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CⅬⅩⅩⅩⅥ 星々の天頂と天底編 前編(1)
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第1章。夕凪
「ヒィー!」
禁書館の奥から、悲鳴が聞こえる。
「ラティスさんなのか?それともラファイアさん?」
アマトは、筆をおいて、ひとつため息をつきながらも、椅子から立ち上がる。
本棚の影から、長身・白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・超絶美貌の
神々しくも、なんとなくいかがわしい、白光の妖精ラファイアが現れる。
「どうして、ヨスヤさんは、わたしが現れる場所の前に、
偶然いるんですかね?」
ラファイアにとって、禁書館の中は、皇都のなかで、本来の姿でいられる
数少ない場所である。
ただ現れるたびに、悲鳴をあげられれば、やはり少しは考えてしまうようだ。
「ラファイアさんにしても、ラティスさんにしても、
どうやらヨスヤさんと、親和性があるんじゃないかなと思うよ。」
「親和性ですか・・・!?」
「ラファイアさんの場合は悲鳴だけですむけど、
ラティスだったら、その後失神なさるし・・・。」
「ま、あの御方が急に現れると、わたしも悲鳴をあげたくなりますし・・。
ただ、その御方と比較されましてもね~。」
「だいたい、双月教は、千年に渡って、白光の妖精を崇め奉っいたはずですよね。
それにわたしは、ラファイスさんより、容貌が優しいはずですが・・・。」
どうも、納得のいかない様子である。
モクシ教皇は、今のところ、双月教国からの離脱者で、新双月教会に、
教会内の職の依頼をと頼ってきた人々に、禁書館への職の斡旋を続けているが、
暗黒の妖精の契約者のアマトが、副館長だという事実を知ると、
同席するのは、良心に反するという名目で、断られ続けている。
だから、禁書館の開館の準備は、ほぼアマトとヨスヤ教導士のふたりに、
まかせられた状態である。
本日、アマトは、記載帳に書き込んである書名の下に、
分類名を書き入れている。
明後日、双月教国からの避難路の確保のため、皇都を離れることになっため、
出来るとこまで、やっておこうと、奮闘している最中である。
アマトは、今回は皇都居残り組みの はずだったのだが、
暗黒の妖精ラティスさまが、
『最前線こそ、わたしの舞台よ!』
と、宣ったため、イルムたちが白光の妖精ラファイアに
制御装置として同行を、打診したのだが、
『ラティスさんが、あさっての方向に暴走したときには、
わたしが、それを止めるなんて、冗談でもイヤですし、
ほんと、つきあいきれないですしね!』
と、そっぽを向いたため、必然、アマトが出発することになったのだ。
では、なぜ今日、そのラファイアが禁書館に現れたかというと、
『ラファイア、あんた義兄ィの応援に禁書館に行かないなんて、
言わないよね?』
と、ある朝、エリースに凄まれ、
『当然じゃありませんか。アマトさんは、わたしの契約者ですよ。』
と、明言したはいいが、現実は、アマトが疲れたときに、
ふら~っと、どこからか現れ、
「アマトさん、がんばって下さい!」
と、応援だけして消えていき、筆の一本さえ持とうとしない。
確かに、間違いなく応援はしているのだが・・・。
とにかく、自分に対し穏やかな表情を浮かべる、白光の妖精を見ながら、
アマトは思った。
そう、天に3つの太陽が光り、昼間なのに、薄くぼんやりと、
巨大な星々の渦巻きが見えた、夢で見たあの世界。
あの夢の中で、おそらくは暗黒の妖精の目から見た、
〖暗黒の妖精よ、滅し去れ!〗との意思を叩きつけてきた、
神々しい光に包まれた、酷薄な表情の白光の妖精。
また、おそらくは白光の妖精の目から見た、
〖白光の妖精よ、消滅せよ!〗との精神波を轟かせてきた、
聖なる光を背負った、残酷な表情の暗黒の妖精。
アマトは、それが、自分の契約妖精のふたりの本来の姿じゃないかとの、
自分の心に生じた迷いを、真実のものだろうという結論に
至ろうとしていた。
だが、この世界に於いて、すくなくともふたりの妖精は、
慈しみにも似た眼差しを自分に、自分たちに向けている。
それを、自分の生涯をかけて、続けさせないとと、アマトは思う。
「アマトさん。腕や指の疲れ、目や肩のこりを解消させましょうか?」
と言って、治癒を始めるラファイアは、やはり筆を持とうとしない。
これでいいのかもしれないと、笑みを浮かべながら、アマトは思う。
そのラファイアの治癒の魔力を浴びながら、再び筆を握るアマトの耳に、
悲鳴が響く。そして・・・、
「ヨスヤ、なんでアンタ、わたしが現れる前の場所に、いつもいるのよ!!」
と、もうひとりの妖精の怒声が聞こえてくる。
「は~あ~。ヨスヤさんは、間違いなく意識を飛ばしているでしょうから、
あの御方は、わたしに、治癒を押し付けてくるんでしょうね・・・。」
と、ラファイアが、アマトへの治癒をやめつつ、
いつものように、いつものような言葉を口にした。
第2章。共有
緑色の稲光が、旧南宮の執政官の執務室の窓に輝く。
自身の椅子に座り、目を閉じた姿勢で残りのだれかを待つ、イルムとルリ。
しばらくして、外から緩やかな圧が、近づいてくる。
キョウショウ、リント、カシノは、佇んで壁に寄りかかったり、
それぞれの姿勢でくつろいでいたが、それに気付き、姿勢を変え、
入ってくる人物を待つ。
扉が開く・・、
「ごめん、待たせた?」
と、憮然とした顔で、入ってきたエリースに、
「原因は、ラティスさん、それともラファイアさん?」
と、涼しい顔で、イルムが声をかける。
「両方よ!今回の騒動の原因は、あさって出発する、街道警護の任務、
義兄ィ用の鉄馬車の御者を、どちらがするかよ!」
「で、コイントスの結果、ラファイアさんが負けたと・・。」
ルリが、予想される結末を口に出す。
「そうそれで、弾き手のわたしがラティスのイカサマに加担したと、
ラファイアがぐずるから・・・。」
「それが、さっきの稲光というわけ・・。」
キョウショウがなかばあきれて、エリースに問いかける。
「ま、いつものことが、いつものように起こったというわけね。」
そう言って、話をしめるイルムの言葉に、柔らかい笑いに包まれる。
そこにいる全員の緊張が解けたあと、イルムがあらためて、口を開く。
「では、今日みんなに集まってもらった目的を、説明するわ。」
・・・・・・・・
「集まってもらったのは、情報の共有と意思の統一よ。」
イルムが、全員の顔を確認して、口を開く。
そして、
「まず情報として、ひとつめを、わたしの方から・・・。」
と、イルムは話し出す。
「テムスのアリュス爵より、知らせがあったわ。
ひとつめが、武国の内乱。これは予想通りの進展。
武国の凶虎側が、カウチの平原で義兄マイチ侯爵側の軍を、
一蹴したらしいいわ。
現在、マイチ爵の城を囲んでいるけど、陥落は時間の問題ね。」
「ただ、城は無理攻めにしてないようだから、武国の平定には、
もう少しの時間が、かかるみたいね。」
「ふたつめは、北カブラ王国。超上級妖精が現れたらしいわ。
同国内で騒ぎを起こして、現在は契約者共々、行方不明。
契約者の名前は、レサト。
妖精は、土のエレメントの超上級妖精らしいとの事。」
「その過程で、北カブラ王国は貴族の半分以上、大商人、上級官吏が、
死亡するか、謀反の罪で投獄されている。」
「結果、イオス大公が、完全に北カブラ王国を掌握したらしいわ。」
「ちょっとまて、イルム。王国連合の国々では、超上級妖精契約者に対しては、
【出自にかかわらず、超上級妖精以上の妖精と契約した者は、
高位な地位と報酬を約束する。】の政令が布告されたはずだ。
なぜ、そんな事が起こったんだ?」
キョウショウが、イルムの話を遮り質問する。
「原因は不明。おそらくは、建前と現実の乖離で起こったんでしょうね。」
「なるほど、そういう事か・・・。」
キョウショウが納得した顔をしたので、イルムは話を続ける。
「そして、みっつめは、オベレという名の、帝国の影に潜んでいた、
戦争商人連合の長だった老人が、ラスカ王国のクラテス子爵の陣に
現れたようよ。」
「それは、ラスカ王国・レスト王国・メリオ王国の双月教国への侵攻に、
戦争商人が、一枚噛んでいたということ?」
今度は、リントが声をあげる。
「リント、書状の方には、それ以上のことは記してない。
けど、ルリと話したんだけど、帝国で居場所の消えたオベレの、
新たな居場所の開拓行為じゃないかと、思えるわ。」
「やりきれない話ね。」
イルムの答えに考え込んだリントの代りに、エリースが口を挟む。
「次はルリの方から話を・・・。」
ルリは、イルムから合図を受けて話し出す。
「まずはじめに、トリハ宰相からの書状がきているわ。
ミカルの方で、反レリウス派との緊張が高まっているみたい。」
「同時期に、反レリウス派の、首領のヒーク伯爵から密書も届いているわ。」
「協力してくれて、事がなった暁には、ミカルの旧帝国本領を
戻してくれるそうよ。」
「それって、嘘っぽいわね。ルリ、トリハ宰相の書状は?」
キョウショウの質問に、ルリは話を続ける。
「二ヶ国の友誼に期待する・・・だそうよ。」
「ミカルの餓狼と、智慧比べをしてみたい気はするけど・・。」
とのイルムのひとり言に、
「イルム!?」
と、さすがにカシノが、イルムを咎める。
「冗談よ、カシノ。」
「イルム、話を続けていいかしら。」
「ごめん、ルリ。話を続けて。」
「新帝国しては、ミカルの餓狼と、戦うわけにはいかない。
イルムがどう思おうともね。
それと、ミカル関係に付け加えて言えば、
エリースが超上級妖精の契約者ということが、
かの地から、広がってきているわ。」
「公都ミカル・ウルプスで、あれだけのことをリーエと、
やっちゃたからね。」
「いつかは、バレることだったし、時期が早くなったけど・・・。」
エリースが、憮然とした表情で答える。
「イルム、それは新帝国にとってどうなの?」
カシノがイルムに質問する。
「いい時期かもしれない。この後ルリが話すけど、
また別の超上級妖精の契約者が、現れた気配があるから。」
イルムとルリを除く4人が、驚いて息を吐いた音が、この部屋に響く。
「続けるわね。つぎに、コウニン王国だけど、こちらも何かが起こっている。
なにかの指図による、対外工作部南局の最上級妖精契約戦士たちの裏切りで、
南局が壊滅したらしい。」
「イルム、それが、また別の超上級妖精契約者の仕業というの?」
「キョウショウ。今、コウニン王国の北局に三重密偵を、忍ばせているけど、
そこからの情報。情報としては、それ以上のことは、現時点では未確定。
あとは、イルムお願い。」
・・・・・・・
「以上の新たな情報がはいってきているわ。だから、ここから今言えるのは、
今回の街道警備で、3ヶ国連合軍と戦になるのは、
なるべく避けて欲しい。」
「次の大戦に主力となる国々の歴史が動いている。
ここで、戦略を決めるのは、極めて悪手になりそうだから。」
「しかし、ラティスさんはどうなの。
どうかすれば、連合軍部隊も滅ぼしそうよ。」
イルムに言葉に、カシノが反応する。
「予定不能よ。ただそうなったら、敵側になった彼らの方が、
より大きい悪手になるでしょうね。」
「あとは、神々のみぞ知る、ということね。」
カシノが、呆れながらも言葉をつなぐ。
「で、戦線の方はどうなの?」
リントが疑問を呈す。
「エリースに頼んで、リーエに何回か、高高々度から、偵察に行かせたけど、
シュウレイ將の城の方の人間が、行くたびに減っている状況よ。」
「逃亡者、投降者が続出してるという状況か。」
「むしろ、軍として機能してる方が驚きね。
シュウレイ將の有能さを示す証左ね。」
「あと聞きたいんだけど、ナナリス騎士やヨクス騎士は、仲間としてはどう?」
キョウショウが、イルムとルリに尋ねる。
「仲間として、この場に呼ぶには、ヨクスは難しいわ。
ナナリスは、今回の作戦の結果次第かしら。」
と、ルリが回答する。
「では、ルリにキョウショウにリント、今回はお願いね・・・。」
会を閉めようとするイルムに、エリースが手をあげ、反論する。
「わたしも、今回の作戦に参加するわ!」
と。
「ヒィー!」
禁書館の奥から、悲鳴が聞こえる。
「ラティスさんなのか?それともラファイアさん?」
アマトは、筆をおいて、ひとつため息をつきながらも、椅子から立ち上がる。
本棚の影から、長身・白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・超絶美貌の
神々しくも、なんとなくいかがわしい、白光の妖精ラファイアが現れる。
「どうして、ヨスヤさんは、わたしが現れる場所の前に、
偶然いるんですかね?」
ラファイアにとって、禁書館の中は、皇都のなかで、本来の姿でいられる
数少ない場所である。
ただ現れるたびに、悲鳴をあげられれば、やはり少しは考えてしまうようだ。
「ラファイアさんにしても、ラティスさんにしても、
どうやらヨスヤさんと、親和性があるんじゃないかなと思うよ。」
「親和性ですか・・・!?」
「ラファイアさんの場合は悲鳴だけですむけど、
ラティスだったら、その後失神なさるし・・・。」
「ま、あの御方が急に現れると、わたしも悲鳴をあげたくなりますし・・。
ただ、その御方と比較されましてもね~。」
「だいたい、双月教は、千年に渡って、白光の妖精を崇め奉っいたはずですよね。
それにわたしは、ラファイスさんより、容貌が優しいはずですが・・・。」
どうも、納得のいかない様子である。
モクシ教皇は、今のところ、双月教国からの離脱者で、新双月教会に、
教会内の職の依頼をと頼ってきた人々に、禁書館への職の斡旋を続けているが、
暗黒の妖精の契約者のアマトが、副館長だという事実を知ると、
同席するのは、良心に反するという名目で、断られ続けている。
だから、禁書館の開館の準備は、ほぼアマトとヨスヤ教導士のふたりに、
まかせられた状態である。
本日、アマトは、記載帳に書き込んである書名の下に、
分類名を書き入れている。
明後日、双月教国からの避難路の確保のため、皇都を離れることになっため、
出来るとこまで、やっておこうと、奮闘している最中である。
アマトは、今回は皇都居残り組みの はずだったのだが、
暗黒の妖精ラティスさまが、
『最前線こそ、わたしの舞台よ!』
と、宣ったため、イルムたちが白光の妖精ラファイアに
制御装置として同行を、打診したのだが、
『ラティスさんが、あさっての方向に暴走したときには、
わたしが、それを止めるなんて、冗談でもイヤですし、
ほんと、つきあいきれないですしね!』
と、そっぽを向いたため、必然、アマトが出発することになったのだ。
では、なぜ今日、そのラファイアが禁書館に現れたかというと、
『ラファイア、あんた義兄ィの応援に禁書館に行かないなんて、
言わないよね?』
と、ある朝、エリースに凄まれ、
『当然じゃありませんか。アマトさんは、わたしの契約者ですよ。』
と、明言したはいいが、現実は、アマトが疲れたときに、
ふら~っと、どこからか現れ、
「アマトさん、がんばって下さい!」
と、応援だけして消えていき、筆の一本さえ持とうとしない。
確かに、間違いなく応援はしているのだが・・・。
とにかく、自分に対し穏やかな表情を浮かべる、白光の妖精を見ながら、
アマトは思った。
そう、天に3つの太陽が光り、昼間なのに、薄くぼんやりと、
巨大な星々の渦巻きが見えた、夢で見たあの世界。
あの夢の中で、おそらくは暗黒の妖精の目から見た、
〖暗黒の妖精よ、滅し去れ!〗との意思を叩きつけてきた、
神々しい光に包まれた、酷薄な表情の白光の妖精。
また、おそらくは白光の妖精の目から見た、
〖白光の妖精よ、消滅せよ!〗との精神波を轟かせてきた、
聖なる光を背負った、残酷な表情の暗黒の妖精。
アマトは、それが、自分の契約妖精のふたりの本来の姿じゃないかとの、
自分の心に生じた迷いを、真実のものだろうという結論に
至ろうとしていた。
だが、この世界に於いて、すくなくともふたりの妖精は、
慈しみにも似た眼差しを自分に、自分たちに向けている。
それを、自分の生涯をかけて、続けさせないとと、アマトは思う。
「アマトさん。腕や指の疲れ、目や肩のこりを解消させましょうか?」
と言って、治癒を始めるラファイアは、やはり筆を持とうとしない。
これでいいのかもしれないと、笑みを浮かべながら、アマトは思う。
そのラファイアの治癒の魔力を浴びながら、再び筆を握るアマトの耳に、
悲鳴が響く。そして・・・、
「ヨスヤ、なんでアンタ、わたしが現れる前の場所に、いつもいるのよ!!」
と、もうひとりの妖精の怒声が聞こえてくる。
「は~あ~。ヨスヤさんは、間違いなく意識を飛ばしているでしょうから、
あの御方は、わたしに、治癒を押し付けてくるんでしょうね・・・。」
と、ラファイアが、アマトへの治癒をやめつつ、
いつものように、いつものような言葉を口にした。
第2章。共有
緑色の稲光が、旧南宮の執政官の執務室の窓に輝く。
自身の椅子に座り、目を閉じた姿勢で残りのだれかを待つ、イルムとルリ。
しばらくして、外から緩やかな圧が、近づいてくる。
キョウショウ、リント、カシノは、佇んで壁に寄りかかったり、
それぞれの姿勢でくつろいでいたが、それに気付き、姿勢を変え、
入ってくる人物を待つ。
扉が開く・・、
「ごめん、待たせた?」
と、憮然とした顔で、入ってきたエリースに、
「原因は、ラティスさん、それともラファイアさん?」
と、涼しい顔で、イルムが声をかける。
「両方よ!今回の騒動の原因は、あさって出発する、街道警護の任務、
義兄ィ用の鉄馬車の御者を、どちらがするかよ!」
「で、コイントスの結果、ラファイアさんが負けたと・・。」
ルリが、予想される結末を口に出す。
「そうそれで、弾き手のわたしがラティスのイカサマに加担したと、
ラファイアがぐずるから・・・。」
「それが、さっきの稲光というわけ・・。」
キョウショウがなかばあきれて、エリースに問いかける。
「ま、いつものことが、いつものように起こったというわけね。」
そう言って、話をしめるイルムの言葉に、柔らかい笑いに包まれる。
そこにいる全員の緊張が解けたあと、イルムがあらためて、口を開く。
「では、今日みんなに集まってもらった目的を、説明するわ。」
・・・・・・・・
「集まってもらったのは、情報の共有と意思の統一よ。」
イルムが、全員の顔を確認して、口を開く。
そして、
「まず情報として、ひとつめを、わたしの方から・・・。」
と、イルムは話し出す。
「テムスのアリュス爵より、知らせがあったわ。
ひとつめが、武国の内乱。これは予想通りの進展。
武国の凶虎側が、カウチの平原で義兄マイチ侯爵側の軍を、
一蹴したらしいいわ。
現在、マイチ爵の城を囲んでいるけど、陥落は時間の問題ね。」
「ただ、城は無理攻めにしてないようだから、武国の平定には、
もう少しの時間が、かかるみたいね。」
「ふたつめは、北カブラ王国。超上級妖精が現れたらしいわ。
同国内で騒ぎを起こして、現在は契約者共々、行方不明。
契約者の名前は、レサト。
妖精は、土のエレメントの超上級妖精らしいとの事。」
「その過程で、北カブラ王国は貴族の半分以上、大商人、上級官吏が、
死亡するか、謀反の罪で投獄されている。」
「結果、イオス大公が、完全に北カブラ王国を掌握したらしいわ。」
「ちょっとまて、イルム。王国連合の国々では、超上級妖精契約者に対しては、
【出自にかかわらず、超上級妖精以上の妖精と契約した者は、
高位な地位と報酬を約束する。】の政令が布告されたはずだ。
なぜ、そんな事が起こったんだ?」
キョウショウが、イルムの話を遮り質問する。
「原因は不明。おそらくは、建前と現実の乖離で起こったんでしょうね。」
「なるほど、そういう事か・・・。」
キョウショウが納得した顔をしたので、イルムは話を続ける。
「そして、みっつめは、オベレという名の、帝国の影に潜んでいた、
戦争商人連合の長だった老人が、ラスカ王国のクラテス子爵の陣に
現れたようよ。」
「それは、ラスカ王国・レスト王国・メリオ王国の双月教国への侵攻に、
戦争商人が、一枚噛んでいたということ?」
今度は、リントが声をあげる。
「リント、書状の方には、それ以上のことは記してない。
けど、ルリと話したんだけど、帝国で居場所の消えたオベレの、
新たな居場所の開拓行為じゃないかと、思えるわ。」
「やりきれない話ね。」
イルムの答えに考え込んだリントの代りに、エリースが口を挟む。
「次はルリの方から話を・・・。」
ルリは、イルムから合図を受けて話し出す。
「まずはじめに、トリハ宰相からの書状がきているわ。
ミカルの方で、反レリウス派との緊張が高まっているみたい。」
「同時期に、反レリウス派の、首領のヒーク伯爵から密書も届いているわ。」
「協力してくれて、事がなった暁には、ミカルの旧帝国本領を
戻してくれるそうよ。」
「それって、嘘っぽいわね。ルリ、トリハ宰相の書状は?」
キョウショウの質問に、ルリは話を続ける。
「二ヶ国の友誼に期待する・・・だそうよ。」
「ミカルの餓狼と、智慧比べをしてみたい気はするけど・・。」
とのイルムのひとり言に、
「イルム!?」
と、さすがにカシノが、イルムを咎める。
「冗談よ、カシノ。」
「イルム、話を続けていいかしら。」
「ごめん、ルリ。話を続けて。」
「新帝国しては、ミカルの餓狼と、戦うわけにはいかない。
イルムがどう思おうともね。
それと、ミカル関係に付け加えて言えば、
エリースが超上級妖精の契約者ということが、
かの地から、広がってきているわ。」
「公都ミカル・ウルプスで、あれだけのことをリーエと、
やっちゃたからね。」
「いつかは、バレることだったし、時期が早くなったけど・・・。」
エリースが、憮然とした表情で答える。
「イルム、それは新帝国にとってどうなの?」
カシノがイルムに質問する。
「いい時期かもしれない。この後ルリが話すけど、
また別の超上級妖精の契約者が、現れた気配があるから。」
イルムとルリを除く4人が、驚いて息を吐いた音が、この部屋に響く。
「続けるわね。つぎに、コウニン王国だけど、こちらも何かが起こっている。
なにかの指図による、対外工作部南局の最上級妖精契約戦士たちの裏切りで、
南局が壊滅したらしい。」
「イルム、それが、また別の超上級妖精契約者の仕業というの?」
「キョウショウ。今、コウニン王国の北局に三重密偵を、忍ばせているけど、
そこからの情報。情報としては、それ以上のことは、現時点では未確定。
あとは、イルムお願い。」
・・・・・・・
「以上の新たな情報がはいってきているわ。だから、ここから今言えるのは、
今回の街道警備で、3ヶ国連合軍と戦になるのは、
なるべく避けて欲しい。」
「次の大戦に主力となる国々の歴史が動いている。
ここで、戦略を決めるのは、極めて悪手になりそうだから。」
「しかし、ラティスさんはどうなの。
どうかすれば、連合軍部隊も滅ぼしそうよ。」
イルムに言葉に、カシノが反応する。
「予定不能よ。ただそうなったら、敵側になった彼らの方が、
より大きい悪手になるでしょうね。」
「あとは、神々のみぞ知る、ということね。」
カシノが、呆れながらも言葉をつなぐ。
「で、戦線の方はどうなの?」
リントが疑問を呈す。
「エリースに頼んで、リーエに何回か、高高々度から、偵察に行かせたけど、
シュウレイ將の城の方の人間が、行くたびに減っている状況よ。」
「逃亡者、投降者が続出してるという状況か。」
「むしろ、軍として機能してる方が驚きね。
シュウレイ將の有能さを示す証左ね。」
「あと聞きたいんだけど、ナナリス騎士やヨクス騎士は、仲間としてはどう?」
キョウショウが、イルムとルリに尋ねる。
「仲間として、この場に呼ぶには、ヨクスは難しいわ。
ナナリスは、今回の作戦の結果次第かしら。」
と、ルリが回答する。
「では、ルリにキョウショウにリント、今回はお願いね・・・。」
会を閉めようとするイルムに、エリースが手をあげ、反論する。
「わたしも、今回の作戦に参加するわ!」
と。
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