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68とある晩餐にて

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新任の家庭教師の先生はマーロン・トルード先生といった。
今年45歳になる先生は一度離婚歴があり、娘さんが一人いたがすでに商家に嫁ぎ、3人の子持ちで元気に幸せに暮らしているという。45歳の先生は教師として脂が乗り切った状態だったが、喘息にかかり、医師に王都ではなく、気候が穏やかで空気のきれいないなかで
過ごすことを勧められ、探してたところミュラー子爵である父の新任の家庭教師の話に、これはと思い乗ったという。
茶色の髪と知的な緑の目を持った穏やかそうな人に見えた。
アドラスの学問の進み具合を聞きマーロン先生は驚いた表情をした。
アドラスは8歳だというのに王立学院の中等科1年レベルの学問を履修していたからだ。ゆえにマーロン先生に習うのは王立学院の2年レベルからであると知り、これは教えがいのある生徒に出会ったと心底嬉しそうに微笑んだ。
「わざわざ王都から離れ、ここまで来たかいがありました。」
そういって先生はアドラスに熱心に勉強を教えることを始めたのだった。
先生の授業は覚えやすくわかりやすく、アドラスはすぐに先生を気に入った。
学問を教えることに熱心な先生だったが、喘息の発作は薬と転地療養もあって、発作らしい発作は出なくなり、住み込み生活をしているミュラー家の食事もおいしくいただけ、夜もぐっすりと眠れるようになったと、喜んで晩餐の席でヘンリーの質問に答えた。

「それは良かった。マーロン先生、これからも息子のことをよろしくお願いします。私にとってこの子は一粒種で、私はこの子の将来に期待しているんです。この子の代はきっと領地は今よりももっとずっとさかえ立派になっていることでしょう。」

「そのお気持ちとてもよくわかります。アドラス様は私が教えてきた生徒達の中でも飛びぬけて優れていますから、神童と言っていいですね。私もアドラス様を教えることができて本当にうれしいです。さすがに王家の血が流れているだけあってちがいます。」

「ホホ、王家の血はわたくしの父の血が色濃く出たのですわ。つまりキンバリー伯爵家の血ですわね。」

「ええよく知ってます。この国で首狩り伯爵のことを知らぬものはありません。それどころか敵国にとっても知らぬものなしでしょう。先の戦でも敵国の総大将だった敵将軍の首をはねたとか、王都で吟遊詩人がその活躍をよく歌っていましたからねぇ。」

「そうでしょうなぁ、こちらでも居酒屋などでよく吟遊詩人が歌いますからな、客に人気のある歌なのですよ、」

エリザベスはコホンと咳をして見せた。夫の愛人である今は料理屋の女将をしている女は、もともと居酒屋で人気のある女店員として働き、気晴らしに酒を飲みに出かけた夫に気に入られ愛人として囲われたのだ。女も女で領主である夫をパトロンとして最初から狙っていたのだろうが・・・・・・・そこは、今は、言わないで置く。
にっこりと菩薩の微笑みを浮かべた妻に背筋がゾクリとしたヘンリーだった。
<あーあ、父上墓穴を掘ったな、今晩母上に何か言われるかな?>

ヘンリーは話題を変える・・・・
「先生はご趣味はなんですか?」

「私の趣味は小物作りです。簡単な洋服を作ることもありますが、これは男らしくないといわれますが、若い時は冒険者の真似事などをして魔物狩りをした時もありますが、ぜんそくの発作が出るようになってからは室内でできるものに変えたんです。」

<えっ、ほんと!?ホントなら先生に小物作りや洋服の作り方とか習いたいな!後で頼んでみよう>

「確かに喘息の気のある人間に魔物狩りは無理ですね、それで室内で落ち着いてできる縫物ですか、なるほど…実をいうと私の息子アドラスも刺繍をやるのですよ、」

「アドラス様が刺繍をおやりになるんですか?」

「はい、この子のはサバイバルとか言いまして、いい品ができたら小物屋に売りに出すとか言ってましたが、あ、でもこの間は父親の私に上手に縫った刺繍のハンカチをお守りとしてプレゼントしてくれましてね、かわいいところがあるのですよ。」
アドラスは「えへへへ」と頭に手をやって照れ笑いした。

そんなアドラスにやさしい微笑みを浮かべて見たマーロン先生は、

「いい息子さんですね、普通父親に刺繍入りのハンカチを渡すのはご令嬢ですが、ミュラー家には女のお子さんはおられないからですね、」

「そのとおりです先生、実をいうと僕妹が欲しいんですがこればかりは神様の思し召しですから、」

「ええ、まさしくそのとおりですね、アドラス様」

「先生、もしよろしかったら暇なときに僕に小物作りとか簡単な洋服の作り方を教えてくれませんか?お願いします先生、父上、母上、いいでしょう?」

「・・・・まあ、いいだろう」
基本、アドラスに甘い父は了承した。
「そうねえ・・・・」
エリザベスのほうは考え込む様子を見せた。
「母上、ねえいいでしょう。そうしたらマーロン先生とより理解しあい親しくなれると思うんです。お願いです母上」
手を合わせてこすりあいお願いするアドラス。

「…わかりました、許可します。ただし、お母様も先生に習うことにします。」

「エリザベス!?」

「母上!?」

「ヘンリー、アドラス、実をいうとね、教会のバザーに出す品物が、毎度毎度刺繍入りのハンカチやカボチャパイやリンゴパイでは、目新しさがないとおもって悩んでいたのよ」

「なるほど、わかりました。それならお二人とも、私とご一緒にやることにしましょう、よろしいですか、子爵様?」

「ああ、それはかまわない、お願いできますかな、」

「喜んで」
マーロン先生は食卓の椅子に腰を下ろしたまま軽く会釈した。

「よかったですね、母上!!」

「ええ本当ね、アドラス!!」
母と息子それぞれ手をたたきあって喜んだのだった。
そんな仲の良い家族を微笑んで見つめる子爵。
ミュラー子爵家の平和で穏やかな光景に、マーロンはここで働けて本当に良かったと思うのだった。




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