70 / 83
駐米英国大使ハリファックス卿
しおりを挟む
1944年9月某日
「今日は面会して頂きありがとうございます大統領閣下」
「いやいや、同盟国英国の大使の会見を拒むことなどしませんよ。まして、共に戦う戦友ならば尚更です」
ルーズベルト大統領は駐米英国大使ハリファックス卿をホワイトハウスに向かえた。
だが、ルーズベルト個人としては、あまりハリファックス卿を好いていない。
チェンバレン内閣で外務大臣を務めていたがイタリアのエチオピア侵攻、チェコスロバキアで枢軸国に対して融和的な政策を行い、第二次大戦を開いてしまった。
ポーランド開戦後もハリファックスはドイツとの本格的な戦闘を恐れ経済封鎖に留めようとしたが、ノルウェー侵攻により頓挫しチェンバレンが辞任。
後任の首相としてハリファックスも候補に挙がったが、貴族院出身のため庶民院を纏めることが出来ないと自ら辞退して対立候補であり徹底好戦派のチャーチルが首相となった。
チャーチルの内閣でもハリファックス卿は外務大臣として留まったが、チャーチルの方針と対立したため駐米英国大使に事実上左遷された。
だがフランスが脱落した状況ではアメリカの支援が英国には欠かせない状況であり、駐米大使であるハリファックス卿の役割は重大であり、戦局が悪化するごとに重要性は増していった。
アメリカの左翼から対独融和外交を主導した保守政治家、いけ好かない貴族外交官と言われ卵を投げつけられたこともあった。
それでも亡国の危機にある祖国英国の為にアメリカの支援と支持を受けるためハリファックスはアメリカ各地を訪れ、徐々にアメリカで人気を得ていった。
一種の道化だったが、やらなければならず、ハリファックスはあえて役割を受け入れ、果たした。
祖国英国の苦境を救うために。
この日も英国のへの支援を行うよう米国に求めるため、ルーズベルト大統領との会見にハリファックスは臨んだ。
そして本題を切り出した。
「どうにかインド洋へアメリカの空母機動部隊を派遣して頂けませんか?」
「残念ながら太平洋の方に必要です」
いつものようにルーズベルトは却下した。
アメリカからすれば地球の反対側にあるインド洋へ機動部隊など派遣出来ない。
しかし、ハリファックス卿は食い下がらず、説明を続けた。
「インドの資源は豊富です。インドの資源が供給されれば連合軍の戦力は確実に増強されます」
ハリファックスの言葉は確かに事実だった。
英国王の王冠輝く最大の宝石、と称されるインドの資源は膨大であり、供給されれば戦力を増大させることが出来る。
だが、あまりにもアメリカからは遠すぎる。
資源ならばアメリカ周辺、カリブ海や南米大陸で十分だった。その気になればアメリカは国内で自給可能だ。
なおも英国がインドにこだわるのは、英国の最大の植民地であり、資源供給源だからだ。
しかし、日本軍の封鎖により資源供給は途絶。
アメリカからの援助で生き延びている状況だ。
このままではアメリカの属国と成り果てる。
経済的に自立し、独立を保つためにも英国はインドを必要としていた。
だから、ハリファックスは、内心しらけたルーズベルト大統領相手に熱弁をふる。
「ですが、日本軍のインド洋封鎖により途絶しています。先月は、機動部隊の襲来もありました」
8月再編成なった日本機動部隊はリンガを出撃。
スンダ海峡を南下すると、オーストラリアのフリーマントルを空襲した。
潜水艦基地が置かれており、南シナ海の通商路破壊のための重要な基地だったが、空襲によりその機能を喪失した。
度々空襲にあっていたが、どうしようもなかった。
フリーマントル襲撃を終えた機動部隊は北西へ進路を変更、インド亜大陸各地の英国の港湾施設を襲撃。船団を攻撃していった。
洋上にあった船団は航空機に見つかり全て撃沈され、港湾に残った商船も空襲で沈められた。
「英国で何とか出来ませんか?」
「残念ながら我々では対応できません」
苦渋の思いでハリファックス卿は英国の窮状を、二年も続く封鎖の苦しさを伝えた。
「今日は面会して頂きありがとうございます大統領閣下」
「いやいや、同盟国英国の大使の会見を拒むことなどしませんよ。まして、共に戦う戦友ならば尚更です」
ルーズベルト大統領は駐米英国大使ハリファックス卿をホワイトハウスに向かえた。
だが、ルーズベルト個人としては、あまりハリファックス卿を好いていない。
チェンバレン内閣で外務大臣を務めていたがイタリアのエチオピア侵攻、チェコスロバキアで枢軸国に対して融和的な政策を行い、第二次大戦を開いてしまった。
ポーランド開戦後もハリファックスはドイツとの本格的な戦闘を恐れ経済封鎖に留めようとしたが、ノルウェー侵攻により頓挫しチェンバレンが辞任。
後任の首相としてハリファックスも候補に挙がったが、貴族院出身のため庶民院を纏めることが出来ないと自ら辞退して対立候補であり徹底好戦派のチャーチルが首相となった。
チャーチルの内閣でもハリファックス卿は外務大臣として留まったが、チャーチルの方針と対立したため駐米英国大使に事実上左遷された。
だがフランスが脱落した状況ではアメリカの支援が英国には欠かせない状況であり、駐米大使であるハリファックス卿の役割は重大であり、戦局が悪化するごとに重要性は増していった。
アメリカの左翼から対独融和外交を主導した保守政治家、いけ好かない貴族外交官と言われ卵を投げつけられたこともあった。
それでも亡国の危機にある祖国英国の為にアメリカの支援と支持を受けるためハリファックスはアメリカ各地を訪れ、徐々にアメリカで人気を得ていった。
一種の道化だったが、やらなければならず、ハリファックスはあえて役割を受け入れ、果たした。
祖国英国の苦境を救うために。
この日も英国のへの支援を行うよう米国に求めるため、ルーズベルト大統領との会見にハリファックスは臨んだ。
そして本題を切り出した。
「どうにかインド洋へアメリカの空母機動部隊を派遣して頂けませんか?」
「残念ながら太平洋の方に必要です」
いつものようにルーズベルトは却下した。
アメリカからすれば地球の反対側にあるインド洋へ機動部隊など派遣出来ない。
しかし、ハリファックス卿は食い下がらず、説明を続けた。
「インドの資源は豊富です。インドの資源が供給されれば連合軍の戦力は確実に増強されます」
ハリファックスの言葉は確かに事実だった。
英国王の王冠輝く最大の宝石、と称されるインドの資源は膨大であり、供給されれば戦力を増大させることが出来る。
だが、あまりにもアメリカからは遠すぎる。
資源ならばアメリカ周辺、カリブ海や南米大陸で十分だった。その気になればアメリカは国内で自給可能だ。
なおも英国がインドにこだわるのは、英国の最大の植民地であり、資源供給源だからだ。
しかし、日本軍の封鎖により資源供給は途絶。
アメリカからの援助で生き延びている状況だ。
このままではアメリカの属国と成り果てる。
経済的に自立し、独立を保つためにも英国はインドを必要としていた。
だから、ハリファックスは、内心しらけたルーズベルト大統領相手に熱弁をふる。
「ですが、日本軍のインド洋封鎖により途絶しています。先月は、機動部隊の襲来もありました」
8月再編成なった日本機動部隊はリンガを出撃。
スンダ海峡を南下すると、オーストラリアのフリーマントルを空襲した。
潜水艦基地が置かれており、南シナ海の通商路破壊のための重要な基地だったが、空襲によりその機能を喪失した。
度々空襲にあっていたが、どうしようもなかった。
フリーマントル襲撃を終えた機動部隊は北西へ進路を変更、インド亜大陸各地の英国の港湾施設を襲撃。船団を攻撃していった。
洋上にあった船団は航空機に見つかり全て撃沈され、港湾に残った商船も空襲で沈められた。
「英国で何とか出来ませんか?」
「残念ながら我々では対応できません」
苦渋の思いでハリファックス卿は英国の窮状を、二年も続く封鎖の苦しさを伝えた。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
架空世紀「30サンチ砲大和」―― 一二インチの牙を持つレバイアサン達 ――
葉山宗次郎
歴史・時代
1936年英国の涙ぐましい外交努力と
戦艦
主砲一二インチ以下、基準排水量五万トン以下とする
などの変態的条項付与により第二次ロンドン海軍軍縮条約が日米英仏伊五カ国によって締結された世界。
世界は一時平和を享受できた。
だが、残念なことに史実通りに第二次世界大戦は勃発。
各国は戦闘状態に入った。
だが、軍縮条約により歪になった戦艦達はそのツケを払わされることになった。
さらに条約締結の過程で英国は日本への条約締結の交換条件として第二次日英同盟を提示。日本が締結したため、第二次世界大戦へ39年、最初から参戦することに
そして条約により金剛代艦枠で早期建造された大和は英国の船団護衛のため北大西洋へ出撃した
だが、ドイツでは通商破壊戦に出動するべくビスマルクが出撃準備を行っていた。
もしも第二次ロンドン海軍軍縮条約が英国案に英国面をプラスして締結されその後も様々な事件や出来事に影響を与えたという設定の架空戦記
ここに出撃
(注意)
作者がツイッターでフォローさんのコメントにインスピレーションが湧き出し妄想垂れ流しで出来た架空戦記です
誤字脱字、設定不備などの誤りは全て作者に起因します
予めご了承ください。
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す
矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。
はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき……
メイドと主の織りなす官能の世界です。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
神速艦隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
「我々海軍は一度創成期の考えに立ち返るべきである」
八八艦隊計画が構想されていた大正3年に時の内閣総理大臣であった山本権兵衛のこの発言は海軍全体に激震を走らせた。これは八八艦隊を実質的に否定するものだったからだ。だが山本は海軍の重鎮でもあり八八艦隊計画はあえなく立ち消えとなった。そして山本の言葉通り海軍創成期に立ち返り改めて海軍が構想したのは高速性、速射性を兼ねそろえる高速戦艦並びに大型巡洋艦を1年にそれぞれ1隻づつ建造するという物だった。こうして日本海軍は高速艦隊への道をたどることになる…
いつも通りこうなったらいいなという妄想を書き綴ったものです!楽しんで頂ければ幸いです!
戦争はただ冷酷に
航空戦艦信濃
歴史・時代
1900年代、日露戦争の英雄達によって帝国陸海軍の教育は大きな変革を遂げた。戦術だけでなく戦略的な視点で、すべては偉大なる皇国の為に、徹底的に敵を叩き潰すための教育が行われた。その為なら、武士道を捨てることだって厭わない…
1931年、満州の荒野からこの教育の成果が世界に示される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる