World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,198 / 1,646

式典への推薦状

しおりを挟む
 厳かで神聖な雰囲気であるのはグーゲル教会と同じだったが、ニクラス教会では演奏や歌声が聞こえてこない分、より物音を立ててはいけないような静けさが広がっている。

 辺りを見渡しても、祈りに来る者や観光客と思われる者達が声を最小限に抑えながら話しているのが見える。

 大司教の来訪を控えている教会にしては、グーゲルと違い普段と変わらぬよすであることから、今回の式典とは関係ないのかと思ったミアは、大司教の来訪の件について司祭に尋ねた。

 「グーゲル教会の方にも行ってきたが、こっちは随分と静かだな」

 その言葉だけで司祭は式典との関係を察したのか、何のことかと呆けた顔をした後、何かに気付いたかの表情へと変わった司祭は、何も後ろめたいことなど無いようにその理由について答えた。

 「あぁ、大司教様の件をご存知で。まぁ街中でも噂になっておりますからね。こちらも無関係という訳ではありません。大司教様もこちらに来て祈りを捧げられる事でしょう」

 「そういえばその式典ってのは、いつ開かれるんだ?」

 「予定通りならば夕暮れ前にライプツィ宮殿で行われますよ」

 「“ライプツィ宮殿“?」

 司祭のいう宮殿とは、アルバでも最も最も大きな建造物である。ただ宮殿と言えど一般人が入れないなんて事はなく、観光客でも入ることができる博物館のような施設になっている。

 しかし、他の施設よりも警備や検査が厳しいらしく、スキルを使える者達に関してはパッシブスキルを除き全てのスキルを使用できないようにしてから入ることになるようだ。

 厳重にしているのは、それだけ神聖な場所であり貴重な資料や遺品などを管理しているからなどだと司祭は語った。

 「その式典は、旅の者でも参加できるのか?」

 「いえ、申し訳ありませんが一般の方の参加はできません。宮殿は大司教様をお迎えする式典開催の間、貸切になりますので観光も出来なくなってしまいます。ただそれほど長い期間ではないので、二~三日アルバに止まって頂ければ、またいつものように見学することもできるようになりますよ」

 「二、三日か・・・。宮殿は諦めるしかなさそうだな」

 「仕方ない、宮殿は諦めよう。何、見て回る場所なら他にも沢山ある」

 教団について調べる最も有力だった機会を失ったが、他にも教会関係者や街の者達に尋ねることで情報は得られる。直接教団に接触するよりも、寧ろ安全なのかもしれない。

 近道は閉ざされたが、他にも調べようはあるとシンはミアを励ますように口を開いた。ガックリと肩を落とし、落ち込んだ様子を見せるミア。彼女がそれほど楽しみにしていたとは思わなかった一行は少しだけ驚いていた。

 真意か演技か、ミアのその様子を見た司祭は顎に手を当て何かを考えるような様子を見せると、ある提案を持ちかけてきた。

 「いや、待ってください。実は絶対に参加できないという程のものではないのです」

 「と、言うと?」


 「本来は教団や教会関係者が参加を認められているのですが、その者達の中でも有権者達の“推薦状“があれば、一般の方でも参加することは可能なのです」

 言い方を変えれば、要は勧誘のようなものだろう。体験入会や見学会といったものがそれに近いだろう。司祭の言うように、有権者達のお墨付きを貰った人物達であれば、誰だろうと式典に参加することは可能なのだという。

 「推薦状・・・。しかし我々はその有権者が誰なのかすら知らない」

 「ご安心召されよ。今、あなた達の目の前にいる私も、その内の一人なのです。申し遅れました、私は“ルーカス・マイヤー“と申します。ニクラス教会で司祭をしております故、私も教会関係者。あなた達へ推薦状を送る事もできます」

 一行の見ていた通り、彼は教会の司祭だった。彼であればシン達が式典に参加できるよう推薦状を渡す事もできるだろう。

 だが、わざわざそんな事を言うということは、何か裏があるに違いない。ルーカスは何かを含むような言い方をしており、明らかにシン達に何かをしてもらおうという思惑を感じる。

 「なるほど。アンタの“お墨付き“が貰えれば式典にも参加できると・・・。それで、何をすればいいんだ?」

 「話が早くて助かります。お察しの通り、私の依頼を聞き入れてもらえればあなた達を式典へ招待することができます。・・・少し場所を変えましょう。ここでは話しづらいことなので・・・」

 そういうと、ルーカスは一行を教会の奥へと案内した。

 人気のないところへ一行を連れてきたルーカスは、早速推薦状を渡す条件として彼らにある条件を提示した。

 「あなた達には、ジークベルト大司教の護衛を務めている護衛隊の隊長の名前を調べてきて貰いたい」

 「護衛隊長の名前?何故そんな事を・・・」

 同じ教会関係者であれば、自ら護衛隊の者のに尋ねれば済むだけのことのように思える。わざわざそうしないと言うことは、彼に何か思惑があるのだろうか。

 「話は依頼をこなした後に・・・。付け加えて条件もあります。まず教会関係者や直接護衛隊に尋ねてはいけません。私も教会関係者である以上、調べればあなた達が話を伺ったかどうかはすぐに解ります」

 一行が考えていた事を見透かすかのように、ルーカスは条件を設けてきた。ただ何故そんな条件を付けてくるのかという疑問は残った。

 「それとアルバの住人や観光客など、他人に尋ねてもなりません。これも私が調べることができ、すぐに確認が可能ですので。つまり、あなた達は自分達の力だけで、大司教の護衛隊長の名前を調べてもらいたいのです」

 「おいおい、誰にも聞かずにって・・・。どうやってそんな事調べんだよ!?」

 「人の信頼を得るというのは得難いものです・・・。難しく考える必要はありませんよ。別に誰かに聞いたことが私にバレたところで、何がある訳ではありません。ただ“お墨付き“は貰えないというだけです。その場合は、私からの推薦状の件は諦めて下さい」

 ルーカスの話では、挑戦することに対してシン達にデメリットというものは無いらしい。ただ彼の言うように推薦状が貰えなくなり、式典に参加することが出来なくなるだけなのだという。

 だが、ますますそんなことを依頼する理由が分からない。これではまるで彼らを試すテストでもしているかのようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...