和製切り裂きジャック

九十九光

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プロローグー6

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くらいの長編映画にできるのではないかと思うような、時間の経過を忘れさせてくれる物語ばかりだった。
私をさらに魅了したのは、にわかには信じがたいこれらの物語が、私が生きているこの現実世界で起きていたということだった。
 はだしのゲンのように日本の歴史を後世に伝えている作品だろうと、グロテスクだから学校の図書館から排斥して当然というくらい、臭い物にふたをすることに美意識を持っているのが、この日本という国だ。だが彼らシリアルキラーは、時には遠い異国の地で堂々と臭い物を造り上げ、美意識であふれかえっている現代日本に自分たちの偉業を伝え続けているのだ。人殺しの話に興味がなかったり、グロテスクなものを見て吐き気を感じたりする人たちは、彼らのことを、頭のいかれた狂人、治療の必要な精神異常者と、まるでひねりのない言い方で片づけてしまう。一方当時の私は、江戸の町のちり紙の絵を見た西洋の画家のように、彼らを革命的なセンスを持つすばらしい芸術家のように感じていた。消去法でいい物事だけが残るようにした世界に居心地の悪さを感じ、それらに反旗を翻すために人殺しというタブーに足を踏み入れた、楽しく生きたいという人間の本能に従った英雄のように見ていた。私自身は人を殺してみたいという気にはならなかったが、彼らを世界の構造に戦いを挑んだヒーローのように尊敬していた。
 もっと彼らについて知りたい。彼らについてテレビや本で語れるような人間になりたい。
 高校二年の夏には、私の中にそんな大雑把な夢ができあがっていた。
「だからA大学の文学部選んだんだ」
 一つの疑問が紐解けた増田氏が口にした。
「そう。AO入試で秋に合格」
 私は当時の偏差値四十以下の地方の大学に入った方法を、さも誇らしげに補足した。
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