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19章 闘い
真実とは
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幻術か?
オレは剣を握り直す。
切先が向かうのは、オレと瓜二つの魔物の首元。
岩の玉座に座る魔物は、ゆっくりと立ち上がる。
その身体は、オレのように鎧で武装などはしておらず、軽装に漆黒のマントを羽織っているだけだ。
魔物の左右にいる黒豹は、姿勢を低くして唸り声を上げる。
『表のオレ、剣を置けよ』
魔物は微笑みながら近付いて来る。
「オレは、おまえを倒すためにここまで来たんだ。剣を置けるわけがないだろう」
そうだ。
オレはこのために生きてきたんだ。
両親と離れた場所で育ち、魔物を倒すために光の婚約者を見つけねばならず、やっと見つけた最愛のジーナを失っても、後を追うこともできずに……!
『表のオレ。おまえは王族か?』
王族?
あんな外道と一緒にされたくない。
「オレは王族などではない」
魔物は満足そうに頷く。
『そうか。いや、そうだろうな。おまえ、相当苦しんだのだろう。だから、オレは苦しまずにここまで来れたんだ』
「……どういうことだ?」
オレが訝しげに眉を寄せると、魔物は踵を返して玉座に戻る。
『おまえが幸せであればあるほど、オレは苦しんで成長する。おまえが苦しめば苦しむほど、オレはふわふわとした空気の中で成長する。オレとお前は表裏一体。つながっているんだ。裏と表でね』
魔物はその悪辣な存在を否定するかのように、肘掛けに頬杖をついて微笑んだ。
『オレとおまえは、赤い月が出た晩、同時に7つの流れ星が流れた日に産まれた。そこからは表のおまえが幸せならばオレはここで苦しみ、おまえが苦しんでいる時は、オレはここで穏やかな日々を過ごしたんだ。まだ、自分の自我が芽生える前、ここで息の詰まる苦しみを味わっている時に、それに気付いた魔獣がおまえを殺しに行った。まあ、返り討ちにあったようだが、あいつのおかげでオレは穏やかに生きることができたよ』
オレが赤ん坊の時に、火傷を負わせたあの魔獣のことか……。
オレは剣を下ろさずに、魔物の話を聞いた。
『それからは、呼吸も出来ないような苦しみはなかったかな。まぁ、時々全身が重苦しい日はあったけど。あぁ、そうだ。12歳頃に凄く体が楽になった。それなのに、ここ最近はまた、全身が締め付けられるように苦しくなることがあった。何か、表のオレが幸せを掴み始めたんだと思ったよ。だから、おまえが幸せを掴む前に、そろそろ殺しに行こうかと思ってたんだ』
オレが魔物の成長を感じていた時、魔物もオレの様子がわかっていたんだ。
オレと同じ顔で、魔物はにっこりと笑った。
やめてくれ。気持ち悪い。
『ま、おまえが死んだらオレは苦しむことなく過ごせるが、おまえが居なくなった国には魔獣どもが入り込むだろうな。だがそれも、オレが死ぬまでの短い時間だがな』
オレが姿勢を低くすると、それに黒豹の魔獣が気が付き、唸り声をあげた。
魔物は魔獣の頭に手を置き、ひと撫でする。
『やめろ。まだ英雄サマとの話は終わっていないんだ。なぁ、表のオレ。おまえはオレのような魔物や魔獣が産まれる理由を知っているか?』
「理由?」
『プラスがあればマイナスがある。善があれば悪があり、光があれば闇がある。無からは何も生まれない。結果があるのは、原因があるからだ。なぁ、表のオレ。王家の者でないなら、オレを消滅させてくれ』
消滅。
その言葉を聞いたオレは、ぐっと剣を持つ手に力を入れる。
「何を言っているんだ。オレがおまえを倒すのは当たり前だろう」
『違う。ただ倒すのではなく、魂ごと消滅させてくれ。おまえが王家の者でないのなら、殺されるリスクを冒してまで、オレを倒す必要はないだろう?』
「どういう意味だ。オレが王家の者であるかないかなど、なんの関係があるんだ」
『本当に王家から何も聞いていないんだな。……オレはこの国の魔法の源だ』
「……なんのことだ?」
『無からは何も生まれない。土があり、水があり、種があるから植物が生まれ、父がいて母がいるから子が生まれる。全ては素があり、種がある。では、魔法は? 無から有を生み出す魔法は、どうして生まれた?』
魔法がどうして使えるか?
そんなことは考えたこともない。
産まれた時からこの手にあるものだ。
オレは剣を握る手に力を入れる。
『やっぱり、王家の者でないと何も知らされないんだな。代々の王家の者が、魔法を望んだからオレがいる。人々にとって便利な魔法があるから、人々にとって厄災なオレがいる。オレは、王家に望まれた存在なんだよ』
オレは剣を握り直す。
切先が向かうのは、オレと瓜二つの魔物の首元。
岩の玉座に座る魔物は、ゆっくりと立ち上がる。
その身体は、オレのように鎧で武装などはしておらず、軽装に漆黒のマントを羽織っているだけだ。
魔物の左右にいる黒豹は、姿勢を低くして唸り声を上げる。
『表のオレ、剣を置けよ』
魔物は微笑みながら近付いて来る。
「オレは、おまえを倒すためにここまで来たんだ。剣を置けるわけがないだろう」
そうだ。
オレはこのために生きてきたんだ。
両親と離れた場所で育ち、魔物を倒すために光の婚約者を見つけねばならず、やっと見つけた最愛のジーナを失っても、後を追うこともできずに……!
『表のオレ。おまえは王族か?』
王族?
あんな外道と一緒にされたくない。
「オレは王族などではない」
魔物は満足そうに頷く。
『そうか。いや、そうだろうな。おまえ、相当苦しんだのだろう。だから、オレは苦しまずにここまで来れたんだ』
「……どういうことだ?」
オレが訝しげに眉を寄せると、魔物は踵を返して玉座に戻る。
『おまえが幸せであればあるほど、オレは苦しんで成長する。おまえが苦しめば苦しむほど、オレはふわふわとした空気の中で成長する。オレとお前は表裏一体。つながっているんだ。裏と表でね』
魔物はその悪辣な存在を否定するかのように、肘掛けに頬杖をついて微笑んだ。
『オレとおまえは、赤い月が出た晩、同時に7つの流れ星が流れた日に産まれた。そこからは表のおまえが幸せならばオレはここで苦しみ、おまえが苦しんでいる時は、オレはここで穏やかな日々を過ごしたんだ。まだ、自分の自我が芽生える前、ここで息の詰まる苦しみを味わっている時に、それに気付いた魔獣がおまえを殺しに行った。まあ、返り討ちにあったようだが、あいつのおかげでオレは穏やかに生きることができたよ』
オレが赤ん坊の時に、火傷を負わせたあの魔獣のことか……。
オレは剣を下ろさずに、魔物の話を聞いた。
『それからは、呼吸も出来ないような苦しみはなかったかな。まぁ、時々全身が重苦しい日はあったけど。あぁ、そうだ。12歳頃に凄く体が楽になった。それなのに、ここ最近はまた、全身が締め付けられるように苦しくなることがあった。何か、表のオレが幸せを掴み始めたんだと思ったよ。だから、おまえが幸せを掴む前に、そろそろ殺しに行こうかと思ってたんだ』
オレが魔物の成長を感じていた時、魔物もオレの様子がわかっていたんだ。
オレと同じ顔で、魔物はにっこりと笑った。
やめてくれ。気持ち悪い。
『ま、おまえが死んだらオレは苦しむことなく過ごせるが、おまえが居なくなった国には魔獣どもが入り込むだろうな。だがそれも、オレが死ぬまでの短い時間だがな』
オレが姿勢を低くすると、それに黒豹の魔獣が気が付き、唸り声をあげた。
魔物は魔獣の頭に手を置き、ひと撫でする。
『やめろ。まだ英雄サマとの話は終わっていないんだ。なぁ、表のオレ。おまえはオレのような魔物や魔獣が産まれる理由を知っているか?』
「理由?」
『プラスがあればマイナスがある。善があれば悪があり、光があれば闇がある。無からは何も生まれない。結果があるのは、原因があるからだ。なぁ、表のオレ。王家の者でないなら、オレを消滅させてくれ』
消滅。
その言葉を聞いたオレは、ぐっと剣を持つ手に力を入れる。
「何を言っているんだ。オレがおまえを倒すのは当たり前だろう」
『違う。ただ倒すのではなく、魂ごと消滅させてくれ。おまえが王家の者でないのなら、殺されるリスクを冒してまで、オレを倒す必要はないだろう?』
「どういう意味だ。オレが王家の者であるかないかなど、なんの関係があるんだ」
『本当に王家から何も聞いていないんだな。……オレはこの国の魔法の源だ』
「……なんのことだ?」
『無からは何も生まれない。土があり、水があり、種があるから植物が生まれ、父がいて母がいるから子が生まれる。全ては素があり、種がある。では、魔法は? 無から有を生み出す魔法は、どうして生まれた?』
魔法がどうして使えるか?
そんなことは考えたこともない。
産まれた時からこの手にあるものだ。
オレは剣を握る手に力を入れる。
『やっぱり、王家の者でないと何も知らされないんだな。代々の王家の者が、魔法を望んだからオレがいる。人々にとって便利な魔法があるから、人々にとって厄災なオレがいる。オレは、王家に望まれた存在なんだよ』
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