってある。
 地下食料庫に案内された。
 隅の塩漬け肉の樽を動かすと、後ろに小さなドアが作ってあった。
 ドアを開けると階段が設けてあり、その先の通路があった。
 幅は人が擦れ違える程度の広さがあったが、今の僕には少々高さが足りない、少し屈みながら前へと進む。
 左右の僕たちが降りて来たのと同じ様な階段を何本か見送ると、通路は左に折れ、上り階段に変わった。
 階段を登り切り厚布の仕切りを開けると、左側の町の防壁、目の前と右側には糞尿臭が漂うスラムが広がっていた。

「ここは北門と南門の中間位であたい達の親や兄弟が住んでるんだよ。狼に襲われて村が滅んじまって逃げて来たんだけど町に入れて貰えなくてさ。仕方なくここで皆生き延びているんだよ。畑作っても草鼠や角兎に食われちまうしさ、狩人が真っ先に狼に食われちまったから、駆除できる奴も居ないんだ。あたい達の差し入れで辛うじて生き延びては居るけど、どんどん膨れ上がって来るし、病人は増えるしで、もう手に負えないよ」
「本当は妹や弟に羽化式受けさしてやりたいんだけどね、食わせるのが手一杯でもうそんな余裕はないね」

 スラムを抜けると所々耕した跡のある草原に出る。

「今日から実際の生き物相手の狩りを行うよ。相手が動くから戸惑うかもしれないけれど、今まで説明したとおり、形が正しければ矢は同じ場所に刺さるから、それを見極めてから獲物の動きに合わせて。誤射を防ぐため、全員防壁に背を向けて十歩づつ離れて立ってね。それから全員に矢を十本づつ配ってあるから、全員が射終わったのを確認してから獲物と矢を回収してね。最初は練習なんで餌で誘き寄せるよ。魔法を意識する余裕があったら試しても良いよ」

 手頃な場所にいた角兎を狩り、革を剥いでから肉を刻む、血抜きの手間が無いので楽だ。
 彼女達の射程十五カ所に刻んだ肉を置き終わると、早くも草鼠が群がっている。

「それじゃ初めて」

 彼女達は優秀だ、正確な形で弓を射り、次々と草鼠を屠って行く。
 数回彼女達の行動に問題がないことを確認し、餌のストックを大量に作り、後は彼女達に任せた。
 僕には試したいことが有るのだ。

 町の防壁を背に草原の地面に手を着ける、直接地面を確認することにより、及ぼす事象のイメージがはっきりして影響範囲が広がるのだ。

「土質改変」

 目の間に人の背の二倍の程の幅の泥の水路が真っ直ぐに伸びている。
 これならば、人が千人以上沈められそうだ。
 スラムを挟んだ反対側の移動し、同じ事を繰り返す。
 水路の先端まで歩くと、三千歩程の距離があった。
 魔法の影響範囲を知りたくて力を行使したが、少々広げ過ぎた感がある。
 最初に作った泥の水路と、こちらの先端まで、中央に荷車が三台程擦れ違える幅の地面を残して泥の水路を作る。
 残して置いた地面に移動し、手を付いて荷車三台の加重に耐えられる深さに横穴を作り、左右の泥の水路を結ぶ。
 そして最後の仕上げ、町の下水が流れ込む歓楽街の放流口が近くにあるので、その下に自然に穿かれた川に向かって、人の背の半分程の泥の水路を作る。
 泥が川に向かって流れ始めた、大成功だ、次いでだったが、害獣を防ぐ堀の完成だ。

 草原で作った土の皿を間違って宿に持ち帰ってしまった。
 翌朝、消滅しているかと思って見ると、テーブルの上で土に返っていた。
 そこで思いついた、魔力が切れると形を維持する力が消えて元の形に復元するが、元の場所に戻って行くほどの復元力は無いと。
 もし、明朝堀がこのままだったなら、僕の仮説が証明されたことになる。

 スラムの中を歩き回り、通路として使用されている場所を確認する。
 スラムの中央付近の防壁前に陣取り、スラム中の通路に浅い排水溝を作ってスラムを囲む堀に繋げた。
 通路の表層も泥にして押し流したので、糞尿の匂いが多少和らぐ。
 再び地面に手を着ける。

「土質感知」

 地下水脈を探す。
 十歩程の一番近い水脈は町の方から流れており、汚れている。
 五十歩程の地下に、堅い土層に挟まれた水脈があった。

「土質改変」

 土を石に変え、その水脈まで届く石筒を作った。
 被圧された地下水だったようで、物凄い勢いで吹き出てきて、作りたての排水路に流れ込んだ。
 僕を取り囲んで見ていた人達が、慌てて思い思いの容器を持って水を汲みに来た。
 町からの排水を飲み水にするのは、身体に悪いことが薄々判っていたのだろう。
 これで魔力が無くなったので、魔力の作業は打ち止めだ。

 森に向かって走り、何本か木を切って持ち帰り、川への水路を塞ぐ水門と堀を渡る道の門を作った。
 鼠や角兎の侵入を防ぐ簡素な門を作る積もりだったが、木工の技能が働いて、結構見栄えの良い門になってしまった。
 残った木は板にして並べ、その上に泥と土を捏ねて作った壺を日干しする。
 排便や排尿を通路にしない習慣を作るための便器作りだ。
 畑に蒔いて貰えば一石二鳥だ。
 
 壺を百個程作った所で、堀沿いを歩いて来る人影に気が付く。

「誰よ、こんな事したの。遠くなったじゃない」
「そうよ、それで無くても臭くて嫌なのに、本当に迷惑だわ」
「そんな事言わないの、仕事なんだから」

 聴力のお陰で良く聞こえる。
 神官の見習い服を着た女性が三人だった。
 年齢は僕とほぼ同じ位に見える。
 愚痴を零しながら門までやって来た。

「すいません。門を開けて下さい」
「はーい」
「あら、見ない顔ね。それにアーマーも高級」
「背も高し、土属性じゃないわね」
「あー!判った。歓楽街の用心棒さんね」
「歓楽街の宿に住んでるが用心棒じゃないぞ」
「へー、変わり者って噂だったけど普通ね」
「氷属性なんでしょ、歓楽街へ診察に行ってた子が、凍結と解除の魔法で泥沼つくって、チンピラやっつけたって言ってたわよ。そーかー、この堀もあなたが作ったのね、先週来た時は無かったし、物凄く魔力が必要だったと思うんだけど何か裏技があるの」
「それは秘密だな」

 スラムへ案内する。
 
「まあ、通路も綺麗になったし、側溝に綺麗な水が流れてる」
「不衛生は病気の原因だからな」
「助かるわ~♪私達の仕事が減るし」

 神官見習い達を診察用テント案内してから訓練場所に戻ると、堀の効果か、丁度草鼠が尽きたようだ。
 草鼠が山積みになっている。

「それじゃこれから解体の仕方を教えるね。肉はどうする」
「ここの連中に振る舞いたいだけど、良いかい」
「革は」
「継ぎ当てに使えるから、喜ぶと思う」
「それじゃ、鞣しの方法も教えるね」
「おい、若くて動ける連中を連れて来い。先生が鼠の解体方法を教えて下さる。それとあたいらでもこんなに狩れるんだ、明日から毎日来るから、やる気の有る奴は見て覚えろと言っておけ」
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