12 / 39
益州
しおりを挟む
私が向かおうとしている益州の刺史は劉璋季玉。延熹五年生まれ、五十歳。
領民思いのやさしい性格との評判があるが、戦が下手で優柔不断。乱世向きの領主ではない。
幸い益州は周囲を山岳に囲まれた盆地で、守りやすい天然の要害だ。これまでは比較的戦乱に荒らされることなく、独立を維持できていた。
だが、曹操が天下の大部分を手中にし、独立勢力が荊州の劉備、揚州の孫権、涼州の馬超、益州の劉璋、漢中郡の張魯などと残り少なくなってきたいま、座して待っているだけでは、滅びは近いと言わざるを得ない。
劉璋は益州内に敵を抱えている。
益州北部の郡、漢中を領有している張魯だ。
劉璋は父劉焉の死後、益州の統治を引き継いだ。そのとき、漢中郡にいた張魯が叛いた。劉璋は見せしめとして、張魯の母盧氏と弟張徴を殺した。その後劉璋軍は数回、張魯軍と戦ったが、いずれも引き分け。劉璋は張魯を倒すことができなかったのである。
そのため、劉璋は張魯討伐を同じ劉氏一門である劉備に依頼した。
だが使者の法正は、乱世では暗愚であるとも言える劉璋を見限っていて、劉備に劉璋に代わって益州を治めるよう秘かに頼んだのである。
法正は、益州の重臣張松、孟達も仲間であり、彼らも劉備に従うと伝えた。
劉備は益州を獲ろうと決意したが、私はまず漢中郡を奪い、その後に益州全土を征服しようと父に献策した。
そして、私は張飛、趙雲、龐統、魏延と三万の軍勢を率いて、益州へ向かうことになったのである。
張魯は漢中郡の支配者であるとともに、五斗米道という宗教の教祖である。信者に五斗の米を寄進させている。張魯はその米を自分の享楽のためには使わず、漢中の民のために役立てているようだ。この乱世では珍しい善き領主であると言えるであろう。
五斗米道教団では、一般信徒の上に祭酒という高い地位の者が何人かいる。張魯は祭酒たちに助力させて、教団を統率している。
劉禅軍は船団に乗って江水を遡った。
益州巴郡の首府江州で下船し、兵糧などの積荷を降ろし、野営した。
漢中郡を探っていた女忍隊の長、忍凜が情報を持って、江州へやってきた。
私と張飛、趙雲、龐統、魏延、法正は天幕内で忍凜と会った。
「報告いたします。教祖張魯は平和的な人物で、争いを好みません。劉璋と戦っていたのは、信仰を守るためと思われます。劉璋は五斗米道を弾圧していたのです」と忍凜は言った。
「そうですか」と私は答え、目で話のつづきをうながした。
「漢中軍の兵力は約五万人です。兵士はすべて五斗米道の信者で、張魯が死ぬまで戦えと言えば、そうするでしょう。恐るべき軍団です。ただし、張魯は軍事にはあまり関心がないようで、漢中軍の中心人物は、張魯の弟張衛です」
「なるほど、興味深いお話です」
「張魯は漢中郡の中心地、南鄭城にいます。約三万の兵に守られています。張衛は南鄭の西にある陽平関に、二万の兵とともに駐留しています。陽平関は難攻不落とも言われている要衝です」
「わかりました。ありがとう、忍凜。引きつづき、漢中を探ってください」
「はい」
忍凜は退出した。魏延は腕組みをして、考え込んでいた。
劉禅軍は江州から陸路で益州広漢軍の涪県に進出した。
劉璋は成都から涪城に出て来ていた。私は不安そうな表情をした益州刺史と会見した。
「初めまして、劉備の嫡子、劉禅です。このたびは父劉備の命を受け、張魯を討伐するために参りました」
「益州刺史の劉璋だ。わしは劉備殿自らが来てくれると期待していた。失礼だが、あなたのような幼児を寄こすとは、正直言って落胆している。劉禅殿に張魯が倒せるだろうか。五斗米道軍はかなり厄介な敵であるぞ」
「お任せください。必ず漢中を制圧してみせます」
「劉禅殿に戦の経験はあるのか」
「これが初陣です」
「わしは心配だ。あなたが負けると、漢中軍は勢いに乗って、成都まで押し寄せてくるかもしれん」
「劉璋様は張飛と趙雲の名をご存じですか」
「音に聞こえた将軍たちであるな」
「私の下には、その張飛と趙雲がいるのです。その他に、龐統や魏延という知謀の士もいます。ご心配は無用です」
「うむ、龐統殿や魏延殿の名も知っておる。劉禅殿の陣営は強力であるようだな。頼む、漢中を落としてくれ」
「はい」
ここまで話してようやく、劉璋の表情から不安が消えた。
「法正殿には、今後とも我が軍に協力していただきたいと思っております。漢中への同行を許可してください」
「かまわん。法正を劉禅殿の部下と思って使うがよい」
「法正殿から、劉璋様がさらなる軍事的なご助力をしてくださると聞いております」
「孟達という将軍に一万の兵を授け、荊州軍とともに漢中を攻めよと命じてある。孟達を劉禅殿の指揮下に置いてよい」
孟達の名を聞いて、しめた、と思った。劉璋を見限っている将軍だと、法正から聞いている。
「ありがとうございます。これで兵力は四万になります」
私はほくそ笑みを隠し、うやうやしく劉璋に平伏した。
内心では、孟達を取り込む気満々である。
その夜、龐統が涪城内の私にあてがわれた部屋へやってきた。
「劉禅様、進言したいことがあります」
「なんですか、お聞きします」
龐統は暗い目をしていた。
「今夜にでも、劉璋殿を暗殺なさいませ。そしてすぐに、成都へ向かって進軍するのです。非常に少ない犠牲で、益州を手に入れることができるでしょう。上策だと考えます」
前世の記憶を思い出した。龐統は劉備に同じ献策をし、父は拒否したという話を聞いたことがある。
私は首を振った。
「士元、その策は受け入れられません。暗殺が上策とは、私には思えません。それをやると、私はだまし討ちの劉禅と呼ばれてしまうでしょう。乱世でも、最低限の信義は必要です」
「わたくしたちは、いつか益州を攻撃するのです。いまやれば、必ず死者を減らすことができます。信義がそれほど大切ですか。できるだけ犠牲者を出さないことの方が大事ではないですか」
「そうかもしれません。しかし、劉璋様とは正々堂々と戦って、決着を付けたい。暗殺なんてできません」
「劉禅様、正々堂々など、戦争にはありません」
龐統は真剣だった。信念を持って語っていることが伝わってきた。
「士元、進言してくれたことには感謝します。しかし、それはできません。私にはどうしてもできないのです。お許しください」
私は龐統の目を見て、しっかりと言った。
彼は微笑んだ。
「あなたはよい人だ。しかし自分の手を汚さずに、乱世で勝ち抜くことはできません。そのことは憶えておいてください」
私はうなずいた。
龐統は部屋から出ていった。
翌日、孟達に会った。龐統と同い年の三十三歳である。
「あなた様が荊州軍の総帥なのですか」
彼は私を見て驚いていた。幼児なので、初対面の者は皆、戸惑うのだ。
「はい。なにか不満でもありますか」
私の後ろに、張飛と趙雲を立たせていた。
孟達は勇将ふたりを見て圧倒され、「不満など微塵もありません」と言って、私に頭を下げた。
「孟達将軍、我が軍の一翼としてしっかり働いてください。武功があれば、父劉備に報告します」
私の言葉を聞いて、孟達の目が光った。彼は劉璋に叛き、劉備に臣従したいと思っているはずだ。
「劉禅様に従い、全力で戦います」
孟達子敬。前世では、蜀を裏切り、関羽を死なせる一因をつくった。
油断せず、うまく使わなければならない男である。
領民思いのやさしい性格との評判があるが、戦が下手で優柔不断。乱世向きの領主ではない。
幸い益州は周囲を山岳に囲まれた盆地で、守りやすい天然の要害だ。これまでは比較的戦乱に荒らされることなく、独立を維持できていた。
だが、曹操が天下の大部分を手中にし、独立勢力が荊州の劉備、揚州の孫権、涼州の馬超、益州の劉璋、漢中郡の張魯などと残り少なくなってきたいま、座して待っているだけでは、滅びは近いと言わざるを得ない。
劉璋は益州内に敵を抱えている。
益州北部の郡、漢中を領有している張魯だ。
劉璋は父劉焉の死後、益州の統治を引き継いだ。そのとき、漢中郡にいた張魯が叛いた。劉璋は見せしめとして、張魯の母盧氏と弟張徴を殺した。その後劉璋軍は数回、張魯軍と戦ったが、いずれも引き分け。劉璋は張魯を倒すことができなかったのである。
そのため、劉璋は張魯討伐を同じ劉氏一門である劉備に依頼した。
だが使者の法正は、乱世では暗愚であるとも言える劉璋を見限っていて、劉備に劉璋に代わって益州を治めるよう秘かに頼んだのである。
法正は、益州の重臣張松、孟達も仲間であり、彼らも劉備に従うと伝えた。
劉備は益州を獲ろうと決意したが、私はまず漢中郡を奪い、その後に益州全土を征服しようと父に献策した。
そして、私は張飛、趙雲、龐統、魏延と三万の軍勢を率いて、益州へ向かうことになったのである。
張魯は漢中郡の支配者であるとともに、五斗米道という宗教の教祖である。信者に五斗の米を寄進させている。張魯はその米を自分の享楽のためには使わず、漢中の民のために役立てているようだ。この乱世では珍しい善き領主であると言えるであろう。
五斗米道教団では、一般信徒の上に祭酒という高い地位の者が何人かいる。張魯は祭酒たちに助力させて、教団を統率している。
劉禅軍は船団に乗って江水を遡った。
益州巴郡の首府江州で下船し、兵糧などの積荷を降ろし、野営した。
漢中郡を探っていた女忍隊の長、忍凜が情報を持って、江州へやってきた。
私と張飛、趙雲、龐統、魏延、法正は天幕内で忍凜と会った。
「報告いたします。教祖張魯は平和的な人物で、争いを好みません。劉璋と戦っていたのは、信仰を守るためと思われます。劉璋は五斗米道を弾圧していたのです」と忍凜は言った。
「そうですか」と私は答え、目で話のつづきをうながした。
「漢中軍の兵力は約五万人です。兵士はすべて五斗米道の信者で、張魯が死ぬまで戦えと言えば、そうするでしょう。恐るべき軍団です。ただし、張魯は軍事にはあまり関心がないようで、漢中軍の中心人物は、張魯の弟張衛です」
「なるほど、興味深いお話です」
「張魯は漢中郡の中心地、南鄭城にいます。約三万の兵に守られています。張衛は南鄭の西にある陽平関に、二万の兵とともに駐留しています。陽平関は難攻不落とも言われている要衝です」
「わかりました。ありがとう、忍凜。引きつづき、漢中を探ってください」
「はい」
忍凜は退出した。魏延は腕組みをして、考え込んでいた。
劉禅軍は江州から陸路で益州広漢軍の涪県に進出した。
劉璋は成都から涪城に出て来ていた。私は不安そうな表情をした益州刺史と会見した。
「初めまして、劉備の嫡子、劉禅です。このたびは父劉備の命を受け、張魯を討伐するために参りました」
「益州刺史の劉璋だ。わしは劉備殿自らが来てくれると期待していた。失礼だが、あなたのような幼児を寄こすとは、正直言って落胆している。劉禅殿に張魯が倒せるだろうか。五斗米道軍はかなり厄介な敵であるぞ」
「お任せください。必ず漢中を制圧してみせます」
「劉禅殿に戦の経験はあるのか」
「これが初陣です」
「わしは心配だ。あなたが負けると、漢中軍は勢いに乗って、成都まで押し寄せてくるかもしれん」
「劉璋様は張飛と趙雲の名をご存じですか」
「音に聞こえた将軍たちであるな」
「私の下には、その張飛と趙雲がいるのです。その他に、龐統や魏延という知謀の士もいます。ご心配は無用です」
「うむ、龐統殿や魏延殿の名も知っておる。劉禅殿の陣営は強力であるようだな。頼む、漢中を落としてくれ」
「はい」
ここまで話してようやく、劉璋の表情から不安が消えた。
「法正殿には、今後とも我が軍に協力していただきたいと思っております。漢中への同行を許可してください」
「かまわん。法正を劉禅殿の部下と思って使うがよい」
「法正殿から、劉璋様がさらなる軍事的なご助力をしてくださると聞いております」
「孟達という将軍に一万の兵を授け、荊州軍とともに漢中を攻めよと命じてある。孟達を劉禅殿の指揮下に置いてよい」
孟達の名を聞いて、しめた、と思った。劉璋を見限っている将軍だと、法正から聞いている。
「ありがとうございます。これで兵力は四万になります」
私はほくそ笑みを隠し、うやうやしく劉璋に平伏した。
内心では、孟達を取り込む気満々である。
その夜、龐統が涪城内の私にあてがわれた部屋へやってきた。
「劉禅様、進言したいことがあります」
「なんですか、お聞きします」
龐統は暗い目をしていた。
「今夜にでも、劉璋殿を暗殺なさいませ。そしてすぐに、成都へ向かって進軍するのです。非常に少ない犠牲で、益州を手に入れることができるでしょう。上策だと考えます」
前世の記憶を思い出した。龐統は劉備に同じ献策をし、父は拒否したという話を聞いたことがある。
私は首を振った。
「士元、その策は受け入れられません。暗殺が上策とは、私には思えません。それをやると、私はだまし討ちの劉禅と呼ばれてしまうでしょう。乱世でも、最低限の信義は必要です」
「わたくしたちは、いつか益州を攻撃するのです。いまやれば、必ず死者を減らすことができます。信義がそれほど大切ですか。できるだけ犠牲者を出さないことの方が大事ではないですか」
「そうかもしれません。しかし、劉璋様とは正々堂々と戦って、決着を付けたい。暗殺なんてできません」
「劉禅様、正々堂々など、戦争にはありません」
龐統は真剣だった。信念を持って語っていることが伝わってきた。
「士元、進言してくれたことには感謝します。しかし、それはできません。私にはどうしてもできないのです。お許しください」
私は龐統の目を見て、しっかりと言った。
彼は微笑んだ。
「あなたはよい人だ。しかし自分の手を汚さずに、乱世で勝ち抜くことはできません。そのことは憶えておいてください」
私はうなずいた。
龐統は部屋から出ていった。
翌日、孟達に会った。龐統と同い年の三十三歳である。
「あなた様が荊州軍の総帥なのですか」
彼は私を見て驚いていた。幼児なので、初対面の者は皆、戸惑うのだ。
「はい。なにか不満でもありますか」
私の後ろに、張飛と趙雲を立たせていた。
孟達は勇将ふたりを見て圧倒され、「不満など微塵もありません」と言って、私に頭を下げた。
「孟達将軍、我が軍の一翼としてしっかり働いてください。武功があれば、父劉備に報告します」
私の言葉を聞いて、孟達の目が光った。彼は劉璋に叛き、劉備に臣従したいと思っているはずだ。
「劉禅様に従い、全力で戦います」
孟達子敬。前世では、蜀を裏切り、関羽を死なせる一因をつくった。
油断せず、うまく使わなければならない男である。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる