透明色の魔物使い~色がないので冒険者になれませんでした!?~

壬黎ハルキ

文字の大きさ
上 下
179 / 252
第五章 迷子のドラゴン

179 語る二人、馳せる思い

しおりを挟む


 それから、数日が経過した。
 マキトたちは無事に、ユグラシアの待つ森へと帰還。引率者であるディオンは、ユグラシアにこれまでの出来事を全て話した。

「そう……色々と大変だったのね」

 ディオンから話を聞いたユグラシアは、暖かい紅茶の入ったカップを置く。

「何はともあれ、ドラゴンちゃんが無事に帰れて良かったわ」
「えぇ。そこは本当に同感です」

 ディオンも苦笑気味に頷いた。彼からすれば不完全燃焼ではあったが、それでも当初の目的は果たせたとも言えるため、なんとも表現しがたい感情が湧き出ていることは拭えない。
 それも含めて彼の口からしっかりと語られており、ユグラシアも気持ちは分かると言わんばかりに笑みを浮かべてはいた。

「魔力スポットに関しては、もう後はこちらの問題です。マキト君たちは見事、務めを果たしました」
「そうね。あの子たちも立派にやってくれたわ」

 ディオンの言葉にユグラシアもしみじみと頷く。その時、外から明るく賑やかな声が聞こえてきた。
 重々しい雄たけびも耳に入り、思わずユグラシアは笑ってしまう。

「なんだか随分と、大きなお土産を持って帰ってきたみたいだけど」
「全くです」

 ディオンもため息交じりに笑った。

「少しでも早くドラゴンの姿で飛べるようにするーとか言って、帰り道は極力ドラゴンに変身してたんですよ? 余計な騒ぎにならなかったのが奇跡でした」
「フフッ、それはそれはご苦労様でした」

 軽く握った手を口元に添えながら、ユグラシアは軽く笑う。

「それでも、あの子たちの行動を制限させることは、しなかったんでしょう?」

 そして澄ました表情となり、覗き込むような視線を向けつつ問いかける。それに対してディオンは、全てを見透かされているような気分に駆られた。

「……えぇ、まぁ」

 どこか居心地が悪そうにディオンは目を逸らす。

「フォレオの新しい力を試す必要があることは事実でしたので。本物のドラゴンとどこまでが同じでどこからが違うのか、この目で見てみたかったですからね」
「なるほど」

 ユグラシアは特に不覚追及せず、頷くだけに留めた。
 恐らく彼の言っていることは本心なのだろうが、それが全てではない。マキトたちの好きにさせてあげたかった――そんな親心に等しい気持ちが働いたのではないかと思っていた。
 断じてからかいではない。純粋にユグラシアがそう感じただけのことだ。
 自分も同じ気持ちを幾度となく抱いたことがあるからこそ、余計にそう思えてならなかった。

「正直、マキト君たちが帰ってきた時は驚いたわ」

 紅茶を一口飲みながら、ユグラシアは話題を切り替える。

「この半月弱で、あの子たちが随分と逞しくなったように見えたもの。これもディオン先生の教えが効いたおかげかしら?」
「いえ、自分もまだまだですよ」

 ここは少しだけからかいが込められていた問いかけだったが、ディオンは即座に首を左右に振る。
 照れ隠しなどではなく、彼の本心によるものであった。
 今までずっと旅をしながら、マキトたちにその心得を教えてきた。ちょっとした試練のつもりであり、それなりに厳しくしたこともあった。
 しかしそれだけではなかったと、ディオンはここに来て思った。
 実は自分も試練を受けていたのだ、と。
 冒険者として名が売れ、待遇が変わった。教わる立場から教える立場となり、下から頼られることが多くなった。
 そこに潜む油断に対し、どれだけ問題なく対処できるか――そんな試練を、自分はこの旅で課せられていたのかもしれないと、改めて思ったのだった。

「あの子たちに自分の知識と技術を教えてやりましたが、同時にあの子たちから、色々と教えられた気もしたんです」
「そう。いい経験をしたのは、あの子たちだけじゃなかったということね」
「はい」

 ディオンは頷き、紅茶のカップを手に取る。

「本当に……あの子たちの将来が楽しみですよ」

 そして紅茶を飲んだ瞬間、ディオンの動きがピタッと止まる。すっかり冷めてしまっていたという、計算外な展開を味わったのだった。


 ◇ ◇ ◇


「グワアアアオオオォォーーーッ!」

 ばさっ、ばさっ――と音を立てながら、フォレオが空を飛んでいた。
 この数日で完全に順応したということがよく分かる。特に大森林には魔力が満ち溢れていることもあって、変身姿をより保ちやすい様子であった。

「フォレオのヤツ、元気いっぱいだよなぁ」
「ん。帰ってきたばかりなのに、あれだけはしゃげるのは凄い」

 神殿の入り口にある階段に並んで座りながら、マキトとノーラは表の広場をぼんやりと眺めている。
 森の魔物たちも集まっており、フォレオが変身の凄さを披露していた。
 自在に空が飛べるようになったことを周りが驚き、フォレオはどうだ凄いだろうと言わんばかりにご機嫌な状態であった。

「しっかしまぁ、アレだよな」

 吸い込まれるような青い空を見上げながら、マキトが呟くように言った。

「色々あったし大変だったけど……楽しい旅だったよな」
「ん。それは同感」

 ノーラも小さく笑いながら頷く。

「特にマキトが楽しそうにしているのを見れたのが、一番楽しかった」
「えっ、そんなにだったか?」
「ん。間違いない」

 深々と頷くノーラは、それ相応の自信が込められていた。

「あんなに楽しそうにしているマキトは、ノーラも初めて見た」
「そっか。そりゃ気付かなかったな」

 少しだけ気恥ずかしい気持ちに駆られるマキトだったが、それを否定するつもりは毛頭なかった。
 むしろ、より前面に押し出したいという思いが、膨れ上がっているほどである。

「でも実際楽しかったもんな。平原とか町とか、冒険者ギルドとか……初めて見るもんだらけだったし」

 そう発言するマキトの口調は、年相応の少年のように明るく、ワクワクした気持ちが滲み出ていた。
 森の中で過ごすのも確かに楽しい。しかし広い世界に飛び出すのも楽しい。
 今回の旅で味を占めたのだ。
 故にマキトは、帰ってきた時点で強く思っていることがあった。

「今度は自分たちの力だけでやってみたいよ。今回はディオンさんに頼りっぱなしだったからさ」
「ん。それができるようになれば、もっと旅が楽しくなる」
「だよな」

 マキトはにししっと楽しそうに笑う。しかしそこで一つ思い出してしまった。

「あーでも……最後の最後は、ちょっと残念だったかも」
「何が?」
「魔力スポット」
「あー」

 ノーラも改めて思い出してしまい、浮かない表情をしてしまう。
 あのような状況では致し方なかったとはいえ、やはり魔力スポットを元に戻してあげたかったという気持ちはあった。
 そしてマキトも、魔力スポットに対して改めて考えていることがあった。

「森の魔力スポットと何か違うのかなーって、今になって思うんだよな。環境が変わるだけで住んでる魔物が変わるんだし、魔力スポットもそうなんじゃないかって思えてくるんだよ」
「んー、あり得る気はする」
「だろ?」

 やっぱりそうだよなーと言わんばかりに、マキトは満足そうな表情を浮かべる。そこにノーラが、小さく笑いながら彼のことを見上げた。

「なら、それを旅する目的にしてしまえばいい」
「――へっ?」
「世界中の魔力スポットを巡る。それを目標に旅をすればいい」

 淡々と提案してくるノーラ。その言葉一つ一つが、脳に直接刺激を与える。マキトは今、不思議な感覚がしてならなかった。

「いいかもしれないな、それ……」
「ん。ついでに現地の魔物たちとも仲良くなれば、なお完璧になる」
「魔物たちと?」

 マキトが問いかけると、ノーラが「ん」と頷いた。

「人と魔物の繋がりを築き上げていく。マキトならできる」
「冒険者は人と人の繋がりだって、ディオンさんが言ってたけど……それの魔物使い版みたいなもんか」
「そんな感じ」

 ノーラがニコッと笑う。マキトはどことなく、胸がザワザワしていた。
 そんな考え方もあるのかと思った。同時に凄く興味も沸いていた。少し想像してみただけでも、その姿が容易に浮かんでくる。
 魔物たちと一緒に世界各地を飛び回り、そして走り回りながら、人が立ち入らないような大自然の中を突き進む。そして見つけるのだ。神秘という言葉がふさわしい輝ける魔力の結晶――魔力スポットを。
 誰かに教えて自慢したいとかは一切ない。ただ、そうしたいだけなのだ。
 魔物たちと笑い合いながら、楽しく過ごすことが大前提だ。それはこれからも決して変わらない。

(少し、魔物狩りの練習とか、本格的にしてみようかな?)

 マキトはひっそりと決意を固めていた。
 例え冒険者になれなくとも、生きていく上で狩りの技術は必要不可欠。旅をするのならば尚更だと。
 それもこの旅で、身をもって教わったことだった。
 もっと勉強してちゃんとできるようになりたい――そう思っていた。

「マスター!」

 ぼんやりと物思いにふけっていたところに、ラティの甲高い声が聞こえてきた。

「マスターたちも一緒に遊びましょーよー!」
「キュウキュウッ!」
『はやくこっちきてよー!』

 ロップルやフォレオ、そして森の魔物たちも呼びかけてくる。
 そして――

「マキト、いこ」

 ノーラも立ち上がりながら、スッと手を差し伸べてきた。

「――おぅ」

 その小さな手を取ると、ノーラは嬉しそうに微笑む。そしてそのままマキトを引っ張る形で、二人は魔物たちの元へ向かって駆け出すのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回からは五話ほど幕間を展開していきたいと思います。
しばらくお付き合いくださいませ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

天才ピアニストでヴァイオリニストの二刀流の俺が死んだと思ったら異世界に飛ばされたので,世界最高の音楽を異世界で奏でてみた結果

yuraaaaaaa
ファンタジー
 国際ショパンコンクール日本人初優勝。若手ピアニストの頂点に立った斎藤奏。世界中でリサイタルに呼ばれ,ワールドツアーの移動中の飛行機で突如事故に遭い墜落し死亡した。はずだった。目覚めるとそこは知らない場所で知らない土地だった。夢なのか? 現実なのか? 右手には相棒のヴァイオリンケースとヴァイオリンが……  知らない生物に追いかけられ見たこともない人に助けられた。命の恩人達に俺はお礼として音楽を奏でた。この世界では俺が奏でる楽器も音楽も知らないようだった。俺の音楽に引き寄せられ現れたのは伝説の生物黒竜。俺は突然黒竜と契約を交わす事に。黒竜と行動を共にし,街へと到着する。    街のとある酒場の端っこになんと,ピアノを見つける。聞くと伝説の冒険者が残した遺物だという。俺はピアノの存在を知らない世界でピアノを演奏をする。久々に弾いたピアノの音に俺は魂が震えた。異世界✖クラシック音楽という異色の冒険物語が今始まる。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 この作品は,小説家になろう,カクヨムにも掲載しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...