和製切り裂きジャック

九十九光

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#1-1

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#1(三人称)


 二〇一七年一月九日午前六時半、愛知県名古屋市千種区平和公園。
 丘陵地を切り開いて作られた、いくつかの住宅地に囲まれている緑地公園である。星ヶ丘の住宅地に隣接する南側は、野鳥観察やウォーキングが楽しめるように整備された元里山になっている。また、自由ヶ丘と面する北側は、戦後のインフラ整備のために移転した墓地に合わせるように、様々な宗派の寺院が軒を連ね、観光バスの往来もある、寺院の数日本一の県を象徴する光景が広がっている。その霊園のさらに北には、ろう学校、動物愛護センター、給水施設などが存在しており、これらの施設に縁のない者にはあまり馴染みのない場所にもなっている。住所記載が『平和公園』となっている公園の敷地内には、コンビニどころか民家の一軒も存在していない。通年行われる寺巡りと、お盆や桜の季節を除いて考えれば、わざわざ遠くから訪れる人もいない場所とも言える。
 つまり、年明け早々の今の時期は、人とすれ違うこと自体が珍しい場所になっているというわけだ。
 この薄日が差し込んでぼんやりとしか周辺の道の形を確認できない公園西側の歩道を、赤いジャージを着た一人の女性が歩いていた。
 星ヶ丘の住宅地に住む六十代の専業主婦だ。自分の体形と健康寿命に対して敏感で、十年前に問題になった納豆で痩せられるというデマにも引っかかった、全国どこにでもいる普通の女性だ。
 彼女のウォーキングコースは、公園の管理を行う市の職員が作ったコースの一部を、中山道という道に変化させたコースだった。
 一キロ半ほどのこの道は、畑や水田などのかつての里山の風景を意識して整備され、アスファルトによる舗装がされていない道である。またこの道に沿う形で、せせらぎ川という浅い川を意識して作られた人口の川が流れている。この女性がウォーキングをする時間帯にはスズメなどの小鳥が水浴びをする声が聞こえ、小動物好きには穴場のスポットだった。彼女がウォーキングに不向きな歩きにくいコースをわざわざ選んでいるのもそれが理由だった。
 念を押して彼女は手回しで充電する懐中電灯を片手に持っていた。これで自分の足元を照らしながら、早歩きに近い速度で公園内を歩いていく。
 今日も小さな鳥がさえずる声を聴きながら、すれ違う人間のいない道で自分一人だけの時間を味わっていく。
そのはずだった。
 この日の中山道は小鳥のさえずりではなく、カラスがけたたましく鳴く声で騒がしくなっていた。まだ薄暗い空の向こうから聞こえるその声は、安物のホラー映画の冒頭のよう
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