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神代 コウ

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式典への推薦状

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 厳かで神聖な雰囲気であるのはグーゲル教会と同じだったが、ニクラス教会では演奏や歌声が聞こえてこない分、より物音を立ててはいけないような静けさが広がっている。

 辺りを見渡しても、祈りに来る者や観光客と思われる者達が声を最小限に抑えながら話しているのが見える。

 大司教の来訪を控えている教会にしては、グーゲルと違い普段と変わらぬよすであることから、今回の式典とは関係ないのかと思ったミアは、大司教の来訪の件について司祭に尋ねた。

 「グーゲル教会の方にも行ってきたが、こっちは随分と静かだな」

 その言葉だけで司祭は式典との関係を察したのか、何のことかと呆けた顔をした後、何かに気付いたかの表情へと変わった司祭は、何も後ろめたいことなど無いようにその理由について答えた。

 「あぁ、大司教様の件をご存知で。まぁ街中でも噂になっておりますからね。こちらも無関係という訳ではありません。大司教様もこちらに来て祈りを捧げられる事でしょう」

 「そういえばその式典ってのは、いつ開かれるんだ?」

 「予定通りならば夕暮れ前にライプツィ宮殿で行われますよ」

 「“ライプツィ宮殿“?」

 司祭のいう宮殿とは、アルバでも最も最も大きな建造物である。ただ宮殿と言えど一般人が入れないなんて事はなく、観光客でも入ることができる博物館のような施設になっている。

 しかし、他の施設よりも警備や検査が厳しいらしく、スキルを使える者達に関してはパッシブスキルを除き全てのスキルを使用できないようにしてから入ることになるようだ。

 厳重にしているのは、それだけ神聖な場所であり貴重な資料や遺品などを管理しているからなどだと司祭は語った。

 「その式典は、旅の者でも参加できるのか?」

 「いえ、申し訳ありませんが一般の方の参加はできません。宮殿は大司教様をお迎えする式典開催の間、貸切になりますので観光も出来なくなってしまいます。ただそれほど長い期間ではないので、二~三日アルバに止まって頂ければ、またいつものように見学することもできるようになりますよ」

 「二、三日か・・・。宮殿は諦めるしかなさそうだな」

 「仕方ない、宮殿は諦めよう。何、見て回る場所なら他にも沢山ある」

 教団について調べる最も有力だった機会を失ったが、他にも教会関係者や街の者達に尋ねることで情報は得られる。直接教団に接触するよりも、寧ろ安全なのかもしれない。

 近道は閉ざされたが、他にも調べようはあるとシンはミアを励ますように口を開いた。ガックリと肩を落とし、落ち込んだ様子を見せるミア。彼女がそれほど楽しみにしていたとは思わなかった一行は少しだけ驚いていた。

 真意か演技か、ミアのその様子を見た司祭は顎に手を当て何かを考えるような様子を見せると、ある提案を持ちかけてきた。

 「いや、待ってください。実は絶対に参加できないという程のものではないのです」

 「と、言うと?」


 「本来は教団や教会関係者が参加を認められているのですが、その者達の中でも有権者達の“推薦状“があれば、一般の方でも参加することは可能なのです」

 言い方を変えれば、要は勧誘のようなものだろう。体験入会や見学会といったものがそれに近いだろう。司祭の言うように、有権者達のお墨付きを貰った人物達であれば、誰だろうと式典に参加することは可能なのだという。

 「推薦状・・・。しかし我々はその有権者が誰なのかすら知らない」

 「ご安心召されよ。今、あなた達の目の前にいる私も、その内の一人なのです。申し遅れました、私は“ルーカス・マイヤー“と申します。ニクラス教会で司祭をしております故、私も教会関係者。あなた達へ推薦状を送る事もできます」

 一行の見ていた通り、彼は教会の司祭だった。彼であればシン達が式典に参加できるよう推薦状を渡す事もできるだろう。

 だが、わざわざそんな事を言うということは、何か裏があるに違いない。ルーカスは何かを含むような言い方をしており、明らかにシン達に何かをしてもらおうという思惑を感じる。

 「なるほど。アンタの“お墨付き“が貰えれば式典にも参加できると・・・。それで、何をすればいいんだ?」

 「話が早くて助かります。お察しの通り、私の依頼を聞き入れてもらえればあなた達を式典へ招待することができます。・・・少し場所を変えましょう。ここでは話しづらいことなので・・・」

 そういうと、ルーカスは一行を教会の奥へと案内した。

 人気のないところへ一行を連れてきたルーカスは、早速推薦状を渡す条件として彼らにある条件を提示した。

 「あなた達には、ジークベルト大司教の護衛を務めている護衛隊の隊長の名前を調べてきて貰いたい」

 「護衛隊長の名前?何故そんな事を・・・」

 同じ教会関係者であれば、自ら護衛隊の者のに尋ねれば済むだけのことのように思える。わざわざそうしないと言うことは、彼に何か思惑があるのだろうか。

 「話は依頼をこなした後に・・・。付け加えて条件もあります。まず教会関係者や直接護衛隊に尋ねてはいけません。私も教会関係者である以上、調べればあなた達が話を伺ったかどうかはすぐに解ります」

 一行が考えていた事を見透かすかのように、ルーカスは条件を設けてきた。ただ何故そんな条件を付けてくるのかという疑問は残った。

 「それとアルバの住人や観光客など、他人に尋ねてもなりません。これも私が調べることができ、すぐに確認が可能ですので。つまり、あなた達は自分達の力だけで、大司教の護衛隊長の名前を調べてもらいたいのです」

 「おいおい、誰にも聞かずにって・・・。どうやってそんな事調べんだよ!?」

 「人の信頼を得るというのは得難いものです・・・。難しく考える必要はありませんよ。別に誰かに聞いたことが私にバレたところで、何がある訳ではありません。ただ“お墨付き“は貰えないというだけです。その場合は、私からの推薦状の件は諦めて下さい」

 ルーカスの話では、挑戦することに対してシン達にデメリットというものは無いらしい。ただ彼の言うように推薦状が貰えなくなり、式典に参加することが出来なくなるだけなのだという。

 だが、ますますそんなことを依頼する理由が分からない。これではまるで彼らを試すテストでもしているかのようだ。
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