モノクロカメレオン

望月おと

文字の大きさ
20 / 44

19、【協力者①】

しおりを挟む
 カラン……

 森が冷水を飲み干し、テーブルに置いた空のグラス。その中で氷が踊った。二年前の記憶から、氷の音が二人を現実に引き戻した。

「そうだったのか……」
「うん。だからかな……。君と先生の関係を知っていても、記事にしなかったのは」
「……ありがとな。辛いこと、話してくれて」
「ううん。こっちこそ、話を聞いてくれて少し心が軽くなったよ」

 人は言わないだけで、誰だって【何か】を抱えている。人の生きる道には、それだけ【何か】があるいうことなのかもしれない。そんなことを考えながら、遼は冷水を喉に流し込んだ。

「お待たせしました! 海老ドリアとマルゲリータピザです」
「うまそー!! ありがとう」
「……って、アンタたち。ドリンクバー頼んでるのに、なんで水飲んでるの? フツー、真っ先にドリンクバー行くでしょ?」

 「話に夢中になっちゃって……」驚きを通り越して呆れている由衣に、はにかんだ笑みを森は浮かべた。

「もしかして……先生のこと?」
「まぁな。……んっ、美味い!!」
「当然でしょ? その海老ドリア、冷凍食品だし」
「貝塚さん、それ言っちゃダメでしょ! ここの従業員なんだし……」

 森が人差し指を自身の口に当てながら「しっ!」のポーズを取っている。それに対し、由衣は「知り合いに嘘はつけない」と森を見下ろした。彼女の真っ直ぐな性格は良くも悪くもある。

 遼も森も同じことを思っていた。【彼女に秘密は言えない。だが、知りたい情報を彼女から聞き出すことは出来る】

「二人とも、まだ帰らないよね?」
「うん。今日は予定ないから」
「あぁ。俺も時間は余ってるくらいだ」
「私、今日ヘルプで入ってるんだ。パートさんが七時から来ることになってるから、上がったら私も男子会に混ぜて」

 遼と森は顔を見合わせ、すぐに了承した。「ありがと! あ、食べ終わったらベル鳴らして。パフェ持ってくるから」と由衣は告げ、入店した客の接客へ向かった。

「飲み物取ってくるか」
「そうだね」

 ドリンクバーには様々な種類の飲み物がある。特に紅茶の種類が豊富だ。一度来ただけじゃ飲み切れないほどの数がある。ここのファミレスは、家族というよりもママ会をしたり、女子会をしている主婦層をターゲットにしている。今の時間帯は学生が多く利用しているが、平日の昼ともなれば大半の客は主婦の方々だ。

「……森、それ飲むのか?」
「うん」

 森は透明のポットに茶葉をティースプーン三杯ほど入れた。彼が手にしている瓶には【ジャスミン】と書かれている。

 遼はメロンソーダを氷の入ったグラスに注ぎながら、森の行動を観察していた。自分と同い年の男子がジャスミンティーを作っている。初めて見る光景に目が釘付けになっていた。

 「そんなに珍しい?」席に戻ってからも、森への観察は続いていた。

「ファミレスで紅茶飲む奴、初めて見た。大体は、炭酸ジュースが多いから。女子が紅茶を飲んでるのは見かけるけど」
「男子でも紅茶好きは多いよ? サッカー部の部長、テニス部の副部長、美術部の部長、それから吹奏楽部の部長とか」
「へー。意外といるんだな」
「それに僕が飲んでるジャスミンティーはリラックス効果もあるんだ。重い話をするには、うってつけの飲み物だよ。……話があって、僕を呼び出したんでしょ?」

 ピザを完食し、ドリアも残り一口。それを食べ終えてから、「本題に入るか」と遼は告げた。

「俺がお前を呼び出したのは、協力してほしいからだ」
「ずいぶん、ストレートなお誘いだね」
「回りくどいのは苦手なんだよ」
「……わかった、協力する。──ただし、条件が1つ」
「条件?」
「田部井くんと仲良くなりたいんだ」
「……森も物好きだな。あんな変人と仲良くなりたいなんて」
「塩ノ谷くんだって、田部井くんと仲がいいじゃないか! ……同棲、してるんでしょ?」
「ぶっ!?」

 メロンソーダが遼の口から弾け飛んだ。すぐさま手で防波堤を作ったから被害は拡大せず済んだが、テーブルに飛散し、ところどころ小さな水溜まりが出来ている。

「人が飲んでる時に変なこと言うなよ! 同棲って……アイツは居候だ!」
「同じ家に住んでるなら、どっちだって同じでしょ。僕、思うんだ。絶対、田部井くんは凄い人物だよ!」
「いや、違うって! ……まぁ、ある意味【特殊な奴】だとは思うけど」

 散らかした自分の粗相をおしぼりで拭きながら、遼は森の話に耳を傾けた。

「彼について調べてみたんだけど……【謎】しか出てこないんだ」
「……だろうな」
「ねぇ、今晩泊めてくれない?」
「は? 話飛びすぎてるぞ?」
「もう親には塩ノ谷くんの家に泊まるって伝えてあるんだ。この通り、着替えも持ってきた」
「……さすが、用意周到だな」
「そういうわけだから、よろしく! 明日、学校休むって岸田にも伝えた」
「そこまで準備したのかよ……」
「当たり前でしょ!」
「……お前、田部井と気が合うかもな」

 その分、俺の苦労も倍になりそうだ……と心のなかで遼は泣いた。

「条件は飲んだぞ。……先生について、何か気になる情報入ってないか? 何でもいい」
「そう言うと思って、まとめて来たんだ」
「さすが! サンキュ!!」

 森から手渡されたファイルに目を通していると、森から質問が飛んできた。

「どうして先生と別れたの?」

 周囲からしたら、突然に感じたかもしれない。しかし、遼と響子の間では四月に入った段階から別れ話は出ていた。元々、二人は生徒と教師の関係だ。遼は恋人である前に可愛い教え子の一人。自分との恋にうつつを抜かして、彼の夢を奪ってしまうことだけはあってはならない。響子は、そう考えていた。

「受験があるからだよ。でも、大学に行っても寄りは戻さないって約束したんだ。……教員免許取ったらプロポーズする予定でいたから」
「やっぱり、君たちの恋愛は真剣だったんだね」
「でも、先生には伝えられなかった。【寄りは戻さない】としか」
「……やるせない。きっと、先生も──」
「どうだろうな。今さら答えが見つかるわけじゃないから、考えるのはやめたよ」

 遼は嘘をついた。やめたのではなく、【諦めた】のだ。彼女の考えを聞くことは二度と叶わない。自分の解釈で彼女の気持ちを決めつけたくなかった。人は一人一人、異なる思考を持っている。それをしてしまったら、響子の存在を打ち消してしまう。

 遼は小石川 響子を二度死なせたくなかったのだ。

「あ! 大変だ! 続きは、塩ノ谷くんの家で見て!」

 遼の手からファイルを奪い取ると、森は自身のバックに放り込んだ。何を慌てているのだろう。

「塩ノ谷くん」
「どうした?」
「貝塚さんを信用しちゃダメだよ」
「──え?」

 「お待たせー! アタシも混ぜて」屈託のない笑顔で現れた由衣に「遅かったね」と森は微笑み返した。

 遼は笑えなかった。森が放った『貝塚さんを信用しちゃダメだよ』のフレーズが耳に残っている。由衣に怪しまれないよう、疑いをメロンソーダに混ぜ、喉の奥に流し込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...