ひたむきな獣と飛べない鳥と

本穣藍菜

文字の大きさ
51 / 55
サルバトラ

6

しおりを挟む
「いや、違う。真の目的はタルミニアから得られる富を守ることでしょう。反乱を治めるというのは目的を遂行するための手段でしかない」

 オスカーは顔をしかめ、苛立った様子を見せる。綺麗事を言っているが、オスカー自身もそれはわかっているはずだ。ただ、立場上それを見せることはしないだけだろう。もし、国を治めるための金勘定もできない無能であれば話す価値などない。

「もう遠回しな話は十分だ。この食事の見返りは何だ。さっさと話せ」

「では、はっきりと申し上げます。貴方と同盟を結びたい」

「同盟?」

 更にオスカーは眉を寄せ険しい顔をした後、じっと考え込む顔をした。龍司は言葉を促すことなく、運ばれてきたイワシの揚げ物を口にする。パンは硬くて酸味があるために好きではなく断った。

「エリンに攻め込まれないためか。しかし、わからない。何故そのような方法を……」

 オスカーは言いかけてやめた。一番手っ取り早いのはオスカー達を殲滅すればいいと気が付いたのだろう。だがそれを言うのは自殺行為だ。

「えぇ、確かに貴方の軍を殲滅すればいい」

 龍司が続けると、オスカーはぎゅっと唇を結んだ。どう答えるべきかわからないのだろう。

「今、エリンが外に目を向けている暇はない。教会は政権を掌握することに躍起になっているでしょうからね。このまま貴方方を処刑して兵士を皆殺しにすれば主要な軍部はなくなりますから、そうなってはエリンは当分攻めてくることはできない。その間に私達は国境警備を強化すればいい。陸路は狭き国境ナロウボーダーで繋がれているだけですからね」

「海路から攻めても、シーパワーのタルミニアには勝てない」

 オスカーが呟く。

「シーパワー?」

 この世界にそんな概念はあるのか。あるとしても言葉で聞いたことはない。龍司はすぐに律だと気が付いた。

「そうか。マホカ湾からの進軍を助言したのは律か」

 オスカーは意地悪く片方の口を上げて笑う。

「いや、俺が予測を立てたが、ヒントをくれたのはリツだ。炎軍の占拠した拠点や情報から艦隊を編成しているのではないかと。それをヒントに導き出した。ディン族は卑しい海賊でもあるからな。所詮盗人の集団だ。こそこそと攻め入るだろうと予測した」

「まぁ、そうだな。否定はしない」

 動じない龍司に、オスカーはぐっと睨み付けてくる。

「エリンはランドパワーの国だから想像がつかないだろうが、タルミニアの地形からも受け告げられる航海術は相当卓越しているだろうとリツは助言してくれた。だからマホカ湾から攻めるのではないかと踏んだのだ。リツがお前を滅ぼす手段を提示したのだ」

 オスカーは龍司に少しでも打撃を与えたかったのだろうが、龍司はむしろ、その言葉に口元を上げて笑った。嬉しくて堪らなかった。

「そうか……そうだな。律は賢い。あいつは本当に……」

 昔から、律だけが龍司を翻弄する。律は自身を発想力のない役立たずだというが、一つヒントを与えればすぐに最良の答えを導いてくるのだ。それがどれだけ凄いのか、律自身は気がついていない。それは沢山ある律の好きな中の一つだった。

 オスカーは思った結果にならずに、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。ざまぁみろと内心で呟いた。

「話を戻しましょう。貴方の五千の兵士を養うだけでも莫大な出費です。今すぐ処刑しろという声も多い。それがベストだと私もわかっている。だが、私はそれをしない」

「何故だ」

「律だ」

 龍司ははっきりと言葉にした。

「リツ?」

「そうです。わざわざこんな話をしたのは、私とディン族の目的は別だと話すためです。私は貴方と同盟を結ぶために、ここまで腹の中を見せている。それは理解していただきたい」

 それは嘘ではなかった。オスカーを今すぐにでも排除したいと思いながらも、それでも龍司にはこの男が必要だった。

「ディン族の目的は達成されましたが私の目的はまだ達成されていない。私の目的は律だけです。私がサルバトラになったのも、律を取り返すためでしかない。このまま政権がウィリアムに移れば律を取り返すのは難しくなります。私が貴方を保護し王になるのを支援しましょう。その代わり律を返してください」

「リツを返す? リツはお前の物ではない。リツはエリン国のガイアでエリン国の宝だ。そんなことは……」

 オスカーが言い終わる前に、オスカーの隣で爆発が起きた。龍司が火薬を飛ばせて爆発させたのだ。

 オスカーが耳を押さえ目を見開く。龍司は立ち上がってオスカーを睨み付けた。作った笑顔とは言え、先ほどまで穏やかに話していて龍司が一転、凍り付くような表情を向けたのに、オスカーは体をこわばらせた。

「黙れ。それ以上ふざけたことを言うな。さっきお前はディン族が泥棒だと言ったが、薄汚い泥棒はお前達のほうだ。タルミニアの子を何人奪った。俺は何人もの母親の嘆きを見た。家族の元に留まるために自らの顔を焼いた人間も見た。俺が許せないのは金や資源を取っていくことじゃない。人をさらって平然としているお前等が許せない。律を優しい家族から奪ったのが許せない。俺を動かすのは誇りなんて大層なものじゃなくて怒りだ。律が宝? 律がそれを望んだか? 確かに律は俺の物じゃないが、お前達の物でもないんだよ。律を人柱にはさせない。そんなことをしたらお前も、ご大層な宮殿も、男も、女も、子どもも、全て焼き払ってやる。全ての本からエリンの文字を塗りつぶす。お前の国をこの世界から消し去ってやる。肉一片、血の一滴すら残すつもりはない」

 龍司の低く静かな声音が部屋の中で響き渡る。オスカーは剣を喉に突き立てられたように身動きをしなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...