精霊のジレンマ

さんが

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タカオの街のドワーフ

56.契約のアンクレット

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「ちょっと、待ってて下さいね」

店に俺達だけを残して出ていってしまう店員。そんなに俺達を信用して大丈夫なのか?
武器や防具がメインの店で、アンクレットはあまり置いていない。近くの店からかき集めてくる。

大きな箱の中からは大量の、アンクレットやブレスレットが乱雑に入れられている。簡単に集めてこれるだけあって、特別はマジックアイテムなんかはないのだろう。

「これで、どうですか?私の知り合いの店からかき集めてきました」

必死の形相で訴え掛けてくる。

『私は契約の精霊ムーアよ。この事は他言無用。破るとどうなるか分かってるわね!』

迫力に圧されて、コクコクと頷く店員。

可愛そうになって盾を渡すと同時に、店員に訊ねる。

「これ全部で幾らするんだ?」

「盾を見せてもらえれば差し上げます」

大したものは無くても、量が量がだけに安くはないだろうと思う。

「それじゃあ悪いから、10万払うよ。この箱毎貰うからな」

「は、はい、それで十分です」

差し出された漆黒の盾を見た瞬間に、元の輝いていた目に戻る。しばらくは大人しくなると思う。

『全部買って良かったの?』

「1つしか買わないと、アンクレットがダミーだって分かるだろ。それに気になるやつがあってな」

手に取った革紐のブレスレット。その留め具に掘られた小さな紋様。
上下左右に配置されたリング模様。そして少しずつ重なりあっている。それは、今俺が身に付けているブレスレットの模様と同じもの。

そして俺の付けているブレスレットも高級そうには見えない。見た目は平革のような素材で留め具が付いている。しかし触った感触は金属のような感触で、大きさも俺の手首に合わせてくれる。ブレスレット自体が、自らの存在をカモフラージュしているかのよう。
俺達が力や強さを身に付けてくれば、それに見合った形に変わるのだと思う。

手にした瞬間、俺のブレスレットと共鳴するように輝き、そして消えて無くなる。
そして最初からそこにあったかのように、俺の両足首に巻き付いている。

『間違いないわね。今まではドワーフも気付いていないし、特別変わった物では無かったはず。あなたの身に付けているブレスレットに反応したのかもしれない』

そして間違いなく契約のアンクレット。ブレスレットとアンクレットで個々の存在ではなく、内部では繋がっている。
ブレスレットから入って、アンクレット出る。そして、そのまま影に潜る事も出来る。

戦いの可能性は広がったと思う。召喚しても出てくる場所が限定されれば、対処もされ易い。まさか、こんな拾い物があるとは思わなかった。

「だけど、これは重要な問題だな」

『何かダメな事があるの?マジックアイテム的には大丈夫だけど、どこかに問題があるの?』

「だってブレスレットとアンクレットをこれだけ集めて、何も付けてないと変じゃないか?俺はこれ以上付けれないしな」

『じゃあ、どうするの?』

「皆で付ければイイだろ」

“えっイイの”って顔をしているが、初めて見た表情が少し新鮮に感じる。

「革紐は組み合わせても使えるから、考えて選んでくれよ」

「私が1番!」

ヒト型のクオンが影から現れて、箱を持って逃げる。

ブロッサの舌も伸びて、ブレスレットの箱を狙う。

『クオン、待ちなさい!』

そんな精霊達を置いておいて、ドワーフの店員の鑑定を見る。

「何か分かったのか?」

「素材は分からないですね。ただ魔力を流すと、魔力の質が変わるのは珍しい現象ですね」

「ソースイ、少しスキルを使ってみてくれ」

ソースイに盾を渡して、目の前に置かれている剣にグラビティを掛けてもらう。

「グラビティ」

普通なら剣は重くなるはず。手に取ると・・・軽い。あまりにも軽すぎて、頭の高さまで腕が上がってしまった。

もしかして、スキルや魔法の力が反転するのかもしれない?
盾に魔力を流して発動させた“グラビティ”は“ゼロ・グラビティ”
重くなるだけではなく軽くする事で、威力を殺ぐ事が出来る。大きく重量のある盾で受け止める必要もなく、森や山の中のような機動力が必要な場所では最適な盾かもしれない。

それに攻撃にも役に立つかも。重い武器を“ゼロ・グラビティ”で軽くして持ち上げ、今度は“グラビティ”で重くして振り下ろす。

ブレスレットの争奪戦が終わるまで、ゆっくりと検証する時間はあるだろう。
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