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19章 闘い
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わたしが鈍感と言われても、ルーク様とお兄様のピリピリとした空気はわかる。
剣を構えたまま、ふたりはゆっくりと前進していく。
もちろん、わたしはぴったりとくっついてふたりの背を見ながらふたりの歩調に合わせて、自分の足を動かした。
少し奥の方に入っていくと、トンネルのような洞窟の右左両側にいくつかの松明があるのが見えた。
火が周りを照らしているはずなのに、何故かそんなに明るい気がしない。
「瘴気のせいだな。どんどん濃くなっていく」
わたしの思ったことがわかるのか、ルーク様は後ろも振り向かずにわたしに言う。
じりじりと足を進めると、道が曲がり角にたどり着く。
その先は一層明るくなっており、ただ、ルーク様とお兄様が感じている瘴気も濃くなっているようだった。
「おそらく、この角を曲がったら敵が待ち構えているのだと思う。義兄上、ニーナを頼みます」
「わかってる」
ふたりが頷き合い、ルーク様がその先に足を進めようとする。
「待って、ルーク様」
わたしが呼び止める声で、ルーク様がこちらを向いてくれる。
わたしは何も言わずに、ルーク様の手に自分の手を重ねた。
「ルーク様に、光の御加護がありますように」
わたしはここで、今ある自分の中の魔力をできる限りルーク様にそそいだ。
魔力切れになる寸前まで。
「ありがとう、ニーナ。……行ってくる」
ルーク様はわたしに微笑むと、岩場の影になっている曲がり角のその先へと行ってしまった。
「ルーク様……」
わたしはその背を見送ると、一気に力が抜けて、その場に座り込む。
「ばっかニーナ。魔力を全部注ぐことはないだろうに」
お兄様がわたしを支えて、岩を背もたれにしてわたしを座らせた。
「オレは、ルーク様を守りたい。ジーナが死んだ後もジーナを想って暗闇の中、もがくように生きてきたルーク様を知っている。だから、オレはルーク様が危なくなったら躊躇なく出て行く。何が最善かはわかるな? おまえは、何があってもここから出てくるな。生き延びることだけ考えろ」
「お兄様……。では、お兄様は?」
「大丈夫だ。オレもルーク様も、伊達に十数年訓練してきたわけではない」
お兄様は微笑んでわたしの頭を撫でた。
次の瞬間、ゴォぉっと炎が上がる音がした。
「始まったな」
お兄様はそう呟くと、剣を構えて岩場の向こうの様子を見た。
わたしも、お兄様の影からそっとルーク様の様子を覗く。
岩場の向こうは広い空洞になっていて、岩で作られた玉座に、黒い影のような人が長い足を組んで頬杖を付いて座っていた。
玉座の両側には、今まで見たことのない、大きな黒豹のような魔獣が2匹、闇の王を護るように侍っていた。
真ん中に座る影の人物が口を開く。
彼が、わたしたちが長い間倒すことを目標にしてきた魔物なのだろうか。
『表のオレ、よく来たな』
「表? なんのことだ」
ルーク様は警戒しながら剣を構える。
『もうわかっているのだろう? オレとおまえは表裏一体。おまえたちの世界の闇がオレならば、光がおまえ。闇が深ければ深いほど、おまえの光は強くなる』
ルーク様が剣に炎をまとわりつかせる。
すると、薄暗かった辺り一面が明るくなった。
よく見えるようになった相手を見て、ルーク様は息を呑む。
『光の勇者よ、やっとオレの顔が見えたようだな』
にやりと笑うその顔は、髪も瞳の色もルーク様とほ違い真っ黒だったが、その配置も造形も、ルーク様に瓜二つだった。
剣を構えたまま、ふたりはゆっくりと前進していく。
もちろん、わたしはぴったりとくっついてふたりの背を見ながらふたりの歩調に合わせて、自分の足を動かした。
少し奥の方に入っていくと、トンネルのような洞窟の右左両側にいくつかの松明があるのが見えた。
火が周りを照らしているはずなのに、何故かそんなに明るい気がしない。
「瘴気のせいだな。どんどん濃くなっていく」
わたしの思ったことがわかるのか、ルーク様は後ろも振り向かずにわたしに言う。
じりじりと足を進めると、道が曲がり角にたどり着く。
その先は一層明るくなっており、ただ、ルーク様とお兄様が感じている瘴気も濃くなっているようだった。
「おそらく、この角を曲がったら敵が待ち構えているのだと思う。義兄上、ニーナを頼みます」
「わかってる」
ふたりが頷き合い、ルーク様がその先に足を進めようとする。
「待って、ルーク様」
わたしが呼び止める声で、ルーク様がこちらを向いてくれる。
わたしは何も言わずに、ルーク様の手に自分の手を重ねた。
「ルーク様に、光の御加護がありますように」
わたしはここで、今ある自分の中の魔力をできる限りルーク様にそそいだ。
魔力切れになる寸前まで。
「ありがとう、ニーナ。……行ってくる」
ルーク様はわたしに微笑むと、岩場の影になっている曲がり角のその先へと行ってしまった。
「ルーク様……」
わたしはその背を見送ると、一気に力が抜けて、その場に座り込む。
「ばっかニーナ。魔力を全部注ぐことはないだろうに」
お兄様がわたしを支えて、岩を背もたれにしてわたしを座らせた。
「オレは、ルーク様を守りたい。ジーナが死んだ後もジーナを想って暗闇の中、もがくように生きてきたルーク様を知っている。だから、オレはルーク様が危なくなったら躊躇なく出て行く。何が最善かはわかるな? おまえは、何があってもここから出てくるな。生き延びることだけ考えろ」
「お兄様……。では、お兄様は?」
「大丈夫だ。オレもルーク様も、伊達に十数年訓練してきたわけではない」
お兄様は微笑んでわたしの頭を撫でた。
次の瞬間、ゴォぉっと炎が上がる音がした。
「始まったな」
お兄様はそう呟くと、剣を構えて岩場の向こうの様子を見た。
わたしも、お兄様の影からそっとルーク様の様子を覗く。
岩場の向こうは広い空洞になっていて、岩で作られた玉座に、黒い影のような人が長い足を組んで頬杖を付いて座っていた。
玉座の両側には、今まで見たことのない、大きな黒豹のような魔獣が2匹、闇の王を護るように侍っていた。
真ん中に座る影の人物が口を開く。
彼が、わたしたちが長い間倒すことを目標にしてきた魔物なのだろうか。
『表のオレ、よく来たな』
「表? なんのことだ」
ルーク様は警戒しながら剣を構える。
『もうわかっているのだろう? オレとおまえは表裏一体。おまえたちの世界の闇がオレならば、光がおまえ。闇が深ければ深いほど、おまえの光は強くなる』
ルーク様が剣に炎をまとわりつかせる。
すると、薄暗かった辺り一面が明るくなった。
よく見えるようになった相手を見て、ルーク様は息を呑む。
『光の勇者よ、やっとオレの顔が見えたようだな』
にやりと笑うその顔は、髪も瞳の色もルーク様とほ違い真っ黒だったが、その配置も造形も、ルーク様に瓜二つだった。
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