精霊のジレンマ

さんが

文字の大きさ
上 下
57 / 329
タカオの街のドワーフ

57.コボルトの山

しおりを挟む
装備が整い、タカオの街を出る。タカオの街の北にはコボルトの生息する鉱山がある。今は廃坑になっているが、全く採れない訳ではないらしい。
鉱山までの道はあるが、途中からは廃れた道となり、道の跡が分かる程度になる。

元々はドワーフ達が金属を求めて掘ったのが始まり。坑道は長く複雑になり、そして何度かの崩落事故が起こる。それでも、ある程度の採掘量がある鉱山には幾つもの坑道が掘られた。
そして、この鉱山が廃坑になる事件が起きた。これまでで最大規模の崩落事故が起こるが、そこからコボルトのポップアップが始まる。
幸いな事に、コボルトは鉱山から出てくる事がない。ドワーフ達は、遂にこの鉱山を廃坑にする事を決める。それは先代タカオ領主の時代の話になるが、それでも100年以上も前の話になる。

『どうしたの?やけに詳しいわね。』

「ムーア達がブレスレット争奪戦している間に、ドワーフの店員から話を聞いたよ」

『そ、そうなの。私はイイんだけどね、リズやリタ、アイテムルームから出れないフォリーやマトリも居るでしょ。私が纏めないと大変なのよ』

そう言いながら、ブレスレットが付いた手首を隠す。

「召喚解除したら、アイテムは持ち込めないだろ?」

『アンクレットが増えた影響なのか、身に付けてる小さなアイテムくらいは持ち込めるようになってるわよ。短剣も大丈夫そうね』

ウィプス達を見てみると、首にチョーカーを付けている。あれっ、ソースイも選んでるのか。

「それなら、ブレスレットに俺達パーティーの印を入れよう。コボルトの鉱山は、まだ鉱石は取れるし、気持ち程度だけど何かの能力付与をしてもらおう」

精霊達の目付きが変わる。何か触れてはいけない事に触れたかもしれない。やる気を出してくれるなら問題はないけど・・・。


道の分岐が見えてくる。ラップがコボルトの鉱山に向かった事もあり、かろうじて道が分かる。迷う事なく草の生い茂る道を進む。タカオの街から、コボルトの鉱山までは歩いて1日とかからない。

「精霊の匂いが消えた」

『やっぱりゴブリンの時と同じかもしれないわね』

「今回は街が近いし加護の結界も無いから、影響も大きいかもしれないな」

すでにコボルトの群れは、鉱山から溢れているのか、鉱山の中に留まり続けているのかは分からない。
クオンの探知にも掛からないが、動物や獣の気配もなく静か過ぎるのが不気味に感じる。

山の麓が見えてくるが、状況は変わらない。かつて使われていた家屋が見えてくる。ドワーフが作った家屋だけあって、今でもしっかりと形を残している。

家屋の外壁や屋根には蔦が絡みついているが、窓や扉には蔦が絡んでいない。
最近使われた形跡がある。ラップ達が使ったかもしれないが、いつコボルトが出現してもおかしくない坑道の近くを使うとは考え難い。

相変わらず、生き物の気配は感じられない。近くの家の扉を開けてみる。

今は気配だけではない。ゴブリンキングから吸収した嗅覚が、そこにあった生き物の名残を感じとる。

「コボルトじゃない、魔物とドワーフの臭い」

『何かは分からないけど魔物とドワーフが繋がり、マッツとコボルトが繋がるなら、全てが繋がっていると見て良いわね』

「あまり俺達の情報は知られたくないから、タカオの街を山の早く出たのは正解だったな」

俺の嗅覚や、セイレーンの翼、ヴァンパイア姉妹と知られていない情報は多い。

『臭いで後を追うことは出来るの?』

「部屋の中で、こもった臭いだから分かるけど、もう外の臭いは分からないな」

『それじゃあ、今は近くにはいないって事でしょ。他の家にも何か無いか探してみましょう』

「そうだな、手掛かりは掴めるかもしれないな」

他の家屋についても調べてみる。少しだけ勇者の気分を味わう。
他の家屋は4・5人程度で泊まるような家で朽ちてはないが、部屋の中は荒らされたように散らかっている。
1番大きな建屋は資材置場や倉庫で、鉱山から取れた鉱石の保管に使われていたっぽい。どこまで使えるかは分からないが、ツルハシやハンマーなども置かれたままになっていたから、一応回収はした。

残るは、山の中か鉱山の中。クオンの探知スキルとウィプス達の哨戒で調べてみるが、特に変わった様子は見られない。コボルトの群れが、鉱山から溢れ出ている事は無いようだ。

「残るは、鉱山の中になるか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...