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神代 コウ

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歌姫の宮殿入り

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 目に見える程の音の振動が、衝撃波のように一行の元へ訪れる。チャドは子供達を抱えたまま主人であるアンドレイの前に立つ。ケイシーも事前にいつでも戻れるように彼の身体に蔦を巻いていたようで、瞬時にいつものチャドの方の上に戻っていく。

 少し遅れたが、シアラもアンドレイの側を離れずにいた為、回避に間に合っていた。全員を正面に抱え、迫る音の衝撃波をその背に一身に受けたチャド。衝撃自体は彼の竜人族としての身体で受け切ることが出来たが、その威力は大きな身体を容易に吹き飛ばす程の音波を発し、一行はチャドの身体に押されるようにして宮殿の入り口に押しつけられる。

「ぐッ・・・!!」

「チャド!大丈夫か!?」

「えぇ・・・ダメージ自体は大したことは・・・。しかしッ・・・!」

 彼は仲間達を自分の身体で押し潰してしまわぬよう、必死で両腕をつっかえ棒にして耐え凌ぐ。だがそれも限界を迎えてしまう。その表情を見ていたケイシーは、宮殿の入り口の耐久度が限界を迎えるその瞬間を見極め、植物のクッションを作り出そうと画策する。

「何をしているの?ケイシー」

「チャドの前に壁が限界を迎えるッ!そうなった時の為の保険だよ」

「チャドとは違った方向で頼りになるじゃない。流石コンビにね」

「減らず口を・・・」

「私に何か手伝える事はあるかしら?」

「植物達の成長が間に合うか分からん。アンタの力で植物達の成長だけ“加速“させてくれ!」

「お安い御用よ」

 ケイシーに頼まれ、何やら歌う準備を始めるシアラ。それを不思議そうな表情で見つめるクリスとレオン。

「あら?子供にはまだ早いわ。あんまりじっくり聞かないでね」

「?」

 何かの注意を促したようだが、二人には何のことだかさっぱり分からなかった。シアラも言葉で注意するだけで時に何かをするわけでもなく、そのまま目を閉じて息を整え始めた。

「な・・・何を始める気なんです?」

「静かに・・・舌を噛むよ」

「え・・・?」

 クリスとレオンの疑問に答える者はいなかった。だがそれは、聞くよりも実際に体験するという形で二人の疑問は解消されたのだ。

 間も無くして宮殿の壁にヒビが入り、軋む音を立てながら外壁を崩壊させた。まるで玄関に爆弾でも仕掛けられていたかのように、宮殿内に爆風と瓦礫が飛び散っていく。

「なッ何だぁ!?」

「爆発だッ!離れろッ!」

 何の前ぶりもなかった出来事に、数人の警備隊が巻き込まれてしまう結果となった。不意の衝撃に瓦礫で頭を打ってしまった何人かは救うことはできなかったが、宮殿内部に吹き飛ばされたと同時にケイシーの放った植物の種が瓦礫と共に周囲に飛び散り、瓦礫から根を生やした植物達がまるで手を取り合うように結び合うと、ネットのように蔦が絡まり一行の身体を衝撃から救った。

「アンドレイ様ッ!」

「だ、大丈夫だ・・・それよりみんなは?」

 すぐさまアンドレイの元に駆けつけたシアラが、彼の言葉に他の仲間達の様子を伺う。

「お・・・重い・・・」

「この人、人間じゃなかったのか・・・」

 チャドは二人の音楽学生を庇いながらうつ伏せで倒れている。衝撃波を受け止めている間、ずっと一行を庇いながら全身に力を込めていたのだろう。息はしているものの、直ぐに立ち上がることは出来ない様子だった。

「君達、すまないが彼を安全なところまで引っ張って行ってもらえるかな?」

「え・・・?あっはい、分かりました。クリス立てるか?」

「う・・・うん、この人のおかげで怪我は無いみたい」

 アンドレイに言われた通り、クリスとレオンは助けて貰った恩を返すかのように、チャドの身体を引っ張り宮殿の奥へと移動を開始した。

 しかし、直前までチャドの方に乗っていたケイシーの姿が見えない。辺りを見渡すと、小さな瓦礫の下に彼のものと思われる衣類が目に入る。急ぎシアラがその瓦礫を退かすと、その下にケイシーの姿があった。

 飛散する瓦礫の中で的確に植物の種をばら撒いて見せた彼は、そんな中瓦礫で頭を打ってしまったのか、頭部から血を流して倒れていた。だが彼もまた小さく呼吸をしている。気を失っているだけのようだ。

「全く・・・小さいのに無茶するんだから・・・。アンドレイ様、みんな無事よ」

「ありがとう、シアラ。けど安心してもいられないみたいだよ・・・」

 彼の言葉に宮殿の外へと視線を送ると、その土煙の中から先程の女がゆっくりとシルエットを浮かべて近づいて来ていた。

「シアラ、きっと騒ぎを聞きつけて教団の人達が来る筈だ。私はチャドを運んでいった彼らの元へ向かう。その間・・・」

 アンドレイは自身が無茶なお願いをしている事を理解している。これほどの広範囲と音による攻撃という、目に見えず避けることすら叶わない速度で迫り来る能力を持つ相手に、とてもシアラ一人では荷が重すぎると分かっていた。

 しかし、戦えない自分がこの場にいてもシアラの足を引っ張る結果にしかならない。それに宮殿の外に居た少年達に聞きたいことは山ほどある。仲間を窮地に残し、自分だけ延命しようとする行いに後ろめたさを感じるアンドレイだったが、そんな彼の思いを察したのかシアラは笑みを浮かべて彼の申し出を引き受けてくれた。

「大丈夫ですわ。ですから、アンドレイ様は何も気にせず、思うがままに行動して下さい。それを守るのが私達護衛の役目ですもの。チャドの事・・・頼みましたわ」

「・・・ありがとうシアラ」

 その一言だけ言い残し、アンドレイはチャドを連れて行ったクリスとレオンの元へと向かって行った。それを見送ったシアラは、宮殿内に足を踏み入れた女の霊体へ視線を送る。

「アンドレイ様が言っていた事が本当なら・・・。私はアンドレイ様ほど音楽に詳しくは無いけれど、事歌に関しては少しだけ知識がある。本当に貴方があの“アンナ・マグダレーナ“なの・・・?」

「・・・・・」

 女の霊体が彼女の問いに応えることはなかった。無論彼女も、話が通じるような相手では無いことは理解していた。それでもシアラは、アンドレイが言っていたことが本当なのかどうか、確かめずにはいられないといった様子を見せる。
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