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本編-ARIA-
第111話『華麗なる逆襲-後編-』
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「お前なんか死ねばいいんだ! それがお前に対する然るべき処罰だ!」
僕は諸澄君に心臓周辺にナイフを突き立てられる。その衝撃で僕はその場に倒れ込んだ。
「ははっ! 無様だなぁ! どんなに正義を振りかざしても、ナイフで一突きされるだけで、この俺様の前で崩れ落ちるんだからな!」
諸澄君は高らかに笑っている。最後に僕のことを刺し、復讐が成功したと思っているのだろうか。
「智也さん! 大丈夫ですか!」
「智也君! 誰か、救急車を――」
「救急車を呼ぶ必要はありませんよ、有紗さん」
やれやれ。やっぱり、諸澄君は追い詰められたら実力行使に出たか。
僕はゆっくりと立ち上がって、ナイフを折りたたんで羽賀に手渡す。
「すまないな、羽賀。せっかく買ってくれた服が破けちゃったよ」
「気にするな。それに、このくらいの事態は想定していた」
「そうか。羽賀の言うとおり、この服の下に防弾・防刃のベストを着て正解だったな」
「私の言うとおりだっただろう? 激昂して、隠し持っていたナイフで君のことを刺すと。面白いほどに私の想像通りだった。ひさしぶりに犯人相手に笑ってしまったよ」
こんなときに笑ってしまうとは、羽賀もなかなか性格の悪い奴だ。まあ、自分を利用した諸澄君へのせめての反撃なんだろうけど。
諸澄君が恨んでいる相手は僕や羽賀であることは分かっていたので、僕と羽賀、浅野さんなどの警察関係者は事前に防弾・防刃ベストを着ていた。万が一、他の誰かが狙われたときは僕らが守るということは事前に話しておいた。
「羽賀、今の諸澄君の行動、法にいくつか触れるよな?」
「そうだな。銃刀法違反と殺人未遂の罪だろうか」
「そうか。まあ、諸澄君を殺人者にしなかっただけ良かったと思っているよ」
まったく、そこまでして僕に復讐したかったんだな。その執念深さだけは凄いと思う。
「復讐は失敗だよ、諸澄君。残念だったね」
「……あ、あははっ! 何言ってるんだよ!」
僕の殺害が失敗して落ち込んでいるかと思ったら、意外にも諸澄君は嬉しそうな表情をして笑っていた。
「確かにお前は無実の人間として釈放されたよ。だけどな、一度は逮捕されたんだ。そのおかげで職を失って、日本全国……いや、世界中に敵ができちゃったんだよね! 釈放されても、全ての人間がお前のことを無実の人間だと見てくれると思ったら大間違いなんだよ! お前は一生、女子高生に対して性的犯罪をした卑劣な人間だと見られることだってあるんだ! そのことを覚えておくんだな。あと、俺の復讐は既に成功しているってこともね! ざまあみろ」
それが、諸澄君の捨て台詞ってことか。
やっぱり、そういうことを言ってきたか。無実の罪でも逮捕されれば、僕のことを犯罪者として見る人がいると。
「それに対して、僕は未成年者だ。名前は報道されない! 少年法によって僕のことは守られるんだよ。ははっ、犯罪をするなら未成年のうちにやるに限るよ!」
あははっ! と諸澄君は笑い飛ばしている。逮捕されるけど、ある意味では勝ち逃げできたと思っているんだろう。
「……確かに、法律上、未成年である君の名前を伏せなきゃいけないね。マスコミはそれに従うだろう」
「そうだ。お前はそのくらいの知識はあるんだな」
「ただ、一般人は自由に発信できるからね。事実も、憶測も……」
「えっ……?」
「有紗さんでも、詩織ちゃんでもいいのでTubutterの検索画面を諸澄君に見せてあげてください」
「あたしが見せるよ」
有紗さんが諸澄君にスマートフォンの画面を見せると、諸澄君の表情が一気に青ざめたものになる。
『『TKS』ってきっと諸澄君だよね』
『俺、諸澄が謹慎処分を受けた理由を先生から聞いたぜ。朝比奈さんのことをストーカーしていたからだろ? 告白して振られたからってそこまでするかよ。』
『諸澄君の学校での顔は嘘っぱちだったんだね。あたし、実は氷室っていう男の人と朝比奈さんが一緒に歩いている姿を見たことあるけど、2人ともとっても楽しそうだったよ。』
『『TKS』は諸澄君で氷室さんっていう男の人と朝比奈さんの関係を引き裂くために、氷室さんを無実の罪で逮捕させたってこと? ストーカーの件も本当だったら本当にひどいよね。朝比奈さんと氷室さんがかわいそう。刑事さんも巻き込まれたんだよね。』
『つうか、諸澄が朝比奈さんに告白したっていうのも本当なのか? 見たことあるっていう話、聞いたことないけれど。それに告白してないなら、してないって言えばいいのに。まさか、あいつの自演だったりして。そうだとしたら最低だな……』
『朝比奈さんに謝らないと。嘘を信じていじめちゃったんだって。佐相さんにも謝らなきゃいけないな。でも、諸澄君のことは絶対に許さない。あたし達でどんどん広めちゃおうよ。』
『テレビじゃ未成年で言われないんだから、諸澄のことを実名入りで広めちまえ。ネット上では残しておくべきことだ。』
僕は詩織ちゃんのスマートフォンで、Tubutterで『諸澄』という言葉での検索結果を見ているけど、さっきよりもヒットするツイートが多くなっているな。また、諸澄君などの名前は伏せられているものの、これらのツイートをまとめて記事にしているまとめサイトもいくつかある。
「分かっただろう? SNSを利用して、誰でも不特定多数の人間に向けて言えるんだよ。『TKS』は諸澄司だった。『TKS』は僕と美来の仲を引き裂くために、計画を立てて他の人間を利用した。今後、色んなことが不特定多数の人間に知られていってしまうんだよ」
「そ、そんな……」
諸澄君の表情を見る限り、どうやら、自分のことを悪く言う人がこんなにいるとは思わなかったのだろう。
「確かに、僕のことを一生、犯罪者だと思う人はいるだろうね。でも、無実であることが証明されたことも世間は知っている。しかし、君の場合は……実際に罪を犯した。君が死んでも永遠にその記録は残っていく。恨むなら自分自身を恨むんだね。その重荷を背負う選択をしたのは、他ならぬ諸澄君自身なのだから。今後、警察からしっかりと取り調べを受けて、法律に則った処罰を受けな。それが、大人である僕から言えることだよ」
まあ、後は警察に任せるとしよう。そして、彼が起訴されたら司法の場に。僕のやるべきことはこれで終わりだ。
「じゃあ、後は警察の方で――」
「待ってください、羽賀さん。私……最後に、諸澄君へ言いたいことがあるんですけどいいですか?」
「もちろんかまわないが……」
美来、諸澄君に何を言うつもりなんだろう?
「諸澄君。よくも智也さん達をひどい目に遭わせてくれたね。殺人が違法じゃないなら、何度も諸澄君のことを殺してるよ。あなたに抱く感情は嫌いなんていう可愛いものじゃない。恨んでるよ。一生恨むよ。私達の前に二度と現れないで」
こんなにも低い美来の声を聞くのは初めてだな。いつもの美来とは想像できないくらいに恐ろしい表情をしている。もしかしたら、諸澄君にとっては何よりも辛い罰かもしれないな、これは。
諸澄君は目を見開いて美来のことを見つめている。そして、
「朝比奈さんはこんなこと言わない! 俺の知っている朝比奈さんは俺に対してこんなこと言わないんだ! そんなこと言われなくても、お前なんかとは二度と会わねえよ! 氷室のことが好きだからいじめられるんだ! 俺の言うとおりになれば、最初からこんな目に遭うことはなかったんだよ!」
怒り狂った様子で諸澄君がそう吐き散らすと、
「いい加減にしなさい!」
詩織さんはそう言い放つと、諸澄君の頬を思いっきり叩いた。
「結局はあなたも美来ちゃんをいじめている人達の一員なんだよ。それじゃ、あなたの恋人にも、あなたのものにすらならないよ」
「……何だよ、朝比奈がいじめられたときは何にもしなかったくせに。今更、彼女を守るようなことを言って、いいところを見せようとするなよ、偽善者。……あっ、もしかして罪滅ぼしでもしてるつもりかぁ? 朝比奈や氷室達にいい子ちゃんアピールしたいために」
「そう思いたいなら勝手にどうぞ」
「……お前がアンケートのことを部外者にリークしなければ、もしかしたら先生方は辞めさせられることはなく、佐相はいじめられずに済んだのかもしれないのに。何人もの未来を奪ったんだよ、お前は」
諸澄君のそんな言葉に詩織さんは怒るかと思ったら、意外と普段と変わらない表情を浮かべている。
「本当のことを美来ちゃんや氷室さん達に伝えない方がよっぽど後悔していたと思うよ。いじめることも悪いし、それを組織ぐるみで隠蔽することだって悪いこと。そんな状況を変えようとしていた氷室さん達に事実を伝えて何がいけないのかな?」
「そ、それは……」
「あなたは美来ちゃんのために何をしたの? 何もしなかったじゃない。そんなあなたは一度も偽善者にすらなれていないただの悪者。しかも、小者でもある。みんなもそれが分かったから、さっきのような内容を呟くんじゃない?」
「くっ……」
詩織さんの言葉に対しても黙り込んでしまったか、諸澄君は。そろそろ警察に連れて行ってあげた方がいいかも。
それにしても、偽善者にすらなれていないただの悪者か。諸澄君を一言で言い表すなら本当にそうだろうな。
「諸澄君に言いたいことが山ほどあるのは分かるけど、今はそのくらいにしておこう、詩織ちゃん。羽賀、彼を警視庁に連れてってあげて。あとは警察に任せるよ。証言が必要なら、僕達はきちんと応じるつもりだから」
「分かった。みなさん、ご協力ありがとうございました。それでは、さっきのことがあったので……諸澄司。銃刀法違反及び、氷室智也さんへの殺人未遂の罪で現行犯逮捕する」
羽賀はそう言うと、諸澄君に手錠をかけた。
諸澄君が手錠をかけられる瞬間、3日前、僕が同じように羽賀から手錠をかけられたときのことを思い出した。あのとき、本当に虚しい気持ちになった。諸澄君は今、何を思って手錠をかけられた両手を見ているのだろうか。
諸澄君がパトカーに乗せられ、その姿が見えなくなるまで僕らはずっと静かに見続けていたのであった。
僕は諸澄君に心臓周辺にナイフを突き立てられる。その衝撃で僕はその場に倒れ込んだ。
「ははっ! 無様だなぁ! どんなに正義を振りかざしても、ナイフで一突きされるだけで、この俺様の前で崩れ落ちるんだからな!」
諸澄君は高らかに笑っている。最後に僕のことを刺し、復讐が成功したと思っているのだろうか。
「智也さん! 大丈夫ですか!」
「智也君! 誰か、救急車を――」
「救急車を呼ぶ必要はありませんよ、有紗さん」
やれやれ。やっぱり、諸澄君は追い詰められたら実力行使に出たか。
僕はゆっくりと立ち上がって、ナイフを折りたたんで羽賀に手渡す。
「すまないな、羽賀。せっかく買ってくれた服が破けちゃったよ」
「気にするな。それに、このくらいの事態は想定していた」
「そうか。羽賀の言うとおり、この服の下に防弾・防刃のベストを着て正解だったな」
「私の言うとおりだっただろう? 激昂して、隠し持っていたナイフで君のことを刺すと。面白いほどに私の想像通りだった。ひさしぶりに犯人相手に笑ってしまったよ」
こんなときに笑ってしまうとは、羽賀もなかなか性格の悪い奴だ。まあ、自分を利用した諸澄君へのせめての反撃なんだろうけど。
諸澄君が恨んでいる相手は僕や羽賀であることは分かっていたので、僕と羽賀、浅野さんなどの警察関係者は事前に防弾・防刃ベストを着ていた。万が一、他の誰かが狙われたときは僕らが守るということは事前に話しておいた。
「羽賀、今の諸澄君の行動、法にいくつか触れるよな?」
「そうだな。銃刀法違反と殺人未遂の罪だろうか」
「そうか。まあ、諸澄君を殺人者にしなかっただけ良かったと思っているよ」
まったく、そこまでして僕に復讐したかったんだな。その執念深さだけは凄いと思う。
「復讐は失敗だよ、諸澄君。残念だったね」
「……あ、あははっ! 何言ってるんだよ!」
僕の殺害が失敗して落ち込んでいるかと思ったら、意外にも諸澄君は嬉しそうな表情をして笑っていた。
「確かにお前は無実の人間として釈放されたよ。だけどな、一度は逮捕されたんだ。そのおかげで職を失って、日本全国……いや、世界中に敵ができちゃったんだよね! 釈放されても、全ての人間がお前のことを無実の人間だと見てくれると思ったら大間違いなんだよ! お前は一生、女子高生に対して性的犯罪をした卑劣な人間だと見られることだってあるんだ! そのことを覚えておくんだな。あと、俺の復讐は既に成功しているってこともね! ざまあみろ」
それが、諸澄君の捨て台詞ってことか。
やっぱり、そういうことを言ってきたか。無実の罪でも逮捕されれば、僕のことを犯罪者として見る人がいると。
「それに対して、僕は未成年者だ。名前は報道されない! 少年法によって僕のことは守られるんだよ。ははっ、犯罪をするなら未成年のうちにやるに限るよ!」
あははっ! と諸澄君は笑い飛ばしている。逮捕されるけど、ある意味では勝ち逃げできたと思っているんだろう。
「……確かに、法律上、未成年である君の名前を伏せなきゃいけないね。マスコミはそれに従うだろう」
「そうだ。お前はそのくらいの知識はあるんだな」
「ただ、一般人は自由に発信できるからね。事実も、憶測も……」
「えっ……?」
「有紗さんでも、詩織ちゃんでもいいのでTubutterの検索画面を諸澄君に見せてあげてください」
「あたしが見せるよ」
有紗さんが諸澄君にスマートフォンの画面を見せると、諸澄君の表情が一気に青ざめたものになる。
『『TKS』ってきっと諸澄君だよね』
『俺、諸澄が謹慎処分を受けた理由を先生から聞いたぜ。朝比奈さんのことをストーカーしていたからだろ? 告白して振られたからってそこまでするかよ。』
『諸澄君の学校での顔は嘘っぱちだったんだね。あたし、実は氷室っていう男の人と朝比奈さんが一緒に歩いている姿を見たことあるけど、2人ともとっても楽しそうだったよ。』
『『TKS』は諸澄君で氷室さんっていう男の人と朝比奈さんの関係を引き裂くために、氷室さんを無実の罪で逮捕させたってこと? ストーカーの件も本当だったら本当にひどいよね。朝比奈さんと氷室さんがかわいそう。刑事さんも巻き込まれたんだよね。』
『つうか、諸澄が朝比奈さんに告白したっていうのも本当なのか? 見たことあるっていう話、聞いたことないけれど。それに告白してないなら、してないって言えばいいのに。まさか、あいつの自演だったりして。そうだとしたら最低だな……』
『朝比奈さんに謝らないと。嘘を信じていじめちゃったんだって。佐相さんにも謝らなきゃいけないな。でも、諸澄君のことは絶対に許さない。あたし達でどんどん広めちゃおうよ。』
『テレビじゃ未成年で言われないんだから、諸澄のことを実名入りで広めちまえ。ネット上では残しておくべきことだ。』
僕は詩織ちゃんのスマートフォンで、Tubutterで『諸澄』という言葉での検索結果を見ているけど、さっきよりもヒットするツイートが多くなっているな。また、諸澄君などの名前は伏せられているものの、これらのツイートをまとめて記事にしているまとめサイトもいくつかある。
「分かっただろう? SNSを利用して、誰でも不特定多数の人間に向けて言えるんだよ。『TKS』は諸澄司だった。『TKS』は僕と美来の仲を引き裂くために、計画を立てて他の人間を利用した。今後、色んなことが不特定多数の人間に知られていってしまうんだよ」
「そ、そんな……」
諸澄君の表情を見る限り、どうやら、自分のことを悪く言う人がこんなにいるとは思わなかったのだろう。
「確かに、僕のことを一生、犯罪者だと思う人はいるだろうね。でも、無実であることが証明されたことも世間は知っている。しかし、君の場合は……実際に罪を犯した。君が死んでも永遠にその記録は残っていく。恨むなら自分自身を恨むんだね。その重荷を背負う選択をしたのは、他ならぬ諸澄君自身なのだから。今後、警察からしっかりと取り調べを受けて、法律に則った処罰を受けな。それが、大人である僕から言えることだよ」
まあ、後は警察に任せるとしよう。そして、彼が起訴されたら司法の場に。僕のやるべきことはこれで終わりだ。
「じゃあ、後は警察の方で――」
「待ってください、羽賀さん。私……最後に、諸澄君へ言いたいことがあるんですけどいいですか?」
「もちろんかまわないが……」
美来、諸澄君に何を言うつもりなんだろう?
「諸澄君。よくも智也さん達をひどい目に遭わせてくれたね。殺人が違法じゃないなら、何度も諸澄君のことを殺してるよ。あなたに抱く感情は嫌いなんていう可愛いものじゃない。恨んでるよ。一生恨むよ。私達の前に二度と現れないで」
こんなにも低い美来の声を聞くのは初めてだな。いつもの美来とは想像できないくらいに恐ろしい表情をしている。もしかしたら、諸澄君にとっては何よりも辛い罰かもしれないな、これは。
諸澄君は目を見開いて美来のことを見つめている。そして、
「朝比奈さんはこんなこと言わない! 俺の知っている朝比奈さんは俺に対してこんなこと言わないんだ! そんなこと言われなくても、お前なんかとは二度と会わねえよ! 氷室のことが好きだからいじめられるんだ! 俺の言うとおりになれば、最初からこんな目に遭うことはなかったんだよ!」
怒り狂った様子で諸澄君がそう吐き散らすと、
「いい加減にしなさい!」
詩織さんはそう言い放つと、諸澄君の頬を思いっきり叩いた。
「結局はあなたも美来ちゃんをいじめている人達の一員なんだよ。それじゃ、あなたの恋人にも、あなたのものにすらならないよ」
「……何だよ、朝比奈がいじめられたときは何にもしなかったくせに。今更、彼女を守るようなことを言って、いいところを見せようとするなよ、偽善者。……あっ、もしかして罪滅ぼしでもしてるつもりかぁ? 朝比奈や氷室達にいい子ちゃんアピールしたいために」
「そう思いたいなら勝手にどうぞ」
「……お前がアンケートのことを部外者にリークしなければ、もしかしたら先生方は辞めさせられることはなく、佐相はいじめられずに済んだのかもしれないのに。何人もの未来を奪ったんだよ、お前は」
諸澄君のそんな言葉に詩織さんは怒るかと思ったら、意外と普段と変わらない表情を浮かべている。
「本当のことを美来ちゃんや氷室さん達に伝えない方がよっぽど後悔していたと思うよ。いじめることも悪いし、それを組織ぐるみで隠蔽することだって悪いこと。そんな状況を変えようとしていた氷室さん達に事実を伝えて何がいけないのかな?」
「そ、それは……」
「あなたは美来ちゃんのために何をしたの? 何もしなかったじゃない。そんなあなたは一度も偽善者にすらなれていないただの悪者。しかも、小者でもある。みんなもそれが分かったから、さっきのような内容を呟くんじゃない?」
「くっ……」
詩織さんの言葉に対しても黙り込んでしまったか、諸澄君は。そろそろ警察に連れて行ってあげた方がいいかも。
それにしても、偽善者にすらなれていないただの悪者か。諸澄君を一言で言い表すなら本当にそうだろうな。
「諸澄君に言いたいことが山ほどあるのは分かるけど、今はそのくらいにしておこう、詩織ちゃん。羽賀、彼を警視庁に連れてってあげて。あとは警察に任せるよ。証言が必要なら、僕達はきちんと応じるつもりだから」
「分かった。みなさん、ご協力ありがとうございました。それでは、さっきのことがあったので……諸澄司。銃刀法違反及び、氷室智也さんへの殺人未遂の罪で現行犯逮捕する」
羽賀はそう言うと、諸澄君に手錠をかけた。
諸澄君が手錠をかけられる瞬間、3日前、僕が同じように羽賀から手錠をかけられたときのことを思い出した。あのとき、本当に虚しい気持ちになった。諸澄君は今、何を思って手錠をかけられた両手を見ているのだろうか。
諸澄君がパトカーに乗せられ、その姿が見えなくなるまで僕らはずっと静かに見続けていたのであった。
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