上 下
34 / 51
エピローグ

神々の箱庭

しおりを挟む
神々は、箱庭を作って遊んでいた。

大きな箱の中に宇宙を作り銀河を作った。
その中の惑星のいくつかに、生命を与えてみた。

まずは海と大地。植物や動物を創って。
最後にヒトをつくった。

ヒトは放っておけば勝手に増えていくので。遊び心で手を加えては、ヒトの増減を観察していた。

ある神は、美形だらけのヒトの世界を作り。それを”Α”と呼ぶことにした。

ある神は、美醜のない、平均的な容貌のヒトばかりの世界を”β”と呼び。

ある神は、美醜や肌、髪の色など多種多様なヒトのいる世界を”Γ”と呼んだ。


他の条件は同じ。
どの世界が一番、ヒトの数を増やせるか。
実験してみることにした。


結果。
Γは、多種多様なヒトがいることで争いごとも多くあったが。科学も発展し、ヒトの数は爆発的に増え、60憶ほどまで繁殖した。
しかし、Αとβは、なかなか一定以上増えることはなかった。

それは、何故なのか。
神にもその理由はわからなかった。


そこで。
Αのヒトを、βに運んでみたらどうなるのか実験してみた。

Αのヒトをβに10人ほど入れてみると。稀少なΑのヒトを求め、争いが起こり。
国が傾くほどの破滅を招いた。

美形が貴重すぎると、争いを呼ぶようだ。


次は、Γの中でも醜い姿のものをΑやβに入れる実験もしてみたが。
どちらも化け物と間違えられて討伐されることになった。

ヒトの持つ、異物を排除する本能が暴力へ繋がったのだ。


今度は、Αのヒトをβに移動させる数を最初よりも増やし、10人に一人は美形という割合にしてみた。
すると大きな争いは起こらず、Αのヒトは全て娶られ、子を成した。


◆◇◆


しかし。
しばらくたつと、βからは平均的な顔の人間の割合が減っていき。Aと変わらない状況になり、人口の増加も伸び悩むことになった。

とりあえず、ヒトは自分よりも美しいものを好むのだ。と神たちは納得しかけたが。


その割りに、Γは偏らず。美醜のバランスも安定している。
美しいヒトは増えすぎもしない。美形はそれなりにもてはやされてはいるようだが。国によってその基準も違った。
選択肢が多いからだろうか、より醜いものを好むヒトも現れた。


例外はいるものの。ヒトは普通、美しいヒトを好むものだとすれば。
何故、美しい人ばかりの世界であるΑの人口は増えないのだろうか。

美形といえど、全員同じ顔という訳ではない。ありとあらゆる美しさであるのに。


新たな試みとして。
平凡な容貌のヒトを美形ばかりの世界に運んでみたらどうなるか、実験することにした。


◆◇◆


選出された『普通のヒト』の名は、『斎藤一』。

容姿も普通、頭の中身も普通。
そう思っていた。

だが、予想に反して、『斎藤一』は、普通とは少し違っていた。


さっそく、Aでは珍しい生き物となった『普通のヒト』である『斎藤一』は捕獲され、Ε国の紫の王に見初められた。
いきなり異世界に飛ばされても、『斎藤一』はさほど混乱せず、順応した。

1人子が出来た時点で、Ε国夏の国からΔ国春の国の過去に飛ばしてみた。
ここから、歴史はどう転がるだろうか?


『斎藤一』は普通どころか、とんでもない問題人物だった。

自分の文明の知識を持ち込む、未来の話を過去の人間に話す。
文明のバランスが崩れてしまう危険があった。

Δの赤の王の才は類をみないもので、本来不可能であったことを可能にしてしまった。

Γ……地球を作った神が、以前した失敗。
魔神の化身の蛇により、知恵の実を人間に食べさせてしまったことを思い出させた。


しかし。
『斎藤一』の出現により、Δ国の人口が増えていくのが観測された。


次に、Ζ国冬の国に飛ばしてみた。

Ζ国の黒の王は、子を作らず、『斎藤一』を囲おうとしたので、Η国秋の国に飛ばしたが。
Ζ国でも、人口の増加が確認された。
『斎藤一』を失った黒の王が、その血筋であったΔ国の王子と子をなしたのだ。

これは予想外だった。
Ζ国の黒の王が不死になり、『斎藤一』を求め、300年彷徨うのも、本来の歴史になかったことである。
『斎藤一』が、黒の王に力の使い方を教えたため、起こったものだ。


Η国でも、本来の歴史では王であった青の王でなく、世界崩壊の力を持つ白の王を目覚めさせてしまったが。
何故か白の王は世界を崩壊させることなく、国を発展させ、人口を増やした。


歴史は改変された。
Aは、『斎藤一』の出現により、人口を増やすことに成功したのだ。

Γのように人間が胎生であったら、ここまで簡単にはいかなかっただろう。
人口が減らないよう、産むのに苦労する胎生から自然発生にしたのがよかったのだろう。


『斎藤一』を、はじめのβ国に戻した。
不死になった黒の王にさらわれるも、黒の王は、『斎藤一』の望みを聞き、すぐにβ国へ戻した。


◆◇◆


白の王といい、黒の王といい。何故、こうもあっさりと『斎藤一』のいうことを聞くのだろう?

興味を覚えた。
直接、見てみたい。神はそうすることにした。


呼び出した『斎藤一』は、自分は普通だと言った。

普通の人間が、神に呼び出されてこんなに落ち着いているものだろうか。
強欲さもなかった。
身の程を知り、周りの人間の幸せを願う。
そんな人間だった。

だからこそ、黒の王も白の王も、惹かれたのだろう。


βへ行かせたかった神もいたが。
褒美として『斎藤一』の希望をきき、ΑのΕ国にそのまま住まわせることにした。

Aはこれからも人口を増やし続けるだろう。


問題は、依然人口が増えないβだが。
それはまた、別の話だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

花だんご
BL
獣人と人間が共存する世界のお話。 ふんわり現代ファンタジー。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

総受けなんか、なりたくない!!

はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。 イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…? どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが 今ここに!!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...