魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ

文字の大きさ
上 下
11 / 55

9.赤い水晶1

しおりを挟む
クラウスが翌日目を覚ますと、体はまだギシギシと鈍痛がしていた。まだ痣が残っているからだろう。しかし、ギルバートが治してくれたおかげで、少し転んだ程度の痛みだ。

やはり医務室に行った方がいいか。

どうやら昨日のことは学園に知られているようで、医務室に行くとおばさんが色々教えてくれた。

昨日の数人の生徒は、今までも平民の学生に嫌がらせをするなどの問題行動が多く、結局この学園から去ることとなったらしい。皆貴族の子で後ろ盾があったが、この国の王子であるギルバートの証言が大きな一手となったのだ。

ギルバートはかなり怒っていたという。昨日助けてくれた時のことを思い出してぐっと来るものがあるが、最後に言われたことも思い出して落ち込んだ。
 
『君も魔法が使えないなんて嘘つく愚かな行為は今すぐ辞めて、魔法を習得することだ』

…魔力がないのは嘘ではないが…この世界の人がそれを信じられないのも分かる。だって住んでた世界が違うのだ。

だからこそ、俺は”どんな手を使ってでも”魔法を習得しなければならない。

クラウスは、この時相当焦っていた。

あまりにも魔法が使えなさすぎる。クラウスだって、最初は初級魔法くらい使えるだろうと思っていたが、そんな期待は早くも打ち砕かれた。所詮、俺がただ転移してきただけの平凡な地球人だということを痛感する。

──でも、このままでは、俺は”ゼトの生まれ変わり”だと言われて、いつか国に捕まったりしそうで怖い。すでにこんなに嫌われてる。



「なあ、リリー、魔力を高める方法ってどんなのがある?」

リリーと2人、いつものように図書館で勉強している時に聞いてみた。
リリーは、魔法オタクで、魔法に関する本をたくさん読み漁っていた。

「…そうね。昔は、全国の大魔法使いたちは精霊の山に登って、魔力を高めたと言われているわ。今じゃ、そんなことする人いないけど。今は、そんなに魔力量を必要としなくても生きていける時代だし、その大魔法使いの話も御伽噺みたいなものだから」
「ふうん。…その精霊の山って、今もある?」
「あるわよ。フィルへイムにあるのは、クルツ山。ここから近いのよ。ほら、この学園からも見えるあの尖った山よ。通称、”魔石山”とも言われているの」

リリーに言われて窓から見ると、確かに、学園の割とすぐ近くに山が見える。

「まぁ、魔石山に行く人は滅多にいないわね。行くのはそれこそ魔石を取りに行く魔石商人くらいかしら。行っても、魔石がたくさんあるだけで、特に魔力が高まるとは思えないけど…」

行きたいの?とリリーが若干心配そうに聞いてくる。

「どんな所なのか見るだけだよ…魔法を使えるなら、全部の方法を試してみたいんだ」
「…行くのは止めないけど…気をつけてね。ちなみに、毎週日曜日に商人の馬車が魔石山に向かうから、それに乗せてもらえるわよ」
「リリー、ありがとう!」

リリーが博識で助かる。
さっそく、クラウスは魔石山に行ってみることにした。







「これが、魔石山…」

クラウスは、目の前に聳える鋭利な三角形の山を見上げていた。裾野の方はなだらかだが、山頂は尖っているように見える。こんなの登れるのか?!

「おーい、兄ちゃん」

その時、一緒に馬車に乗せてくれた商人のおっちゃんが声をかけてくる。この商人は、クラウスの容姿を見ても何の反応も示さず、快く馬車に乗せてくれて良い人そうだった。

「見惚れてねえで、ホレ、さっさと行くぞー」
「え?」
「魔石見に来たんだろ?魔石は、この山ん中にあるんだぜ。山道もあるが急すぎて登れねえから、俺たちゃ山ん中の坑道を行くんだよ」

なるほど。魔石山の内部は坑道が張り巡らされているらしい。

商人に続いて魔石山の中に入って行くと、すごい景色が広がっていた。至る所に魔石がキラキラ光っており、坑道内を淡く照らしている。幻想的で綺麗だ。こういうダンジョンありそう。
魔石とは、見た目がクリスタルのようなものや、その辺の石みたいなものなど様々あるが、一様に色とりどりに光るのが特徴だ。ここは、クリスタルのような綺麗なものが多い。

「俺たちはこういう山で魔石を採って売るのと、使い切られた魔石をまた山に戻す仕事をしてんだ。そうすると、魔石はまた時間をかけて魔力を溜める」

道中、商人と話しながら歩く。

「魔石がある山ってのは、元々魔力が多いところって言われてる。この魔石山なんて、精霊の山だから特にそうだろ。だから、大昔の魔法使いや魔女はここで修行したんでねえのかね」
「ここで修行するだけで、魔力が強くなるんですかね?」
「…んー、いや、正直場所はあんま関係ねえと思うんだ。過酷な山で修行することで、精神を鍛えるんじゃないかね」
「…そうですか」
「あー!そんなしょげんなって!…そうだ、特別にこの山の噂を教えてやるよ。どうも、この山には特別なクリスタルがあるらしい。俺もまだ見つけちゃいねえが、この山に詳しい者ならあるいは知ってるかもしれんな。そのクリスタルは、”魔力を高める”って噂だぜ」

なんと、魔力を高めるクリスタルか。

「ところで、俺はここらの魔石を集めるが、兄ちゃんはどうするね?上まで行けるけど、その先は魔石もねえから誰も行かんがね。この坑道は灯もあって分かりやすいから、先に行きたけりゃ1人で行って戻れるだろう。夜までに馬車の所に戻ってくれれば一緒にまた街まで連れてってやるよ」
「わかりました。俺はちょっと先まで行ってみます」

そこで、クラウスは商人と別れ、先に進んだ。

魔石山は、坑道を通って上の方までいける。クラウスは、とりあえず上まで登ってみることにした。途中、木製エレベーターみたいなのがあって、楽に上まで行けた。そうすると、次第に魔石が減少し、最後には薄暗い水晶だった石に囲まれた空間になる。誰もここに来ないというのは本当なのか、道も古くなっていた。

なんか雰囲気が変わったな。古びているのに、誰かが使った形跡のある坑道。ここに人は滅多に来ないはずなのに、なんで?

そんなことを考え油断していたのか。

ズボッ

と突然、クラウスが古びた木製の道を踏んだ瞬間に足が落ちた。

まずい!落ちる!

と思った時には、クラウスは道を突き抜け、水晶の隙間に落ちていた。

ッ!

クラウスは硬い石に当たることを予想しギュッと目を閉じるが、思ったより衝撃は少なかった。それでもドスッとどこかに落ちたようだ。イテテ…

どこに落ちた…?

クラウスがうっすら目を開けて辺りを見ると、自分が水晶に囲まれた空間にいることが分かる。
薄暗い空間だが、ぼんやりと赤い光に照らされていた。

なんだろう…この赤い光。

光源を辿り、クラウスは目を滑らせると、水晶の隙間に何か赤く光り輝くものが見えた。
どうしても気になり、クラウスはヨロヨロ立ち上がって近づく。見ると、それは赤く光るクリスタルだった。小さくて、透き通った赤色だ。

クラウスは魅せられたように無意識にそれに手を伸ばした。

「それは危険じゃ!」


しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

処理中です...