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3話【豹変①】

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赤ずきんちゃんは狼をジッと見つめる。
怖がる様子も、逃げる様子もなく、ただ狼を見続けていた。

一方、狼はその純粋無垢な視線に耐えられず
時折、目を伏せ。時折、視線を外しながら、この後どうするかを考えていた。

このままガブっと噛みつければ、どれほど楽だっただろう。
今日ほど自身の狩猟本能の低さを恨んだ日は無い。

やがてポツリと、赤ずきんちゃんが狼に問いかける。

「どうしたの狼さん?狼さんもリンゴを取りに来たの?」

赤ずきんちゃんの問いかけに、助かったとばかりに狼が口を開く。

「あ、ああそうなんだよ。おいしそうなリンゴが生っているのを見てね、つい。」

狼はそう答えると、再び四つん這いになり
赤ずきんちゃんをよそに、リンゴの木に向かって歩いていく。

よかった。これで赤ずきんちゃんを襲うこともない。
それに狼を見ても、毅然とした態度。あれならば村に戻っても、村人に吹聴する心配もなさそうだ。

さっきまでの張りつめた緊張から解放された狼は
リンゴの木の下まで行くと、緩んだ表情で落ちているリンゴに口をつける。

瑞々しい果汁が口いっぱいに広がり、乾いた喉を潤す。
夢中で一個食べ終えると、もう一個、近くに転げ落ちているリンゴへと足をのばす。

そしてリンゴを口に運ぼうとすると、〝ゴン〟と鈍い音がした。
その刹那、狼の視界がグラっと揺らぎ、気づけば視線がグンと下がり体が重い。

「あ…れ…?」

地面に突っ伏してしまった事に気づき、上体を起こそうとするも
体が重く上手く立ち上がれない。

「どうしたの?狼さん」

頭上から赤ずきんちゃんの声がする。
狼は視線を赤ずきんちゃんの方へ向けると、瞬時に全てを把握し、絶望した。
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