鬼の心臓は闇夜に疼く

藤波璃久

文字の大きさ
上 下
23 / 59

少年は桃太郎と対峙する14(過去編①)

しおりを挟む
「朱丸!」
「小太郎?」
朱丸は、山菜を採っていた。
「どうしたの? まだ待ち合わせの時間じゃないよね?」
「大変だ! 桃太郎の子孫って人が来た」
「え⁉︎」
「どうする?」
朱丸は頭を抱えた。
「どうしよう…そうだ。みんなに知らせなきゃ!」
朱丸は自分の村の方へ走り出す。小太郎も後を追った。

霧に包まれた森にたどり着いたところで、突然目の前に長身の美女が現れた。彼女は軍服を着ていた。小太郎はいやな予感がした。
彼女は、朱丸を捕まえた。
「桃寿郎様、捕まえました」
小太郎の後ろから現れた、吉備津桃寿郎。
「よくやったね。椿…」
「はい!」
椿は褒められて、嬉しそうに頬を染めた。
「やだ! 離して!」
「朱丸を離せ!」
小太郎は、椿に向かっていく。
「動くな…」
桃寿郎は抜いた刀を、朱丸に向けた。
「…っ」
小太郎は足を止める。桃寿郎は、朱丸の腕をつかむと、その首筋に刀をあてた。
「ヒッ!」
「朱丸…」
「椿、その子どもを拘束して」
「はっ!」
小太郎は逃げようとするが、椿に捕まった。
「ふむ…」
桃寿郎は、一度刀をしまうと、朱丸の体をガッチリ捕まえたまま、頭や、口の中を触る。
「ん!」
朱丸が嫌そうに首を振った。
「角と牙…小さいけれど、あるね。君は鬼だ」
「やめて…」
「僕はね、鬼を退治しに来たんだ」
桃寿郎は、刀を持ち直す。そして、再び首筋にあてた。
小太郎は唾を飲む。
「あ、あんたはさ、この村にずっといたの?」
「桃寿郎様にむかって、あんたとはなんだ?」
「…う」
椿が拘束を強くし、小太郎は小さく呻く。
「いいよ椿。そんなに強くしたらかわいそうだ。そうだね。僕は東京にいたよ。この村の二つ隣の村に、椿がいた。ここら辺の山に昔鬼がいて、僕の先祖が一部逃がしたらしくてね。定期的に僕の部下を置いていたんだ。で、椿から、鬼らしき子どもがいるって報告受けて、僕が来たってわけ」
桃寿郎が一気に話す。
「大変だったよ。東京からここまでさ…」
疲れたように息を吐いた。
「そ…それで…オイラ…殺す…?」
朱丸が震えた。
「殺さないよ…だって殺したらさ…鬼の村の場所、わからなくなっちゃうでしょ?」
さも、当然というように言い切る。
「それでさ。村…どこにあるの?」
「村なんて…ないよ…。オ、オイラは一人で暮らしてる」
「いや、村はあるはずだ…」
朱丸は、チラッと目を動かす。その方向には、村へ通じるあの木がある。
「なるほど、そっちか」
「⁉︎」
朱丸は「なんで?」という顔をした。
桃寿郎は、刀をあてながら、そちらに歩くように促す。朱丸は渋々指示に従う。
霧の中、大木のウロを見つけた桃寿郎は、嬉々として尋ねた。
「ここか? 結界があるんでしょう?」
朱丸は、首を横に振る。
「ねえ…君さ…あの子、友達でしょ? 痛い目に合わせたくないよね?」
「…小太郎に、何かするの?」
「あの子、小太郎っていうんだ…」
「オイラは、殺されてもいい。でも、家族や小太郎は…」
「へー。小さいのに、覚悟決めてるんだね。でもさ…」
桃寿郎は、後ろを振り向く。椿に拘束された小太郎が見える。
「ねえ…椿…。この子意外に頑固だよ。小太郎くんさ、少しいじめてやって」
「御意」
「何を⁉︎」
朱丸が叫ぶと、小太郎の声が聞こえた。
「…がっ! ぐ…!」
よく見ると、椿の腕が小太郎の首に食い込んでいる。腕を外そうと爪を椿の腕に立てていた。血が滲む。
「…あ…ぐ…」
「やめて! 結界の中に入るから! 小太郎を離してよ!」
朱丸が泣き叫ぶ。桃寿郎は、笑みを浮かべた。
小太郎は解放されると、大きく咳き込んだ。ぐったりとして、椿に寄りかかっている。
「小太郎…」
「ほら、早く…」
桃寿郎に促され、朱丸は結界に足を運んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

六畳一間 月読命

浅井 ことは
キャラ文芸
ちょっと根暗だからって! 書物が好きなだけなのに! 部屋に籠ってて何が悪い! 私は月の神だ! なのに、なのに…… 家賃て何? 光熱費って何? お金って何? 月読命。 人間社会で頑張ります。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【本編完結・後日譚更新中】人外になりかけてるらしいけど、私は元気です。

山法師
キャラ文芸
【第6回キャラ文芸大賞参加中! よろしくお願いいたします!】  大学生の榊原杏(さかきばらあんず)は、ある夜「手」と遭遇する。いつの間にか杏の危機を救ってくれたらしい手は、その拍子に何故か杏と一体となってしまったと言ってきた。その上、記憶を失っているらしい。杏はこの状況をなんとかするため、唯一の手がかりとして「己の身体を取り戻す」事を目指す手に協力する。  凄いのかどうかよく分からない組織と関わったり、何故か寄ってくる化け物と命のやりとりをする事になったり、助けたり助けられたりと様々な困難に見舞われながら頑張る女子大生のお話、かも知れない。 (小説家になろう、カクヨムでも掲載しています)

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

処理中です...