努力と根性と運が少々

切粉立方体

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10 三層

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 明日から三層に挑戦するので、取敢えずガイドブックで予習することにした。
 三層の解説ページの冒頭には、各属性のレベル二からレベル三へのレベルアップについて解説されていた。
 まずは氷属性、既得の魔法に六の魔力を込められる様になり、これに魔力付与という武器に属性を付与する魔法が追加される。
 他の属性は既得の魔法に六の魔力を込められる様になるだけ、何か素っ気ない。
 次々と新しい魔法が生えて来る土属性の僕としては、何か気の毒になる。
 能力アップは前回と同じで、目新しい記述は特に無い。
 成長付与値については、氷属性以外は全て魔力へ振れと記述してある。
 火属性、雷属性、氷属性については、先の階層の事を考えて得意な武器を探し、技術能力を得て置けとアドバイスしてあった。
 
 次に書いてあったのが、三層の特徴。
 二層の倍の広さがある迷路で、天井の高さも倍になる。
 出現するのが野犬と烏で、野犬は数頭の群れで連携して襲って来るし、烏は天井近くの闇に潜み、背後から襲って来るらしい。
 入り口付近の野犬は二~三頭で彷徨いていることが多く、運が良ければ単独行の野犬もいるそうなので、最初は入り口近くで行動する様にとのアドバイスが書いてあった。
 奥へ行くほど群れの規模が大きくなり、運悪く特殊個体のボスが率いる十頭規模の群れに遭遇したらアウトらしい。
 複数人での行動を推奨しており、単独行の僕には少々辛そうだ。

 討伐に必要な魔力は、氷矢が二、火矢と雷矢と水矢が四、風矢と光矢と闇矢が六と書いてあった。
 得られる経験値は烏も野犬も一緒で十、魔石の買い取り価格は銀貨一枚らしい。

 次のレベルアップに必要な経験値は一万、千匹倒さなければならない。
 魔力が五十有ったとしても、風や光や闇の属性では一日八匹しか倒せない。
 水や火や雷の属性でも十二匹、氷属性の二十五匹とでは差が大きい。
 氷属性以外は成長付与値を全て魔力に振れと書いてあったが納得だ。
 僕も長丁場になりそうだ。
ーーーーー

 翌朝、朝飯を食ってから迷宮へ向かう。
 二層の三層への入り口に向かう経路も、三層の入り口付近の地図も、昨夜ガイドブックで確認してある。
 一層と違い、二層には徒党を組んで歩いている連中も多いので、注意しながら歩いて行く。
 角兎に遭遇しても、飛び越えれば僕を角兎が見失うだけなので、無駄に魔力を使うことは無い。

 三層の入り口付近はごった返していた。
 次々と人が入って来るし、歩いている人々の年齢層も幅広く、僕と同年代から地面に敷布を敷いてお茶を飲んでいる年寄りまでいる。
 緊張した顔の神官見習いや兵士が徒党を組んで奥に向かって行ったので、組織としての経験値を得る訓練場にもなっているのだろう。
 他の人に狩りの様子を見られたくないので、予め地図で目星を付けた人の少なそうな浅い場所の隅っこへと向かう。

 烏は楽勝だった。
 魔力感知が良い仕事をしてくれる。
 迷宮の魔物は地上の生き物と違い薄い魔法の膜で全身を覆っているようで、魔法感知が天井に潜む烏の存在を教えてくれたので動かない的と一緒だった。
 しかも土弾で倒せる、何か氷弾より効率が良い。
 野犬は少々微妙で、納得できる射が出来たときは土弾一発で倒せるが、何か射に微妙な違和感を感じる時は、矢が刺さったままヨタヨタと野犬が近づいて来る。
 魔法の膜には治癒能力が有るようで、傷を治そうとする強い魔法の力が鏃の刺さった部分感じられるが、膜を貫いて留まっている矢と言う現実的な存在が治癒を阻害して、治し切れないようだ。
 近づいて来た野犬に刺さっている矢を軽く押し込んでやると、野犬は直ぐに魔石を残して消滅した。
 ガイドブックに書いて無かった現象だが、魔法の力は獲物に刺さった瞬間に消滅するので、矢と言う現実的な存在が無ければ、魔法の膜が速やかに修復され、傷を瞬時に治してしまうのだろう。
 だから、ガイドブックには一発で倒せる魔力しか示してないのだろう。
 
 石弾ならば問題なく一発で消滅する。
 複数の野犬が現れたら魔力を惜しまず石弾を使い、単独の野犬には弓の訓練のために土弾を使うことにした。

 スラムの様子が気になるので、魔力十を残して迷宮を引き上げる。
 今日の戦果は烏十五羽と野犬十匹で、経験値二百五十と銀貨二十五枚を得た。
 平均的な町民の十倍位の収入なので、町中で少し贅沢しても十分に暮らせる収入だ。
 これに狩りの収入がプラスされる。
 どれ位貯め込んでいるか確認していないが、面倒くさいので、今の生活を変える積もりは無い。

「今日から三層なのね。三層で魔石二十五個なんて、相変わらず優秀なのね」

 気が付いたら、買い取り窓口を固定する様になっていた。
 同じ行動を取ることで安心感を覚えるのは、僕の性かも知れない。
ーーーーー

 スラムへ向かうと、僕の推測どおり堀と排水路は残っていた。
 堀には腰高位まで水が溜まっており、スラムの女達が洗濯している傍らで、小さな子供達が薪を抱えて泳いでいる。

「先生、井戸消えちゃったよ」

 これも予想通り、急いで森に向かい、丁度良い太さの木を二十本程切り出した。
 皮を剥ぎ、木を短く切って中心部を切り抜き筒を作る。
 筒の上下には細工し、繋げても外れ難く、水も漏れ難くする。
 これは木工の技能が良い仕事をしてくれた。

「土質改変」

 地下水脈ぎりぎりまで木の筒の太さに合わせて泥化し、スラムの人達に手伝って貰って木の筒を繋げて突っ込んで行く。
 木の筒が底まで達したら、木に筒の外側の泥の魔法を解除し、土に戻す。
 そして木から作った木槌で筒の頭を思いっ切り叩く。
 筒が地下水脈に達し、泥が、そして水が噴き出して来た。
 今回は水受けも作ったので、水が汲みやすくなっただろう。

「土質改変」

 土窯を魔法で作り、木材の余りを利用して昨日作って干しておいた壺を焼く。
 煙が蒼穹へと上って消えて行く。
 その傍らで、昨日同様土と泥を捏ねて粘土を作り、壺にしてから干しておく。
 農作業を始めた人がいるようで、掘り返した赤茶色の土の面積が広がっている。
 井戸の付近から、燥ぐ子供達の声と咎める女性の声が聞こえて来る。
 少し皆が元気になった気がする。
 
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