超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙

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夏の王

黒の王

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戻ってくるというので、ここで待機ことにする。


「そういえば、先ほどの話の”秋の国”のエセルというのは、私の曽祖父の名前と同じでした。曽祖父も、”秋の国”から来たと聞きます」
アスファルが言った。

時期も合うので、本人だと思われる。

「ラクさんのじっさまも、”秋の国”出身の神官で、セスって名前だったよ。へえ、ファっさんてば王様の血筋だったんだー。ん? じゃあぼくもかな?」

それは意外だ。

アスファルの父はハルの父と兄弟で。
アスファルの祖父とアフダルの祖母も、兄妹であった。

では皆、過去のイチと何かしらゆかりがあったというのか。

それが、偶然にも一同、同じ国の城内に集まっていたのだ。
しかも全員”印持ち”であるとは。


なんという運命のいたずらか。
それとも、神の采配か?


◆◇◆


「……しかし、遅いな」

そろそろ戻ってきてもいいのでは。
何をしているのだ。

まさか、よからぬ行為を。


「迎えに行きます?」
ハルが腰を上げた時。

「あ、母上ー」
アブヤドが上空を見た。

黒い衣の青年に抱えられたイチが、ふわりと降りてきた。
……何やら大荷物を抱えているようだが。


「ただいまー」

イチは、黒の王……元冬の王ザラームにさらわれたものの。
息子に氷菓子と栗きんとんを作る約束をしたのだから戻せ、とザラームを叱ったらしい。

それで、素直にいうことを聞いた上に、”秋の国”へ寄り道して食材を手に入れてきたというザラームもザラームである。
黒の王が、顎で使われている。

しかし、こちらは心臓が潰れそうなほど心配していたというのに。
呑気すぎる。


「イっちゃんわりと素で残酷だよね……」
ハルは溜め息をついていた。

「母上お帰りなさい! わあ、栗ですね! 芋も!」
アブヤドは土産に夢中だ。

まあ、何はともあれ、イチが無事で良かった。
愛しいイチを抱き締める。


「ほう、これがイチの息子か。トールよりイチに似ていてなかなか可愛らしいな」
ザラームはアブヤドに近寄って、貌を覗き込んでいる。

「こら、余の息子に近寄るな」
イチだけでなく、息子にまで手をつけるつもりか。


「とりあえず、お城に戻ろうよ。氷菓子と栗きんとん作るよ」

イチの号令に、ハルとアブヤドが賛成した。
ザラームも、「わーい」ではない。

貴様、城までついてくる気か?


◆◇◆


あの、黒い塊のようであった魔女の正体は。
正真正銘、元”冬の国”の国王、黒のザラームであった。


300年前。子を授からずに、イチは忽然と消えたのだという。

それはイチを失うのを回避するために、共に寝ずにいたツケだと言った。
神に与えられた罰だろう、と。


「もう、気が狂う寸前だった。その前にイチを見つけられてよかった」
ザラームは安堵の息を吐いた。

やはり、”よくないもの”になりつつあったようだ。

300年もの間、消えたイチを求めて彷徨っていたのだ。むしろ、よく今まで自我を保てたといえよう。
イチを腕に抱き、ようやく正気を取り戻したという。

今では別人のようにさっぱりとした”気”を持つ、溌剌とした好人物である。


わたしには、イチとの息子、アブヤドがいた。
愛し合い、授かった子、という楔があり、この世に留まれた。

そのため、わたしは辛うじて、ザラームと同じ過ちをせずに済んだのだ。
かれはわたしの、別の可能性であったともいえる。


もし、前もって。
愛し合い、子を授かればイチは消えてしまうのだと知っていたら。

わたしは間違いなく、ザラームと同じあやまちを犯していただろう。


◆◇◆


「280年前まで”冬の国”の国王をしていたザラームというものだ。イチとは300年前に契りを交わした」
ザラームは、皆の前で改めて自己紹介した。


「さ、300年前……」
ハルはぽかんと口を開けていた。

「それにしては若すぎでは? 魔女だからか?」
アフダルがハルに聞いている。

300年以上生きているようには、確かに見えんな。

魔女と言われるくらいだ。
黒の印は、それほど強大な力を持つものなのか。

「あの、黒い魔女の正体が、これ?」
アフダルも驚いている。

アブヤドの話によると、”冬の国”で温泉を掘って湯で汚れを落とし、髪と髭を切り落として、身奇麗にしてきたそうだ。

今は全く別のものに見える。
イチを失い300年も彷徨い続け、狂いかけていたのだろう。


「冬の国の元国王? 黒の王なんていたのか」
ラクは首を傾げた。

国王であったなら、記録を残していてもおかしくないのだが。
何故、名を残さなかったのだろう。

「昔のオトコ登場……修羅場の予感……」
アズファル。
わたしはそこまで狭量ではない。わくわくするでない。

そういうところはハルにそっくりだな。さすがハルの親戚である。


「ああ、老化を誘う細胞を弄って、不老の身体になったんだ。印持ちならできると思うぜ?」
「マジで!?」
ハルはザラームにがぶりよっていた。


イチと別れた時と全く変わらぬ姿を保ち。
再会を信じ、300年もの間、彷徨っていたというのか。

何という凄まじい執念であろう。それもひとつの愛し方であろうか。


イチは優しい。
そこまで思われては、ザラームを捨て置けぬだろう。

わたしも、邪険にする訳にもいかぬ。

国王としての体面もあるが。
同じ相手を愛し、一度失った同士である。その離れがたい気持ちは、わからないでもないからだ。


さて、どうしたものか。
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