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サルバトラ
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「いや、違う。真の目的はタルミニアから得られる富を守ることでしょう。反乱を治めるというのは目的を遂行するための手段でしかない」
オスカーは顔をしかめ、苛立った様子を見せる。綺麗事を言っているが、オスカー自身もそれはわかっているはずだ。ただ、立場上それを見せることはしないだけだろう。もし、国を治めるための金勘定もできない無能であれば話す価値などない。
「もう遠回しな話は十分だ。この食事の見返りは何だ。さっさと話せ」
「では、はっきりと申し上げます。貴方と同盟を結びたい」
「同盟?」
更にオスカーは眉を寄せ険しい顔をした後、じっと考え込む顔をした。龍司は言葉を促すことなく、運ばれてきたイワシの揚げ物を口にする。パンは硬くて酸味があるために好きではなく断った。
「エリンに攻め込まれないためか。しかし、わからない。何故そのような方法を……」
オスカーは言いかけてやめた。一番手っ取り早いのはオスカー達を殲滅すればいいと気が付いたのだろう。だがそれを言うのは自殺行為だ。
「えぇ、確かに貴方の軍を殲滅すればいい」
龍司が続けると、オスカーはぎゅっと唇を結んだ。どう答えるべきかわからないのだろう。
「今、エリンが外に目を向けている暇はない。教会は政権を掌握することに躍起になっているでしょうからね。このまま貴方方を処刑して兵士を皆殺しにすれば主要な軍部はなくなりますから、そうなってはエリンは当分攻めてくることはできない。その間に私達は国境警備を強化すればいい。陸路は狭き国境で繋がれているだけですからね」
「海路から攻めても、シーパワーのタルミニアには勝てない」
オスカーが呟く。
「シーパワー?」
この世界にそんな概念はあるのか。あるとしても言葉で聞いたことはない。龍司はすぐに律だと気が付いた。
「そうか。マホカ湾からの進軍を助言したのは律か」
オスカーは意地悪く片方の口を上げて笑う。
「いや、俺が予測を立てたが、ヒントをくれたのはリツだ。炎軍の占拠した拠点や情報から艦隊を編成しているのではないかと。それをヒントに導き出した。ディン族は卑しい海賊でもあるからな。所詮盗人の集団だ。こそこそと攻め入るだろうと予測した」
「まぁ、そうだな。否定はしない」
動じない龍司に、オスカーはぐっと睨み付けてくる。
「エリンはランドパワーの国だから想像がつかないだろうが、タルミニアの地形からも受け告げられる航海術は相当卓越しているだろうとリツは助言してくれた。だからマホカ湾から攻めるのではないかと踏んだのだ。リツがお前を滅ぼす手段を提示したのだ」
オスカーは龍司に少しでも打撃を与えたかったのだろうが、龍司はむしろ、その言葉に口元を上げて笑った。嬉しくて堪らなかった。
「そうか……そうだな。律は賢い。あいつは本当に……」
昔から、律だけが龍司を翻弄する。律は自身を発想力のない役立たずだというが、一つヒントを与えればすぐに最良の答えを導いてくるのだ。それがどれだけ凄いのか、律自身は気がついていない。それは沢山ある律の好きな中の一つだった。
オスカーは思った結果にならずに、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。ざまぁみろと内心で呟いた。
「話を戻しましょう。貴方の五千の兵士を養うだけでも莫大な出費です。今すぐ処刑しろという声も多い。それがベストだと私もわかっている。だが、私はそれをしない」
「何故だ」
「律だ」
龍司ははっきりと言葉にした。
「リツ?」
「そうです。わざわざこんな話をしたのは、私とディン族の目的は別だと話すためです。私は貴方と同盟を結ぶために、ここまで腹の中を見せている。それは理解していただきたい」
それは嘘ではなかった。オスカーを今すぐにでも排除したいと思いながらも、それでも龍司にはこの男が必要だった。
「ディン族の目的は達成されましたが私の目的はまだ達成されていない。私の目的は律だけです。私がサルバトラになったのも、律を取り返すためでしかない。このまま政権がウィリアムに移れば律を取り返すのは難しくなります。私が貴方を保護し王になるのを支援しましょう。その代わり律を返してください」
「リツを返す? リツはお前の物ではない。リツはエリン国のガイアでエリン国の宝だ。そんなことは……」
オスカーが言い終わる前に、オスカーの隣で爆発が起きた。龍司が火薬を飛ばせて爆発させたのだ。
オスカーが耳を押さえ目を見開く。龍司は立ち上がってオスカーを睨み付けた。作った笑顔とは言え、先ほどまで穏やかに話していて龍司が一転、凍り付くような表情を向けたのに、オスカーは体をこわばらせた。
「黙れ。それ以上ふざけたことを言うな。さっきお前はディン族が泥棒だと言ったが、薄汚い泥棒はお前達のほうだ。タルミニアの子を何人奪った。俺は何人もの母親の嘆きを見た。家族の元に留まるために自らの顔を焼いた人間も見た。俺が許せないのは金や資源を取っていくことじゃない。人をさらって平然としているお前等が許せない。律を優しい家族から奪ったのが許せない。俺を動かすのは誇りなんて大層なものじゃなくて怒りだ。律が宝? 律がそれを望んだか? 確かに律は俺の物じゃないが、お前達の物でもないんだよ。律を人柱にはさせない。そんなことをしたらお前も、ご大層な宮殿も、男も、女も、子どもも、全て焼き払ってやる。全ての本からエリンの文字を塗りつぶす。お前の国をこの世界から消し去ってやる。肉一片、血の一滴すら残すつもりはない」
龍司の低く静かな声音が部屋の中で響き渡る。オスカーは剣を喉に突き立てられたように身動きをしなかった。
オスカーは顔をしかめ、苛立った様子を見せる。綺麗事を言っているが、オスカー自身もそれはわかっているはずだ。ただ、立場上それを見せることはしないだけだろう。もし、国を治めるための金勘定もできない無能であれば話す価値などない。
「もう遠回しな話は十分だ。この食事の見返りは何だ。さっさと話せ」
「では、はっきりと申し上げます。貴方と同盟を結びたい」
「同盟?」
更にオスカーは眉を寄せ険しい顔をした後、じっと考え込む顔をした。龍司は言葉を促すことなく、運ばれてきたイワシの揚げ物を口にする。パンは硬くて酸味があるために好きではなく断った。
「エリンに攻め込まれないためか。しかし、わからない。何故そのような方法を……」
オスカーは言いかけてやめた。一番手っ取り早いのはオスカー達を殲滅すればいいと気が付いたのだろう。だがそれを言うのは自殺行為だ。
「えぇ、確かに貴方の軍を殲滅すればいい」
龍司が続けると、オスカーはぎゅっと唇を結んだ。どう答えるべきかわからないのだろう。
「今、エリンが外に目を向けている暇はない。教会は政権を掌握することに躍起になっているでしょうからね。このまま貴方方を処刑して兵士を皆殺しにすれば主要な軍部はなくなりますから、そうなってはエリンは当分攻めてくることはできない。その間に私達は国境警備を強化すればいい。陸路は狭き国境で繋がれているだけですからね」
「海路から攻めても、シーパワーのタルミニアには勝てない」
オスカーが呟く。
「シーパワー?」
この世界にそんな概念はあるのか。あるとしても言葉で聞いたことはない。龍司はすぐに律だと気が付いた。
「そうか。マホカ湾からの進軍を助言したのは律か」
オスカーは意地悪く片方の口を上げて笑う。
「いや、俺が予測を立てたが、ヒントをくれたのはリツだ。炎軍の占拠した拠点や情報から艦隊を編成しているのではないかと。それをヒントに導き出した。ディン族は卑しい海賊でもあるからな。所詮盗人の集団だ。こそこそと攻め入るだろうと予測した」
「まぁ、そうだな。否定はしない」
動じない龍司に、オスカーはぐっと睨み付けてくる。
「エリンはランドパワーの国だから想像がつかないだろうが、タルミニアの地形からも受け告げられる航海術は相当卓越しているだろうとリツは助言してくれた。だからマホカ湾から攻めるのではないかと踏んだのだ。リツがお前を滅ぼす手段を提示したのだ」
オスカーは龍司に少しでも打撃を与えたかったのだろうが、龍司はむしろ、その言葉に口元を上げて笑った。嬉しくて堪らなかった。
「そうか……そうだな。律は賢い。あいつは本当に……」
昔から、律だけが龍司を翻弄する。律は自身を発想力のない役立たずだというが、一つヒントを与えればすぐに最良の答えを導いてくるのだ。それがどれだけ凄いのか、律自身は気がついていない。それは沢山ある律の好きな中の一つだった。
オスカーは思った結果にならずに、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。ざまぁみろと内心で呟いた。
「話を戻しましょう。貴方の五千の兵士を養うだけでも莫大な出費です。今すぐ処刑しろという声も多い。それがベストだと私もわかっている。だが、私はそれをしない」
「何故だ」
「律だ」
龍司ははっきりと言葉にした。
「リツ?」
「そうです。わざわざこんな話をしたのは、私とディン族の目的は別だと話すためです。私は貴方と同盟を結ぶために、ここまで腹の中を見せている。それは理解していただきたい」
それは嘘ではなかった。オスカーを今すぐにでも排除したいと思いながらも、それでも龍司にはこの男が必要だった。
「ディン族の目的は達成されましたが私の目的はまだ達成されていない。私の目的は律だけです。私がサルバトラになったのも、律を取り返すためでしかない。このまま政権がウィリアムに移れば律を取り返すのは難しくなります。私が貴方を保護し王になるのを支援しましょう。その代わり律を返してください」
「リツを返す? リツはお前の物ではない。リツはエリン国のガイアでエリン国の宝だ。そんなことは……」
オスカーが言い終わる前に、オスカーの隣で爆発が起きた。龍司が火薬を飛ばせて爆発させたのだ。
オスカーが耳を押さえ目を見開く。龍司は立ち上がってオスカーを睨み付けた。作った笑顔とは言え、先ほどまで穏やかに話していて龍司が一転、凍り付くような表情を向けたのに、オスカーは体をこわばらせた。
「黙れ。それ以上ふざけたことを言うな。さっきお前はディン族が泥棒だと言ったが、薄汚い泥棒はお前達のほうだ。タルミニアの子を何人奪った。俺は何人もの母親の嘆きを見た。家族の元に留まるために自らの顔を焼いた人間も見た。俺が許せないのは金や資源を取っていくことじゃない。人をさらって平然としているお前等が許せない。律を優しい家族から奪ったのが許せない。俺を動かすのは誇りなんて大層なものじゃなくて怒りだ。律が宝? 律がそれを望んだか? 確かに律は俺の物じゃないが、お前達の物でもないんだよ。律を人柱にはさせない。そんなことをしたらお前も、ご大層な宮殿も、男も、女も、子どもも、全て焼き払ってやる。全ての本からエリンの文字を塗りつぶす。お前の国をこの世界から消し去ってやる。肉一片、血の一滴すら残すつもりはない」
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