1,422 / 1,646
音楽の父の後妻
しおりを挟む
スピーカーにはコードなどは繋がれていない。本体だけが剥き出しで現れただけに過ぎないが、形はどうあれ動力のないまま敵がそれを召喚した筈がない。どうやってそれを使うのか、前日の記憶が失われている彼らでは確かめようがなかった。
「スピーカーだわ!でも動力が・・・」
「そんなもの必要無いのかも知れない・・・」
「!?」
「それってマズイのではッ・・・!?」
アンドレイら一行を取り囲むようにして配置されたスピーカーが、どこから力を得たのかまるで電力を蓄え始めたかのように起動音をあげて僅かに震え始める。
それと同時に、彼らの前に立ちはだかる細身の謎の人物の前に、ステージや舞台などで使うようなスタンドマイクが召喚される。これも彼らの失われた記憶の中に眠る、前日彼らを襲ったとある音楽家と同じ攻撃手段だったのだ。
身構えるチャドの肩から飛び出したケイシーが、複数の植物の種をばら撒く。種はスピーカーの近くの地面に着弾すると、即時に蔓を生やしてスピーカーに巻き付いたのだ。
「呑気にしてる暇なんてないぞッ!チャド!シアラ!早くあのスピーカーを破壊しろッ!」
蔓はスピーカーを締め付けたまま、バキバキと音を立てて破壊する。ケイシーに急かされ、チャドは腕の一部を竜神族の姿へと変えると、近くの大きな石を拾い上げお得意の身体能力を活かして、凄まじい投擲でスピーカーを数台破壊した。
「全く何よいきなり・・・!チャド!アンドレイ様をッ!」
「あっあぁ、任せて!アンドレイ様、僕の後ろへ」
シアラは懐から何やらタバコくらいの大きさをした鉄の棒のような物を、複数本指の間に挟んでスピーカーの方へと放つ。彼女の投げたその鉄の棒はスピーカーに突き刺さるようにくっ付く。
それを確認したシアラは、自らでも鉄の棒を持ち片手で耳を押さえると、鉄の棒を口元へ持っていき高音の声を出し始めた。
「アアアーーー」
大気を震わせるような高音に、チャドの後ろで身を隠すアンドレイも耳を押さえながらその様子を眺めていた。シアラの発した高音の声は鉄の棒のところで増幅し広がっていくように周囲へ響き渡る。
すると、彼女の放った鉄の棒が張り付いたスピーカーが突如として、破裂するようにして粉々に粉砕したのだ。
「ダメ!カバーしきれないわ!数が多すぎるッ・・・!」
護衛の彼らの活躍により、召喚された複数のスピーカーはいくらか破壊することが出来たようだが、まだ他にもスピーカーは残されている。今度はアンドレイらの前に立ちはだかるその人物が、如何にも自分の番だと言わんばかりにマイクを使って声を発する。
大きく息を吸い込んだその人物は、胸を膨らませ十分に息を吸い込んだところで一度息を止める。そして彼女はスタンドマイクに口を近づけると、とある曲を歌い始めたのだ。その歌声から、彼らの前に立ちはだかった人物が女性であることが判明した。
「この曲はッ・・・!」
「ア・・・アンドレイ様?」
音楽家であるアンドレイには、直ぐにその曲と歌声の主が誰であるのか大方の予想がついたようだ。彼女が声で奏で始めたのは、バッハが作曲したと言われるマタイ受難曲。アルバでも何度も耳にしているほど、一行にとっても聞き馴染みのある曲だった。
そしてそれを歌うのは、バッハの後妻とされる“アンナ・マグダレーナ・バッハ“だとアンドレイは語った。確かにアルバはバッハのゆかりの地としても有名だった。それ故に彼女の霊や魂が、より根強く体現されているとしても不思議ではない。
だが何故彼女が、夫でもあるバッハゆかりの地でこんな殺人事件などを起こしたのか、アンドレイにはその動機が犯人の思考と結び付かなかったようだ。やはり何者かによって思考を奪われているのか操られている、或いは何らかの感情を過度に煽られて盲目になってしまっている状態なのかも知れない。
「アンドレイ様ッ!あれをッ!」
「!?」
チャドが指差す先には、歌うアンナの側の物陰に隠れている二人の少年がいた。それは宮殿の彼らと同様に、街中で不気味な体験をしていた音楽学校の生徒であるクリスとレオンだった。
彼らは二手に分かれ、その内の片割れが宮殿を目指してやって来たのだ。飲み込めない状況がさらに重なるも、今はそれどころではない。護衛達が対処しきれなかったスピーカーが今にも音を発しそうになっている。
それは宛ら、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようだった。スピーカーの向きなどは関係ない。あんな物を召喚するということは、シアラと同じく音に関係する攻撃を仕掛けようとしているに違いない。
「あそこにいたら巻き込まれませんか!?」
「ケイシー!彼らをこちらへ!チャド、私は構わないので彼らを受け止めてあげなさい!」
「りょッ了解です!」
アンドレイの指示でケイシーは植物の蔓をクリスとレオンの元へと伸ばし身体に巻き付かせると、こちらへ向けて二人を投げた。
「えっ!?」
「何でここにいるのが!?」
偶然彼ら側のスピーカーを壊したのがケイシーであったのが功を奏し、そのまま残してあった蔓が二人の救出を可能にした。宙を舞う二人の少年をチャドがキャッチすると同時に、アンナの歌声がスピーカーから大音量で放たれる。
「スピーカーだわ!でも動力が・・・」
「そんなもの必要無いのかも知れない・・・」
「!?」
「それってマズイのではッ・・・!?」
アンドレイら一行を取り囲むようにして配置されたスピーカーが、どこから力を得たのかまるで電力を蓄え始めたかのように起動音をあげて僅かに震え始める。
それと同時に、彼らの前に立ちはだかる細身の謎の人物の前に、ステージや舞台などで使うようなスタンドマイクが召喚される。これも彼らの失われた記憶の中に眠る、前日彼らを襲ったとある音楽家と同じ攻撃手段だったのだ。
身構えるチャドの肩から飛び出したケイシーが、複数の植物の種をばら撒く。種はスピーカーの近くの地面に着弾すると、即時に蔓を生やしてスピーカーに巻き付いたのだ。
「呑気にしてる暇なんてないぞッ!チャド!シアラ!早くあのスピーカーを破壊しろッ!」
蔓はスピーカーを締め付けたまま、バキバキと音を立てて破壊する。ケイシーに急かされ、チャドは腕の一部を竜神族の姿へと変えると、近くの大きな石を拾い上げお得意の身体能力を活かして、凄まじい投擲でスピーカーを数台破壊した。
「全く何よいきなり・・・!チャド!アンドレイ様をッ!」
「あっあぁ、任せて!アンドレイ様、僕の後ろへ」
シアラは懐から何やらタバコくらいの大きさをした鉄の棒のような物を、複数本指の間に挟んでスピーカーの方へと放つ。彼女の投げたその鉄の棒はスピーカーに突き刺さるようにくっ付く。
それを確認したシアラは、自らでも鉄の棒を持ち片手で耳を押さえると、鉄の棒を口元へ持っていき高音の声を出し始めた。
「アアアーーー」
大気を震わせるような高音に、チャドの後ろで身を隠すアンドレイも耳を押さえながらその様子を眺めていた。シアラの発した高音の声は鉄の棒のところで増幅し広がっていくように周囲へ響き渡る。
すると、彼女の放った鉄の棒が張り付いたスピーカーが突如として、破裂するようにして粉々に粉砕したのだ。
「ダメ!カバーしきれないわ!数が多すぎるッ・・・!」
護衛の彼らの活躍により、召喚された複数のスピーカーはいくらか破壊することが出来たようだが、まだ他にもスピーカーは残されている。今度はアンドレイらの前に立ちはだかるその人物が、如何にも自分の番だと言わんばかりにマイクを使って声を発する。
大きく息を吸い込んだその人物は、胸を膨らませ十分に息を吸い込んだところで一度息を止める。そして彼女はスタンドマイクに口を近づけると、とある曲を歌い始めたのだ。その歌声から、彼らの前に立ちはだかった人物が女性であることが判明した。
「この曲はッ・・・!」
「ア・・・アンドレイ様?」
音楽家であるアンドレイには、直ぐにその曲と歌声の主が誰であるのか大方の予想がついたようだ。彼女が声で奏で始めたのは、バッハが作曲したと言われるマタイ受難曲。アルバでも何度も耳にしているほど、一行にとっても聞き馴染みのある曲だった。
そしてそれを歌うのは、バッハの後妻とされる“アンナ・マグダレーナ・バッハ“だとアンドレイは語った。確かにアルバはバッハのゆかりの地としても有名だった。それ故に彼女の霊や魂が、より根強く体現されているとしても不思議ではない。
だが何故彼女が、夫でもあるバッハゆかりの地でこんな殺人事件などを起こしたのか、アンドレイにはその動機が犯人の思考と結び付かなかったようだ。やはり何者かによって思考を奪われているのか操られている、或いは何らかの感情を過度に煽られて盲目になってしまっている状態なのかも知れない。
「アンドレイ様ッ!あれをッ!」
「!?」
チャドが指差す先には、歌うアンナの側の物陰に隠れている二人の少年がいた。それは宮殿の彼らと同様に、街中で不気味な体験をしていた音楽学校の生徒であるクリスとレオンだった。
彼らは二手に分かれ、その内の片割れが宮殿を目指してやって来たのだ。飲み込めない状況がさらに重なるも、今はそれどころではない。護衛達が対処しきれなかったスピーカーが今にも音を発しそうになっている。
それは宛ら、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようだった。スピーカーの向きなどは関係ない。あんな物を召喚するということは、シアラと同じく音に関係する攻撃を仕掛けようとしているに違いない。
「あそこにいたら巻き込まれませんか!?」
「ケイシー!彼らをこちらへ!チャド、私は構わないので彼らを受け止めてあげなさい!」
「りょッ了解です!」
アンドレイの指示でケイシーは植物の蔓をクリスとレオンの元へと伸ばし身体に巻き付かせると、こちらへ向けて二人を投げた。
「えっ!?」
「何でここにいるのが!?」
偶然彼ら側のスピーカーを壊したのがケイシーであったのが功を奏し、そのまま残してあった蔓が二人の救出を可能にした。宙を舞う二人の少年をチャドがキャッチすると同時に、アンナの歌声がスピーカーから大音量で放たれる。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる