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37、【死亡者の生還】
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同日の正午、青宮から澄貴のもとに連絡が入った。緊急搬送され、入院していた森の意識が回復し、容態も落ち着いてきたというものだった。
遼と澄貴は迎えに来た青宮と本多と共に警察車両で病院へ向かった。
「思ったよりも回復が早いと医者が話してたよ」
「よかった……」
「森くんとは話せるの?」
「あぁ。むしろ、お前らと話したがってる」
「それで僕らを呼びに来たってわけか」澄貴は流れていく外の景色を眺めながら呟いた。その横顔は何かを考えているようだった。
「お前が暗号を解読したって話したら、大層ご機嫌だったぜ」
「だろうね。暗号を作る人は誰かに解いてもらうことを前提で作ってるからね。それが楽しみでもあるんだ」
「なるほど……」
「……塩ノ谷くん、なに納得してるの? こんなの常識だよ」
常識と言われても、遼には分からない。これまでの生活は暗号とは無縁だった。森や澄貴と出会っていなければ、一生関わることはなかっただろう。おそらく、この先も──
「ほら、着いたぞ。本多、悪いが適当なところに車を停めておいてくれ。なるべく早く戻る」早口で告げ、遼たちを車から下ろすと青宮は先頭に立ち、誘導しながら病院へと入っていった。
森が入院しているのは、市内でも一位・二位を争うほど大きな市民病院。平日だというのに、たくさんの科があるため、幼子から年配者まで様々な患者で院内は溢れていた。ロビーにいる人だかりを上から見たら、甘いものに群がるアリのようだろう。
人の波を抜け、エレベーターに彼らは乗り込んだ。青宮は【3】のボタンを押し、あっという間に目的の階に到着した。開いた扉の先には広々としたロビーがあり、全面ガラス張りで外の景色を一望出来るベランダも設けられていた。気分転換も兼ね、外の風に当たっていたのだろう。車イスに腰掛けた森がベランダで遼たちに手を振っていた。
「森!! 大丈夫か!?」駆け寄った遼に森は笑顔を向けた。
「大丈夫……とは、まだ言えないかな」
「心配したんだからな! それに、お前……死んだことになってるし」
「その話なら聞いたよ。──でも、よかった」
「は!? 生きてるのに……死んだことにされて何がよかったんだよ!?」
森に詰め寄る遼を青宮が取り押さえた。
「遼くん! 相手は少し前まで意識がなかった病人だぞ!」
「……すみません。でも、納得がいかなくて……」
「君がそう思っても無理はないよ」上がった息を整えながら、森は続ける。
「生きているのに戸籍上では死んでいる。僕の存在は幽霊みたいなものになった。──でもね、そのほうが都合がいいことも世の中にはあるんだよ」
「……俺には分からない。生きているのに……」
「そうだね……。僕の存在は消えたけど、僕自身は生きている。見方を変えれば、僕は自由になったんだ。塩ノ谷くん、君に約束するよ。見えない存在になったからには、悲しい事件に巻き込まれる人を減らすって」
「……森」
「だから、これでいいんだ」と森は笑った。存在しない存在、目の前で死亡者は生還した。それも前よりも何倍も逞しい存在となって。
「生きていると行動に制限がある。僕たちは学生だから、特にね。特別な権限があれば話は別だけど、一般人には踏み込める限界がある。でも、今の僕にはそれがない。どこにでも行って、好きなように情報を手に入れることができる。これって、すごい特権だと思わない?」
生きている者に与えられた人としての権利。しかし、時にそれが邪魔をする時もある。森が言っていることも一理あるかもしれない。理解はできても遼には、どうしても納得できなかった。
「君の暗号のおかげで犯人に辿り着くことができたよ。ありがとう、森くん」場の空気をさらっと変えたのは澄貴だった。ベランダに吹いている涼しげな風同様、澄貴の顔にもドライな笑みが浮かんでいる。
「さすがだね、田部井くん」
「まぁね」
「けどよ、どうせ暗号使うなら犯人の名前伝えればいいだろ?」
「分かってないねー、青宮さんは。それじゃ暗号にならないでしょ」呆れたように息を吐き出すと、澄貴は続けた。
「犯人が暗号を解読したら、どうするの? 下手に犯人の名前出しちゃったら、暗号を宛てた人物を消しにかかるかもしれないし、犯人自体が命を絶っちゃうかもしれない。どちらに転んでも最悪な結末になるだろうね」
「そういうもんか? 俺や遼くんみたいに読めないやつのほうが圧倒的に多いと思うけど……」
「【備えあれば憂いなし】だよ。青宮さんの場合、読む気すらないでしょ?」
「あぁ。頭を使うのは俺の専門外だ」
「……警察の人間とは思えない発言だね」
「いいんだよ。向き不向きは誰にでもあるだろ? 警察官だからって、何でも出来なきゃいけないわけじゃない」
青宮の言い分も、ごもっともだ。澄貴の発言は時々警察に向けて厳しいものがある。どうしてなのか遼はずっと気になっていた。
「田部井くん、警察嫌いだよね」
「……森もそう思ってたのか」
「うん。あまり、いい思い出がないのかもしれないよ」
「いい思い出?」
「田部井くんから聞いてなかった? 彼のお父さん、元警察官なんだよ」
「え!?」
「それも、青宮さんの上司だったんだ」
青宮が話していた上司が澄貴の父親……。澄貴からは想像のつかない父親像に遼は声を失った。『上司もスカジャンを着ていた』と青宮は話していた。その彼に憧れて自分もスカジャンを着ている、とも。
「だからって嫌いにはならないだろ?」
「……殉職してるんだよ」いつの間にか、いがみ合いは終わっていたらしく、青宮が会話に加わった。
「立派な人だった。俺に刑事のノウハウを教えてくれた。若いくせに頭の切れはピカイチで、ベテラン刑事も一目置く存在だった。……だからだろうな」
雲一つない空を見上げ、青宮は声を落とした。
「──先輩は消された。その証拠もろとも、な」
「そんな!?」
「俺が警察嫌いな理由が分かったかい、塩ノ谷くん。【正義】なんて存在しないんだよ、組織には。都合の悪い奴は消される」
ちらりと青宮に遼が視線を送ると、「俺は優等生だから大丈夫だ!」と胸を張った。「自由行動ばかりの不良刑事がよく言うよ」すかさず澄貴の鋭いツッコミが飛んできた。
「そろそろ病室に戻るね」森の声に言い合っていた彼らの発言が止んだ。晴れているとは言え、11月上旬の風は冷たい。
澄貴と青宮は森に気を使い、「ここで待ってる」とエレベーター前で別れた。遼は森の車イスを押し、ベランダから院内へ戻り、病室へ向かった。
「悪かったな。長く付き合わせて」
「ううん。塩ノ谷くんとこうして話せて楽しかったよ。……きっと、これが最後になるから」
「え?」
「僕は、もう【森】じゃないんだ。新しい名前で、これからは生きていく。退院後は、探偵事務所に就職するんだ」
「じゃあ、高校は……卒業式も出られないのか」
「そうなるね。【森】は死んだから。……でも、予定は前倒しになっちゃったけど、夢が叶ったことに変わりはないよ。僕の憧れの探偵【モノクロカメレオン】と一緒に仕事ができるんだから」
「この間、ファミレスで話してた【モノクロカメレオン】か?」
「そう。彼は、何にでもなれるんだ。頭脳明晰で変装術に|長(た)けている。僕もこれからは、彼のように何にでもなれる。だから──塩ノ谷くんと、こうやって会うことはもうできない」
「そんな……」
「でも、大丈夫。僕は必ず、どこかで生きてるから。もしかしたら、街ですれ違うかもしれない」
「……そうだな。どこにいても、俺はお前を応援してるから」
「ありがとう。僕も君を応援してるよ。あ、ここで大丈夫。それじゃ、塩ノ谷くん。犯人、捕まえてね。──誰であっても、絶対に」
「分かった」握手を交わし、遼は森と別れた。そこは、病室の分岐路。右方向にも左方向にも病室はいくつもある。どこが森の病室かは分からない。彼は新しい名前を知られたくなかったのだろう。
生まれ変わった森の新たな日々が始まっていく。その門出を背中で見送り、遼も自身の前に広がっている道を歩き出した。
遼と澄貴は迎えに来た青宮と本多と共に警察車両で病院へ向かった。
「思ったよりも回復が早いと医者が話してたよ」
「よかった……」
「森くんとは話せるの?」
「あぁ。むしろ、お前らと話したがってる」
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「なるほど……」
「……塩ノ谷くん、なに納得してるの? こんなの常識だよ」
常識と言われても、遼には分からない。これまでの生活は暗号とは無縁だった。森や澄貴と出会っていなければ、一生関わることはなかっただろう。おそらく、この先も──
「ほら、着いたぞ。本多、悪いが適当なところに車を停めておいてくれ。なるべく早く戻る」早口で告げ、遼たちを車から下ろすと青宮は先頭に立ち、誘導しながら病院へと入っていった。
森が入院しているのは、市内でも一位・二位を争うほど大きな市民病院。平日だというのに、たくさんの科があるため、幼子から年配者まで様々な患者で院内は溢れていた。ロビーにいる人だかりを上から見たら、甘いものに群がるアリのようだろう。
人の波を抜け、エレベーターに彼らは乗り込んだ。青宮は【3】のボタンを押し、あっという間に目的の階に到着した。開いた扉の先には広々としたロビーがあり、全面ガラス張りで外の景色を一望出来るベランダも設けられていた。気分転換も兼ね、外の風に当たっていたのだろう。車イスに腰掛けた森がベランダで遼たちに手を振っていた。
「森!! 大丈夫か!?」駆け寄った遼に森は笑顔を向けた。
「大丈夫……とは、まだ言えないかな」
「心配したんだからな! それに、お前……死んだことになってるし」
「その話なら聞いたよ。──でも、よかった」
「は!? 生きてるのに……死んだことにされて何がよかったんだよ!?」
森に詰め寄る遼を青宮が取り押さえた。
「遼くん! 相手は少し前まで意識がなかった病人だぞ!」
「……すみません。でも、納得がいかなくて……」
「君がそう思っても無理はないよ」上がった息を整えながら、森は続ける。
「生きているのに戸籍上では死んでいる。僕の存在は幽霊みたいなものになった。──でもね、そのほうが都合がいいことも世の中にはあるんだよ」
「……俺には分からない。生きているのに……」
「そうだね……。僕の存在は消えたけど、僕自身は生きている。見方を変えれば、僕は自由になったんだ。塩ノ谷くん、君に約束するよ。見えない存在になったからには、悲しい事件に巻き込まれる人を減らすって」
「……森」
「だから、これでいいんだ」と森は笑った。存在しない存在、目の前で死亡者は生還した。それも前よりも何倍も逞しい存在となって。
「生きていると行動に制限がある。僕たちは学生だから、特にね。特別な権限があれば話は別だけど、一般人には踏み込める限界がある。でも、今の僕にはそれがない。どこにでも行って、好きなように情報を手に入れることができる。これって、すごい特権だと思わない?」
生きている者に与えられた人としての権利。しかし、時にそれが邪魔をする時もある。森が言っていることも一理あるかもしれない。理解はできても遼には、どうしても納得できなかった。
「君の暗号のおかげで犯人に辿り着くことができたよ。ありがとう、森くん」場の空気をさらっと変えたのは澄貴だった。ベランダに吹いている涼しげな風同様、澄貴の顔にもドライな笑みが浮かんでいる。
「さすがだね、田部井くん」
「まぁね」
「けどよ、どうせ暗号使うなら犯人の名前伝えればいいだろ?」
「分かってないねー、青宮さんは。それじゃ暗号にならないでしょ」呆れたように息を吐き出すと、澄貴は続けた。
「犯人が暗号を解読したら、どうするの? 下手に犯人の名前出しちゃったら、暗号を宛てた人物を消しにかかるかもしれないし、犯人自体が命を絶っちゃうかもしれない。どちらに転んでも最悪な結末になるだろうね」
「そういうもんか? 俺や遼くんみたいに読めないやつのほうが圧倒的に多いと思うけど……」
「【備えあれば憂いなし】だよ。青宮さんの場合、読む気すらないでしょ?」
「あぁ。頭を使うのは俺の専門外だ」
「……警察の人間とは思えない発言だね」
「いいんだよ。向き不向きは誰にでもあるだろ? 警察官だからって、何でも出来なきゃいけないわけじゃない」
青宮の言い分も、ごもっともだ。澄貴の発言は時々警察に向けて厳しいものがある。どうしてなのか遼はずっと気になっていた。
「田部井くん、警察嫌いだよね」
「……森もそう思ってたのか」
「うん。あまり、いい思い出がないのかもしれないよ」
「いい思い出?」
「田部井くんから聞いてなかった? 彼のお父さん、元警察官なんだよ」
「え!?」
「それも、青宮さんの上司だったんだ」
青宮が話していた上司が澄貴の父親……。澄貴からは想像のつかない父親像に遼は声を失った。『上司もスカジャンを着ていた』と青宮は話していた。その彼に憧れて自分もスカジャンを着ている、とも。
「だからって嫌いにはならないだろ?」
「……殉職してるんだよ」いつの間にか、いがみ合いは終わっていたらしく、青宮が会話に加わった。
「立派な人だった。俺に刑事のノウハウを教えてくれた。若いくせに頭の切れはピカイチで、ベテラン刑事も一目置く存在だった。……だからだろうな」
雲一つない空を見上げ、青宮は声を落とした。
「──先輩は消された。その証拠もろとも、な」
「そんな!?」
「俺が警察嫌いな理由が分かったかい、塩ノ谷くん。【正義】なんて存在しないんだよ、組織には。都合の悪い奴は消される」
ちらりと青宮に遼が視線を送ると、「俺は優等生だから大丈夫だ!」と胸を張った。「自由行動ばかりの不良刑事がよく言うよ」すかさず澄貴の鋭いツッコミが飛んできた。
「そろそろ病室に戻るね」森の声に言い合っていた彼らの発言が止んだ。晴れているとは言え、11月上旬の風は冷たい。
澄貴と青宮は森に気を使い、「ここで待ってる」とエレベーター前で別れた。遼は森の車イスを押し、ベランダから院内へ戻り、病室へ向かった。
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「え?」
「僕は、もう【森】じゃないんだ。新しい名前で、これからは生きていく。退院後は、探偵事務所に就職するんだ」
「じゃあ、高校は……卒業式も出られないのか」
「そうなるね。【森】は死んだから。……でも、予定は前倒しになっちゃったけど、夢が叶ったことに変わりはないよ。僕の憧れの探偵【モノクロカメレオン】と一緒に仕事ができるんだから」
「この間、ファミレスで話してた【モノクロカメレオン】か?」
「そう。彼は、何にでもなれるんだ。頭脳明晰で変装術に|長(た)けている。僕もこれからは、彼のように何にでもなれる。だから──塩ノ谷くんと、こうやって会うことはもうできない」
「そんな……」
「でも、大丈夫。僕は必ず、どこかで生きてるから。もしかしたら、街ですれ違うかもしれない」
「……そうだな。どこにいても、俺はお前を応援してるから」
「ありがとう。僕も君を応援してるよ。あ、ここで大丈夫。それじゃ、塩ノ谷くん。犯人、捕まえてね。──誰であっても、絶対に」
「分かった」握手を交わし、遼は森と別れた。そこは、病室の分岐路。右方向にも左方向にも病室はいくつもある。どこが森の病室かは分からない。彼は新しい名前を知られたくなかったのだろう。
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