おにぎり好きな天才放浪画家が、異世界転移で絵を実体化させる『画聖』の力を手に入れる話

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
9 / 33

第9話 魔力紋と絵から出せるおにぎり

しおりを挟む
「いいか。魔力紋を打っても、魔法の種類は分からないからな。魔力紋というのは……いや、これはいいか」
「ん?」

 騎士団員は歩きながら説明していたが、清の顔を見て説明をやめた。話しても無駄だと思ったからだ。
 失礼な奴だが、おそらくその通りだ。清は魔力紋を身体に刻めば、魔法を使えるとしか理解していない。

 魔力紋とは簡単に言えば、赤ん坊のようなものだ。
 刻まれる魔力紋の形と大きさは、みんな同じだが、魔法使いの能力によって複雑に成長していく。
 一般的に優秀な魔法使い程、複雑で大きな魔力紋になると言われている。

「よし、ここでちょっと待っていろ。準備してくる」

 騎士団の敷地内にある、複数の建物の中の入り口の一つまで行くと、団員は木扉の外で待つように言った。
 清はキョロキョロと辺りを見回して待っている。男の団員は青銅色の服を、女の団員は赤銅色の服を着ている。
 服の色は違うがデザインは同じだ。革鎧のような見た目の半袖の上着に、長ズボンを履いている。
 腰に差している剣は両刃の長剣が多いが、日本刀のような片刃の反りがある剣を持っている団員もいる。
 剣ならば、自前の物を使用してもいいようだ。

「待たせたな。上着を上げて、胸を見せろ。早くしないと消えてしまう」
「な、何なんだな⁉︎」

 扉を開けて騎士団員が出て来た。
 両手に黒い革手袋を嵌めて、先端から白い冷気を放つ、青白い短い杖を持っている。
 突然、上着を上げろと言われて、清は動揺している。
 明らかに服を上げたら、杖の先端を押し当てられるのは確定だ。

「安心しろ。死にはしない。かなりヒヤッとするだけだ」
「ち、ちょっとじゃないんだな⁉︎」
「コラ、テメェー! 逃げるんじゃねえ! 高いんだからな!」

 看護師に「かなりチクッとしますよ~」と言われたら、誰も注射は打ちたくない。
 清は逃げ出そうとしたが、団員に左腕を掴まれた。ジャックに力はあると言ったが人並み程度だ。
 グイッと団員に軽々と引き寄せられると、剥き出しの左腕の二の腕に、杖の先端を押し当てられた。
「あ、熱ッ‼︎」と清が声を上げた。冷たくはないようだ。ジュ~と二の腕から音が聞こえてくる。

「よし、終わったぞ。触ったり、爪で掻いたりするなよ。あと今日は風呂に入るなよ」
「い、痛たたたなんだな。ちゅ、注射だったんだな。ちゅ、注射は嫌いなんだな」

 団員が清の左腕を離すと注意を始めた。
 根性焼きではないが、完全にハンコ注射の注意事項だ。
 それに魔力紋は、本来は心臓の近くに打つのが基本だ。
 心臓に近い場所の方が効果的だと言われているからだ。

 この団員は明らかに、清は大した事ないと思っている。
 賢者のコインが真っ赤だと教えていれば、左乳首に押し当てて、グリグリしていただろう。
 清の二の腕にはハッキリと、蒼色の円と植物の根のようなシワが刻まれた。

「ほら、特別冒険者許可証だ。これがあれば魔法の内容次第だが、ランクに関係なく依頼が受けられるようになる。それと魔法が思い通りに使えるようになるには時間がかかるからな。身体を鍛えながら、どんな魔法が使えるのか調べるんだな」
「わ、分かったんだな。い、色々とお世話になったんだな」

 丸坊主の清が頭を下げると、まるで刑務所からの出所だ。
 清は騎士団の玄関まで戻ると、団員から黒いカードを渡された。
 魔力持ち専用の冒険者許可証だ。普通の冒険者は白い許可証が貰える。

「さ、覚める場所を間違えたんだな。さ、サンドイッチだったんだな」

 カイルの家に帰りながら、清は反省している。
 夢から覚めるベストタイミングは、飯屋で「ごちそうさま」した時だった。
 左の二の腕の魔力紋は良く言えば、ガラスで出来た綺麗なおはじきだ。
 悪く言えば綺麗な根性焼きだ。

「ど、どんな魔法が使えるんだな? お、おにぎりが出せる魔法がいいんだな。お、お寿司でもいいんだな」

 清は立ち止まると、両手でおにぎりとお寿司を握るフリをしてみた。
 おにぎりは両手でギュギュ、お寿司は人差し指と中指でキュキュしている。
 残念ながら、どちらも魔法で作れないようだ。空気を握る空しい手応えしか感じなかった。

「や、やっぱり、だ、駄目なんだな。そ、そんな美味い話はないんだな」

 上手いと美味いをかけて、清は一人でちょっと苦笑いしている。
 そもそも魔法が使えると言われても、人によって魔法のイメージは様々だ。
 不老不死や不死身、金のなる木や触れたものを黄金に変える手など……人の欲望を叶える力が魔法だ。

 清の欲望はコンビニの品揃え豊富なおにぎりが安く叶えてくれる。
 もちろんカレーおにぎりだけは許せない。五目チャーハンおにぎりはギリ許せる。
 カレーはカレーのまま食べた方が絶対に美味しいからだ。

「た、ただいまなんだな」

 無事ではないが、カイルの家に清は帰る事が出来た。
 家の中に入ると煮物料理のような匂いがしてきた。
 ソース味のスープに野菜とコマ切れ肉を投入した料理で、肉じゃがのような料理だ。

 清は茶色のカーテンを抜けて部屋に入ると、土の床に座禅した。
 目を閉じて、「浮け浮け」と念じているが、身体は全然浮かばない。

「そ、空は飛べないんだな。ほ、他の魔法は思い付かないんだな」

 浮遊魔法が使えない事は分かった。
 あと試してないのは、日曜の朝にある魔法少女の変身魔法だが、清は少女じゃないから諦めた。

「や、やっぱり絵なんだな。よ、欲張ったら駄目なんだな」

 魔法が使えると言われて、清は頑張って魔法を使おうとした。
 だが、自分が好きなのは絵を描く事だと思い出した。
 どんなに凄い事でも好きでないなら、頑張る必要はないと思った。

「お、おにぎりを描くんだな。お、おにぎりを教えるんだな」

 清はスケッチブックを取り出すと、カイル達の知らないおにぎりの絵を描こうと決めた。
 鮭、昆布、おかか、梅と海苔を巻いた三角のおにぎりを半分に割って、中身を見せるように描いていく。
 丸皿や笹の葉の入れ物に、黄色いたくあんも忘れずに付ける。おにぎりとたくあんは永遠の相棒だ。

「お、美味しいそうな……さ、触れるんだな」

 色鉛筆で色を着けると、リアルなおにぎりの絵が完成した。
 清は思わず、絵のおにぎりを掴もうとしたら、スケッチブックの中に左手が入った。
 まるで水の中におにぎりが沈んでいるような感覚だ。
 この場合は紙の中に沈んでいるになるが、清は紙の中から、半分に割れた昆布を取り出した。

「え、絵からおにぎりが出たんだな。た、食べられるのかな?」

 清の左手には割れたおにぎりが握られている。絵の中にあった割れたおにぎりは消えている。
 本当に絵からおにぎりを取り出したように見える。名前を付けるなら『おにぎり召喚』だろうか。

「むぐむぐっ……お、美味しんだな。お、おにぎりなんだな」

 昆布おにぎりに齧り付くと、口の中に鉛筆味ではなく、おにぎり、海苔、昆布の味が広がった。
 正真正銘のおにぎりだ。清は最後の一粒まで食べると、また絵の中に左手を入れておにぎりを取り出した。
 もうすぐ晩ご飯だという事を忘れている。清は描いたおにぎりを全部食べてしまった。
 スケッチブックに残されたのは皿だけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...