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一章:人狼チュートリアル

8話:反省 IN 自室

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自己紹介の後、古里太たち全員は、台所で食料品を物色した。
台所には大きな冷蔵庫や、食品や食器を入れる棚がある。

そこで、電子レンジで温めるなど、簡単な調理だけで食べられる、
インスタント食品、レトルト食品、缶詰などをあさった。

それを持ち帰り、それぞれの自室で夕食を取り、
そのまま寝るというのが、今日に残された予定だ。

一階にあるシャワーと、一階二階の両方にあるトイレ、
それ以外の場所にはなるべく行かないようにしよう、
というのが全員で合意した意見だった。


今日、初めて知らされた「人狼ハーレム」。
そのデスゲームに強制参加させられている、
という衝撃は、少年少女にはあまりにも大き過ぎた。

その出来事を受け止めて、明日以降どう動くか、
という考えをまとめるのに、一日目の残りを使う。

それに、まだ本当に安全かどうかも分からない。
人狼の殺人と処刑以外に危険はないはずだが、
犯罪組織に絶対の保証を期待できるかは疑問だ。

もちろん、明日になれば安全か、という疑問もあるが、
一日くらいは様子見したいのが、人情というものだ。

明日は個別面談の予定だが、古里太と話す相手以外は、
この館の部屋を手分けして調査する予定だ。
ゲームは一週間しかないのだから、明日には着手したい。


台所で食料を入手したゲームメンバーは、
それぞれの自分の部屋へと向かう。

この部屋割りは、古里太が一番に指定して、
後の部屋は女子の話し合いで決めた。

委員長はまたグズグズ文句を言っていたものの、
女子たちの共感を得られず、古里太が押し切れた。


この館の個室は、一階と二階、
その南西と南東の角に、合計八部屋ある。

古里太の部屋は、一階南西の角部屋。
すぐとなりには湾子の部屋がある。

一階南東の角部屋は、小夜里。隣は兎。
二階南西の角部屋は、小音子。隣は貴常。

二階南東の個室二部屋は、空室になっている。
われわれゲームメンバーが六人だからだ。


自室に来た古里太。室内は洋装で、
シンプルながらホテルのように、
気品を感じる空間だった。

室内にはベッド、テーブルとイス、
本や小物を収める棚などがある。

窓の外には、草木が生い茂った庭が見える。
窓を軽く叩いてみた感じ、強化ガラスのようだが、
窓を破って外に逃げる……といった気は、そもそもない。

かりに窓を破れたとしても、
外にはどう猛な番犬が待ちかまえているし、
ハーレムの権利を捨てることになるからだ。

ちなみに、液晶モニタが置いてあった、
玄関ホールの扉は、もちろん鍵が掛かっていた。

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……!」

古里太は、逃げようという弱い心を戒めようと、
小さな声でつぶやき、自分自身に言い聞かせた。


古里太は、大きなため息をついてイスに座り、
持ってきたジュースの缶を、プシュッと開けた。

台所には酒もあった。しかし、古里太は手を出さない。
これから人が殺されようとしているのに、酒を飲むのか、
といったモラルの問題ではなく、リスクの問題からだ。

もし、酒に酔っているときに、誰かから襲われたら、
抵抗できずに、そのまま殺されてしまうかもしれない。

「人狼ハーレム」のゲームルール上、
殺人するのは人狼だけだし、その相手に古里太は含まれない。
しかし、そもそも犯罪組織である運営が、
ゲームルールを遵守するのか疑問が残るし、
ゲーム外でイレギュラーな殺人が起こる可能性だってある。

古里太は人一倍、用心深い性格だったので、
目先の欲求に負けるような男ではなく、
酒は一滴も飲まないことにした。
ハーレムを得てから、好きなだけ酒池肉林を楽しめば良い。


それにしても、ジュースが美味い。
オレンジの甘味が口の中に広がる。
喉が渇いている時の一杯は格別だ。

ゴクゴク喉を鳴らして飲む。
と、首まわりが急に気になった。
首に首輪がはめられている。

それまでも違和感はあったのだが、
首つり動画を見せられたりして、それどころではなかった。
しかし、部屋で落ち着いていると、気になってくる。

なぜ、プレイヤーたちに首輪をつけたのだろうか。
万が一、古里太たちが逃亡した時に備えて、
追跡できるよう、発信器でも仕込んであるのだろうか?

首に手をやったが、ちょっとやそっとの力では外れない。
しかしとりあえず、首輪のことは忘れることにした。

道具を使えば外せるかもしれないが、
外した瞬間、爆発でもしないか心配だ。

サイズがちょうどピッタリに作られていて、
別に息が苦しいといった問題はない。


それから、人狼館のパンフレットのような紙の資料に、
あらためてじっくり目を通してみた。
「人狼ハーレム」の概要も書いてある。

女子たちは、これを見て、デスゲームに巻き込まれたことを、
半信半疑ながら予想していたから、緊張していたのか?
あるいは、女子同士で議論して、その結論に到ったか?

そういう、女子の集団から取り残される不安もある。
プレイヤーに男子はひとりしかいないが、
ハーレムマスターである自分が主導権を握っていかないと。

「しかし、それにはあのメガネ委員長が、邪魔だな……」


古里太は、オレンジジュースを味わいながら、
さっきの出来事をふり返っていた。反省タイムだ。

まず、牙王による人狼ハーレムの説明。
ゲームメンバーの自己紹介、
そして、敵意むき出しに反抗してきた委員長。

噛みついてくる委員長に対して、
これからどう対処すればいいのか?

たんに処刑してしまおうか? それが、一番シンプルな解決策だ。
しかし、本当にそれでいいのか? という疑問も浮かぶ。
人狼かどうかを予想して処刑するのが、ゲームの本筋ではないか?


かりに処刑するとしても、それをみんなの前で公言したり、
さらには、処刑を予想されるような態度すら取れない。

なぜなら、処刑対象が確定される、と奴隷たちに予期されると、
一度にひとりしか処刑できないから、委員長が処刑対象なら、
さしあたり自分は大丈夫だろう、という安心感を与えてしまう。

すると、「性的誘惑」する必要性もなくなってしまう。
処刑の恐怖がハーレム形成の原動力なのだから、
古里太にとって、それはまずい展開だ。

だが、そうやって下手に出ることで、
ますます委員長をつけあがらせるだろう。


難しい問題なので、パッとした解決案は、
古里太の頭の中に浮かばなかった。

メガネ委員長こと小夜里は、どういう人物だったかを思いだす。
委員長属性の他の特徴といえば、サブカルの話が好きな女オタクだった。

「サブカルクソザコ委員長め……!」

彼女に勝手に変なあだ名をつけて、古里太は心の中で見下す。
虚しい精神勝利法だったが、それを自覚しつつ、
そのうちみんなの前でも、堂々と勝利しよう、と心に誓う。


「コンコン」

とつぜん、部屋をノックする音。誰だろう?
古里太は、慎重にそろりとドアを開けた。

「ギ、ギィー」

ドアがきしんだ音を立てながら開く。
洋館もののADVゲームで聞くような音だ。

この館が古いのか、建て付けが悪いのか、
だいたいどの館でもそういうものなのか、
豪邸に住んだことがないので分からない。

さて、ドアの向こうに現れた者は……。
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