劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと

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南鄭の戦い

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 涪県から白水県へ進軍した。
 広漢郡と漢中郡の郡境が近い。敵地はすぐそばである。
 私は魏延を呼んだ。

「文長、味方は四万です。敵は五万もいて、しかも南鄭城と陽平関という要害に籠もっています。どう戦うのですか」
 魏延はすでに考えをまとめているようで、落ち着いていた。
「確かに敵は五万ですが、二手に分かれています。南鄭城に三万、陽平関に二万。五万を一度に相手にしなくてもよいので、勢力はこちらが上です。しかも、張飛隊、趙雲隊は精鋭中の精鋭です」
「野戦ならば、五万と戦っても、負けるとは思っていません。しかし、敵は籠城しています。城攻めはむずかしい。私はそれを危惧しています」
「士元の働きのおかげで、兵糧に不安はありません。いまのところ劉璋軍とは同盟しているので、後背から討たれる心配もありません。戦えます」
 魏延はさらに詳細に、私に戦略を語ってくれた。
「その方針でよさそうですね。では、軍議を開きましょう」

 私は張飛、趙雲、龐統、魏延、法正、孟達を集めた。
「郡境を越え、東へ行けば南鄭城、西へ行けば陽平関です。我が軍の方針を魏延に説明してもらいます」
 私はそう言った。魏延が立ちあがった。
「作戦を申し上げます。自分たちは南鄭城を攻め、陽平関は放置します。南鄭にいる教祖張魯を討てば、陽平関の張衛は立ち枯れてしまうでしょう」
「俺もその方針でよいと思うが、南鄭城には三万の兵がいる。落城させるのは容易ではないぞ」
「張衛はすぐれた軍人のようですが、張魯は宗教家です。ぎりぎりと締めあげてやれば、やがてほころびが出ると考えています。南鄭城を包囲し、そのほころびを待ちます」
「張衛が陽平関を出て、張魯を救出しに来るのではありませんか。そのときに張魯が城から打って出れば、私たちは挟撃されてしまいます」と孟達が懸念を言った。
「わっはははは」と張飛が大笑いをした。
「そのときは勝ったも同然だ。俺と趙雲がいれば、野戦なら敵が十万でもたやすく蹴散らせる」
「そのとおりだと自分も思います。張衛軍が来襲したら、張飛殿の騎兵隊と孟達殿の歩兵隊で応戦してください。張魯軍は趙雲殿にお任せします。自分は劉禅様を守ります」
 魏延の言葉は明確だった。
「では、南鄭城へ向かいましょう」と私は言った。
 軍議は終了した。

 南鄭城に到着した。
 東に趙雲隊、南に魏延隊、西に張飛隊と孟達隊を配置し、北側は空けておいた。
「敵が北から逃げたければ、逃がしてやればよいのです。南鄭城を無傷でいただくことができれば、上々です。追撃してうまく張魯を倒すことができれば、任務は完了です」と魏延は言った。
 
 南鄭の戦いが始まった。
 魏延の方針で、力攻めはせず、包囲して、弓戦を行った。彼はじわじわと攻めるつもりのようだった。
「法正殿、劉璋様から投石車と衝車をお借りすることはできませんか」と魏延が法正に頼んでいた。
 投石車と衝車はどちらも大型の攻城兵器である。
 投石車はその名のとおり、巨石を投げ、城壁を破壊する兵器。
 衝車は先端を尖らせた丸太を乗せた車で、城門を破るための兵器。
「主に手紙を書きましょう。署名は劉禅様にしていただいた方がよろしいかと存じます」
 法正が劉璋あての手紙を書き、私は署名した。

 一か月後、戦陣に四台の投石車と二台の衝車が届いた。
 魏延は喜び、張飛は「こんなものに頼るのか」と少し不満そうだった。趙雲は「兵を無駄に死なせずに済む」と言って、微笑んでいた。
「これはよい兵器です。これを真似て、この場でも生産しましょう」と魏延は言った。

 投石車と衝車による攻撃が開始された。
 巨石が城壁に当たり、壁がひび割れていった。
 衝車が城門に何度も衝突して、門を弱らせていく。

「このまま張魯に圧力をかけつづけます」と魏延が私に話しかけてきた。
「まだ我が軍に犠牲者は出ていないですね。よいことです」
「自分はまったく犠牲者を出さずに、南鄭城を落としたいと思っています。兄上、張魯に手紙を書いていただけませんか」
「どのような内容の手紙ですか」
「降伏勧告です。五斗米道の信仰の自由を認めるかわりに、漢中郡の支配権を譲り渡してもらいましょう」
「張魯には単なる宗教家になってもらうのですね。信仰の場として、新たな寺社を建ててやりましょうか」
「よろしいかと思います」

 私は手紙を書いた。
 使者に持たせて、城内に届けた。
 信仰の自由は完全に認めてもらえるのか、と問う張魯からの返信が来た。
 信仰は認めますが、五斗の米のうち三斗は郡役場に納めてもらわなければなりません。そのかわり、民政はこちらできちんと行います、と返事をした。
 少し考えさせてほしい、と張魯は書いてきた。

 魏延は降伏について交渉中であるという情報を、陽平関に流した。
 徹底抗戦派らしい張衛は、二万の兵を率いて、南鄭へ向かってきた。
 張飛と孟達が迎撃した。
 魏延と趙雲は城を睨み、動かなかった。城から打って出る兵は皆無だった。
 張飛が蛇矛で張衛の首を斬った。
「張衛は死んだ。降伏すれば殺さぬ。逃げる者は斬る」と張飛は叫んだ。
 一万五千の敵兵が降伏してきた。
 龐統の率いる文官たちが、彼らを我が軍に組み入れる事務を行った。

 張衛の敗北を見て、張魯は降伏してきた。
 身に寸鉄も帯びず、ひとりで私の幕営へやってきた。
「あなたが劉禅様ですか。本当に幼児なのですね」
「幼児ですが、張魯殿が降伏したからには、私が漢中郡を治めます」
「はい。信仰はつづけてよろしいでしょうか」
「かまいません。しかし、張衛殿が抵抗したので、条件は厳しくさせていただきます。五斗のうち四斗を南鄭城内に置く郡役場に納めてください」
「承知しました。郡内の民は傷つけないでいただきたい」
「もちろんです。張魯殿配下の三万の兵は、そのまま私の旗下としますが、よろしいですね」
「はい」
 話し合いは終わった。
 
 南鄭の戦いは終結した。
 建安十七年の春のことである。私は六歳になっていた。
 張魯軍を吸収して、劉禅軍は七万五千の大軍となった。
 軍を維持するため、龐統と法正が懸命に働き、漢中郡の民政を整えていった。
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